2015年08月02日

軍人に結社権を付与するフランス

【フランス、軍人に制限付きで「結社の権利」付与へ】
 軍隊における結社の権利を全面的に禁止してきた仏政府は19日、欧州人権裁判所の人権違反裁定を受け、同国の軍人に結社の権利を与える方針を示した。しかしストライキの権利などは引き続き認めない方針。フランスの軍人は現在、職業的団体への加入が全面的に禁止されており、職業に関する懸念を表明したり、自らの利益を守ったりするための場を持たない。
欧州人権裁判所は今年10月、「軍人の結社の自由を制限するのは合法だが、労組の結成あるいは労組への加入の全面的な禁止は結社の自由の本質部分の侵害に当たる」と裁定した。仏大統領府の声明によると、フランソワ・オランド大統領はこの裁定に上訴しないことを決断し、国防相と内相に、仏軍人に制限付きで職業的団体に加入する権利を与える法案の作成を命じた。
(AFP、2014.12.21)

少し古い記事だが、いくつか重要な点があるので指摘しておきたい。
まず欧州では、軍人の労働者性が認められて労働基本権が認められる傾向にあるということ。例えばドイツでは軍人法第6条で労働団結権が認められているほか、官僚はもちろんのこと裁判官にまで団結権が認められている。これは、団結の自由が天賦の基本的人権に属するものであり、民主的社会において何よりも優先されるという考え方に基づいている。
他方、日本では警察、消防、海保、自衛隊などについては労働三権が認められていないが、その理由として命令系統や組織秩序の維持などが挙げられている。これは公共的暴力装置の組織管理は、市民個人の基本的人権に勝るという発想の表れであり、権威主義の遺物と言えよう。ちなみにドイツ連邦軍でも、海外派兵や戦闘任務中の組合活動は禁じられているようだ。
労働組合の結成と加入が認められているドイツ連邦軍の秩序やモラルが、自衛隊に劣るという話やデータに接したことは一度も無い。「労働組合を認めると組織が弱くなる」などという発想は、「学問すると戦闘力が下がる」という中世武士のそれと同レベルのものだ。逆に民主的社会に基本権を付与しない例外を作ることは、デモクラシー存続に対する危機を深めるものでしかない。日本の場合、皇室を始め基本的人権を認めない例外対象が多すぎることが、デモクラシーの成熟を阻害していると言えよう。

第二は、上級裁判所が機能している点。日本では、裁判所が違憲立法審査を行う建前になっているが、訴訟者の利益を阻害するなどの要件がそろわないとそもそも取り上げられず、しかも裁判所は違憲立法審査を本務としているわけではないため、可能な限り憲法判断を回避して訴訟者の利益を回復して終わらせようとする傾向が強い。その結果、憲法判断が下されるケースは非常に稀で、まして違憲判断が下されることはほぼ無いという、権威主義状態(三権分立の否定)に陥っている。
上の記事の例は、日本にも独立した違憲立法審査機関や人権裁判所を設置することが、自由と民主主義を担保し、権威主義を排除する有効な手段であることを示している。

第三は、行政側の司法判決に対する態度である。日本の場合、水俣だろうが肝炎だろうが、政府側に不利な判決が下ると必ず上訴する傾向があり、結果的には被害者を増やして行政が敗訴、政府側に課される賠償金が増えるということが頻発しており、双方にとって有害かつ政府不信を高める結果になっている。この背景には、霞ヶ関に国家無謬論・権威主義が蔓延して絶対に過ちを認めないことがあり、これを克服する必要がある。また、小泉氏がハンセン病訴訟において政府の上訴方針を覆して判決を受け入れたことは、政治主導による可能性を示唆している。逆に民主党政権で続々と上訴したことは、民主党政権の信頼を低下させる一因となった。司法に従属する必要は無いが、誰の視点に立って行政を執り行うのかが問われている。

これらの全ては、欧州においてデモクラシーが常に深化させ続けるべき価値観であると解釈されているのに対して、日本においては自国が世界最高の民主主義国であるという勘違いが横行していることの差異を示しているものと思われる。
posted by ケン at 02:03| Comment(0) | 憲法、政治思想、理念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする