2015年08月13日

原田版:日本のいちばん長い日

nihonitiban
『日本のいちばん長い日』 原田眞人監督 日本(2015)

岡本喜八を「神」と仰ぐ私からすると、「新版」を見ること自体「不義」ではないかと思わなくも無かったが、見比べて改めて評価すべきだと思い至った次第。やはり最新の技術や新たな歴史検証の成果がどのように影響しているのか確認せずにはいられなかった。
端的に言えば、「よく出来ている」と言える。岡本版との比較においても「十分行ける」と言える。

岡本版は良くも悪くも演技過剰でカットが多く、パワーと熱気で見ているものも一杯一杯になりながら力押しで押し切られてしまう感じだったが、原田版は昭和帝と鈴木総理と阿南陸将に焦点を据えストーリーを追って見せてくれている。原田版は、最新の歴史検証が反映されていることと、鈴木貫太郎が総理を拝命する4月からストーリーを展開しているだけに、知識の少なめな初心者にも優しい設定になっている。確かに改めて考えると、岡本版は歴史知識の無いものにとっては「何が何だか分からないまま熱気にむせ返って終わった」というところがある。ただ、原田版は史実を忠実に再現しようとした結果、ただでさえ現代人にはわかりにくい帝政期の統治システムをそのまま表現してしまっているところがあり、かつ岡本版のような人物説明(役職)のテロップが付かないため、誰が何を主張しているのか非常に分かりづらい構図になっている。原田版の「誰が誰だか分からない」というのは、知識の無い人にとっては致命的かもしれない。同時に、議論のシーンとしても岡本版の方がわかりやすい。また、原田版では東郷外相が殆ど出ないことも不満だ。

映像的には、原田版は「終戦のエンペラー」ほどではないにせよ、CGとセットを併用しつつ、焼け野原の東京や宮城内外を見事に再現しており、当時の陸軍省や海軍省の具合も岡本版を脳内補完させる意味で良い感じに仕上がっている。冒頭の橿原神宮のシーンも印象的だった。1945年のリアルを知らない我々からすると、非常に参考になる。

演技的には、鈴木総理を演じた山崎努と、昭和帝を演じた本木雅弘の両氏が秀逸。本木氏は役を受けるかどうかで随分と悩んだようだが、大成功と言えよう。山崎氏は「さすが」としか言いようが無く、岡本版に迫る演技をなしているのは彼だけかもしれない。阿南役の役所広司も悪くは無いのだが、やはり岡本版三船敏郎の影が強すぎることと、つい先年に山本五十六を演じているだけに、どうにも違和感をぬぐえない。まぁいくら役所氏が英雄級だとしても、三船は「ゴッド」なだけに比較自体無理があるとも言えるのだが。また、原田版では妙に「家族」を強調しており、人間味を再現したいという監督の意図は分かるものの、「それ本当に必要なの?」と思わなくも無かった。やはり表現が中途半端になってしまうからだ。
全体的には、いつも言うことだが、少壮軍人たちがこぞって「ひょろひょろ」で、軍服を着せてもどうにも軍人に見えなかった。私が見てもそう思うのだから、実際に軍にいた人が見たら「こんな軍人はいねぇ!」と思うのでは無かろうか。結果、クライマックスのクーデター・シーンがどうにも迫力が無かった。発言や脅迫に際しても、全然ドスがきかない。まぁ、岡本版では佐藤允とか高橋悦史が演じていたのだから、比較する方がかわいそうかもしれないのだが。天本英世の佐々木大尉とか霊が乗り移っているんじゃないかと思うほどだったし。
ただ、原田版では昭和帝がかなり前面に出ており、やや美化されている嫌いはあるものの、非常に良いアクセントになっており、この点だけでも原田版を見る価値がある。

こうやって改めて比較してしまうと原田版に厳しすぎるかもしれないが、それは岡本版が「神」すぎるだけの話であって、単体としては相応の評価が与えられるべきだと思われる。DVDが発売されたら、購入して改めて岡本版と比較したいと考えている。

【追記】
映画の冒頭で、鈴木が総理を拝命し、息子の一は農林省山林局長を辞して総理秘書官となり、家族に「格下げだな」と自嘲気味に話すシーンがある。確かに44歳で局長となり出世街道を歩んでいたわけだが、現代の年齢や出世の感覚からすると、分かりづらいものがある。かくいう私の大伯父も静岡県警察部長から40歳にして、一氏の同僚として秘書官に就任しているわけだが、終戦後は警視庁警務部長、内務省調査局長を歴任しており、決して「キャリアから外れた」とは言えない。今日でも局長級から総理秘書官に就くケースは散見されるので、なかなか客観的な評価は難しいのかもしれない。とにもかくにも、一族に「日本のいちばん長い日」の直接的関係者がいたにもかかわらず、全く内輪話を聞けなかった(伝わっていない)のは残念でならない。
posted by ケン at 17:32| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする