2015年11月26日

ロシアが望む混沌化する世界

【クリミアで大停電=反ロ派の「テロ」? ―ウクライナ】
 ロシアが編入したクリミア半島で22日、ウクライナ本土からの送電が停止した。クリミアに接するウクライナ南部ヘルソン州で謎の爆発が起き、送電線が損傷した。親ロシア派「クリミア共和国」は23日を公休と定め大停電による混乱を回避。一方で「(反ロシア派の)テロだ」と非難している。 爆発があったのは20日。犯行声明は出ていない。クリミアの経済封鎖を訴えてきたウクライナの反ロ派は、インターネット上に爆発で損傷した鉄塔の写真を掲載したが、自らの関与は否定した。 
(時事通信、11月23日)

これは概ねウクライナのキエフ政府か、その支援を受けた反ロシア団体による工作と見て良いが、「誰がやったか」はあまり重要では無い。ただ、キエフ政権はパリで起きたテロ事件によって、欧米の目が中東に向かい、ウクライナへの関心が低下してしまうことを恐れている。ウクライナ問題では、当初「反ロシア」の筆頭格だったハンガリーが、シリア難民を重視することもあって、早々に「反ロ同盟」から降りてしまった。同様に、ドイツもますます対ロ宥和に傾いているだけに、キエフ政権の焦燥は募るばかりとなっており、上記の工作活動はその表れだろう。

一方、ロシアはロシアで、欧米の目をウクライナから逸らすことを一つの目的として、シリア介入を本格化させている。これは、実際に大きな成果を収め、刺激されたイスラム国が欧州本土でのテロを実行し、欧米の目は嫌が応にもウクライナから中東へと向かっている。
ロシア人的には、アメリカが仕掛けたアフガニスタンの「熊罠」に引っかかって政治的大敗を喫したソ連の過ちを踏まえ、シリアに「鷹罠」を仕掛けている。つまり、ロシアは欧米諸国が中東に地上軍を派遣するように誘導しているのだ。
仮に欧米が罠に引っかからず、自制して地上軍を派遣しなかったとしても、今度は欧米の中東に対する影響力と国際的威信が低下し、ロシアのそれが上昇し、「ロシア=イラン同盟」的なものが成立することになるので、「それはそれで良し」という判断なのだろう。
ただし、ロシアはエジプトで自国旅客機がテロに遭い、トルコでは戦闘機が撃墜されているだけに、相応のリスクは取っている。それでも、「ウクライナで紛争が続くよりはよほどマシ」と考えているものと思われる。

トルコでの戦闘機撃墜事件の真相はよく分からないが、天然ガスの50%以上をロシアから輸入し、原子力発電所の建設や観光業についても対ロ依存度の高いトルコが、積極的にロシアと敵対する理由は見当たらず、「現場の暴走」と見るのが妥当かもしれない。一方、ロシアとしても、「イスラム国を攻撃する」としていたものが、実は反アサド派を攻撃していたことが明らかになってしまっただけに、あまり強く出られないところがある。トルコ軍は反アサド派を支援している以上、ロシア軍による空爆を放置できなかったのだろう。
また、反アサド派は、トルコの他に米英仏が支援しているものの、アサド政権やイスラム国に比して劣勢に置かれており、欧米諸国による地上軍派遣を心待ちにしている。米国の担当官などは、「連中にいくらカネや武器を与えても、全部イスラム国に流れてしまう」と嘆いており、小党乱立状態の反アサド派に勝利の目は殆ど無い。同時に、パリで起きた連続テロ事件は反アサド派にとって「僥倖」だったという皮肉が生じている。

また、ロシアはこの方、最新鋭のSu35戦闘機と地対空ミサイルS400を中国に提供することを決めたが、このどちらも航続距離、射程の長さが評価されており、南シナ海や東シナ海を想定したものであることは明らかだ。ロシアとしては、中国に最新鋭兵器を供給することで、米日との軍事バランスを刺激しようとしている。ロシア人的には、中国と米日の対立は「一挙両得」であり、「戦端は開かれないが、深刻な対立」くらいの状態にあることが望ましい。
もっとも、これはロシア人の願望に過ぎず、実際の米国の安全保障観はロシアとイスラム国を第一あるいは第二の脅威と見なしており(その時々で優先順位が入れ替わる)、中国は常に3位以下にあるという。日本の政府やマスゴミは、米中対立を煽っているが、現実にはアメリカは中国に対抗するつもりなど殆ど無い。
日本は日本で、米国のアジア関与を引き留めつつ、国内で権威主義体制を復活させるために、東アジアの緊張度を意図的に高める政策を採っており、中国との冷戦状態を演出している。この点で、日本とロシアは同床異夢の関係にあり、安倍首相とプーチン大統領が親和的であることを説明できる。

ロシアの安全保障は、自国の周囲に緩衝地帯を設け、脅威と直接接しないことを最優先としている。だが、欧米からすると、その「緩衝地帯」自体が「ロシアによる侵略」にしか見えないため、常に紛争のタネになっている。
他方、欧米資本主義の繁栄は、旧第三世界からの資源と労働力の収奪(買い叩き)によって成り立っているだけに、資本主義とその隠れ蓑となっている民主主義を否定するイスラム国やジハーディストは、自らの根幹を否定するものとして存在そのものを抹消せざるを得ない。それだけに、欧米としては中東対策を優先せざるを得ないわけだが、それは結果としてロシアや中国を利することとなる。
日本は、アメリカの衛星国として近い将来、中東・アフリカ戦線に参戦することになるのだろうが、その末路は決して明るいものではない。
posted by ケン at 12:48| Comment(7) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする