2015年12月15日

法人減税と個人増税

【法人税2段階下げ決定 政府・与党 外形課税負担に緩和措置】
 政府・与党は8日、法人税改革の全容を固めた。現在32・11%の法人実効税率を平成28年度に29・97%、30年度に29・74%と2段階で引き下げる。減税に必要な財源は赤字企業にも課税する「外形標準課税」の拡大で確保する。税負担が重くなる中堅企業には、28〜30年度に負担増となる額の25〜75%を免除する緩和措置を設ける。10日にまとめる予定の28年度税制改正大綱に盛り込む。
 財源の大半は外形標準課税の拡大で賄う。また、企業が過去の赤字分を現在の黒字と相殺して納税額を減らせる欠損金の繰越控除制度の見直しや、最新設備を導入した際の設備投資減税の終了分なども財源とする。2年先の税率引き下げまで示し、企業に賃上げや設備投資の拡大を促す。外形標準課税は、資本金1億円超の企業に対し、業績が赤字でも従業員の給与や資本金に応じて課税する仕組み。対象拡大で好業績の企業は減税になるが、赤字や利益が少ない企業では税負担が重くなる。このため、資本金1億〜10億円程度の企業は、28年度の税額のうち27年度より増えた部分(負担増分)の75%の支払いを免除する。29年度は50%、30年度は25%と免除幅を段階的に縮小する。
(12月9日、産経新聞)

記事は実効税率を挙げているが、基本税率で言うと、現行の23.9%から23.4%に引き下げられる。この基本税率は、1980年代に最大時43.3%あったものが、90年代に37.5%にまで引き下げられ、2000年代には30%、民主党・野田政権の時に25.5%となり、安倍政権でさらに23.9%に引き下げられたものが、さらに下げられることになる。つまり、企業の税負担はここ四半世紀で半分近くまで引き下げられたことを意味し、今後も更なる引き下げが検討されている。

所得税については、70年代まで最高税率が75%だったが、80年代の中曽根政権下で60%、竹下政権で50%に引き下げられ、2006年の安倍政権下で40%となった。昨年、再び45%に引き上げられたものの、その対象は年収4千万円超で、実際に適用されるのはほんのわずか(0.2%?)に限られている。
最高税率が引き下げられているのに比して、復興税と称して所得税本税の10%が一律加算され、住民税も一律年1000円増税になった。

消費税については、1988年に竹下政権下で導入され、89年から3%で実施。97年から5%に引き上げられ、民主党野田政権下で8%への引き上げが決められて、2014年から8%になった。二度の引き上げに際しては、いずれも事前に「福祉のみに充てる」旨の説明がなされたものの、守られることは無かった。もっとも、仮に守られたとしても、「どこの財布から出すか」という話でしかないので大きな意味は無いのだが。

この他にも、税では無いが、社会保険料は年々高騰しており、例えば国民健康保険の保険料は地域によって異なるものの、この10年で20%以上上がっている。
以上のように、1980年代以降、日本は企業と高所得者を優遇する一方、個人増税を強化、言うなれば「金のあるところから取る」から「広く薄く取る」へとシフトしていった。だが、ここに来て「広く薄く」から「広く厚く」へとシフトしつつある。
現行の社会保障制度を維持する限り、年1兆円前後の自然増が見込まれるが、消費増税2%によって得られる税収増は4兆円程度に過ぎず、保険料アップと絡めても数年分しか保たない計算だ。ところが、高齢化は今後さらに加速し、少子が改善されるメドもない。現行制度を維持する限り、高齢者の年金と医療費だけで国家財政を破綻させそうな勢いにある。
財政的には公的医療保険制度はすでに破綻状態にある。
2010年度の保険支出(政管、組合、国保の合計)が29兆5千億円であるのに対して、保険料収入(同)は17兆6億円に過ぎず、12兆円近い赤字を出している。この赤字は、国庫負担の4兆9千億円と地方自治体などの負担による8兆円で賄っている。この上、保険外の公費医療(結核ほか)がある。現実の公的医療保険制度は、保険料収入全てで70歳以上の医療費を賄うだけの額にしかなっていない。
医療費の肥大化続く

現状において、医療費総額に占める70歳以上が使用する高齢者医療費の割合は45%を超えており、全人口の18%を占める高齢者が医療費の46%を使用しているにもかかわらず、現役層の負担強める保険料アップという選択肢を採った場合、保険制度そのものに対する懐疑が高まる恐れがある。
そして、保険制度は本来自己完結すべきものであり、社会インフラの整備と公共サービスの提供を目途として徴収された税を、社会保険の赤字補填に使うことは本来的には「目的外使用」に当たるため、モラルハザードなのだ。しかも、一度税を投入すると、固定化されてしまい、財政難になった時に「税投入を止めます」と言った途端に保険財政を丸ごと破綻させてしまうリスクを抱えている。この点でも社会保険に対する税の投入は戒められるべきなのだ。
福祉充実と高齢化のジレンマ

法人減税と個人増税のセットは、「法人減税によって市場の経済活動が活性化し、個人収入が増えるから増税OK」という前提に立っている。ところが、国民生活基礎調査を見ると、世帯収入の平均値は、1994年の664万円が最高で、2013年には529万円になっている。中央値で言えば、そこから100万円近く差し引いて考えれば良いだろう。
また、貯蓄ゼロ世帯の割合を見た場合、2000年には12.4%だったものが、2014年には38.9%へと3倍以上に増えている。
さらに言えば、家計環境が厳しい家庭の小中学生に、学用品や給食代などを援助する「就学援助制度」の支給対象者の割合は、2000年には8.8%だったものが、2012年には15.6%へと増えている。この数字は大阪市に限ると28%にも達しており、子どもがいる家庭の4分の1以上が文具を買えず、給食費も満足に払えない状態にあることを示している。このことは、若年層の貧困化が進行しており、担税力が低下すると同時に、社会保障の需要が増大していることを意味する。
他方、GDPを見た場合、名目で1993年の490兆円に対して2013年が480兆円、実質で93年の442兆円に比して13年が527兆円となっている。いずれにしても、成長率の点で中国やドイツ、あるいは米国を大きく下回っている。

要は、「法人減税&個人増税」の組み合わせは、個人の貧困化と経済格差の拡大を助長した一方、市場の発展に対する寄与は十分には認められなかったと言える。もちろん、これは税制だけの話ではないのだが、少なくとも所得や資産の個人間格差を助長したことは確かだろう。それは当然の話で、個人あるいは世帯収入が不十分な状態で増税を課せば、消費が減退する一方、社会保障への依存度が上がるのが自然な流れだからだ。
だが、「法人減税&個人増税」のセットは、欧米においても一般的な流れにあり、法人減税競争が行われている中、日本だけ増税すれば、企業の海外流出を促進する懸念がある。また、社会保障制度の持続性に対する最大の脅威となっている高齢者医療と年金は、高齢有権者層の拡大によって改革不能になっている。
posted by ケン at 12:37| Comment(3) | 財政、社会保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする