2016年01月06日

ラビリンスやらずとも同じ結論

【対テロ戦争、「勝者はテロリスト」 米世論調査】
 米国率いる有志連合が2001年の米同時テロ以来続けてきた対テロ戦争は、テロリスト側が勝利を収めつつある――。そう考える米国人がかつてなく増えている傾向が、CNNとORCが28日に発表した世論調査で浮き彫りになった。欧米諸国で過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」によるテロ事件が相次ぎ、テロ対策を巡るオバマ米大統領への信頼は揺らぎ、来年の米大統領選を控えて共和党の候補者は有権者の不安をあおる。
世論調査では74%が、対テロ戦争の進展に満足していないと回答。テロリストが勝利しつつあると答えた人は40%に達し、これまでの最高だった2005年8月の数字を17ポイントも上回った。オバマ大統領のテロ対策については60%が不支持を表明、ISISへの対応についても64%が不支持だった。
イラクでは政府軍が米軍による空爆の援護を受けて要衝のラマディをISISから奪還した。米政府はこの勝利について、イラク軍の「勇気と決意」の証しだと称賛。ホワイトハウスにはISIS撲滅のための軍事戦略だけでなく、テロに対する不安の増大を巡る米国内での政治戦争を制する作戦も求められている実態を見せつけた。
(12月29日、CNN)

GMT社の「ラビリンス−テロ戦争」をプレイすれば分かると思うが、仮にアメリカがシリアに武力介入して、アサド政権とISISを倒したところで、イスラム国はイラク領内に避難、テロ組織は細分化してリビア、イエメン、スーダン等に逃亡するだけの話であり、その後シリアに安定した政権が樹立されない限り、また戻ってきて以前よりも酷い状態に陥る可能性がある。アフガニスタンとイラクの現状がまさにそれだからだ。むしろ、そこにシリアが加わる上に、不安定要素がさらに飛び火・拡散することになる。
そして、ジハーディスト側は「聖戦」として、欧米諸国に対するテロ攻撃を正当化し、中東地域やイスラム教徒の中で支持を広げて行くことになる。欧米側はテロ攻撃のいくつかは阻止できるだろうが、ジハーディスト側は一つでも成功すれば「十分」なのだ。

また、ジハーディストによる欧米攻撃は、中ロにとっては「僥倖」であるため、表では非難しつつも、裏では支援することになる。特にロシアにとっての死活問題はウクライナであるだけに、ウクライナから欧米の目をそらすためもあってシリア・アサド政権に軍事支援を行っている。これ自体は「反イスラム国」ではあるのだが、その結果としてパリでの連続テロ事件が起き、全欧州の目はウクライナを離れて中東に向けられた。そして、中東紛争が激化するにつれて、難民が増加、欧州になだれ込んで、さらに不安定化が進んでいる。欧州の不安定化は、自らの武力行使のハードルを下げる。「ラビリンス」的に言えば、外交路線が「ソフト」から「ハード」へと傾き、中東における武力行使の頻度が高まることになるが、ジハーディスト的には「欧米軍が存在しないところを叩く」というだけの話であり、むしろジハードの正当性が証明されて支持者が増えると考えるだろう。

2003年にイラクに侵攻した米軍が撤退したのは2011年のことであり、アフガニスタンには侵攻から14年を経た今も公称で1万人が駐留している。両国ともに米政府が立てた傀儡政権は実質的な支配力を失っており、内戦は激化するばかりで、安定から程遠いところにある。安定という点では、バース党やタリバンが支配していた時の方がよほど安定していただろう。つまり、欧米が強要した「自由」とは何のことはない、無秩序でしかなかったのだ。これではどう取り繕うと米欧による武力介入を正当性することなどできないし、そのことが逆にジハーディストに正当性を与えてしまっている。

こうした非対称戦争の構図は、ベトナム戦争やソ連によるアフガニスタン戦争、日本人の記憶的には日中戦争が当てはめられるが、現在でも変わっていない。非対称戦争を終わらせるためには、紛争当事者が互いに互いを交渉相手と認め、介入者が撤兵することが条件となる。そして、武装解除や外国軍の撤兵、双方が合意できる統治機構の有り様を探ることが必要だ。アフガニスタンやイラクのケースは、大国が武力で一時的に独裁者やゲリラ・軍閥勢力を駆逐したところで、国内の合意なき新政権は傀儡化して長くは続かないことを示している。
また、ソ連におけるボリシェビキが戦時体制から脱却できないまま延々と続いたことや、中国で共産党政権が成立してしまったのは、欧米列強や日本が軍事介入したことが原因となっていることも考慮すべきだ。

話を戻そう。記事にある世論調査の結果は、「オバマは手ぬるい」と見ている者と、「不介入のモンロー主義に戻るべきだ」と考えている者が、「不支持」を表明していると見るべきであり、必ずしも私のように「どうせ勝てないから止めるべきだ」とは考えていないだろう。ベトナム介入に懲りたはずのアメリカで、性懲りも無くアフガニスタンやイラクに対する武力行使が圧倒的な支持を受け、その失敗を経てなお、さらにまだ相当数の市民がイスラム国に対する直接攻撃を望んでいるというのはナゾであるが、テロ戦争の実態が殆ど伝えられていないと考えるべきなのだろう。その意味で腐敗したマスコミの責任は重く、マスコミが腐敗した国は全体主義国家と同じで、政策の修正ができなくなり、同じ過ちを繰り返してさらに状況を悪化させてゆくことを暗示している。

【参考】
・ラビリンス−テロ戦争:第二戦
・ラビリンス‐テロ戦争:第3戦
posted by ケン at 12:25| Comment(6) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする