2016年01月14日

北朝鮮核実験の周辺と背景にあるもの

北朝鮮が1月6日に実施した核実験については、まだ専門家からレクも受けていないし、ロシア側の分析も読み込んでいないので、とりあえず勝手な推測だけ述べておく。
今回の実験は、普段なら必ずある予告や予兆の類いが全く見られず、専門家から見ても「突然」のものだったようだ。だが、その一方で日本政府の対応は、まるで準備していたかのように淡々としたものだった印象がある。北朝鮮当局から日本政府に秘密裏に予告がなされていたとは思えず、恐らくはアメリカ等から情報提供を受けていたものと見られる。今から調べてみると、12月上旬には「北朝鮮の核実験場で新たなトンネル建設か」旨の報道が確認されるので、諜報機関は何らかの予測を立てていたとしてもおかしくない。

そう考えると、年末になって唐突に日韓の慰安婦問題が不自然な形で合意した背景が透けてくる。つまり、北朝鮮の核実験再開を防げないと判断した米国が、次善の策として日韓宥和を命じ、対北同盟の手綱を引き締めたということだろう。
北朝鮮の核実験再開(最後は09年)は、金正恩体制が「強硬(ハード)路線」を選択、六カ国協議の枠組みを拒否して、対米・対中自立路線を示したことを意味する。六カ国協議は、北朝鮮に核兵器・開発を放棄させる代わりに、北朝鮮の体制を認め経済的自立を支援、中長期的には南北対立を解消して、東アジアの集団安全保障体制を確立するというもので、米国的にはアジアから軍を撤退させることまで視野に入れていた。在日米軍に権力基盤を求める自民党と霞ヶ関は、「北の脅威」が消失することを恐れるがあまり、六カ国協議に非常に消極的だった(外務省内の推進派は粛清された)。六カ国協議に消極的だったのは、北朝鮮だけでは無かったのだ。

北朝鮮は北朝鮮で「合理的な選択」をした可能性が高い。金正恩体制へと移行して外交路線の再検討がなされたと推測されるが、その選択肢は主として「独自路線」と「六カ国協議」の二択だったと思われる。だが、これまでの現実は米欧に従って化学兵器を廃棄したイラクのフセイン政権は軍事侵攻を受けて瓦解し、無惨な末路を迎えた。核開発を放棄したリビアも、似たような末路を迎えた。同じく核査察を受け入れたイランは、アラブ諸国と対立する中で切り札を失って不安な状態にある。つまり、現実の政治は、大量破壊兵器の放棄によって得るものよりも失う物が多いことを示している。小国の安全保障政策として、核武装した大国から「武装解除」を命じられて「はい、分かりました」と応じた場合、丸裸にされるのは小国の側だけで、後は「大国の信義」に頼るほか無いということになり、それはすでに政治では無い。大量破壊兵器の存在こそが「安全保障の要」である例証ばかりとなっているのだ。

実際のところ、ソ連崩壊の経験は、大量破壊兵器を所有する国家が瓦解した場合、同兵器が拡散して他国やテロリストの手に渡る危険性が高まることを示しており、アメリカにしても中国にしても、金体制を瓦解させられないジレンマに陥っている。ソ連崩壊で拡散したはずの大量破壊兵器が今日までテロに使われていないのは奇跡的なことである。北朝鮮が核技術を高めれば高めるほど、小国やテロリストからの需要が高まり、列強諸国は体制瓦解を画策できなくなる構図になっている。

他方、日本政府としては内心、核実験再開を喜んでいるはずで、「これ幸い(天佑)」とばかりに「北の脅威」を囃し立て、「日米同盟強化」「軍事権の拡大」「緊急事態法制」を主張してくるだろう。ケン先生的には外務省幹部を捕まえて「おめでとうございます!」と言ってやりたい気分だ。しかも、「濡れ手に粟」で、極めて日本に有利な形で慰安婦問題が解決しているだけに、笑いが止まらないに違いない。
だが、喜んでいられるのは今だけだろう。政府間で合意がなされたとはいえ、日韓の国民感情は悪化の一途を辿り(カネを投げつけられて喜ぶものはいない)。朝鮮半島をめぐる対立構造は全く解決しないまま、北朝鮮が核開発を進めると同時に、日本が軍拡(軍事権の自主拡大を含む)を進め、下手すると日本も韓国も核武装の検討に入る恐れがある。
笑えないのは、米国の現実主義者たちが、せっかく東アジアの対立構造を解消した上でアジアから手を引く方向で画策していたのに、日本などがそれを邪魔したために、対立構造を残したまま「俺の手には負えないから後は中国さんにお願いしてよ」と勝手に引き上げてしまう可能性が高まっていることだ。霞ヶ関官僚や自民党員は「米国の信義」を信じているようだが、そんなものは大戦中の「ソ連の信義」と同様、全く信じるに値しない。誰しも他国の安全よりも自国の安全を優先するものだからだ。

日本では今年中に衆参ともに選挙が行われ、そこで自公勢力が議会の3分の2を占めた場合、自民党の改憲案が上程されて、権威主義体制と戦時体制が確立する恐れがある。日本もまた東アジアの脅威度向上に多大な貢献をしているのだ。

なお、北朝鮮が行った核実験について、「発表されたような水爆では無い」とする見解が多い。これはなかなか難しいところで、アメリカからすれば「北が水爆を持っている」ことを認めるわけにはいかず、仮に本当に水爆だったとしても容易には認められない。とはいえ、実際に実験によって感知された「地震」の規模は確かに以前と同様のものだったようで、水爆であることを示す根拠は示されていないため、北がハッタリをかましている可能性も十分にあり、本稿では私も「核」とした。

【追記】
冷戦期、西側諸国はずっと「東からの脅威」を煽ってきたが、ベルリンの壁が崩壊していざフタを開けてみると、大ウソとも言える誇張だったことが判明した。1989年、西ドイツはレオポルド2を1800輌配備し、レオポルド1を民間防衛隊に格安で払い下げていたのに比べ、東ドイツ軍が保有していたT−72は200輌ほどで、それも稼働100時間毎にエンジンを分解整備しなければならないという不良品だった。私もVG社の「NATO」をプレイして、「東に奇襲されたらやべぇ」と思っていた一人だが、実は騙されていたのだ。
posted by ケン at 12:24| Comment(4) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする