2016年07月06日

映画 帰ってきたヒトラー

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『帰ってきたヒトラー』 デヴィッド・ヴェンド監督 ドイツ(2015)

1945年4月30日、ベルリンの総統地下壕にて自決、遺体を焼かれたはずのアドルフ・ヒトラーが、2014年のベルリン同所に突然転生してしまう。街中では「趣味の悪いコスプレ芸人」と見られてしまうが、あるテレビ局員に「才能」を見いだされて、政治コメディ番組に出演すると、一気に大ブレイク、インターネットの効果もあって、ドイツ全土を震撼させていく。

本作が凄いのは、「ヒトラーが現代に転生する」という一点を除いて、どこまでもリアリティを追求している点にあり、当初コメディとして認知されていたものが、いつしか全大衆を巻き込むプロパガンダへと変質し、その境目が分からなくなってゆくところにある。また、ヒトラーを「狂った煽動家」としてではなく、クールで理知的な人間として描いているところに凄みがある。彼は、「自分が望む世界」を一方的に大衆に押しつけるのでは無く、「大衆が望む世界」をどこまでも追求し具現化しようと試みる。結果、1920〜30年代にあった政治課題を、すぐ現代に置き換えて「ドイツの環境保護」や「難民問題の不可逆的解決」を唱え、大いに支持を得てゆく。誰もがコメディとして見ているが、本人はヒトラー本人であるが故にどこまでも本気であり、本気であるが故にプロパガンダとしての実質も高まってゆく構図になっている。これは、鑑賞する側にとっても同じで、どこまでがコメディでどこまでがプロパガンダなのか、判断の線引きが難しいことが分かる。
実在の政治家の映像を使ったり、ドキュメンタリー手法を駆使して、実際に街並みに現れて撮影したりしているせいで、ますますリアリティとコメディ具合が増している。

これは、日本では全く笑えない話で、元総理が「ナチスの手口に学べ」と言ってみたり、同じく元総理が「国歌を歌わない五輪選手は日本代表に相応しくない」と述べてみたり、現総理が他国の元首を率いて伊勢神宮に参拝したりと、現実政治とコメディの境界は完全に融合してしまっているからだ。逆の立場から言えば、民進党と共産党の「合作」を挙げても良いだろう。

あまり深く考えずに映画館に足を運び、後から色々考えるのが楽しい作品と言えそうだ。色々なところにパロディが散りばめられているので、笑うポイントも人様々だろう。なかなかの珍作にして名作である。
posted by ケン at 12:19| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする