2016年07月08日

対テロ注意喚起って何?

【留学など注意喚起へ=全国の大学に通知方針―テロなどの事件受け文科省】
 バングラデシュの飲食店襲撃事件で日本人が巻き込まれ、世界各国でテロなどの事件が相次いでいることを受け、文部科学省は4日までに、全国の国公私立大などに対し、夏休みに短期留学や海外旅行などをする学生らへの注意喚起を促す通知を今月中に出す方針を固めた。  通知では、留学予定の学生らに、海外の治安情報などを電子メールで知らせ、緊急事態の発生時には安否確認にも利用される外務省のシステム「たびレジ」への登録を求める。大学などには、留学生が現地で事件に巻き込まれた場合に備え、危機管理体制を整えることを改めて要請する。 
(時事通信、7月5日)

いかにも「何もしないと苦情が来るから、取りあえず何かしないと」的なヤクニン根性の表れだろう。
テロは(素人が)注意すれば避けられるものではなく、当局への登録は監視と一対のものであるだけに、「テロか国家監視か」みたいな二者択一になってしまっている。しかも、登録したからといって、日本の当局が保護してくれるわけでは無く、「テロ被害に遭ったときに管理しやすい」というこれまたヤクニン根性の表れでしか無い。

今回のダッカ事件が起きたのは、外国人しか入れないような高級飲食店であり、これを回避するとなると、今度は治安の悪い地域の飲食店に行くことになるが、別の犯罪者が待ち受けているだけで、根本的解決にはならない。むしろ頻度・遭遇率の点では悪化するだろう。となると、かつての租界やバグダッドのグリーン・ソーンのような要塞を築いて閉じこもる他なくなるが、全く現実的ではない。

今回の事件に際しては、現場で「自分は日本人だ(見逃してくれ)」との声が聞かれたというが、ここに問題の一端が見て取れる。犯人たちはイスラム国の呼び掛けに呼応した現地ジハーディストと見られている。殆どの日本人は、イスラム国との対テロ戦争を行っているのは、アメリカとヨーロッパ諸国と考えており、それ故に「日本人は中立だ」と言いたくなってしまうのは当然だろう。だが、この認識は根本的に間違っている。
日本は、2014年9月にアメリカが主導して結成された「反イスラム国同盟」に参加している、立派な「交戦国」の一員であるが、交戦国と公言しないのは日本国憲法第9条の縛りと、イスラム国を国家として認知していないために過ぎない。対国家でないから、「武力行使」とも「戦争」とも言わない、というのが日本政府の公式見解なのだ。これは、私個人の主張では無く、米国国務省のHPを見れば、誰でも確認できる。

・The Global Coalition to Counter ISIL 

また、今回被害者を出したJICAは、北岡伸一理事長の下で軍事支援を解禁、新たな軍事支援スキームの構築を進めている。名目を「平和構築支援」としている辺りが、安倍政権や外務省と同じくどこまでも姑息だが。
平和構築支援では「軍事」「政治」「社会/経済」の3つの枠組みで行う包括的な取り組みが必要です。紛争を予防、解決し、平和を定着させるためには、軍事的な手段や予防外交などの政治的な手段とともに、紛争の要因となる貧富の格差の是正や機会の不平等などを改善するための開発援助が重要となります。
JICAのHPより)

問題は、日本政府・外務省が「日本は反イスラム国同盟の一員であり、同国と交戦中である」ことをひた隠しにしている点にある。確かに日本は、空爆に参加しているわけでもなければ、無人機を提供しているわけでも無いが、すでに2900億円以上の軍資金を「反イスラム国戦争」に提供しており、イスラム国側からは明確に「敵側の一員」として認定されている。しかし、政府がその事実を公表しないがために、「日本は中立」なる誤認が定着してしまっているのだ。
現代戦が非対称戦争である以上、イスラム国側は、反IS同盟が正規軍を出すイラク・シリア方面で正面から戦うつもりはなく、「後方の脆弱な部分」を攻撃する戦術を採るのが筋であり、それは全ての国家と地域が対象になる。日本本土は「脆弱では無い」から狙われないだけであり、日本人を対象外にしたわけではない。同時に非対称戦争では、非軍人が武器を持って戦闘に加わり、その対象も軍隊に限らず、双方が互いに非戦闘員を巻き込む形となるため、前線も後方も存在しない。

政府がやるべきことは、日本が「対テロ戦争」の遂行国の一員であり、同戦争に前線も後方もなく、全世界にいる日本人がジハーディストの攻撃目標になっていることを、明らかにした上で、個々の責任でリスク管理するように伝えることである。政府が真に国民の安全を願うながら、少なくとも政治的安定度の低い、ムスリムの多い国への渡航自粛を呼び掛けるべきだろう。まして、留学の場合は必要度が高いものではなく、可能な限り自粛させるべきであり、自粛に応じないものについては、コーランの一節をカタカナで書いた紙でも渡して暗記するよう推奨すべきだ。

【追記】
今回の報道を見ていても愚劣なものが多い。例えば「親日国でなぜ」は全く無意味で、テロに遭遇する確率は、ロシアであれ欧米であれ、親日度とは無関係だからだ。また、やたらと犯人の「裕福な高学歴」が強調されているが、日本赤軍やドイツ赤軍の事例からも明らかなように、テロリズムや政治的急進性はむしろ富裕な高学歴層において発現しやすいと言える。ただし、テロリズムを支持する社会的基盤に貧困があることは、ロシア革命期のロシアや昭和前期の日本で証明される。

【追記2】
繰り返すが、日本はイスラム国と戦っている当事国である。現代戦は非対称戦争なので、前線も後方も無く、安全なところなど無い。自分の身は自分で守るしかない。ちなみに、憲法9条と国家認定しないことで、政府は戦争とは言わないだけなので、「自分は日本人だから中立」と言ってみたところで、相手方は聞く耳を持たない。

【参考】
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posted by ケン at 14:00| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする