2016年07月15日

生前退位問題の難しさについて

【典範改正の是非焦点に=生前退位に慎重論も―政府】
 天皇陛下が生前退位の意向を示されたことを受け、政府内では今後、皇室制度を定めた皇室典範改正の是非が焦点となりそうだ。現行制度には、天皇の退位に関する規定がないためだが、改正には慎重論も多いという。政府は、国民的な議論の高まりなどを見極めつつ、丁寧に対応する考えだ。皇室典範は、皇位継承について「天皇が崩じたときは、皇嗣(こうし)が、直ちに即位する」などと規定しているが、退位に関する規定はない。政府関係者は13日、「生前退位というのは現行制度に規定されていない。皇室典範の改正が必要になる」と指摘した。実際に皇室典範を改正する場合は、通常の法改正と同様に、政府が改正案を作成し、国会で審議することになる。陛下の意向を踏まえ、政府は既に、内閣官房を中心に水面下で検討に着手。同時に、公務の負担軽減の在り方についても研究し、安倍晋三首相に報告されているという。
 制度改正をめぐっては、他にも検討すべき課題が多い。内閣法制局OBは「退位後の役割や尊称、時期などを議論する必要がある。元号も変わることになる」などと説明。「国民世論がどう動いていくかが重要だろう」とも語った。一方、別の政府関係者は「皇位の安定性という観点から、改正の是非は慎重に検討しないといけない」と指摘している。皇室典範には、天皇が「身体の重患」などで公務を続けられない場合、「摂政を置く」としており、この仕組みを活用すれば改正は不要との見方を示した。 
(7月13日、時事通信)

近年では、ローマ教皇やオランダ女王が退位しており、帝の年齢と健康を考えれば、在位していること自体が人道的問題とすら言える状況にある。高齢化が著しい現代にあっては、高確率で発生する問題であり、人道的には当然だ。

とはいえ、明治憲法の制定時に生前退位について規定しなかったのにはワケがある。生前退位を許すと、皇位継承問題が拡大するリスクが高いためだ。1つは、本人の意向で「もう辞めた」と自主的に退位してしまう可能性、2つめは第三者が介在して本人の意思に反して退位を強要される可能性である。

前者は、「王冠を賭けた恋」で知られるエドワード8世のケース(在位324日)が象徴的だが、平安期の後白河帝のように退位後も34年に渡って「院政」を敷いたケースもあり、自主的退位でも様々なケースが想定される。

後者のケースは山ほどあるが、今日においても孝明帝の死には暗殺の容疑がつきまとうし、昭和期にあってすら、第二次世界大戦末期には昭和帝を退位させて、傀儡帝を擁立して「聖戦貫徹」を実現しようという謀略があったことに象徴されるように、政治目的の陰謀に利用される恐れがある。

その一方で、戦後のGHQ改革によって皇族が大幅に縮小された結果、「血筋のプール」が極小になってしまった。
現在の天皇家は皇家と四宮家から構成されている。この5家のうち男子がいるのは秋篠宮家だけで、それも1人のみだ。現在の皇室典範は養子を禁止すると同時に、女子が皇族以外と結婚した場合は皇室から除籍すると規定しているため、今後も男子が誕生しない場合、皇家と三宮家は遠からず絶家となる。
生前退位が認められるとしても、皇室そのものの存続が危うくなっていることに変わりは無い。
現在の皇統存続の危機は、戦後改革によって14家あった宮家のうち11家が皇籍離脱処分となったことにある。その結果、1954年の高円宮憲仁親王(2002年に逝去)の誕生から2006年の秋篠宮悠仁親王の誕生まで50年以上にわたって男子の誕生が途絶えている。冒頭にも挙げたように、皇家と四宮家のうち男子がいるのは秋篠宮家だけで、しかも1人で、養子が認められない現行法では残り四家は遠からず断絶することになる。仮に悠仁親王が皇位を継いだとしても、その存続は絶望的な状況にあると言える。
宮家が廃絶された理由は、戦後の財政難と民主化、つまり華族制度の廃止にあるが、それは強大な皇族が貴族特権を有することはデモクラシーの原理に反するという考え方に基づいている。
だが、皇統の存続を第一に考えるならば、可能な限り多くの宮家を置いて、後継者プールを大きくすることに主眼を置くべきなのだが、近代あるいはデモクラシーの原理とどうしても背反してしまう。
皇統存続と近代原理の無理) 

今上帝が生前退位を求める背景については、様々な憶測が流れているが、その1つは、

「安倍政権が皇室典範を改定して、悠仁親王への将来的継承を理由に、極右思想の持ち主である文仁親王への皇位継承を図るのではないか、という危惧」

にあるという。さすがにこれは、陰謀論の一歩手前くらいの話だとは思うのだが、今上帝と徳仁親王がそれくらいの危機感を抱いてもおかしくないとは思われる。
現実的には、実際の健康上の問題と、昭和帝崩御の際の「自粛騒動」と東京五輪等の開催を考えて、混乱を最小限にしたいということなのだろうと推察される。

また、本件を宮内庁が必死になって否定しているということは、以前より帝が意思表示されていたのを、ずっと無視し続けていたため、同情した同庁の職員が漏洩した可能性が高い。これも「天皇の言うことを聞かない右翼」の流れであり、日本における天皇制の本質を示している。

【参考】
皇統存続と近代原理の無理 
皇族も立憲体制に危機感?‐備忘録的に 
皇室の政治利用に向けた大きな一歩 
天皇の言うことを聞かない右翼 
posted by ケン at 13:00| Comment(2) | 憲法、政治思想、理念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする