2016年08月13日

近藤良平版 ストラヴィンスキー『兵士の物語』

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ストラヴィンスキー『兵士の物語』
【演出・振付】 近藤良平
【出演】 川口覚 北尾亘 入手杏奈  近藤良平
【演奏】 三上亮(Vl) 谷口拓史(Cb) 西久保友広(Perc) 勝山大舗(Cl) 長哲也(Fg) 阿部一樹(Tp) 玉木優(Tb)

日本では「知る人ぞ知る」ストラヴィンスキーの名作。偶然発見して、「日本では珍しいな」と思い、チケットを衝動買いして見に行った。三軒茶屋のシアタートラムというのも、便利だった。どうやら大々的ではないが、日本でもたまに演じられているようだ。

朗読と演劇と舞踏を併用した、小編成オケによる音楽劇。ヴァイオリン、コントラバス、ファゴット、クラリネット、コルネット、トロンボーン、打楽器群(複数の太鼓、シンバル、タンバリンなどを一人で駆使する)という、面白い7人編成が特徴で、民族音楽と即興ジャズ的な要素を交えた音楽が印象的だ。7人編成にもかかわらず、小さな劇場ということもあって、かなりの迫力だった。

ロシアの民話を下敷きに、ファンタジー要素満載ながら、兵役の悲惨さが強調される作品になっている。1918年という、第一次世界大戦直後の時代背景が伺われるが、7人編成のオケというのも、戦争の影響で人手や楽器が足りなくなっていることが配慮されているという。

近藤氏の舞台は、衣装も演出も自由な発想でつくられており、映像や影絵のモチーフを上手に使いつつ、観客も巻き込んでライブ感を出していた。本来は、ロシア人らしい暗いラストなのだが、全体的に軽妙につくりつつ、ストラヴィンスキーの味わいを失うこと無く、良いバランスに仕上がっていたと思う。
posted by ケン at 12:00| Comment(4) | バレエ日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月12日

スパイを擁護するということ

【拘束の男性、30年以上日中交流関与 11日に北京入り】
 日中友好団体幹部の日本人男性が7月中旬に訪中したまま連絡が取れなくなっていた問題で、日本政府は28日、男性が北京市内で当局に拘束されたとの通報が中国側からあったことを明らかにした。詳細は不明だが、スパイ行為に関わった疑いを持たれている可能性もある。拘束された男性は日中友好の重要性を訴え、30年以上にわたり日中交流に関わってきた人物だった。菅義偉官房長官は28日午前の記者会見で「今年7月に北京市で邦人男性1人が中国当局に拘束された旨、中国から通報があった」としたうえで、詳細については「事柄の性質上、コメントすることは控えたい」と述べるにとどめた。関係者によると、男性は中国でのシンポジウム開催などについて中国側と協議するため7月11日に北京に入り、15日まで滞在する予定だったという。男性は1980年代から日中交流事業に関わり、頻繁に中国を訪問。90年代末から00年代初めにかけて北京の大学で客員教授を務めたこともあり、中国共産党関係者らに幅広い人脈があった。10年に青年交流の推進を目的とした団体を設立し、植林事業や学生交流などを手がけてきた。
(7月28日、朝日新聞)

親しい同志が救援運動に加わると言うので、やんわりと止めたのだが、聞き入れられなかった。その同志も日中関係に深入りしており、中共関係者との接触もあるだけに、向こうがスパイ認定している者を擁護するということは、自分がその仲間であることを認めるのと同義になる。少なくとも向こうの当局はそう判断し、疑惑を深めるだけだろう。少なくとも、今後も日中関係に関わりたいなら、スパイを擁護するようなことは決して行ってはならず、縁切りするか、むしろ中共側に情報提供して協力姿勢を示すのが吉となる。逆に「友人」を助けるつもりなら、今後は中共と敵対するか、中国に行った際は自分も拘束されるくらいの覚悟を持つ必要があるが、彼にその覚悟があるのかどうか。

彼はまだ経済自由化の途上にあった中国に留学しており、ソ連最末期に留学した私と同様、「全体主義を知る」最も若い世代であるはずなのだが(北朝鮮に留学したコリアンは除く)、全体主義国家や共産党に対する恐怖心や警戒心は、どうも私の方がはるかに敏感なようだ。そして、これは属人的、個人の資質の問題では無く、他の中国留学生を見てみても、全体的に「中国帰り」の人の方がより親中的で、全体主義に対する警戒心が弱いように感じられる。
少なくとも、私の周囲の「ソ連・ロシア帰り」で、知り合いが当局に拘束されて、性善説に基づいて救援運動を行う者は多くないと思われる。ロシア業界は、非常にシビアかつシニカルな世界なのだ。

1978年、ソ連のロジネルという作家がイスラエルへの移住を決めたとき、友人の物理学者アリトシューレルが「なぜ今出て行くんだ」と問い詰めたところ、「そりゃ君のせいさ。だって君はサハロフを擁護しているから、いずれ逮捕されるだろう。そうしたら、今度は僕が君を擁護するために奔走することになるから、僕も逮捕される。だから、君のために僕が逮捕されないよう、いまソ連を出るんだ」と答えたという。
「筋を通す」人間は、遅かれ早かれこういう事態に巻き込まれる。それは、ソ連でも中国でも変わらないし、日本も遠からずそうなるだろう。政治、外交に関わる者は、権力に対してあらゆる感覚を研ぎ澄ます必要がある。

【参考】
・ダブルスパイの末路 

【参考2】
権力の恐ろしさを実感したのは、やはりロシアだった。
モスクワからパリに行く汽車に乗った際には、蘇波国境のブレスト駅で同じ客室に乗って一緒にコニャックを飲んでいたロシア人が、AKをぶら下げた軍警に連行された。
夜、街を歩いていて、突然パトカーに連れ込まれたかと思うと、民警に堂々と賄賂を要求されたこともあれば、グルジア・マフィアに銃で脅されたこともある。
が、極めつけは、国内線の飛行機から降りてきたところ、制服の民警が5、6人待ちかまえていて、そのまま連行され、空港の中にある鉄格子の中の取調室に入れられ、尋問されたことだろう。ほとんど小説か映画の世界である。

「俺いつからそんな大物になったんだ?」
「スパイ容疑で強制収容所送りか?」

と思ったものの、よく考えてみれば、相手が本気なら私服が出てきて車を用意しているはずなので、大したことはないだろうという判断に至った。
案の定、ビザ関係書類の不備と手続き不足の問題で、冷静に対処することができた。とは言え、下手な対応をしていたら、官憲が余計な容疑を加えてきた可能性は否定できない。
もちろん、逆に権力側に顔が利く場合、何でも思いのままになる。通常、数週間かかるビザが2、3日で出たこともあれば、飛行機の席がなくて、パイロット室に乗せてもらったことさえある。
ロシアで生きていくためには、ロシア語能力だけでは全く不足で、相当の個人的リスク管理能力が要求されることになる。ソルジェニーツィンやドストエフスキーの作品は、ロシアで生きていくためのバイブルでもあるのだ。
法治主義の伝統が存在しないロシアでは、現在でも権力は剥き出しの刃物のようである。
客観的に見れば、ロシアはマジで恐ろしい国で、私も散々酷い目にあってきたのだが、どうにも嫌いにならないのは、我ながら面白い限りだ。
愚劣な決断は想像力の欠如から) 
posted by ケン at 12:52| Comment(0) | 政治、社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月10日

分配から成長に傾斜する霞ヶ関

【雇用保険料率0・6%に引き下げへ…政府調整】
 政府は、月内にもまとめる経済対策に盛り込む失業給付などに充てる雇用保険料率の引き下げについて、下げ幅を0・2ポイントとする方向で調整に入った。現行で0・8%の料率を、0・6%に引き下げる。働き手の負担を軽くして可処分所得を増やし、消費を喚起する狙いがある。雇用保険料は、働き手の賃金のうち保険料率に応じた金額を、労使が折半して負担する仕組み。現行の料率で、年収400万円の会社員の場合、年間3万2000円を、労使で1万6000円ずつ支払う。料率が0・6%に下がると、労使の保険料負担はそれぞれ4000円ずつ減る計算だ。政府は今後、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の議論などを経て、来年の通常国会に関連法の改正案を提出する方針だ。
(7月22日、読売新聞)

すでに雇用保険料率は過去最低水準になっており、それをさらに引き下げることとなる。表面上の失業率の低下を根拠とし、企業の負担を減らしつつ、労働者の消費を増やすことを目的としているようだ。
だが、現実には失業率の低下は、高齢化や求職活動停止などの要因が大きいと考えられる。同時に、非正規雇用の割合も上昇し続けており、そもそも失業保険の対象外に置かれる層が増えている。

問題は、失業者に占める失業手当受給者の割合で、2012年で79%、2013年で80%もあり、実数にして200万人以上が失業したにもかかわらず、同手当を受給できていないことにある。
例えば、2013年の調査によれば、ハローワーク申請者の求職理由について、「非自発的な離職」が90万人で、うち「勤め先や事業の都合」は61万人、「定年または雇用契約の満了」は29万人。このほか、「自発的な離職(自己都合)」は96万人、「新たに求職」は74万人などとある。同年の失業手当受給者は52万人であり、「非自己都合」退職に限っても57%の人しか受給できていないのが現状だ。
77%以上の失業者が失業給付を受けられないのは、単純に受給要件が厳しいからに他ならない。
受給資格は、年齢、雇用保険の被保険者であった期間及び離職の理由などによって決定され、それによって受給期間も90日〜360日の間で決められる。そして「求職活動している(働く意思と能力がある)」ことが求められる。
非正規の場合、雇用保険に入っていないことも多く(私設秘書の大半も未加入)、保険加入期間も半年ないしは1年以上必要であるため、雇用期間が短い場合も受給資格を有することができない。
要するに単純に「解雇されました」だけでは失業保険は下りないのだ。

失業給付が受けられない77%以上の失業者たちは、貯金を取り崩すか、借金するか、親族にすがるしかない。
現状は、ホームレスの急増や急速な治安の悪化などといった目に見える形では反映されていない。が、失業期間の長期化とセーフティネットの不整備によって、「派遣村」が提起した問題が、近い将来、再び生起してくることになるだろう。
特に、団塊世代の定年退職が進むことで、家族の担保能力が低下する中、現役世代の貯蓄が底をついた場合、「失業=ホームレス」という状況はより一般的なものになってくるだろう。
失業者の8割が失業手当すらもらえない国

本件の本質は、霞ヶ関が分配から成長への傾斜を深めているところにある。労働市場における弱者からの収奪を強化して、その利益で経済成長に投資するのだろう。社会保障制度全体で考えても、増税を見送った以上は、社会保障給付費を削減するしか対応策がなく、近い将来、本格的な切り下げが始められるだろう。

我々は、この引き下げに反対し、失業保険機能の拡充、具体的には同手当受給層の拡大をこそ主張すべきだ。
posted by ケン at 12:35| Comment(0) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月09日

自衛隊の初交戦近づく

【駆け付け警護付与 11月派遣、南スーダンPKOに 政府方針】
 政府は、今年11月から南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に派遣する陸上自衛隊の部隊に、駆け付け警護など今年3月に施行した安全保障関連法で可能となった新任務を付与する方針を固めた。月内にも防衛省が発表し、任務遂行に必要な訓練に着手する。自衛隊に安保関連法による任務が与えられるのは初めて。複数の政府関係者が7日、明らかにした。新たに付与される任務は、離れた場所で武装勢力に襲われた非政府組織(NGO)職員などを救援する「駆け付け警護」と、治安悪化などによる緊急時に他国軍と協力して宿営地を守る「共同防衛」の2つ。
 南スーダンの首都ジュバは7月に入り、政府側と元反政府勢力の戦闘が再燃。駐南スーダン大使ら日本大使館員が陸自の宿営地に避難する事案や、日本人4人を乗せた国際協力機構(JICA)の車両が走行中に銃弾を受ける事案などが発生している。政府関係者は「いざというときに現地の日本人や宿営地を守るため、自衛隊による新任務の必要性が高まっている」と指摘する。
 安保関連法では、PKO派遣部隊が現地の監視・巡回を行う「安全確保業務」も可能となったが、政府内には「いきなりすべての新任務を与えるのはリスクが高い」(官邸筋)との慎重論もあることから、今回の付与は見送る。派遣する部隊の人数は現状の約350人体制を維持する方向だ。政府は、平成24年から南スーダンPKOに参加。陸自の施設部隊を半年交代で派遣し、幹線道路の整備や避難民への支援活動にあたっている。駆け付け警護などが可能となる安保関連法施行後も「隊員の安全のため慎重の上にも慎重を期す」(中谷元前防衛相)との方針から、表立った訓練を見送ってきた。
(産経新聞、8月8日)

南スーダンでは、すでに戦闘が再開され、反大統領派が部隊を引き連れて首都ジュバを大挙、実質的に停戦合意は反故になっている。従来の「PKO五原則」からすれば、「紛争当事者間の停戦合意」が破られている以上、南スーダンはPKOの対象から除外され、撤退する段階にあるはずだが、近年では「住民保護(難民化抑止)」の立場から、同名目が成立する場合、戦闘も辞さないスタンスをとっており、「三番目の当時者」であることに躊躇しなくなっている。

首都ジュバは、これまで「治安が安定している」と言われ、自衛隊もインフラ整備に携わっていたが、7月8日に戦闘が起こり、政府軍だけで150名以上の戦死者が出た。これを受けて、350人からなる自衛隊部隊は国連施設内に籠城、ごく近隣の道路整備だけ行うのみとなっている。
7月以降、自衛隊の宿営地周辺でも激しい戦闘が行われ、宿営地内にも砲弾が着弾したと言われる。また、ジュバ国際空港に向かったJICAの車両が銃撃を受けるという事態まで発生している。
アフガニスタンでもイラクでも同じだが、非対称戦争においては前線も後方も無く、「首都だから安全」などということはあり得ない。つまり、自衛隊はすでに交戦地域にいるのだ。そこに「駆け付け警護」などとなれば、自衛隊が交戦に参加する確率は飛躍的に上がるだろう。

ところが、現実の自衛隊には不安要素が多い。まず、自衛隊は憲法上「戦力=軍隊」ではないため、交戦規定を有しておらず、今回は便宜的にPKOのものを共有することになるが、その交戦対象は反政府組織や武装集団だけでなく、政府軍や警察、政府側民兵をも含むという幅の広さがあるため、仮に政府軍から銃撃されたとしても、応戦しなければならなくなる。まして、「駆け付け警護」が任務化され、PKOの目的が「住民保護」である以上、適当な理由を付けて戦場から離脱することもままならない。
また、自衛隊には軍事法廷に象徴される軍司法機能が存在しないため、戦闘を始めとする軍事行動に際して犯罪行為や不祥事が起きたとしても、これを取り締まって裁くことができず、現地住民や国際社会に対して説明責任を果たせない。その結果、イラク派兵以降、自衛隊内では不祥事を隠蔽する傾向が強まっているが、今回それが加速する恐れがある。

仮に南スーダンなどで自衛隊が交戦を行ったとしても、政府は憲法上、「武力行使には当たらない」と強弁するほかなく、それは悪しき前例となり、いずれは満州事変のような大規模な軍事行動すら「自衛権の行使で、武力行使(侵略)には当たらない」などと意味不明の説明がなされ、憲法の空洞化を加速させることになるだろう。
posted by ケン at 12:39| Comment(6) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月08日

オールスター・バレエ・ガラ(2016) Bプロ

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時間が経ってしまったけど、一応報告だけ。
最近はバレエを観る頻度がやや下がっているけど、どうしても外せないものはある。それでも、ザハロワとレーピンの夢の共演は参院選の動員により行けなかった。が、このオールスター・ガラは、半年以上前から分かっていたので、月末の公演のチケットを取った。

「ラプソディ」 フェリ、コルネホ
「白鳥の湖」 アナニアシヴィリ、ゴメス
「Fragments of one's Biography」 ロパートキナ、エルマコフ
「ジゼル」 ザハロワ、ロブーヒン
「リーズの結婚」 マーフィー、エイマン
「プレリュード」 ロパートキナ、エルマコフ
「フー・ケアーズ?」 マーフィー、エイマン
「ディスタント・クライズ」 ザハロワ、ロブーヒン
「レクリ」 アナニアシヴィリ
「ル・パルク」 フェリ、コルネホ
「眠りの森の美女」 トレナリー、ゴメス

「オールスター」だから仕方ないとはいえ、演者の高齢化は否めない。53歳というフェリ女史の現役復帰という、大ネタもあるだけに尚更だ。確かに下手に若い人を出すと技術格差がハッキリしてしまうので、難しいのだろうが、そこを調整するのもプロデューサーの手腕だろう。
前半はオケによる演奏だったのに対し、後半は音源によるスピーカーの音出しとなったが、この音質がとにかく劣悪で、せっかくの世界トップによる舞踏を台無しにしていた。主催者側も納得していたのだろうか。

肝心の舞台演目は、クラシックとモダン系を交えたものだったが、全体的に「どこかで観たことがある」感のある無難な演出で、分量的にも物足りない感じで「もうおしまい?」と思ってしまったのが率直なところだった。恐らく興行が優先された格好なのだろうが、意外性や驚きといった要素が無いと飽きられてしまうのではなかろうか。

ダンサー的には、やはりザハロワとロパートキナが群を抜いており、特にザハロワ女史の超人性に拍車が掛かっており、スターの中でも圧倒的な存在感を示していた。逆に、ザハロワを前面に出したい主宰者側の意向なのか、ロパートキナの演出は抑え気味にされていたような気がする。気持ち的には、もっとガチでバチバチやって欲しかったのだが。とはいえ、男女のコンビとしては、ロパートキナとエルマコフの相性の方が勝っていたようにも見受けられた。
また、53歳のフェリが年齢的衰えを感じさせない、妖艶な支配力と存在感を見せて観客を沸き立たせていたのに対し、アナニアシヴィリは技術はともかく肉体的な衰えを見せてしまっており、全盛期を知るファンとしては寂しさを覚えずにはいられなかった。

今回はそれなりに前の方の良い席で観られて、スピーカーの音質以外に取り立てて不満があったわけではないのだが、「これでいいのきゃ?」という物足りなさ感が強く残った舞台だった。
posted by ケン at 12:52| Comment(0) | バレエ日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月06日

シン・ゴジラ

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『シン・ゴジラ』 庵野秀明監督 日本(2016)

庵野氏は長期スランプに陥り、映画版「エヴァ」の制作が遅れに遅れる中で、今作を監督したことで一部から非難囂々にさらされていたが、本作の出来を見れば沈黙せざるを得ないのでは無かろうか。

噂通りの完成度で、確かにこれは「新世紀」に恥じぬ出来だろう。『巨神兵東京に現わる』を見て依頼したというだけあって、色々なところに庵野色が出ている。
ゴジラがついにCG化されてしまったのは残念ではあるものの、東京の街並みの再現度はハンパ無く、歩いたこともある東京や川崎そのもので、それが怪獣に潰されてゆく様のリアル感もまたハンパ無いものだった。特に上空からの俯瞰映像とローアングルからの怪獣を組み合わせたカメラワークが非常に優れており、迫力と説得力を激増させている。また、ところどころに東日本大震災や福島原発事故を思わせる映像も多い。

もう一つの特徴としては、ゴジラ以外の部分が非常にリアルにつくられている点がある。特に、ゴジラ登場をめぐる、政治や行政機構、自衛隊による武力行使、日米を中心とする国際関係などの要素がふんだんに盛り込まれ、むしろ群像劇や人間模様の方が中心とすら言えるくらいの構成になっている。いつもの庵野節で、やたらとセリフや情報の量が多く、とても一回見ただけでは処理できない程だ。
閣議や対策本部のシーンがやたらと長く、部分的には現場にある者として「それは無いなぁ」と思う部分も無くはないが、基本的にはリアルに作り込まれており、妥協を許さない方針が良く伝わる。
もっとも、政治家や官僚がいささか美化されており、設定がネトウヨ好みになっているところは気になるのだが、あれは庵野氏一流の「お前らこういうの好きなんだろ、ほうら!」的なノリなんだろう。

個人的には、環境大臣役が元リアル副大臣だった横光克彦先生だったのは超びっくり。もう70過ぎているはずなのに、60歳くらいにしか見えない。さすが本業だが、こういう部分でも閣議の再現度を増しているのだろう。

新宿TOHOのTCX=エキストラ・ラージ・スクリーンで見たけど、大ホールの真ん中にもかかわらず、画面が視野に入りきらず、大変でしたが超迫力だった。見に行くなら、やはり大画面がお薦め。
posted by ケン at 13:00| Comment(5) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月05日

警察の野党監視は選挙介入の予兆か?

【<大分・隠しカメラ>署員、無断で3回侵入 「不当な監視」】
7月10日投開票の参院選大分選挙区で当選した民進党現職らの支援団体が入居している大分県別府市の施設の敷地内に、同県警別府署員が隠しカメラを無許可で設置し、人の出入りを録画していたことが、3日分かった。同署は施設側に対し、参院選公示前日の6月21日までにカメラ設置と内蔵されたSDカード交換のために計3回、署員が無断で敷地に入ったと認めており、参院選を巡る捜査をしていた可能性がある。野党関係者は「選挙活動への不当な監視だ」と反発している。
 県警や関係者によると、隠しカメラが設置されたのは、別府市南荘園町の別府地区労働福祉会館。連合大分の東部地域協議会や別府地区平和運動センターなどが入居しており、参院選大分選挙区で接戦の末に3選を果たした民進党の足立信也氏(59)や、比例代表に出馬した社民党の吉田忠智党首(60)の支援拠点だった。同会館の建物を管理する連合関係者によると、6月23日の草刈り中にカメラを発見。ともに結束バンドでくくりつけられ、1台は敷地の斜面に、もう1台は木の幹に設置されていた。会館の玄関と駐車場への出入りが録画され、別府署員が設置する様子も映っていたため、同署に連絡。カメラは同24日に署員が撤去した。
 その後同署幹部が施設を訪れて謝罪。カメラを設置した同18日深夜以後、21日夜までに署員がSDカードを2回交換したとし、「正常に作動するかをテストしていた。個別の事件について、特定の人物の出入りを確認するためだった」と説明したという。連合関係者は「録画は私の顔も鮮明に映っており、不気味だった。翌日公示の参院選で民進、社民両党の支持者を盗撮するためとしか考えられない。会館へ労働相談に来る一般の人のプライバシーも侵害している」と指摘。別の野党関係者も「選挙活動への不当な監視だ」と批判した。
 県警によると、別府署の判断に基づき、カメラを仕掛けたのは同署刑事課の署員2人。捜査上のカメラの設置は警察署の判断でできるため、県警本部に報告は上がっておらず、過去に同様の問題が報告されたこともないとしている。設置した署員は「雑草地だったので公有地と思い込み、(同会館の)管理地だとは知らなかった」と話したという。県警の小代義之刑事部長は3日、「他人の管理する敷地に無断で立ち入ったのは不適切で、おわびする」とコメント。県警は監視していた対象者や参院選に絡む捜査かどうかを明らかにしていない。一方で無許可のカメラ設置は建造物侵入罪などに当たる可能性があるとして、今後も調べる方針。
(8月4日、毎日新聞)

7月10日に投開票のあった参院選大分選挙区では、連合大分が推薦し、社民、共産両党の支援を受けた民進党現職が、1090票差で自民党新人を破り3選を果たしたものの、県警が与党側候補に野党候補側の情報を流していた可能性もあり、とうてい公正な選挙が行われたとは言いがたい状態にある。

マスゴミは、相変わらず警察の主張を鵜呑みにして、「敷地内への無断侵入」ばかりを指摘し、NHKに至っては「社民党関係の建物」などと事実と異なる報道を平気で行っている。
問題は、参院選への立候補を準備していた支援団体を逐次監視し、出入りする者を全て盗撮していたことで、憲法第21条の「政治活動の自由」を著しく侵害、デモクラシーとリベラリズムの否定に繋がる、国民主権という戦後日本の理念を根本的に否定するものであるところにある。
1.集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2.検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

また、同施設は連合大分の地区協議会を主体とする建物であって、総評系の「別府地区平和運動センター」が管理主体ではあるようだが、社民党や民進党は候補者がその一室を借りているに過ぎず、NHKがそれを知らないはずはない。つまり、「社民党関係の施設」というのは、明白なNHKによる情報(印象)操作である。
同施設に向けて監視カメラが設置されたということは、選挙関係者のみならず、平和運動にかかわる市民はおろか、労働相談や生活相談に来ていた一般市民まで、個人を特定され、あるいはリスト化(例:シュタージ・ファイル)されていたことを意味する。「選挙違反の取り締まりのため」という、警察側の主張はどうあっても正当化されない。

なお、警察法は自らの責務を以下のように規定している。
(この法律の目的)
第一条 この法律は、個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持するため、民主的理念を基調とする警察の管理と運営を保障し、且つ、能率的にその任務を遂行するに足る警察の組織を定めることを目的とする。

(警察の責務)
第二条 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
2 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法 の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。

(服務の宣誓の内容)
第三条 この法律により警察の職務を行うすべての職員は、日本国憲法 及び法律を擁護し、不偏不党且つ公平中正にその職務を遂行する旨の服務の宣誓を行うものとする。

明治体制下では、警察は頻繁に選挙に介入し、政治集会には常に警官が同席して、政府に批判的な発言があると即中止命令が出された。また、政党の本部や支部は常に監視下に置かれていた。
こうした権威主義体制を否定する装置として、新憲法の第21条が制定されたわけだが、秘密保護法や安保法制などに象徴されるように憲法の条文が空文化されてゆく中で、警察もまた平気で憲法を否定するようになりつつある。憲法は、本来権力の暴走を抑止するために存在するが、それが空文化するということは、その暴走を止める手段が失われることを意味する。

今回の件で警察が憲法や警察法への違背を認めることなく、些末な「建造物侵入」だけで謝罪して済まそうとしていることは、今後も選挙活動や野党の政治活動に対する監視を行うことを宣言しているのと同義であり、いよいよ日本の戦後デモクラシーが終焉を迎えていることを示している。
posted by ケン at 12:34| Comment(3) | 教育、法務、司法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする