2016年08月02日

授業を増やせば良いのか?

【授業年35時間増、文科省が対策へ 小5・6、2020年度から】
 2020年度から始まる小学校の新学習指導要領で、5〜6年生の授業が年間980時間(1時間は45分)から1015時間に増える。一方で文部科学省は、1週間あたりの授業のコマ数を今より増やすのは難しいともみている。増える35時間分をいつ、どのように教えるか。文科省は20日、時間割づくりなどを考える会議を始め、対策に乗り出す。授業時間が増えるのは20年度から正式な教科になる英語。いまは年間35時間の「外国語活動」だが、教科化で2倍の70時間になる。週1コマから2コマに増える計算。
(7月20日、朝日新聞)
月に3〜4時間ほどになるのだろうが、どこで増やすんだ?土曜授業を増やすか、休みを削るか。無難なのは行事をやめることだけど、それはしないんだろうな。結局のところ、詰め込み式に逆戻り。他方で教員は減らす方向なんだから、先生のなり手もいなくなるだろうに。
同じく朝日の記事。
文科省が、諮問機関「中央教育審議会」に示したのは、休み時間を利用する15分程度の「短時間学習」に分割したり、夏休みなどを使ってまとめて授業したりする案。45分授業を60分に延ばす案もあったが、最終的には各学校が判断する。
(3月2日、朝日新聞)

すでに小学校の時間割は相当キチキチになっていて、北海道や東北でなくとも8月後半から2学期が始まっているし、土曜登校も増える一方だ。その上、運動会、学芸会、文化祭など年がら年中学校行事があり、生徒も教員も保護者も常に何かに追われている。ただでさえ、共働きが急増してPTAの役員のなり手がいなくなっているのに、こちらも負担ばかりが増えて、その不満が教員にぶつけられ、過重労働と保護者対応のストレスで精神不調に陥る教員が続出している。

精神の不調を訴える者は、民間企業では多くても1〜2%(ブラック企業は別にして)と言われるのに対し、官公庁は3〜5%、これが学校では7〜10%に上るという。だが、官公庁などの場合、まず解雇や強制退職はなされないため、休職扱いで定員の補充はされず、現場は定員不足のまま対応を余儀なくされる。いまや小中学校では、新任あるいは2年目の教員が担任を持たされるのが当たり前になってしまっている。
教員の労働時間は、OECD諸国平均の1.5倍ながら、授業の準備や生徒指導にかける時間は平均程度であり、具体的には週15時間も事務作業や部活動などの「本来業務外」の仕事に費やされている。全教のデータだが、月100時間以上の教員の割合は小学校34%、中学52%という数字もある。そこに今度は、小学生向けの英語指導の研修が課されるのだから、またぞろ倒れる者が続出するだろう。
こうした実態を踏まえずに、単純に授業時間だけ増やすのは、補給物資も援軍も出さずに、作戦目標のハードルだけ上げる、旧日本軍を彷彿させる。

教員の働き過ぎ−今さらながら 

授業を受ける生徒の側に立ってみても、キチキチのカリキュラムと時間割で全く余裕が無いところに、過労状態の先生から教わるのだから、効率など良いはずが無い。
ただでさえ、日本の英語教育は「中高大と10年もやってまともに話せない」などの批判が強く、「効率が悪い」と評価されているのに、指導方式や学習方法を再考せずに、単純に授業時間だけ増やしたところで、徒労に終わる可能性が高い。「義務教育で達成すべき学習目標」をきちんと定義せずに、いたずらに授業時間だけ増やすのは、砂漠に水をまくような話だ。
現実における中等教育の標準カリキュラムでは、英語は週3コマだったものが、ようやく昨年(今年度)から4コマに増やされたものの、一教室の生徒数は相変わらず40人のままであり、2012年に文科省が行った調査では、全国の公立校の英語教員で英検準一級の取得者は中学で28%、高校で52%にとどまっている。
文科省が考えている直接法(英語のみによる英語教育)を導入するとなれば、少なくとも一クラスを15人以下にする必要があり、その上で授業数も週に6〜8コマ程度は必要だろう。それは完全な英才教育であり、英語嫌いの子どもや外国語習得に難のある子どもにとっては地獄でしかない。仮にこれが実現したとしても、国内の日常生活で英語を使う必要が殆ど無い日本で、政府が望む水準に達成するのは、やはり2〜3割以下になるだろう。
だが、初中等教育に求められるのは、「市民生活、社会生活に必要な能力」「デモクラシーを構成する一員としての素養」であり、そこに「英語がペラペラであること」が含まれるのかと言えば、疑問しか覚えない。
英語学習に高いハードルを求めるために、他の教科を犠牲にすることが、義務教育の本来目的に合目的であるか、今一度よく考える必要がある。
英語教育におけるポピュリズム) 

子どもにとっては苦痛の時間が増えるだけ、教員にとっては労働時間と保護者からのクレームが増えるだけ、でも英語能力は殆ど伸びない、という結果になることはほぼほぼ間違いないと見られるだけに、愚策としか言いようが無い。
posted by ケン at 13:00| Comment(0) | 教育、法務、司法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする