2016年09月21日

被災者から利息取る国

【<熊本地震>災害利息免除、国が難色 援護資金特例】
災害によって損壊した住宅の再建費などを融資する公的制度「災害援護資金」を巡り、熊本地震の被災者に利息免除の特例措置を求める熊本県の要請に政府が難色を示している。2011年の東日本大震災では特例措置を取ったが、内閣府は「大震災とまでは言えず、議論が必要」と否定的だ。識者は「どんな災害でも大震災と同様の条件を設けるべきだ」と法改正を促している。
災害援護資金は「災害弔慰金の支給等に関する法律」に基づき運用されている。負傷したり住宅が全半壊したりした被災者に150万〜350万円を貸し付ける制度で、原資は国が3分の2、都道府県や政令市が3分の1を負担し、市町村が貸付窓口になる。返済期間は10年で、うち3年間の返済猶予期間(期間中は無利息)がある。利率は3%で連帯保証人が要る。
 東日本大震災では、▽利率は連帯保証人がいれば0%、いなければ1・5%▽返済猶予期間を3年間延長▽経済状況に応じた免除規定を設ける−−という特例措置がとられた。計2万9178件に約523億8544万円(今年7月末現在)が貸し付けられている。
 一方、1995年の阪神大震災では、兵庫県内で5万6422件に総額約1308億7263万円が貸し付けられた。特例は当時なく、昨年4月の通知で破産時などに限り返済が免除されたが、未返済額は6217件、88億8287万円(今年3月現在)に上り、21年が過ぎた今も利息が被災者に大きな負担となっている。
 熊本県は6月、「利息0%(連帯保証人が必要)」と「貸出枠の拡充」を内閣府に求めた。県健康福祉政策課は「3%の利率は一般金融機関に比べても高く、非常に利用しづらい。被災者からのニーズがあり、対応してほしい」と訴える。
 これに対し内閣府の被災者行政担当は取材に「熊本地震の被害規模は、特例を検討する大震災でないと考えている。法改正が必要で、3%が高いという認識はあるが、ただちに対応はできない」と回答した。
 被災者の生活再建に詳しい民間研究機関の「兵庫県震災復興研究センター」(神戸市)の出口俊一事務局長は「災害の全体規模は個々の被災者に関係ない。あらゆる災害で東日本並みの対応ができるよう、法改正すべきだ。これでは公平性は担保されない」と指摘している。
(9月12日、毎日新聞)

おいおい、マイナス金利やってるのに被災者からは3%も利息取るとか、どんだけブラック国家なんだよ、という話。金利の恩恵にあずかれる銀行や大企業だけがウハウハで、庶民は負債ばかり増えてゆく構図。放置すれば、国家そのものへの信頼が揺らぐだろう。
今どき住宅ローンも0.5%程度な上、税優遇があり、自動車ローンですら2〜3%というのに、自然災害の被災者に公共が貸し付けるものに金利3%というのは、全く妥当性というか、公共性に欠けるだろう。どこまでも「持てる者」が優遇されるとなれば、デモクラシーの基盤である階級融和構造を瓦解させる恐れがある。
だが、選挙で選ばれず、試験で選抜されるだけの官僚には、それが理解できないのだ。法改正が必要なら、政治家に法改正を促すのが、公共に奉仕する「公僕」の使命である。
posted by ケン at 12:21| Comment(0) | 政治、社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月20日

米本土テロ中にラビリンス第六戦

T後輩と20年ぶりくらいにゲームをすることになったが、彼の希望は「ラビリンス−テロ戦争」で、しかも米国側というものだった。それを耳にしたO先輩が「マゾか?」と言うほど、このゲームでアメリカを担当するのは苦しい。私は米国側を持つことが圧倒的に多いが、最近は慣れてきたとはいえ、胃をキリキリさせながらプレイしている感じだ。
しかも、プレイ中は全く気づかなかったが、オンタイムで米本土でテロが発生しており、タイムリーにもほどがあるプレイとなった。

11時に始めてインストールに一時間、そこから7時間超で3ゲームと、相変わらずのプレイアビリティだった。しかも、最後のワンプレイなどは18時から始めて1時間ちょっとで終わってしまった。再セットアップが簡単なのは大きいかもしれない。

シナリオは全て9・11。最初の2回はT後輩がアメリカ、ケン先生がジハーディストを持った。
初回は、まずアメリカがアフガニスタンに侵攻。だが、国際世論の支持は得られず、威信を低下させてしまう。セル(ジハーディスト要員)は、パキスタン、イラン、中央アジアへと散っていった。ジハーディストは、パキスタンで不安定化を図るも、米国は特殊部隊や無人機を投入しつつ、外交支援を強化して対抗した。パキスタンに原理主義政権が樹立すると、大量破壊兵器が流出するので、アメリカが必死になるのは当然だ。隣の湾岸諸国に米軍が駐留しているのも大きい。
そこでケン師は、パキスタンに見切りを付け、イラクに矛先を向ける。アフガニスタンでは、体制改善(民主化)が一向に進まず、セルが続々と登場、イランを経由してイラクに集まり、イスラム革命が起き、原理主義政権が誕生した。その勢いでシリアでもアサド政権が倒されてイスラム国が成立、サドンデス勝利にリーチが掛かった。
T大統領は、苦渋の決断でイラクに侵攻、解放するも、アフガニスタン、サウジアラビア、湾岸諸国を合わせて兵員15個中14個が海外展開するという「過剰展開」状態に陥ってしまう。国家威信(イメージ的には国際世論の支持)は若干回復したものの、外交マイナス修正がゼロになった程度なので、援助外交は一向に進まず、ジハーディスト側のサドンデス勝利をギリギリのところで止めるのが関の山だった。
ケン師もサドンデス勝利を逃し、次なる革命を準備するも時間切れとなり、ジハーディスト側の判定勝ちとなった。判定勝ちとはいえ、ジハーディスト側が一方的に攻め立てる展開で、T大統領には徹頭徹尾、勝ち筋が見えなかったと思われる。

2回目、T大統領は初手のアフガン侵攻をやらずに、援助外交で湾岸諸国、サウジアラビア、パキスタンの体制改善(思想戦、外交援助)に努めるが、ダイス目が悪く一向に進まない。イベントで威信が低下したのも影響した。逆にケン師は「ごっつぁんです」とばかりに、アフガニスタンから雲霞のごとくセルを出し、イラク、インドネシア、フィリピンなどに進出していった。さらにイラクで大蜂起を指示し、イスラム国が樹立してシリアも革命寸前に。さすがにT大統領はやむなくイラクに侵攻するが、サドル一派が蜂起、アルカイダ残党も激しく抵抗し、膠着状態に陥る。対するジハーディスト側は、シリアにイスラム国を樹立して、資金も潤沢、セルにも手札にも困らない状態が続くが、次の革命の輸出先に難儀する。前回の時間切れを踏まえ、ケン師は「世界混沌化」路線を選択、各地で不安定化を進めると同時に、アメリカの威信低下を画策、「米国の威信が1で、かつ18カ国中15カ国が貧困(不安定な体制)」を実現して、山札終了直前にサドンデス勝利を収めた。アルグレイブ監獄における米兵による拷問が暴露されて威信が1まで低下したのは、あまりにも象徴的だった。今回もアメリカ側は無力感を漂わせていた。

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第二プレイ終局時

この時点でちょうど夕6時になっていたが、20年ぶりにゲームする後輩に「勝ち逃げ」してしまうのも何だと思い、攻守所を入れ替えて再戦する。ところが、これがさらに酷い結果になってしまう。
ケン大統領は初手によるアフガン侵攻をせず、湾岸諸国などの体制改善に努め、第1ターン終了時には湾岸諸国を「良好」にしてしまう。2ターン目にはサウジアラビア、3ターン目にはパキスタンを「良好」にしてしまい、T師をして「これ、同じゲームなんですか?自分は体制良好な国なんて見たことも無いんですけど」と言わせる始末だった。これはダイス目もあるが、米国の威信が高止まりして外交修正が常にプラス状態であったことが大きい。
T師はイラクで革命を起こしてイスラム国を樹立するも、ケン大統領は即座に侵攻する。これが国際的支持を得て、アメリカの威信は最高レベルに達してしまう。第4ターンには、イベント効果もあって、イラクもすぐに「良好」になり、返す刀でアフガニスタンにも侵攻。5ターン目には、これもイベントの助けがあってあっという間に「良好」になり、アメリカのサドンデス勝利に終わった。
米国の威信が高く、さらに湾岸諸国かイラクが「良好」であると、相乗効果で外交戦が面白いように成功し、加速度的にアメリカの勝利が近づくわけだが、ここまで「はまる」の初めてだった。最初に対テロ戦争を始めたブッシュ大統領らは、これくらいのキモチで「すぐに終わる」と思っていたのかもしれないが、現実は2回目のゲームくらいな流れになっている。

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第三プレイ終局時

現在の世界を俯瞰すると、「良好」な体制を維持しているのは湾岸諸国くらいなもので、侵攻したアフガニスタンとイラクは「貧困」、あるいは一部が原理主義国化している。さらにシリア、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンなどが内戦状態にある。どう見ても、ジハーディスト側の判定勝ちな情勢だ。
だからこそ、対テロ戦争推進派のヒラリー氏と、戦争放棄・孤立外交路線のトランプ氏が大統領選を戦わせているのだろうが・・・・・・
posted by ケン at 13:05| Comment(0) | ゲーム、囲碁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月18日

アルキメデスの大戦

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『アルキメデスの大戦』 三田紀房 講談社ヤングマガジンコミックス 既刊三巻

時は昭和8年、1933年。日本は満州事変、5・15事件を経て急速にミリタリズムへの傾斜を深める一方、ドイツではナチスが政権を奪取して国際連盟からの脱退を表明していた。国際緊張が高まりつつある中、日本海軍では次期主力戦艦の選定をめぐり、激しい対立が生じていた。ドレッドノート級をはるかに上回る超ド級戦艦を計画する主流派(史実的には艦隊派)と、航空主兵主義を唱え高速の巡洋戦艦を主張する非主流派(同条約派)である。だが、艦隊派が出してきた大和型戦艦の見積もりは非現実的に低く、条約派は一人の天才学生に「査定」を依頼することにした。

「数字で見る建艦競争」「派閥抗争で見る日本海軍」という図式が斬新で興味深い。
航空主兵論者にして三国同盟に反対した大叔父の痛恨は、「大和があるから(戦える)」「大和を動かせるうちにやろう」と日米開戦へのインセンティブがかかり、「まだ大和がある!」と和平交渉の障害になってしまったことにあった。税収が13億円という当時に、1億5千万円の巨大戦艦を二隻もつくってしまう官僚制度と合成の誤謬を良く描いている。叔父上の魂が乗り移ったかのようだ。
そのうち租税と印紙による基本的な税収は、わずか13億円に過ぎないのだ。
塩・たばこ・砂糖の専売や、その他の官業収益、国家資産の整理などを含めて、ようやく19億円になるような有様だった。
もっとも、一般歳出も戦争勃発に伴う追加予算の編成で膨れあがっただけで、昭和8年から11年までは22〜24億円程度に収めているし、臨時軍事費もない。
つまり、歳出ではなく、政府収入から見た場合、大和のムダさ加減は一層強調される。
借金ではない真っ当な収入が20億円もないところに、1億5千万円の戦艦を2隻もつくってしまったのだ。
(中略)
昭和12年度には兵器費に占める弾薬費の割合はすでに56%になっていたが、翌13年度には早くも76%に上昇し、その分兵器生産が犠牲となって滞り、さらに翌14年(1939年)には中国戦線に展開する25個師団への補給が一部不足するという事態に陥っている。
この昭和14年に戦前の日本のGNPは頂点となり、後は次第に衰退していくだけだった。
その翌々年に日米が開戦するわけだが、兵器・弾薬・戦車・自動車等の生産は昭和13年(1938年)がピークであったことを考えると、我々の先祖は一体どんな頭脳をしていたのか、疑うしかない。
戦艦大和をめぐる日本人の財政感覚

大和が参加した唯一の水上戦である「サマール島沖海戦」が、それを物語っている。
1944年10月25日、いわゆるレイテ沖海戦の一局面だ。
レイテ湾突入を目指す栗田艦隊(大和を含む戦艦4、重巡6、軽巡2、駆逐艦11)は、サマール島沖にて、米第77任務部隊の護衛(小型)空母6、駆逐艦7からなる艦隊を発見、これを米正規空母群主力と誤認して、戦闘を開始した。

真っ昼間の2時間の海戦で日本海軍が挙げた戦果は、護衛空母1隻と駆逐艦3隻のみで、逆に航空攻撃や雷撃を受けて、重巡部隊の大半を失った。
その際に、大和の主砲は1発の命中弾も与えられなかった。
戦艦4隻(大和、長門、金剛、榛名)の主砲発射は、合計で約500発に上ったが、命中弾はわずか10発強に過ぎなかった。
天候や航空攻撃などの悪条件はあったが、昼間の距離3万メートルで命中させられない、ということは、大和の46センチ砲の優位性(米戦艦の射程外から撃つ)がはなはだ疑わしいことを意味する。
無用の長物
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2016年09月17日

ただ苦笑するのみ

【民進幹事長に野田前首相=両院議員総会】
 民進党の蓮舫代表は16日、両院議員総会で、野田佳彦前首相(59)を幹事長に起用する人事案を提示し、了承された。 
(時事通信、9月16日)

昨日、自民党の衛星政党が誕生しました(爆)
但し、総会に出席した議員は半分以下、拍手もまばらでしたが。

「通読一遍唯だ苦笑するのみ」(中江兆民)

幹事長選定については、色々な報道があるようだが、レンホー氏はハナから野田氏を決め打ちしていたようだ。誰も信じることが出来ず、周囲の止める声も聞かずに、自派閥の親分に頼んでしまったということらしい。「その代わり野田幹事長以外は全部任せる」と言ったというから、何をかいわんや、である。
これによって他派閥の支援を受けられなくなったのは確実で、早くも泥船確定。年明けか夏の総選挙で大敗するまでの短命政権となろう。
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2016年09月16日

マルキシズムは今も有効か・補

前稿の補足。
欧州では社会民主主義政党の退潮が著しい。ドイツやスウェーデンのように二大政党の一角を担っている国もまだあるが、全体的には急速に支持を落としている。経済不調が続く南欧諸国では、社会民主主義政党に替わって非共産党系の左翼政党が支持を集めている。果たして、欧州社民の退潮は一時的なものなのだろうか。

日本では、社会党が解党した後、社民党が表向き社会民主主義を引き継いだものの、今や政党要件の維持すら困難になっている。日本は、共産党が党名を変えずに存続している、先進国で唯一の国だが、その支持は広がっておらず、組織の高齢化に苦しんでいる。国会における左翼政党が占める割合は5%以下でしかない。年収300万円以下の被雇用者が2千万人以上、生活保護受給者は200万人を超えているが、保護率(水準以下の生活をしていながら受給できている人の割合)は2割強でしかないという貧困状態にありながら、左翼政党の支持は一向に広がる気配を見せない。

マルクスの主張において最も分かりやすい一つに、

「資本主義は安価な労働力なくして成立し得ない」

というものがある。これは、まさに今の先進国にあてはまる言葉で、例えば日本で考えると分かりやすい。1990年代以降、非正規雇用労働者の割合は急激に増加し、いまや40%に達している。その平均給与は正規雇用者の半分以下である。自民党政権と財界と政府が協同して派遣法などの改正を繰り返し、雇用規制を骨抜きにしてきた結果だが、それを支持し続けたのは日本の有権者だった。
さらに地方では、地場産業そのものが立ちゆかなくなっており、非正規雇用では飽き足らずに、時給100〜300円の外国人奴隷労働者を「研修制度」の名の下に確保し、パスポートを取り上げてタコ部屋に監禁して奴隷労働に従事させている。その人数は15万人以上に及ぶが、政府は介護職やコンビニ職員にまで適用範囲を広げようとしている。

1990年代、バブルが崩壊すると大不況が到来、我々の世代はこれを「就職氷河期」として直撃を受けている(正確には私の一つ下あたりからかもしれないが)。バブルとは、景気が過熱して、需要が極大化した市場を指す言葉だが、その極大化した需要に合わせて設備投資がなされ、供給も最大化されていた。ところが、バブルの発生により需要が極小化してしまった一方、供給体制はそのままであったため、供給過剰となり、一気にデフレが進んでしまう。就職氷河期は、バブル期に採用を最大化した後、バブル崩壊で需要が失われ、急に社員数を調整しようとして採用を手控えたことに起因している。

バブル崩壊後の不況が深刻化し、企業が大量に倒産し、金融機関の破綻が始まると、日銀は1999年にゼロ金利政策を開始する。本来は一時的な救済措置で、2000年8月には停止するも、2001年9月に911テロが起きて米国発の不況が始まると、日銀は01年3月に再開してしまう。さらに2006年に解除されるも、リーマンショックに伴い08年12月に再開、本16年にはマイナス金利を導入するに至っている。
金利が低下するというのは、投資に対して利益が上がらないため、企業や資本家が投資を手控えていること、つまり資金需要が無いことを意味している。バブル崩壊で巨額の負債を負っている企業は、利益の上がらない投資ではなく(利潤の最大化)、金利が低い今こそ借金の返済(債務の最小化)へと向かう。ここで言う「投資」には人的投資、つまり雇用や給与増も含まれる。

90年代以降の非正規雇用の急増に象徴される労働法制の大幅緩和は、通常の投資では利益を上げられなくなった企業が、人件費の削減によって利益を上げて延命を図ったことに起因している。ところが、人件費を下げた結果、国内消費が落ち込み、急激な高齢化も伴って国内需要がさらに低下してしまう。
もともと米自動車会社のフォードは、自社工場で働く工員が自動車を購入することで発展の基礎を築いたが、いまや日本の自動車工場で働く者の大半が自動車を持てなくなってしまっている。
日本の場合、労働法制の緩さと労働組合の弱さ(労使協調姿勢と言っても良い)が超長時間労働を許しているため、供給過剰状態が解除されないまま、デフレを悪化させると同時に、労働生産性を低いままにして給与増を阻害してしまっている。

こうした状態下で今度は金融の量的緩和がなされる。ゼロ金利で量的緩和がなされても、企業にとって資金需要が無いことに変わりは無いため、負債の返済を進める方針に変わりは無く、供給を増やすインセンティヴも無いので内部留保が増大してゆく。ただ、保有している国債は株に買い換えるため、株価だけは上昇する。さらに安倍政権は、年金基金の株式割合を増やしたため、さらに株価が上昇するが、国内の需要や消費を反映したものではなく、かといって一度購入した株を手放せば、株価暴落の引き金になるやもしれず、実質的に「処分不能な国有財産」と化してしまっている。
安倍政権が、ロシアとの関係改善に注力しているのは、国内の企業や銀行に滞留しまくっている資金の投資先を、中国以外に確保することを目途としていると推察される。

個人レベルでは、不安定な雇用と低賃金状態が定着する一方、低金利であるため借金するものが急増する。1980年代までは働いて貯金するのが一般的傾向だったが、90年代以降は生きるために借金するのが常態化してゆく。家計貯蓄率が90年代後半以降に一気に低下してマイナスとなり、大学生の半分が借金して通学していることに象徴されよう。

日本が抱える経済的課題は、「供給が需要を大幅に上回るデフレギャップをどう克服するか」にある。ところが、自民党と霞ヶ関は、需要を底上げする施策を打たずに、労働法制の緩和やTPP推進(自由貿易による供給促進)など供給を増やす方向で進めている。法人減税も進めているが、需要が無いところに減税したところで、負債を返済し、内部留保を増やすだけで、一国の経済には何ら寄与しないだろう。
これに対して、旧民主党は、小沢=鳩山路線で公共事業を抑制し(供給抑制)、福祉や生活予算を拡充する(需要拡大)施策を展開したものの、わずか半年で潰え、以降の菅・野田路線は自民党と同じ路線に軌道修正して、政権交代を経て今日に至っている。

我々の間では大昔から「なぜ日本では社会民主主義(政党)が成立しないのか」という議論が交わされている。これは、自民党内の田中派や大平派に象徴されるリベラル派が、西欧におけるところの社会民主主義政策を部分的に取り込んで、階級和解と福祉国家化を進めてきたことが大きいと考えられている。もっとも、現代日本の福祉制度の基盤を築いたのは、国家社会主義者であった岸信介ではあったのだが。
だが、まず冷戦構造が崩壊したことで階級和解路線を採る必然性が失われ、長期不況と財政赤字により福祉国家の維持も困難になりつつある。90年代以降、労働搾取が急速に進んだのはこのためだったが、日本の産業別労働組合は組合員の雇用と待遇を維持するため、大量解雇、非正規化、差別待遇、超長時間労働を許容、資本側に協力した。

社会民主主義は、階級和解に基づく労働者の待遇改善を漸進的に進めることを大方針としているが、長期不況と金利低下で企業側は労働者を搾取することでしか利潤を上げられなくなってしまっており、「和解」の余地は恐ろしく小さくなってしまっている。フランスで、社会党の大統領が労働法制の緩和を進めているのは、その象徴的事例と言える。欧州の社会民主主義政党が、こぞってEU統合と自由貿易を主張するのも同じ理由からだ。
欧米日の先進国で福祉国家や社会民主主義が成立し得たのは、東側ブロックの存在と経済成長のおかげだったが、この二つの前提が失われ、資本側が和解路線を放棄した以上、社会民主主義者やリベラリストの「思い」は片思いになってしまっているのが現状なのだ。

他方、マルキシズムは、資本と戦って生産手段を奪い共有化することで階級対立そのものを解消しようという立場に立つ。これは、階級和解が成立しうる社会ではリスク高であるため広い支持は得られず、現実に戦後の米欧日では共産党勢力は極小化していた。
だが、冷戦構造が瓦解し、自由貿易や高齢化によって国内需要が減退し、資本による搾取が急進化、労働者階級の分断が進むと、社会民主主義による諸課題の解決は困難になり、「労働者の党」という大前提が失われてゆく。疎外を深める労働者の支持は、社会民主主義政党から、より戦闘的な共産党やファッショ政党へと移ってゆく。1920年代後半から30年代初めのドイツで起きたのは、まさにこれだった。

私の周囲では、自民党宏池会の保守リベラルの復興や社会民主主義政党の樹立を求める声が良く聞かれるが、現実的にその政治的需要があるのかと言えば、大いに疑問がある。階級和解が夢と化し、自由貿易や自由主義が貧困を加速させている現状で、保守リベラルと社会民主主義にどのような解決策が示せるのか、全く不透明だからだ。
敢えて結論は述べない。
posted by ケン at 13:03| Comment(2) | 憲法、政治思想、理念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月15日

自らの役割を放棄する公共

【穴水町立図書館が寄贈図書廃棄】
 穴水町の町立図書館が、地元の研究者から寄贈された歴史や民俗学などに関する1800冊あまりの図書を、価値をよく理解しないまま誤って廃棄していたことが分かり、町は本の寄贈者に謝罪しました。穴水町立図書館では、11年前の平成17年に、漆器や民俗学の研究者で県輪島漆芸美術館の館長・四柳嘉章さんから2179冊の図書を寄贈されました。
しかし、9年前の能登半島地震で図書館の建物が大きな被害を受けたため、町は、すべての図書を役場の倉庫などにいったん移しました。
穴水町によりますとその後、新しく建てられた今の図書館に移設するまでに、当時の職員が寄贈された図書のうち1878冊を、利用頻度が低いなどという理由から廃棄したということです。この際、職員は本の価値を理解しておらず寄贈者の四柳さんにも廃棄の相談や連絡をしていませんでした。 四柳さんによりますと、廃棄された図書の中には日本民俗学会の会員しか購入できない会報や、亡くなった妻が所有していた「芥川龍之介全集」の初版本など今では入手が困難なものも含まれていたということです。
ことし7月になって四柳さんが自分の寄贈した図書が見当たらないことに気付き、廃棄が発覚したということで、穴水町教育委員会は四柳さんに直接謝罪したほか、町の広報誌におわびの文章を掲載しました。町では今後、パソコンによる図書の管理を徹底し、職員の教育を強化するなどして再発の防止に努めたいとしています。
穴水町教育委員会の布施東雄教育長は「貴重な本を寄贈してくれた四柳さんに大変申し訳ないことをした。2度とこのような過ちがないように管理を徹底したい」と話しています。
一方、寄贈した図書を廃棄された四柳嘉章さんは「歴史的に価値の高い本や大切な妻の遺品も寄贈したのに廃棄され憤りを覚えている」と話していました。
(9月5日、NHK)

問題の根源には、地方の財源不足に伴う「行政の効率化」がある。5年前の記事になってしまうが、再掲しておきたい。
1990年から2010年までの20年間で、公立図書館数は約1900から3170へと50%以上も増えている。にもかかわらず、図書館職員の正規雇用は1万3千人から1万2千人へと減り、このうち司書は6750人から6150人へと減少している。逆に、非常勤・臨時職員は2900人から15300人へと激増、さらにゼロだった派遣社員が7200人にもなっている。つまり、いまや図書館職員のうち正規(専任)職員は3割強しかいないということだ。
さらにショックなのは、司書が不在の図書館が全体の35%以上を占めていることである(07年4月)。図書館法も何もあったものではない。図書館一館あたりの正規職員数は、1990年の約7人が2010年には3.8人に減り、非常勤・臨時職員は1.5人から4.8人へと増えている。
(中略)
大学図書館の場合、1991年に9200人いた専従職員が2010年には5550人に、非常勤・臨時職員は3660人から4810人へとなっている。
専従職員の割合は、71.5%から53.5%にまで減少している。
この間、大学数自体が増えていることを考慮すれば、職員数全体が減っている上に、専従職員は大幅にカットされていることが分かる。

派遣社員を除いた割合で言っても、公立図書館における非常勤・臨時職員の割合は56%に及び、大学図書館でも46.5%になっている。
雇用全体における非正規雇用の割合が約33%であることを鑑みても、図書館における非正規雇用者の割合は相当際立っている。
(中略)
正規・専従職員の減少と非常勤・臨時職員の増加は、図書館業務における技術やノウハウ・知識の蓄積・継承を困難なものにする。
同時に、管理体制や責任の所在が疎かになることを意味する。
図書館職員の不安定な身分と劣悪な待遇は、優秀な人材を遠ざける結果しかもたらさず、結果的に図書館サービスを劣化させていくことになるだろう。

自治体によっては、図書館長が「体のいい天下り先」となっているケースも少なくなく、そういうところでは「ベストセラーを並べておけばいいんだろ」くらいの感覚で運営されてしまう例もあるという。
図書館の非正規職員問題、2011.8.11)

現状は、これよりも悪化していることはあっても、改善されている可能性は極めて低い。地方財政は悪化の一途にあるからだ。
地方財政が悪化している原因は、産業の空洞化と人口流出による税収減によるところが大きいが、もう一つは過剰なインフラ整備による固定維持費の高止まりがある。歳入減と固定費の高止まりは、人件費を抑制することでリスク回避が図られるが、世間的にはこれが「行政改革」と奨励される。地方の図書館は、所属が自治体そのものではなく、教育委員会に所属しているがために、こうした「ツケ」が最も大きく回されたケースとなっている。生活行政とは異なり、苦情が出にくいことも拍車をかけただろう。
同時に、「行政の効率化」は、「サービス」の側面を重視するあまり、「便利さ」や「利用頻度」などの表面的な指標ばかりが評価され、「民間ではできない、あるいは困難な事業」を行うという行政の本来の役割が軽視される傾向を強めている。今回のケースで言えば、「個人では保存、継承が難しい蔵書の保管と公開」がこれに当たる。民営化された図書館がレジャーランド化していることも、同様に説明可能だ。

記事の穴水町のケースでも、恐らく常駐の司書がおらず、職員も徹底して減らされ、そのくせ館長だけは天下りの名誉職で、専門知識も無いまま、「利用頻度が低い」として貴重な蔵書を大量に廃棄してしまったものと推察される。だが、これは特異な例ではなく、たまたま発覚しただけの話で、同様のケースは全国で山ほどあると考えられる。
上の記事で、教育委員会は対応策について、「パソコンによる図書の管理を徹底」などと説明しているが、蔵書の価値を判断するのはあくまでも人間であり、適正に評価できるのが司書であることを考えれば、全く的外れな対応をしていることが分かるし、連中が何も反省していないことを示している。
posted by ケン at 12:30| Comment(4) | 政治、社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月14日

民進党代表選は頓死状態

【蓮舫氏、台湾籍認める=「記憶不正確」と謝罪】
 民進党代表選に立候補している蓮舫代表代行は13日午前、記者会見し、父親の出身地である台湾(中華民国)籍が残っていたことを明らかにした。台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)から12日夕に確認の連絡を受けたという。蓮舫氏は「記憶の不正確さから混乱を招き、おわびする」と謝罪した。蓮舫氏は旧民主党政権で、台湾籍が残ったまま閣僚を務めていたことになり、波紋が広がりそうだ。ただ、15日投開票の代表選を辞退する考えはないと強調した。蓮舫氏はこれまで、日本と台湾のいわゆる「二重国籍」を否定。17歳だった1985年に日本国籍を取得した際、父親とともに代表処へ出向き、台湾籍放棄の手続きを取ったと説明していた。しかし、手続きが済んでいたかは「確認中」として、6日に改めて台湾籍放棄の手続きを申請した。蓮舫氏は会見で「(台湾籍放棄)手続きが完了すれば、籍に関することは最終的に確定する」と述べ、手続きが終わるまでなお時間を要するとの認識を示した。 同時に、二重国籍批判に関しては「これまで政治家としては日本人という立場以外で行動したことはない。日本人として日本のために働いてきたし、これからも働いていきたい」と釈明した。 
(9月13日、時事通信)

重国籍状態だったこと自体は、さしたる問題ではない。彼女の親が手続きを怠ったか、ないしは意図的に台湾籍を残したことを子に伝えていなかったことが問題であって、その責は親にある。とはいえ、不確かな記憶を基に違法状態を続け、自ら確認を怠ってきたことは、彼女の責任であり、リスク管理能力に難があることを示している。

今回の件も、最初から「そんな問題な存在しない!」「そんな質問自体が差別を助長するものだ」と強行突破を図っていれば良かった話で、答弁を二転三転させた挙げ句、自らの手でパンドラの箱を開けてしまったのだから、もはや擁護する術も無い。
ウソというのは、数を増やせば増やすほど虚偽性が暴露されるものであり、少なくともリスク管理上は「重国籍問題など存在しない」の一点に抑えておけば、マスゴミは確認する術がないため、せいぜい周辺からネチネチとゲリラ攻撃することくらいしかできなかったはずだった。ところが、答弁を二転三転させたため、「ウソの上塗り」が始まって追及を激化させてしまったのだ。
今となっては「ウソつきレンホー」と詰られても返せる言葉も無い。仮に代表に当選したところで、延々と攻撃され続けるだろうし、安倍内閣の支持率が高まっている今、年明けに解散総選挙を打ってくる可能性すら出てくる。そうなれば、再び虚偽答弁と重国籍批判が高まって、民進党は大敗するだろう。
本来ならレンホー氏は立候補を辞退すべきだった。先に虚偽答弁あるいは違法状態の責を認めて辞退しておけば、次の機会もあったかもしれないが、彼女はここで強行突破を試みた。都知事をフイにして代表選への出馬にこぎつけたのに、それを放棄することなどできないのだろう。「コンコルドの誤謬」である。

だが、ここで彼女が落選した場合、今度はリベラル派から「民進党は民族差別するのか」「人権意識が無い」などとの批判が高まり、これはこれで本来の支持層から失望されて、やはり次の総選挙で大敗を喫することになるだろう。

つまり、今回の代表選は既に頓死状態にある。

【追記】
「センテンス・スプリング」が女史の金銭スキャンダルについて調査を進めているという情報もある。
posted by ケン at 13:47| Comment(7) | 政局ほか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする