2016年09月07日

領土交渉はネタでしょ?

【プーチン氏「北方領土きっと解決」…首相案評価】

ロシアのプーチン大統領は3日、極東ウラジオストクでの「東方経済フォーラム」で、安倍首相が提案したエネルギー分野など日露間の8項目の経済協力について、「唯一の正しい道だと考えている」と高く評価した。そして安倍首相が北方領土問題の解決を呼びかけたことに対し「我々はきっと問題を解決する」と応じた。安倍首相はフォーラムで演説し「私たちの世代が勇気を持って責任を果たそう。70年続いた異常な事態に終止符を打ち、次の70年の日露の新たな時代をともに切り開いていこう」とプーチン氏に呼びかけた。これは首相在任中に領土問題を打開し、平和条約を締結することに強い意欲を示したものだ。
(9月3日、読売新聞)

マスゴミがやたらと「領土問題解決へ」などと煽っているが、その出元はすべて外務省であり、どう見ても情報操作でしかない。ロシア側の報道を見ると、「経済協力進展へ」との論調が殆どで、領土問題に触れていることの方が珍しい。この傾向自体は「いつものこと」なのだが、果たして今回は「特別」なのだろうか。

とはいえ、本件については情報が非常に少なく、以下のことは推論に過ぎない。
まず、「情報が少ない」ということは、可能性としては「当局がしっかり情報統制を行っている」ことも考えられるが、日本の組織はなかなか情報統制できないのが基本で、よほどのトップダウンでない限り、どこからか情報が漏れる傾向にある。今回のケースで言えば、首相官邸が独自にロシア側と交渉しているのであれば、情報が漏れない可能性もあるが、そうではないだろう。となると、情報が少ない理由は、「情報自体が存在しない」と考える方が妥当だ。つまり、日ロ間で従来の交渉内容を覆すような特別な交渉は行われておらず、ただ経済協力をめぐる交渉のみが進んでいる、という認識である。

この認識には裏打ちがある。現在の安倍政権・日本政府は、日米安保への傾斜を深める戦略を採っており、同時に中国を「最大の脅威」と認識している。いくら朝鮮が核を保有していると言っても、放置しておけば向こうからは手を出すことはないが、中国はより直接的な脅威として存在するからだ。もちろん、これは霞ヶ関の認識の話である。
日本が冷戦期ばりの「対中封じ込め策」を採る以上、アメリカへの傾斜は避けられず、それ故に「日米同盟の強化」として集団的自衛権を解禁して、全世界で米国の支援を行えるように政策転換した。
ところが、そのアメリカにとっての最大の脅威は、イスラム国とロシアであり、その下にイランがあり、中国は4番目とか5番目でしかない。その米国が、日本がロシアと「単独講和」して平和条約の締結を認めることが、果たして「あり得るのか」という話である。
つまり、日本が米国への依存を深めるなら深めるほど、「ダレスの恫喝」の効力が高まり、日ロ関係は悪化させたままにせざるを得ないはずなのだ。

今回の訪ロにしても、この間の日ロ交渉にしても、米国側に「単独講和しますのでお許し下さい」と通達している節は全く見当たらない。外務省が米国務省に「日ロ平和条約を結びます」などと言えば、「ふざけるな!ガキが!」と激怒された上に粛清されるのがオチだろう。これは、冷戦期の東ドイツがソ連に「西ドイツと和解して壁を撤去します」と言うような話だからだ。
だが、現実には米国側があまり介入してこないでいる。このことは、あらかじめ外務省が米国側に「ロシアと平和条約を結ぶつもりはサラサラありませんが、経済協力を進める上で、何も言わないと国内世論が収まらないので、大衆向けには領土交渉を前面に出していきますこと、どうかご承知おきください。アメリカに対する日本の忠義は微塵も揺るぎません」と通達していることを暗示している。

では、なぜ安倍政権はロシアにこだわるのか。一つは、安全保障上の理由で、日本が「対中封じ込め策」を採る以上、最大のカギは「ロシアを中国側にやらない、最悪でも中立状態にさせておく」こととなる。ところが、現状では米英がロシアを「私の敵は貴公でござる」と宣言してしまい、EUが同調している以上、ロシアとしては中国と手を組むほか無い。だが、それは完全に日本の国益に反しているため、日本としてはロシアの「100%中国寄り」を、80%にでも70%にでも下げておきたいのが本音なのだ。そのためには、「日ソ共同宣言」の休戦ではなく、「日ロ平和条約」で最終講和を結ぶ必要がある。だが、それは日米安保上許されないため、少しでも講和状態に近い状態にしたいのだろう。結論としては、「平和条約は結ばないけど、実質的には講和と同じ状態」を目指しているものと推察される。

第二は、経済上の理由だろう。「アベノミクス」が完全に行き詰まりを見せているが、これは「金融緩和して市場に大量にカネをバラ巻いたけど、誰も使わない」ことに大きく起因している。この点については、改めて近いうちに説明する。安倍政権としては、銀行や企業内に滞留する巨額の資金の投資先を用意しなければ、早晩「アベノミクス」が破綻をきたすだけに、その投資先として、安全保障上の理由や同じ権威主義政権のよしみもあり、「ロシア」が選ばれたと考えるのが妥当だろう。

ロシアにとっても、米・EUからの経済制裁が長期化し、資源価格が低迷する中、日本からの投資はノドから手が出るほど欲しい。特にシベリア・極東地域への投資は殆ど中国が独占する形となっており、半ば中国資本に占拠されつつあるだけに、何とかバランスをとりたい気持ちがある。
同時にロシアにとっても、ナショナリズムを掲げている以上、領土割譲は「あり得ない」選択肢となっており、日本側の提示する「平和条約は結ばないけど、実質的には講和と同じ状態」は「十分」と判断されるものになっている。

日本側ではド派手に報道されているが、実情はこんなところだろう。

【参考】
・ダレスの呪縛
安倍訪ロをどう見るか―北方領土問題は解決しません
posted by ケン at 12:30| Comment(4) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする