2016年09月23日

8、9月の読書報告(2016)

『都知事―権力と都政』 佐々木信夫 中公新書(2011)
都知事が2人連続で辞任、そのどちらも都庁官僚の内部告発に始まっている。中規模国家レベルの予算を持ち、行政権が集中する大統領制であるため、下手をすると同じ国の首相よりも大きな権限を有する東京都知事。だが、その責務と役割についてはあまり知られておらず、解説書も多くない。本書は、東京都の成り立ちから今日に至るまでの行政史と、自治行政における都の役割と都知事の権限機能について概説している。都官僚出身なので、官僚寄りであることは否めないが、必要な情報をコンパクトにまとめており、入門書としては十分だろう。都知事一人に行政権が集中し属人的要素に大きく左右される一方、都議会が立法機関としては十分に機能せず、ただの翼賛機関に成り下がっているという指摘は重い。

『北海道警察 日本で一番悪い奴ら』 織川 隆 だいわ文庫(2016)

『警察と暴力団 癒着の構造』 稲葉 圭昭 双葉新書(2014)
先に紹介した映画『日本で一番悪い奴ら』の原作と、主人公のモデルになった稲葉元警部の書。他の行政機関や市民・議会からのチェック機能が効かない警察組織が、いとも簡単に腐敗し、組織の隅々まで腐敗が拡大しているかがよく分かる。チェックが働かないため、自己改革や浄化のインセンティブが無く、問題が起きてもトカゲの尻尾を切るだけに終わり、腐敗構造そのものは延々と続いている。この辺は旧軍とよく似ている。「○○撲滅週間」のために「ネタ」をとっておくとか、「取り締まりすぎると、その後のノルマ達成が難しくなる」とか、旧ソ連でもよく見られた官僚的習慣が超笑える、いや深刻な問題なんだけど。

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『資本主義の限界』 木下栄蔵 扶桑社(2016)
私が「自由民主主義の終焉」や「TPP情報が開示されないワケ」で記したことの、経済・市場的背景を見事に説明している。アダム・スミスとケインズが正反対の説明がなされる経済学が、「なぜそうなるのか」について、「正の経済と反の経済」という仮説で説明する。これが簡素ながらも、恐ろしく納得度の高いものになっている。需要が低迷する中で、マネーサプライを増やし続けることが何を意味するのか、本書ほど明快な解は見当たらない。ごく薄い本ではあるが、十分な価値がある一冊だろう。

『日露戦争研究の新視点』 日露戦争研究会編 成文社(2005)
先の「日露開戦の代償」を記すに際して参考にした一冊。第一線にある研究者たちの論文集ではあるが、表題の通り新視点に富んでおり、パズルのピースが埋まっていくかのように面白かった。

『シベリア出兵―革命と干渉 1917~1922』 原 暉之 筑摩書房(1989)
「日露戦争の次はシベリア出兵」と考えているが、日露に比べるとかなり資料が少ない。その中でも本書は決定版と呼べる一冊で、まずこれを読まないことには始まらないのだが、なかなかの大部で、十月まで掛かりそう。

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『ナチス第三帝国の崩壊―スターリングラードからベルリンへ』 ワシリー・チュイコフ(著) 小城正(訳) 読売新聞社(1973)
意外と知られていないスターリングラード戦役の英雄チュイコフ将軍の回顧録。とはいえ、1944年半ばからベルリン陥落までの1年ほどの期間限定。ジューコフに批判的で、ロコソフスキー好き、その背景にはスターリン派とフルシチョフ派の色分けがあり、色々と面白い。日本では、とかくドイツ側の視点に偏りがちで、従来の西側研究もそうであるだけに、ソ連側の資料を抑えておくことは重要。ただ、どうやら英語版からの重訳なようで、ネットに上がっている原書を見ると、色々「違くね?」と思われる箇所も多い。ジューコフ回顧録なども、ソ連崩壊後により原文に近い新版が出されており、新訳の刊行が望まれる。「われわれの理性は、言ってみれば血染めの歴史であるこの戦争から得た苦い教訓を深く脳裏に刻みつけておくことを要求している。」
posted by ケン at 06:00| Comment(0) | 学問、文学、教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする