2016年09月28日

保守政権が賃上げを求める愚

【世耕経産相「しっかり賃上げを」=経団連会長らと会談】
 世耕弘成経済産業相は15日午前、東京都内で経団連の榊原定征会長と会談し、「しっかり賃上げを行わなければ経済の好循環は実現しない」と述べ、収益を上げた企業は十分な賃上げを行うよう求めた。経団連トップとの会談は8月の経産相就任後、初めて。世耕氏は併せて「中小企業の取引条件を改善して賃上げにつなげ、地域経済を活性化することが重要だ」と指摘。中小企業が賃上げできる環境を整えるため、大企業との取引で不利にならないよう条件改善に取り組むことも要請した。
(時事通信、9月15日)

このところ安倍政権はしきりに財界に賃上げを要請し、その成果を誇っているが、野党からは「実質賃金は低下している」との批判を浴びている。改造後の新閣僚も、改めて財界に賃上げを求めていることからも、少なくとも「賃上げ効果が市場に反映されていない」との認識はあるようだ。これに対し、財界側は「国内需要が無い」「為替が安定しない」等の理由から消極姿勢を示している。

これについては、財界からすれば迷惑以外の何物でもないだろう。安倍政権が言う「景気回復」なるものは、「株価が上昇した」だけの話であって、国内需要が伸びているわけでは無く、むしろ国内需要は今後さらに低迷、低下するという認識が一般的だからだ。
安倍政権下における株価上昇は、日銀によるゼロ金利と量的緩和によって企業や銀行が国債から株に乗り換え、さらに年金基金を株式につぎ込んだこと(株式運用の割合を25%から50%に)で実現したものであって、本来の景気(消費)を反映したものではない。

これに対し、国内需要は絶望的状況にある。非正規雇用の割合は4割で高止まりしている上、家計貯蓄率はマイナス、貯蓄ゼロ世帯は4割にも達している。いまや被雇用者のうち2200万人以上が年収300万円以下の生活を余儀なくされている。
大学生の半数は学生ローンを借りている。学生のアルバイトも、我々初老世代のような遊ぶための小遣い稼ぎでは無く、少ない仕送りを補い、教材等を購入するための労働となっている。
さらに団塊世代が丸ごと年金生活に入り、20年以上の余命が想定されることから消費は手控えられる傾向が強まっている。霞ヶ関のエリート官僚がイメージする「孫に気前よく金を出す祖父母」などはごく一部にしか存在しない絵空事と化しつつある。

国内需要が縮小再生産のスパイラルに陥っているのに、設備投資して人件費を増やすインセンティブなどどこにも無いのは当然だろう。需要が増える展望が無いのだから、経営側としては人件費を増やせるワケが無い。
ゼロ金利である今は、とにかく負債を減らすのが企業側として合理的な選択となる。需要が無いのだから、設備も人も増やせず、結果、内部留保ばかりが増えてゆく。この内部留保を、国債で持つか、現金で持つか、株で持つか、という程度の選択肢しか無い。

さらに日本の場合、労働法制や労働組合が機能せず、超長時間労働やサービス残業が容認されているため、企業側としては社員数や賃金を増やさずに「必要なだけ」労働を要求できるだけに、労働生産性を上げるインセンティブが全く働かない。
本来賃上げというのは、労働生産性の向上に対する対価として行われるべきものであるため、この点でも経営側は賃上げする理由が無い。
また、労働組合側も、総需要の低下を受け「現在の(正社員の)雇用を守ること」が最優先事項となり、資本への従属を強めており、労働時間削減や賃上げを求めなくなってしまい、結果的に労働生産性の向上を阻害してしまっている。労働者が資本家に協力するのは、生産性を高めることで労働価値を高め、その代償として賃上げを要求するためだが、そのサイクルが失われて久しい。

実のところ、バブル崩壊後の「失われた20年」というのは、バブル期に最大化された供給と、その崩壊によって極小化してしまった需要のギャップによって生じていると考えられる。
議会制民主主義が真っ当に機能していたのであれば、供給側に立つ自民党が政権を失い、需要側に立つ野党が政権を担うことで、このデフレギャップを埋める政策が採られるはずだった。
だが、日本の場合、ごくわずかの期間を除いて自民党が政権にあり続けたため、常に供給側を支える政策を採ってしまい、総賃金を急速に低下させると同時に、供給には歯止めを掛けられなかった。需要を刺激する政策が採られなかった結果、デフレが長期化したのである。
それでも、リーマンショックを受けて、ようやく選挙による政権交代が実現し、民主党政権が誕生する。
小沢=鳩山路線は、「子ども手当」「高校無償化」「労働規制強化」「公共事業削減」など、まさに需要を拡大させつつ、供給に歯止めを掛ける方向を示したものの、「バラマキ」と批判され、その他の要因が重なってわずか半年で潰え、自民党と何ら変わらない菅・野田路線に転換してしまった。

そして「どうせ同じなら自民党でいいじゃん」ということで安倍政権が誕生し、今日に至っている。その施策は、供給サイドを援助しつつ、貧困層を増大させ、株価を操作することで表面を取り繕う、というものだが、その破綻が見えてきたからこそ、財界に対して賃上げを「お願い」するという行為に出ていると推察される。
安倍政権がしきりに日中対立を煽っているのも、「小規模な戦争によって大需要を生み出す」という陰謀論的側面もあるのかもしれない。
posted by ケン at 12:04| Comment(0) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする