2016年09月29日

二島返還で決着??

【北方領土、2島返還が最低限…対露交渉で条件】
政府は、ロシアとの北方領土問題の交渉で、歯舞群島、色丹島の2島引き渡しを最低条件とする方針を固めた。平和条約締結の際、択捉、国後両島を含めた「4島の帰属」問題の解決を前提としない方向で検討している。安倍首相は11月にペルー、12月には地元・山口県でロシアのプーチン大統領と会談する。こうした方針でトップ交渉に臨み、領土問題を含む平和条約締結に道筋をつけたい考えだ。複数の政府関係者が明らかにした。択捉、国後については日本に帰属するとの立場を堅持する。その上で、平和条約締結後の継続協議とし、自由訪問や共同経済活動などを行いながら、最終的な返還につなげる案などが浮上している。
(9月23日、時事通信)

官房長官は全力で否定しているが、全力で否定しているところと、ネタ元が「ヨミウリ」というところがますます信憑性を高めてしまっている。

60年間主張し続けてきた四島返還論の虚偽性(日ソ共同宣言の否定)をどう説明するのか(たぶん何も言わない)。それ以上に、大統領選という、米国が外交的に麻痺状態に陥っている最中に「対露単独講和」するという手法が、果たして宗主国に許されるのか。「ダレスの恫喝」の有効性を含めて興味深い。世論調査上は「二島返還でOK」が多数を占めているので、日比谷焼き討ち事件のようなことは起きそうにない。そして、日露平和条約の道筋をつけて、来年1月に解散・総選挙となる見込みが強い。自民党は三度大勝して、一党優位体制を決定づけるのか。

和田春樹、望月喜市先生から私に列なる「二島プラスアルファ」派としては「ほら、言わんこっちゃ無い、さっさとこうしておけば良かったんだ」という感じだが、ずっと四島返還を唱えていたキムラ、ハカマダ、シモトマイら主流派が何と言うのか気になるところ。我々の案を鼻で笑ってきた外務官僚はすぐにクビにしてやりたいところだ。
北方領土問題は、本ブログ開設間もなく(2006年頃)から継続的に触れてきたが、そのスタンスはずっと「二島プラスアルファ」である。

まずはおさらいしておこう。北方領土問題は、日ソ共同宣言さえ見ておけば十分で、特に90年代以降の交渉を追う必要はない。まずは【賠償・請求権の放棄】を見よう。
ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国に対し一切の賠償請求権を放棄する。
日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日(ソ連の対日参戦の日)以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。

ここでソ連は日本に対する(戦勝国としての)賠償請求権を放棄した。さらに、日本・ソ連は相互にソ連参戦以降に生じた戦争結果に対するすべての請求権を放棄している。日本はすでに「不法に北方領土を占拠した」ソ連(ロシア)に対する領土請求権を自ら放棄しているのだ。

もう一つ【平和条約・領土】を見て欲しい。
日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。
ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。

これは、法的拘束力を持つ条約で、領土問題よりも平和条約を優先することを自ら規定していることを意味する。つまり、「領土問題解決後に平和条約を」と言う従来の日本政府の主張は、自ら条約違反あるいは条約反故を宣言しているようなものなのだ。

日ソ共同宣言以前の衆議院の決議などを見ても、二島返還を求めるものはあっても、四島を求めるものは存在しない。
昭和27年7月31日 衆議院決議 
領土に関する決議

 平和条約の発効に伴い、今後領土問題の公正なる解決を図るため、政府は、国民の熱望に応えてその実現に努めるとともに、時に左の要望の実現に最善の努力を払われたい。
 一 歯舞、色丹島については、当然わが国の主権に属するものなるにつき、速やかにその引渡を受けること。
 二 沖縄、奄美大島については、現地住民の意向を充分に尊重するとともに、差し当り教育、産業、戸籍その他各般の問題につき、速やかに、且つ、広い範囲にわたりわが国を参加せしめること。なお、右に関して奄美大島等については、従来鹿児島県の一部であつた諸事情を考慮し特別に善処すること。
 三 小笠原諸島については、先ず旧住民の復帰を実現した上、教育、産業、戸籍その他各般の問題につき、速やかに、且つ、広い範囲にわたりわが国を参加せしめること。
  右決議する。

ところが、日ソ平和交渉当時のダレス米国務長官が「沖縄不返還」をちらつかせて、日ソ平和条約の締結に難色を示す。そこで用いられたのが「固有の領土」論だった。以降、日本政府は方針転換して、日ソ平和条約の締結を断念し、それを糊塗するために「北方領土返還運動」に邁進しくことになる。
(前略)米国は、歴史上の事実を注意深く検討した結果、択捉、国後両島は(北海道の一部たる歯舞群島及び色丹島とともに)常に固有の日本領土の一部をなしてきたものであり、かつ、正当に日本国の主権下にあるものとして認められなければならないものであるとの結論に到達した。米国は、このことにソ連邦が同意するならば、それは極東における緊張の緩和に積極的に寄与することになるであろうと考えるものである。

日ソ交渉に対する米国覚書  1956年9月7日

北方領土問題についての様々なスタンスについても説明しておこう。
上に行くほど強硬路線で、下に行くほど柔軟・現実路線である。

四島一括返還論:最右派、右翼の大半が主張するものだが、現実に四島を実効支配するロシアが一括返還するメリットも理由も全くない。研究者では、木村汎氏や袴田茂樹氏らがここにいる。

四島返還論:政府の主張。四島の日本への帰属が明確にされるのであれば、返還の時期などについては柔軟に対応する、というもの。自民党も公式的にはこのスタンスであり、旧民主党は2009年の政策転換で「一括返還」から軸足を移している。研究者では、下斗米伸夫氏を筆頭に多数派を占める。

段階的返還論:鈴木宗男氏や佐藤優氏らの主張(森元首相も?)。二島を先行返還させた上で、残る二島は「交渉継続扱い」とするもの。しかし、鈴木氏らは「我々こそが真に実現性のある四島返還論者なのだ」という旨を述べており、分かりにくい構図になっている。

二島引き渡し+α論:和田春樹先生、望月喜市先生からケン先生に列なるロシア・ソ連研究者非主流派の主張。日ソ共同宣言を忠実に履行し、日ロ平和条約を締結して二島引き渡しを受ける。但し、平和条約締結に際し、国後・択捉の共同利用や共同開発、そして漁業権・資源採掘などについて、同時に付帯条項あるいは協定を結ぶ、というもの。

その他に「三島返還論」とか「領土二分割論」などが存在するが、これはまったく勢力になっておらず、ほとんど「思いつき」の域を出ない。
「領土二分割論」(フィフティ・フィフティ論)は、中ロの珍宝島・ダマンスキーでの国境紛争における最近の解決方法を参考にしたもの。しかし、この島は、ウスリー川の「川中島」に過ぎない島であり、一度洪水でも起これば川の流れ自体も容易に変わりかねない領域である上に、交渉の基礎となる条約もなく、純粋にパワーバランスと経済効果の観点から、ロシア側が譲歩する形で国境が確定している。

今回の政府の政策転換は、公式上(官房長官は否定しているが)は「四島返還論」から「段階的返還論」に移行するものだが、現実の平和条約交渉では限りなく「二島プラスα」に近づいてくるものと推測される。たとえ「潜在的」であっても国後島と択捉島の日本側主権について、ロシア側に認めさせるだけの条件を、日本側が提示するとは考えられないからだ。現実には「継続交渉という名の棚上げ」という形でしか交渉は成立しないだろう。

日本側は、対中包囲網、北朝鮮の脅威、エネルギー確保などを考慮して、対露平和条約の価値が未だかつて無いほど高まっている。一方、ロシアとしては対露経済封鎖によって対中依存が高まっているだけに、中国以外の有力国との連携が非常に重要となっており、シベリア油田の輸出先としても日本が有力視されている。
非公式の世論調査でも、すでに「二島返還でOK」とする回答が「絶対四島」を大きく上回っており、ポーツマス条約締結後に起きた日比谷焼き討ち事件が再現される可能性は極めて低い。

だが、日本がロシアと平和条約を結ぶということは、宗主国であるアメリカからすれば「単独講和」以外の何物でもなく、明らかな「裏切り」と写るだろう。現在のアメリカにとって、最大の脅威はロシアとイスラム国(ジハーディスト)であり、その次にイランが来て、中国は5番目以下でしかない。この脅威認識のギャップが、日本政府をして「単独講和」に向かわしていると思われる。
ただ、米国では大統領選挙が始まろうという時機であり、外交的に麻痺状態にあるところを狙って「単独講和」を図る安倍政権に対し、アメリカが「天罰」を下すのか、「ダレスの恫喝」
が再現されるのか、最も興味深いところである。

12月の安倍・プーチン会談で平和条約への道筋が付けば、経済危機でも起きない限り、1月早々に解散・総選挙が打たれるだろう。民進党をはじめとする野党にはすでに対抗できる力は無く、自民党は再び300議席以上を得て、結党以来初の「衆院選三連勝、国政選挙五連勝」を実現することになりそうだ。

【参考】
北方領土問題についての基本的理解 
北方領土論争における立ち位置 
posted by ケン at 12:45| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする