2016年10月22日

電脳時代に囲碁将棋が職業として成立し得るか

【竜王戦挑戦者を出場停止 将棋連盟、ソフト使用の有無調査】
 日本将棋連盟は十二日、十五日に開幕する第二十九期竜王戦七番勝負(読売新聞社主催)で、挑戦者になっていた三浦弘行九段(42)を十二月三十一日までの出場停止処分とした。三浦九段は対局中に頻繁に離席を繰り返し、将棋ソフトを用いた不正を行った疑念があるとして、連盟から調査を受けていた。三浦九段は、本紙の取材に「自分はやましいことは何もしていない」と語り、処分については「弁護士と相談したい」と述べた。七番勝負は、挑戦者決定戦で三浦九段に敗れた丸山忠久九段(46)が渡辺明竜王(32)と対戦する。タイトル戦の対局者が直前に変更されるのは極めて異例。
 連盟によると、夏ごろから、三浦九段が対局の終盤になって席を立つことが多いと、複数の棋士から不正を疑う声が上がっていた。十一日の常務会で聞き取り調査を行ったところ、三浦九段は「別室で体を休めていた」などと説明。「疑念を持たれたままでは竜王戦で対局できる状態ではない」「休場したい」という趣旨の発言があった。連盟は休場届の提出を求めたが、期限の十二日午後三時までに提出がなく、出場停止処分とした。島朗常務理事は「竜王戦開幕が迫っており、やむを得ない措置だった」と説明した。
 連盟は今月五日、スマートフォンなどで将棋ソフトを用いて有効な指し手を調べる不正を防止するため、対局時に電子機器の持ち込みを禁止する内規を十二月から導入すると発表したばかりだった。渡辺明竜王は本紙の取材に「残念です。(将棋ソフト問題で)疑わしい要素がいくつか出ている状況で、やむを得ない措置ではないかと思う」と話した。
 三浦弘行九段は群馬県高崎市出身。一九九二年にプロ棋士となり、九六年の棋聖戦では当時七冠の羽生善治棋聖を破り、時の人となった。丸山九段は「連盟の決定には個人的には賛同しかねますが、全力を尽くします」などとコメントした。
(10月13日、東京新聞)

ついに来るべきものが来たという感じ。趣味としての囲碁、将棋はなくならないだろうが、プロや競技としては今の形のまま成立しうるか微妙だろう。電脳時代はそこまで来ているのだから。

外部媒体を使う今だからこそ人の目で監視できるが、現状でも8時間とかの持ち時間があるのに、外出禁止にすることがどこまで現実的かという話になるだろう。電脳が飛躍的に向上したことで、トイレに行く時間で「最善手」を見つけることが可能になっているのに、性善説に基づいて「プロがカンニングするわけが無い」で済ませることは、もはや不可能であろう。
問題は、むしろプロ・職業であるが故に、「数秒、数分で自分よりも良い手が見つけられる」将棋ソフトを対局中に使用する誘惑がより大きくなってしまう点にある。アマチュアの、しかも非競技であれば、「ソフトを使って勝っても意味が無い」と思えても、生活や人生が掛かっているとなれば、その誘惑には抗しがたいだろう。
また、プロの対局を見る側にしても、「電脳を使っているかもしれない」という疑惑の目を持ってしまう時点で、「人間同士の知力勝負」の楽しみの半分以上が失われてしまうのではないか。

三浦九段が実際に不正を働いていたかどうかはともかく、「対局中のスマホ使用禁止」は弥縫策に過ぎず、いずれより大きな問題が生じるものと思われる。
posted by ケン at 13:00| Comment(2) | ゲーム、囲碁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月21日

ブラックが当たり前の国

【「残業100時間で過労死は情けない」 教授の処分検討】
 「残業100時間で過労死は情けない」とするコメントを武蔵野大学(東京)の教授がインターネットのニュースサイトに投稿したことについて、同大学が10日、謝罪した。7日に電通の女性新入社員の過労自殺のニュースが配信された時間帯の投稿で、ネット上では「炎上」していた。投稿したのは、グローバルビジネス学科の長谷川秀夫教授。東芝で財務畑を歩み、ニトリなどの役員を歴任した後、昨年から同大教授を務める。
 武蔵野大などによると、長谷川教授は7日夜、「過労死等防止対策白書」の政府発表を受けてニュースサイトにコメントを投稿。「月当たり残業時間が100時間を越えたくらいで過労死するのは情けない」「自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない」などと記した。
 電通社員の過労自殺のニュースが配信された時間帯に投稿されたもので、コメントがネット上に拡散。「こういう人たちが労災被害者を生み出している」「死者にむち打つ発言だ」などと批判が広がった。長谷川教授は8日に投稿を削除し、「つらい長時間労働を乗り切らないと会社が危なくなる自分の過去の経験のみで判断した」などと釈明する謝罪コメントを改めて投稿した。
 武蔵野大は10日、公式ホームページに「誠に遺憾であり、残念」などとする謝罪コメントを西本照真学長名で掲載。「不快感を覚える方がいるのは当然」とし、長谷川教授の処分を検討している。
(10月11日、朝日新聞)

これは言うなれば、ノモンハンやインパールから生還した兵士が「北支戦線で戦死とは情けない」と言うような話で、自己の肥大化した認識を全てに適用しようとして失敗する「拡大適用の誤謬」である。
問題は、勝てる見込みの無い戦争を延々と続け、戦力比や補給状態を無視した作戦を行い続けた軍部にあるはずなのに(インパール作戦では多くの白紙部分がある5万分の1か10万分の1の地図しか渡されなかった)、そうした点を批判せずに「厳しい戦場を生き延びた」ことを自己の唯一のアイデンティティとしてしまうようなものを、またぞろ幹部にしてしまう日本型組織や日本社会のあり方そのものにある。
日本型組織は、よく「上に行くほど無能になる」と評される。これは、効率を優先する人材が若年期に潰されて、体力バカの精神主義者のみが出世する仕組みや文化によるところが大きい。AH社「クレムリン」をプレイすると分かりやすいが、若くて優秀な人材ほど「こいつは怪しいから、とりあえずシベリアに送っておこう」という考え方が共有されがちなのだ。

戦前、海軍の航空本部長だった大伯父は、軍令部が提出したマル五(軍備)計画に対して「明治大正の軍備計画」と酷評したところ、「破壊的な議論ばかり」と陰口を叩かれた。そこで、綿密な「新軍備計画(案)」を作成して大臣宛に提出したところ、ロクに艦艇を持たない第4艦隊に(実質)左遷されてしまった。
その一方、特攻の現場では指揮官が堂々と「学生の代わりはいくらでもいるが、士官の代わりは有限だからな」などと宣っていた。これなどは、現代の「辞めたきゃ辞めろ。おまえらの代わりなんていくらでもいる」という社長や上司と同じ精神構造だろう。

数年前に再評価された『蟹工船』は、カニ缶をつくる船における労働者に対する搾取と弾圧をテーマにしている。その設定の一つに、「船上・海上で行われている労働なので、労働法規が適用されない」というものがある。史実的には、戦前には労働法制や労働基本権そのものが存在しなかったので、この部分はフィクションであるわけだが、外国人研修生や非正規労働者が労働法規や雇用保険などの適用外になっている現状とよく似ている。
『蟹工船』では、監督(管理者)の下で過酷な労働と容赦ない暴力が続き、労働者が労働者性に目覚め団結し、ストライキに打って出る。一方、現代日本では労働者が分断され、行動・実力行使を行わないため、管理者による虐待、暴力、過労が蔓延したまま放置されている。

興味深いのは、問題となっている教授が、「つらい長時間労働を乗り切らないと会社が危なくなる自分の過去の経験のみで判断した」と苦しい弁解をしている点だろう。これは言うなれば、ノモンハンやインパールの作戦自体には疑問を抱くこと無く、軍や国家と自己を同一視して、「このままでは日本が危うい」などと判断してしまう精神構造なのだ。これは一種のストックホルム症候群であり、自らが奴隷であることを忘れて主人をかばってしまう奴隷根性の持ち主が、主人の座に就いてしまうとこうなるのだろう。階級的自覚を持たず、ストライキを忌避する労働組合が、資本と同化してしまっていることがこの傾向を加速させている側面もある。
同時に「変えるべき」なのが労働法制や会社文化ではなく、「死んでしまった」個人に「勝手に死にやがって」と責任を帰せてしまう辺りも、日本社会そのものが人命軽視の権威主義に支配されていることを示している。
その意味では、レーニンで無くとも、労働者に階級的自覚を持たせ、啓蒙し指導する前衛党の必要性を覚えてしまう。

問題となった「残業月100時間」はあくまで記録上のもので、記録されていないサービス残業(違法労働)を含めれば果たして何時間になるか分からない。残業100時間だけでも、一日平均12時間は労働している計算であり、被害者のツイッターでは「睡眠時間2時間」と申告されている。さらに、証拠となるツイッターのアカウントも削除されたというから、まさに軍隊がストライキ鎮圧に乗り出した『蟹工船』の時代から何が変わったのかという話なのだ。

ただし、個人の信念を述べただけの長谷川教授は、発言内容については批判されてしかるべきだが、その発言内容を学校組織が咎め、処分してしまえば、それはそれで自由を否定する権威主義に陥ってしまうわけで、組織としては処分すべきでは無い。
問題は、労働者保護の点で全く機能しない労働法制そのものであり、ブラック企業を取り締まる能力も意思も無い労働基準監督署、引いては厚労省・政府のスタンスにある。自民党政権を倒し、政官業の癒着構造を解体、厳格な労働時間規制やインターバル規制を確立すると同時に、資本に協力的な御用組合を解体して労働者の立場に立つ組合をつくれば良い話であり、奴隷根性の抜けない個人を責めてみたところで何も変わらないだろう。
posted by ケン at 12:28| Comment(0) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月20日

トップ会談だけで合意するのは無理?

【ロシア、2島で幕引きも=プーチン氏の姿勢一貫―日ソ共同宣言60年】
 日本とソ連(当時)が、平和条約締結後に北方領土の歯舞群島と色丹島の2島を引き渡すことを明記した日ソ共同宣言に署名して19日で丸60年を迎える。「引き分け」による領土問題の解決を目指すロシアのプーチン大統領は「両国が署名・批准した唯一の文書」と共同宣言を重視する姿勢で一貫。安倍晋三首相が「新しいアプローチ」で譲歩を示唆する中、ロシア側は2島返還で事実上の幕引きを図りたい考えとみられる。
 1956年10月、当時の鳩山一郎首相ら日本政府代表団は、モスクワの外務省迎賓館を交渉の拠点とした。今月13日、ここで12月のプーチン氏訪日を前に日ロ戦略対話が開かれ、杉山晋輔外務事務次官は「平和条約がない異常な状況が続いており、早期解決の必要がある」と訴えた。プーチン氏は9月、記者団に「ソ連は長く粘り強い交渉の結果、日ソ共同宣言に署名した。そこには2島を引き渡すと書いてある」と改めて強調。国後、択捉2島は交渉の対象外とする考えを示唆した。対象内の歯舞、色丹2島については、引き渡し方法や日ロどちらの主権に属させるかが検討課題だと述べた。
 プーチン氏の持論は、2島からロシア側がさらに譲歩する「2島プラスアルファ」どころか、2島返還にさえ条件を付けるものだ。ザハロワ外務省情報局長も「(四島は)第2次大戦の結果、ロシアに帰属しており、ロシアが主権を持つことに疑問の余地はない」「平和条約締結問題の進展に向けた前提条件は、日本が大戦後の領土を含む現実を認めることだ」と主張した。日ソ中立条約を無視したソ連の対日参戦を不法と見なすかどうかという歴史認識も影を落とし、問題を複雑にしている。
事態を打開すべく、安倍首相は5月のソチでの首脳会談で、平和条約締結に向けた新しいアプローチを提唱。プーチン氏に、経済分野など8項目の協力プランを提示し、全面的な日ロ関係の発展と、首脳間の信頼に基づく領土問題の解決に強い意欲を示した。両首脳はファーストネームで「君と僕」の間柄で呼び合い、9月のウラジオストク会談に続き、11月にペルーでも政治対話を重ねる。ロシア側には、プーチン氏の訪日時に領土問題で合意に達しなくても「今後の交渉の進め方やガイドラインで合意することは可能」(識者)と冷静に見る向きもある。一方、日本側ではこのところ「2島先行返還論」が再び熱を帯び、世論調査でも容認する意見が5割近くに上っている。しかし、仮に歯舞、色丹2島が返還された場合も、ロシア側が残る国後、択捉2島の交渉継続に応じる保証はない。「平和条約が締結されれば、領土問題は終わり」(外交筋)という声も出ている。 
(10月18日、時事通信)

【北方領土 日米安保適用外に 返還後想定 ロシア要求】
 日ロ両政府が進めている平和条約締結交渉で、ロシア側が北方領土の島を引き渡すことで合意した場合、引き渡し対象となる島を日米安全保障条約の適用地域から除外するよう日本に求めていることが分かった。日ロ間で北方領土の「返還後」をにらんだ議論が具体化していることが明らかになった形だが、安保条約の「適用外地域」を設けることには、シリア情勢などでロシアと対立する米国が反発する可能性もあり、安倍晋三首相は難しい判断を迫られる。複数の日ロ外交筋が明らかにした。日米安保条約は第5条で、適用地域を「日本国の施政の下にある領域」と定めている。北方四島は現在、ロシアが実効支配しているため条約の適用外だが、返還が実現して日本の施政権が及ぶようになれば条約上は米軍が活動できるようになる。日本政府高官は「特定の島だけ日米安保条約の対象外とすることは極めて考えにくい」と話す。
(10月15日、北海道新聞抜粋)

これは良記事。とかく日本側の事情や希望的観測ばかりが垂れ流されているが、ロシア側が何をどう考えているかについては殆ど記事が無いだけに貴重。
この辺から考えても現実には、アメリカの了承が無いところで日露のトップ会談だけで妥結する可能性は非常に低いと思われる。そもそもこの間の日露外交は、安倍総理が外務省を除外して官邸主導で進めてきた観があり、外務省を支配する北米課からすれば、苦々しい思いと同時に対米外交上の危機感を強く抱いているはずだ。

現状、日米安保は日本国内で施政権が履行されているところが対象にされており、故に北方領土や竹島は除外されている。現実には、色丹島に米軍基地ができて、米軍機が飛び交う可能性は殆どないわけだが、米国と対立しているロシアにすれば現実的なリスクであり、放置できないのは当然だろう。かと言って、記事にもある通り、安倍氏が勝手に適用除外にできるものではなく、アメリカと交渉するとなれば、日本国外務省も米国側につくので、まず間違いなく米国は了承しないだろう。

12月のトップ会談で十分な成果が出なかった場合、安倍氏も解散を躊躇する可能性が出てくる。そうなると、来年6月には東京都議選があり、その前後はKM党が絶対に拒否するので、解散は来秋以降になるだろう。だが、来秋以降の選挙は与党に厳しいものになりそうであり、難しい選択を迫られそうだ。
posted by ケン at 12:07| Comment(4) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月19日

新潟知事選で自民候補が負けたワケ

新潟知事選で民進党(と維新)を除く野党共同候補が勝利した。当初は、与党候補の圧勝と予想されていたが、選挙開始後に猛追、それでも「与党候補やや優位」と見られていたが、フタを開けてみれば予想外の差を付けて米山氏の当選となった。

民進党は、連合新潟が「原発推進の独自候補」を要求してきたのに対応できず、自主投票にするのが関の山だった。だが、実はこれが幸いした。仮に連合が支援していれば、米山氏は「再稼働反対」を前面に出せなかった上、連合の組合員が選対から市民運動家やボランティアを追い出してしまっていた可能性が高いからだ。
また、投票日直前に蓮舫代表が米山候補の支援で新潟入りを検討した際、野田幹事長は断固反対したという。筋論としては、組織で自主投票を決めたのに、その組織のトップが応援することは筋が通らないのは事実だが、原発推進を明言する野田氏がそれを言えば、誰も筋論として取らないだろう。結果、蓮舫氏は、野田幹事長の制止を振り切って新潟入りしている。
とはいえ、連合が推した候補が落選し、自主投票を決めたにもかかわらず、党幹部が次々と相手候補の応援に入ったことは事実で、新潟県連所属の国会議員は「次の選挙で連合の支援が受けられなくなる」と恐慌をきたしている。
まぁそんなことはどうでも良い。

同知事選における自民党の戦術はあまりにもお粗末だった。
まず法定ビラを見てもらおう。

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今後、新潟は国から見捨てられるらしい。彼らの主張に沿えば、私が住むC市はもう14年間も国から見捨てられ続けていることになるし、隣のK市に至っては16年間も共産党員市長だったおかげでかえって社会保障が充実してしまった(赤字も増えたけど)わけだが、「これからはそんなの認めないぞ」ということなのだろう。ちなみに、残念ながら、C市もK市も市庁舎に労農旗は掲げられていない。
こんなビラを見ると、自分が政界で逮捕されること無く仕事しているのが不思議に思えてくる。いよいよ保身と亡命先の検討を始めないとなるまい。

美濃部や蜷川の頃にはこの手の怪文書が山ほど蒔かれたというが、法定ビラではなかった。それを考えると、彼らの精神はいまや70年代を通り越して戦前期まで退化してしまっていると考えられる。普通にやれば圧勝するはずなのに、どう考えても票を減らすようなビラをバラ巻いている。なんで過剰なコンプレックスを抱いてしまうのか、ナゾすぎる。

また、自民党の候補自身もかなり問題があったようで、とにかく他者に対し威圧的なオレ様体質だったらしく、嫌っている者も非常に多かったという。実際、自民票の2割近くが米山氏に流れてしまっている。また、すでに勝った気分でいたようで、都市部の大きなハコで演説会をやる程度で、農村部や山間地には殆ど行かなかったという。
他方、米山氏はむしろ農村部や山間部、あるいは佐渡島を重視して重点的に時間を割いていた。

ただ、自民と民進の権威を失墜させた結果は大きいものの、不安はある。当選した米山氏は、もともとは自民や維新から出馬していた右寄りの人物で、原発も明確に支持していた。それが突如「泉田路線を継承する」と宣言して野党系候補として出馬、当選したのだから、本質的には変節漢なのだろう。そうは言っても、公約は公約なので、有権者からは厳しく監視されるだろうが、不安は残りそうだ。
posted by ケン at 12:17| Comment(4) | 政局ほか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月18日

「働かせ方改革」実現会議

【実現会議が議論開始…官邸の調整焦点】
 長時間労働の是正や非正規労働者の待遇改善などを目指す政府の「働き方改革実現会議」の初会合が27日、首相官邸で開かれ、議長の安倍晋三首相は「働き方改革は構造改革の柱となる改革だ。スピード感を持って国会に関連法案を提出する」と述べた。会議は年度内に「働き方改革実行計画」を取りまとめる方針だが、労使の利害調整が難航してきたテーマを多く扱うだけに、官邸主導の調整がスムーズに進むかが焦点になりそうだ。
 メンバーの榊原定征・経団連会長は「長時間労働(是正)については、労働者保護の立場と業務の維持の立場を総合的に考慮すべきだ」と慎重姿勢を見せたが、神津里季生・連合会長は「同一労働同一賃金や長時間労働の是正、賃金の底上げなどについてコンセンサスを図っていきたい」と意欲を示した。
 改革会議は関係閣僚8人と民間有識者15人で構成。三村明夫・日本商工会議所会頭▽大村功作・全国中小企業団体中央会会長▽乳がん治療を続ける女優の生稲晃子さん−−らが名を連ねる。労働者側は神津会長のみで、使用者側に比べ少ない。
 労働時間の上限設定や同一労働同一賃金の実現が大きなテーマだが、労使合意を得るのに難航が予想され、当面はテレワーク(在宅勤務)などの柔軟な働き方推進や、高齢者雇用の促進といったテーマから検討を始める方針だ。がん治療中の患者が働き続けられる環境整備策も検討する。
(9月27日、毎日新聞)

官邸は「長時間労働の是正」などと言っているが、「実現会議」のメンバーを見れば、全くリアリティが無いのは明白だ。
生稲晃子 女優
岩村正彦 東京大学大学院法学政治学研究科教授
大村功作 全国中小企業団体中央会会長
岡崎瑞穂 株式会社オーザック専務取締役
金丸恭文 フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長 グループCEO
神津里季生 日本労働組合総連合会会長
榊原定征 日本経済団体連合会会長
白河桃子 相模女子大学客員教授、少子化ジャーナリスト
新屋和代 株式会社りそなホールディングス執行役 人材サービス部長
高橋 進 株式会社日本総合研究所理事長
武田洋子 株式会社三菱総合研究所政策・経済研究センター副センター長 チーフエコノミスト
田中弘樹 株式会社イトーヨーカ堂 人事室 総括マネジャー
樋口美雄 慶應義塾大学商学部教授
水町勇一郎 東京大学社会科学研究所教授
三村明夫 日本商工会議所会頭

メンバーの中で労働者代表は「連合」会長ただ一人だが、かねてから指摘している通り、連合はすでに戦時中の「産業報国会」と同レベルの御用組合でしかなく、「赤い貴族」の代表者が一人加わったところで、政府側の形式を整えるものでしかない。ちなみに、連合の神津会長は、基幹労連(鉄鋼)の出身で、この点でも殆ど官製組合と言える。
連合は680万人の労働者が加盟しているが、その殆どは正規労働者だ。他方、年収300万人以下の非正規労働者は、いまや2千万人を超え、その大半が労働組合に加盟していない。
これは喩えるなら、冷戦期のポーランドにおいて、政府が官製組合の「全ポーランド労働組合連合」(OPZZ)の代表者とのみ交渉して、独立自主管理労働組合「連帯」(NPZZ)を無視したこととよく似ている。もっとも、1980年に全国ストライキが起きる頃になると、OPZZの組合員の8割以上が連帯に流れてしまった。

「赤い貴族」はさておくとしても、エセ労働側が一人に対して、経営側は8人に上っている。この時点で本会議の主旨が「働き方改革」ではなく「働かせ方改革」にあることは明白だろう。会議メンバーが偏った構成になるのは、自民党が圧倒的な議席を有していることと、労働運動が政府や経営者から無視されるほど脆弱であることに起因している。

今回、政府が準備している労働基準法改正案の狙いは、「年収1075万円以上の専門職」にはホワイトカラーエグゼンプションで労働時間規制を外しつつ、「年収1075万円未満の一般職」については裁量労働を広範に導入するところにある。本法案が成立すれば、年収に関係なく数十パーセントの労働者に対して裁量労働が適用可能になると言われる。要は、現行法では裁量労働の適用が難しいので、労使合意や様々な手続きが適用を難しくしているという使用者側の主張を受け入れて、手続き面を非常に簡素化するという話なのだ。

資本にとって新たな需要の見込みが無い状態では、労働を搾取することでしか利潤を上げられなくなっており、すでに非正規労働者を4割にまで高めることで対応してきたが、それでも不十分な現状がある。政府が「時短」とか「労働規制の強化」とは言わずに、「長時間労働の是正」などと言うのは、労働者を「人=市民」ではなく、「労働力=モノ」としてしか見ていない証左だろう。
資本主義を成立させるためには常に新しい市場が必要で、資本の核がマーケットを広げながら利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していく。しかし、グローバル化が進んで地理的な意味での新規市場は地球上から消失、次いでバーチャルな電子・金融空間に市場を広げたものの、あっという間に限界に達して利潤を上げることができなくなった(リーマンショックなど)。その結果、利潤を上げられる外部市場の開拓の余地が完全に失われ、その矛先は内部に向けられることになる。内部市場、つまり自国の国民から利潤を巻き上げる構造へと変化してゆく。
具体的には、正規雇用労働者からの「既得権益」の剥奪、非正規雇用労働者の増加、低所得層への融資増(学資ローンも含む)や住宅購入の促進などとなって現れている。家計貯蓄の多さを誇った日本が、いまや3世帯に1つは金融資産ゼロになっていることも象徴的だ。
つまり現状、経営側には労働搾取を強化すべき理由は山ほどあれど、労働搾取を弱めるインセンティブは何一つ無く、その資本代表が圧倒的多数を占める同会議で、何が決められるかなど、推測する必要も無いのである。

【参考】
さらなる労働地獄へ 
労働者は生かさず殺さず 

【追記】
私見ながら「働き方改革」という点で言わせてもらえれば、まず「会議と報告を極限まで減らす(社内資料と調整に時間とられすぎ)」「社内行事と飲み会をやめる(休めない)」「個人の職掌と責任を明確にし、他者に転嫁しない(必要ない者まで残業する)」から始めるべきで、それは政府のやるべきことでは無い。
posted by ケン at 12:12| Comment(0) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月17日

デフレ下で構造改革する愚劣

自民党も民進党も相変わらず構造改革路線を採っている。例えば、安倍総理は9月27日の記者会見で、
「『働き方改革』は、第三の矢、構造改革の柱となる改革であります。大切なことは、スピードと実行であります。もはや、先送りは許されない」

と述べているし、民進党の岡田代表(当時)は5月18日の党首討論で、
「大事なのは構造改革だ。消費増税の再延期はないと理解する」

と主張、さらに7月10日の記者会見では、
「私は、安倍さんのやっておられることは、例えば社会保障制度の持続可能性にしても、あるいは成長力を高める。潜在成長力は全然高まっていないわけですが、成長力を高める構造改革にしても、財政の健全化にしても、つまり将来世代のためのさまざまな改革を先送りして、今よければいいと。そういう政策だと私は思っています」

と話している。つまり、民進党は旧民主党の「利権政党である自民党に構造改革は出来ない。民主党こそが構造改革の主体たる唯一の資格を持つ」というスタンスを継承していることを示している。これは、岡田氏が前回代表を担ったときに、小泉改革に対して打ち出したスタンスだ。
だが、構造改革の本家を競っている限り、民進党には全く野党たる資格が無い。何度選挙やっても負けるだろう。そして、最大のギモンは、果たして民進党の議員は「構造改革」が何なのか理解しているのか、ということである。

現在主に使われる「構造改革」は、様々な定義がなされており、必ずしも定説があるわけでは無いのだが、大ざっぱに言えば、

「供給側にテコ入れし、市場改革を通じて市場の効率化を図ることで、経済成長を図る」

経済戦略である。端的に言えば、市場の効率化を図ることで供給を増やすという考え方だ。
私の(比較的)専門分野であるロシアのケースで説明しよう。

第二次世界大戦が終了した後、ソ連は東欧圏を自らの勢力範囲として、ブロック化させ、そのまま米ソ対立に突入する。米ソ対立を恒常化させたために、ソ連の産業構造は、戦時体制のまま固定化してしまった。批判を許さない独裁体制とイデオロギー偏重政治が、米ソ対立を優先し、民需転換への機会を失わしめた点も大きい。

結果、重工業と軍需工業ばかりが膨張したいびつな産業構造と「物不足」があらわれた。1928年と基準として、70年の生産財の生産が約138倍に達していたのに対して、非食糧消費財は約25倍、農産物はわずか2.5倍にとどまっている。
市場経済では、需要が供給を上回れば、価格が上昇し、生産・供給が増え、均衡していくのが道理だが、統制経済下では、需給にかかわらず価格は固定であり、供給は党・政府の指令をもってしか行われないため、物不足は慢性化する。
こうして、消費財とサービスの不足が日常化していく。サービスの不足は、「サービス」を「資本主義的なもの」として否定するイデオロギーによって肯定され、サービス部門の発展は見込めなかった。消費財とサービスの不足は、本来国民の所得が向かうべき消費対象が存在しないことを意味する。分かりやすくいえば、「金はあっても買うものがないし、使う先がない」ということだ。

だが、「買えるものがない」一方で、ソ連人たちの賃金は上がり続けていた。「生産量至上主義」に凝り固まっていたソ連政府は、ひたすらに生産における量的拡大にのみ腐心していた。そのため、各企業はリスクを伴う技術革新よりも、工場の拡大と労働者の囲い込みに走った。上から命令された「ノルマ(生産量)」さえ達成すればよく、生産物の「質」は問われなかったからだ。
工場の拡大は、市場の需要ではなく、「党の指令」によって行われる。党もまたノルマの達成のために、工場の拡大を安易に許可した。結果、工場ばかりが増え続け、労働力は慢性的に不足するという事態が生じた。ソ連、あるいは今のロシアを見ても分かるが、廃墟となった工場の多さは、こうした「計画経済」の遺物でもある。慢性的な労働力不足は、自然、賃金を上昇させていった。

賃金の上昇と慢性的な物不足は、市場に貨幣を滞留させる結果となる。市場経済の場合なら、余った金を貯蓄に回すことによって、銀行が市場に再投資する機能を有する。
が、ソ連の場合、「不労所得は悪」というイデオロギーから、預金金利は無きに等しい状態に置かれ、政府・国家に対する歴史的不信も災いして、余った貨幣の大部分が「タンス預金」として家庭に留め置かれることとなった。
また、市場経済であれば、この状態ではインフレーションが起こるのだが、統制経済下では価格は政府によって公定される。その結果、「行列」と「闇市場」が顕在化してくる。

この状態を深刻に受けとめ、改革の必要性を認識したのがゴルバチョフだった。「ペレストロイカ」とは、ロシア語で「改革、再建」を意味するが、それはまさに今日の日本で使用されている「構造改革」だった。
軍需部門の供給が過大で、民生部門や食糧の供給や流通が極めて脆弱だったのに対し、家庭等には貨幣が溢れかえっていた不均衡を改革することが目的とされた。軍需を制限し、民営化や規制緩和を進めることで、民生部門の供給を増やして流通を改善、滞留した貨幣を回収して民生部門の投資に回すことで経済成長を目指したのだ。

ペレストロイカの急務として挙げられるのは、「市場経済化による経済再生」「軍備負担の削減と軍需産業の民需転換」「同盟国再編による軍備削減と貿易収支の適正化」、そしてもう一つ加えるなら、市場経済化と関連して「補助金漬けの赤字財政の解消」があった。

ところが、ペレストロイカは、指導層の掛け声や、西側社会からの評価に比して、全く進んでいなかった。具体例を挙げると、1989年時点で企業の民営化率は1%、90年時点で商品の自由価格率は1割に遠く及ばなかった。1990年予算で歳出に占める食糧価格調整金(補助金)の割合は20%、コルホーズを始めとする国営企業補助金が20%、軍事費が15%超という有様だった。
ミクロで見ても、1954年から90年に至るまでパンの公定価格は一切変わらなかった(70コペイカから1ルーブル)にもかかわらず、独立採算制の導入や政治的理由から労働賃金を上げ続けた結果、貨幣の過剰滞留現象が起き、潜在的インフレーションを表面化させていった。また、生産価格を無視した公定価格を維持するために、国庫から際限なく補助金が出された結果、歳出に占める食料価格調整金の割合は20%にも達していた。このことは、ゴルバチョフ政権が食糧の公定価格制度に全く手を付けられなかったことを示している。

最終的にゴルバチョフは、莫大な宿題を抱えたまま、殆ど成し遂げること無く「ゲーム・エンド」を迎えてしまった。
社会主義経済の体制転換は全て失敗したわけではなく、例えばハンガリーの場合、1990年時点で、自由価格率は80%を達成しており、企業民営化も「遅い」との非難を浴びつつも20%に達していた。そのため、ハンガリーでは、他の東欧諸国で見られた大行列の類いは殆ど起きること無く、市場経済と民主化を達成している。
また、中国では農産物の自由価格・流通を先行させて、90年時点で農産物のほぼ全てが自由化されていたため、やはり行列の類いは発生していない。重要なのは、社会主義国でも構造改革に成功した国があるということだ。

前段説明が長くなってしまい、申し訳ないが、では現在日本で進められている構造改革はどう評価すべきだろうか。構造改革は、本来インフレ・ギャップ(物不足)を解消するために、供給側を活性化させつつ市場を効率化させることで、需給バランスをとり経済成長を促すことを目的とする。
ところが、現代日本の問題は、バブル期に最大化させてしまった供給態勢を縮小することをせずに、需要のみが減退してしまった上(バブル崩壊)、1990年代以降も自民党が政権にあり続けたために、供給側を強化させつつ、資本家が労働者を収奪するシステムを容認してしまった(非正規化の推進とサービス残業や超長時間労働の容認)。その結果、過剰な供給態勢の下で、急激な少子高齢化と貧困化によって需要はひたすら低下するところとなり、デフレ・ギャップ(物はあるが、買う金が無い)が進んでしまっている。
つまり、需要が根源的に低迷しているところに、「構造改革、構造改革」と大騒ぎして、供給側を強化し、「労働市場の規制緩和」と称して賃金を大幅に削減したところ、デフレ・ギャップがますます拡大してしまっている、というのが現状なのだ。この点はポール・クルーグマン博士も指摘している。

日本政界でこの点を理解していたのは、小沢一郎氏ほぼ一人で、故に民主党岡田代表時代の「元祖構造改革路線」を転換して、「コンクリートから人へ」で知られる小沢=鳩山路線を打ち出した。これは、「公共事業削減」などで供給側に一定の規制をかけつつ、「子ども手当」や「高校無償化」などで需要を底上げすることで、デフレ・ギャップを埋めて経済成長を促すことを狙いとした。
この路線は、リーマン・ショックも相まって国民の圧倒的な支持を受け、民主党は政権の座に就いたものの、鳩山内閣は様々な理由からわずか半年で瓦解、財務省と財界を後ろ盾にした菅内閣が成立して、同路線を放棄、再び構造改革路線に邁進するところとなった。その後、小沢氏と鳩山氏は、民主党から追放され、同路線は完全に葬り去られ、野党に転落した後も、構造改革路線を継承している。
さらに愚劣なことに、労働者の代表であるはずの連合が、構造改革路線を進める民進党を支持している。これが結果的に、大企業の正社員以外の労働条件や待遇の悪化を加速させ、貧困を加速化し、さらなる需要の低迷を招いている。例えば、電力総連や電機連合は原子力発電、自動車総連はTPP、JR連合はリニア新幹線を推進しているが、それは巨額の税金と搾取(中小企業や非正規労働者)の上にしか成立し得ず、その行く末はどれも大多数の庶民にとって地獄でしか無い。

【追記】
日本では、医療や介護、保育分野などが統制経済下にあり、供給が限定的であるため構造改革が模索されているが、価格統制を残したままの改革は限定的な効果しか得られず、完全民営化すれば膨大な貧困層がサービスをうけられなくなるというジレンマを抱えている。現状は、「統制価格下での民営化」が採られているが、待遇悪化に伴う労働者不足とサービスの質的低下に苦しんでいる。公的サービスの場合、「コスト」「アクセス」「クオリティ」の3つの要素のうち二つは取れるが、残る一つは犠牲になるという原則がある。例えば、旧社会主義国の医療は「無償」「医者が多い」が、医療の質は非常に低い、といった問題があった。従来の日本の福祉はこのバランスが取れていた希有な例であったが、それが難しくなりつつあることを示している。
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2016年10月16日

GMT "Labyrinth: The Awakening 2010"

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GMT"Labyrinth"の拡張キット"The Awakening 2010"が到着。イスラム国、露仏による軍事介入、内戦などの最新要素が加えられている。シナリオも「アラブの春」や「イスラム国」など、2010年以降の情勢を反映したものが用意され、カードは専用カードに置き換えて使う。シリアやリビア、イエメンなどの内戦や民意の表れを反映するルールが新設されたものの、分量的には多くないので、まずは英語で読んでプレイしてみたい。10年後にはこんな苦労もなくなるだろうが。
イランやシリアからも大量破壊兵器が流出する可能性があるみたいで、世界はますます混沌化しているなぁ。
posted by ケン at 01:00| Comment(2) | ゲーム、囲碁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする