2016年10月18日

「働かせ方改革」実現会議

【実現会議が議論開始…官邸の調整焦点】
 長時間労働の是正や非正規労働者の待遇改善などを目指す政府の「働き方改革実現会議」の初会合が27日、首相官邸で開かれ、議長の安倍晋三首相は「働き方改革は構造改革の柱となる改革だ。スピード感を持って国会に関連法案を提出する」と述べた。会議は年度内に「働き方改革実行計画」を取りまとめる方針だが、労使の利害調整が難航してきたテーマを多く扱うだけに、官邸主導の調整がスムーズに進むかが焦点になりそうだ。
 メンバーの榊原定征・経団連会長は「長時間労働(是正)については、労働者保護の立場と業務の維持の立場を総合的に考慮すべきだ」と慎重姿勢を見せたが、神津里季生・連合会長は「同一労働同一賃金や長時間労働の是正、賃金の底上げなどについてコンセンサスを図っていきたい」と意欲を示した。
 改革会議は関係閣僚8人と民間有識者15人で構成。三村明夫・日本商工会議所会頭▽大村功作・全国中小企業団体中央会会長▽乳がん治療を続ける女優の生稲晃子さん−−らが名を連ねる。労働者側は神津会長のみで、使用者側に比べ少ない。
 労働時間の上限設定や同一労働同一賃金の実現が大きなテーマだが、労使合意を得るのに難航が予想され、当面はテレワーク(在宅勤務)などの柔軟な働き方推進や、高齢者雇用の促進といったテーマから検討を始める方針だ。がん治療中の患者が働き続けられる環境整備策も検討する。
(9月27日、毎日新聞)

官邸は「長時間労働の是正」などと言っているが、「実現会議」のメンバーを見れば、全くリアリティが無いのは明白だ。
生稲晃子 女優
岩村正彦 東京大学大学院法学政治学研究科教授
大村功作 全国中小企業団体中央会会長
岡崎瑞穂 株式会社オーザック専務取締役
金丸恭文 フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長 グループCEO
神津里季生 日本労働組合総連合会会長
榊原定征 日本経済団体連合会会長
白河桃子 相模女子大学客員教授、少子化ジャーナリスト
新屋和代 株式会社りそなホールディングス執行役 人材サービス部長
高橋 進 株式会社日本総合研究所理事長
武田洋子 株式会社三菱総合研究所政策・経済研究センター副センター長 チーフエコノミスト
田中弘樹 株式会社イトーヨーカ堂 人事室 総括マネジャー
樋口美雄 慶應義塾大学商学部教授
水町勇一郎 東京大学社会科学研究所教授
三村明夫 日本商工会議所会頭

メンバーの中で労働者代表は「連合」会長ただ一人だが、かねてから指摘している通り、連合はすでに戦時中の「産業報国会」と同レベルの御用組合でしかなく、「赤い貴族」の代表者が一人加わったところで、政府側の形式を整えるものでしかない。ちなみに、連合の神津会長は、基幹労連(鉄鋼)の出身で、この点でも殆ど官製組合と言える。
連合は680万人の労働者が加盟しているが、その殆どは正規労働者だ。他方、年収300万人以下の非正規労働者は、いまや2千万人を超え、その大半が労働組合に加盟していない。
これは喩えるなら、冷戦期のポーランドにおいて、政府が官製組合の「全ポーランド労働組合連合」(OPZZ)の代表者とのみ交渉して、独立自主管理労働組合「連帯」(NPZZ)を無視したこととよく似ている。もっとも、1980年に全国ストライキが起きる頃になると、OPZZの組合員の8割以上が連帯に流れてしまった。

「赤い貴族」はさておくとしても、エセ労働側が一人に対して、経営側は8人に上っている。この時点で本会議の主旨が「働き方改革」ではなく「働かせ方改革」にあることは明白だろう。会議メンバーが偏った構成になるのは、自民党が圧倒的な議席を有していることと、労働運動が政府や経営者から無視されるほど脆弱であることに起因している。

今回、政府が準備している労働基準法改正案の狙いは、「年収1075万円以上の専門職」にはホワイトカラーエグゼンプションで労働時間規制を外しつつ、「年収1075万円未満の一般職」については裁量労働を広範に導入するところにある。本法案が成立すれば、年収に関係なく数十パーセントの労働者に対して裁量労働が適用可能になると言われる。要は、現行法では裁量労働の適用が難しいので、労使合意や様々な手続きが適用を難しくしているという使用者側の主張を受け入れて、手続き面を非常に簡素化するという話なのだ。

資本にとって新たな需要の見込みが無い状態では、労働を搾取することでしか利潤を上げられなくなっており、すでに非正規労働者を4割にまで高めることで対応してきたが、それでも不十分な現状がある。政府が「時短」とか「労働規制の強化」とは言わずに、「長時間労働の是正」などと言うのは、労働者を「人=市民」ではなく、「労働力=モノ」としてしか見ていない証左だろう。
資本主義を成立させるためには常に新しい市場が必要で、資本の核がマーケットを広げながら利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していく。しかし、グローバル化が進んで地理的な意味での新規市場は地球上から消失、次いでバーチャルな電子・金融空間に市場を広げたものの、あっという間に限界に達して利潤を上げることができなくなった(リーマンショックなど)。その結果、利潤を上げられる外部市場の開拓の余地が完全に失われ、その矛先は内部に向けられることになる。内部市場、つまり自国の国民から利潤を巻き上げる構造へと変化してゆく。
具体的には、正規雇用労働者からの「既得権益」の剥奪、非正規雇用労働者の増加、低所得層への融資増(学資ローンも含む)や住宅購入の促進などとなって現れている。家計貯蓄の多さを誇った日本が、いまや3世帯に1つは金融資産ゼロになっていることも象徴的だ。
つまり現状、経営側には労働搾取を強化すべき理由は山ほどあれど、労働搾取を弱めるインセンティブは何一つ無く、その資本代表が圧倒的多数を占める同会議で、何が決められるかなど、推測する必要も無いのである。

【参考】
さらなる労働地獄へ 
労働者は生かさず殺さず 

【追記】
私見ながら「働き方改革」という点で言わせてもらえれば、まず「会議と報告を極限まで減らす(社内資料と調整に時間とられすぎ)」「社内行事と飲み会をやめる(休めない)」「個人の職掌と責任を明確にし、他者に転嫁しない(必要ない者まで残業する)」から始めるべきで、それは政府のやるべきことでは無い。
posted by ケン at 12:12| Comment(0) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする