2016年12月13日

日露交渉を急ぐワケ

今週末、ロシアのプーチン大統領が来日する。領土問題ではほぼ進展がないだろうと推測されているが、経済協力とビザ要件の緩和などを先行して、外交関係の改善を進める方針に変更は無いと見られる。
官邸の見込みとしては、領土問題でも一定の成果を挙げて、日露平和条約への道筋を付けたことで、解散・総選挙に打って出るつもりだったようだが、そこまでの成果は難しいだろう。それをカバーするために、急遽ハワイ行きが決められ、「米ロの橋渡し役」を強調することで、成果を代替するつもりなのかもしれない。それが「成果」になるのかは分からないが、内閣支持率が圧倒的高位にある現在、「それっぽい」ものであれば何でも良いのだろう。

官邸が目測を誤ったのは、外務省が米大統領選の観測を誤ったことに起因している。外務省は早々に「クリントン勝利は確実」と判断し、安倍総理に大統領選挙の最中にヒラリー氏と会談させた上、トランプ氏が当選すると狼狽して、就任前のト氏に土産を持って会いに行かせた。ところが、日本と異なり、米国では政治家への「土産」は「買収」と見なされるだけに迷惑以外の何物でもなかった。また、大統領就任前に次期大統領を詣でたことは、現オバマ政権の幹部や国務官僚を激怒させ、改めてハワイに行くハメに陥った。ゲーマー視点では、「恥ずかしい」失点を重ねている。
外務省の望まない日露外交を進める官邸に対する、外務省の「意趣返し」という見方も可能だが、それにしては自分のクビを締めているとしか思えないので、単純に外務省の無能がなせる業と見て良い。

とはいえ、安倍総理・官邸が外務省や米国の強い反対を無視して、日露交渉を強行する理由については、専門家の間でも見解が分かれている。基本的には以前書いたものと変わりは無い。
では、なぜ安倍政権はロシアにこだわるのか。一つは、安全保障上の理由で、日本が「対中封じ込め策」を採る以上、最大のカギは「ロシアを中国側にやらない、最悪でも中立状態にさせておく」こととなる。ところが、現状では米英がロシアを「私の敵は貴公でござる」と宣言してしまい、EUが同調している以上、ロシアとしては中国と手を組むほか無い。だが、それは完全に日本の国益に反しているため、日本としてはロシアの「100%中国寄り」を、80%にでも70%にでも下げておきたいのが本音なのだ。そのためには、「日ソ共同宣言」の休戦ではなく、「日ロ平和条約」で最終講和を結ぶ必要がある。だが、それは日米安保上許されないため、少しでも講和状態に近い状態にしたいのだろう。結論としては、「平和条約は結ばないけど、実質的には講和と同じ状態」を目指しているものと推察される。

第二は、経済上の理由だろう。「アベノミクス」が完全に行き詰まりを見せているが、これは「金融緩和して市場に大量にカネをバラ巻いたけど、誰も使わない」ことに大きく起因している。この点については、改めて近いうちに説明する。安倍政権としては、銀行や企業内に滞留する巨額の資金の投資先を用意しなければ、早晩「アベノミクス」が破綻をきたすだけに、その投資先として、安全保障上の理由や同じ権威主義政権のよしみもあり、「ロシア」が選ばれたと考えるのが妥当だろう。
領土交渉はネタでしょ? 2016.9.7)

実はもう一点あったのだが、本ブログで指摘するのは穏当では無いと判断し除外していたものの、他に指摘している論者が見当たらないので、敢えて触れておく。
日露交渉を強行する第三の理由、それは核政策である。
アメリカによる「西側陣営の解体〜アジア・欧州からの撤退」が現実味を増す中、日本としては日米安保に替わる安保政策が必須となっているが、代替案としては、

1.日中同盟(対中従属)
2.東アジア共同体による集団安保
3.武装強化による自主防衛路線


が挙げられる。霞ヶ関は頭から全否定しているため、対米従属に血道を上げているが、それは政策転換のコストを高めるだけで、行政であっても政治とは言えない。だが、代替案のうち、1と2は、これまで政府が進めてきた反共・入欧政策に反するため、国民の理解と支持が得られない構造になっている。結果、第三の自主防衛路線を採るほかないが、国力が低下の一途を辿り、急速に少子化が進んでいる今、強兵路線は現実的ではない。となると、核武装した上で現行水準の武装を維持する程度が「ギリギリ」の選択肢になると考えられる。
日本がNATO並みの「防衛費対GDP比2%」を実現した場合、5兆円が増額されることになり、現在米国が負担している駐留経費の6千億円など余裕で支払えるのだ。また、トランプ氏が言うように、独自に核武装する場合も、もちろん規模によるが、英仏並みで考えた場合、開発費で3〜4兆円、維持費で年間3〜5千億円程度と見られるだけに、これも「お釣り」が来てしまう。対外リスクを全く考慮しなければ、実は核武装は費用対効果が高い。
現状、日本は「2千億円の思いやり予算」で、固定経費8千億円分の米軍を駐留させることで、自国の軍事費を大幅に低減させ、その分を自国経済に投じている。歳出の1%強を防衛費増額に充てれば(現状の5%を6%にする)、米側が負担している在日米軍駐留費の6千億円などすぐに手当できるにもかかわらず、それを拒否して「横暴、暴論」と騒いでいる。客観的に見て霞ヶ関や自民党議員らの主張は全く妥当性を欠いている。
もっとも、対GDP比2%を実現するとなると、税収が55兆円という現状では、防衛費5兆円の増額など夢の話に過ぎず、本気でやるなら大増税が必要となる。それが恐ろしいからこそ、自民党議員も霞ヶ関もトランプ氏を非難することしかできないのだろう。
米軍駐留費の妥当性について、2016.5.11)

この安保政策と併行して考慮されなければならないのが、原発政策である。世界最大級の原子力事故を起こした日本では、自民党政権ですら遅々としてしか再稼働を進められないでいる。また、核技術についても、第四世代原子炉の前提となる高速増殖炉の開発が頓挫し、原型炉である「もんじゅ」の再開は不可能になっている。政府としては、フランスと技術提携しつつ、原型炉の次の段階である実証炉の建設を決めている。核技術の進歩が止まった場合、原子力政策そのものを中止せざるを得なくなる。
核開発競争に失敗しているのに「次」のステップに進めること自体、相当な無理筋だが、それを強行するのは(利権もあるが)安保政策上の要求があるためだ。ところが、高速増殖炉の開発は、すでに米英独が放棄しており、西側陣営で残っているのはフランスだけだが、そのフランスの技術は非常に不安定で、連携してみたところで成果を挙げる見込みは低い。フランスも衰退著しく、その財政負担はすでに限界に来ている。

この分野で唯一成果を挙げ、技術的に先行しているのはロシアだ。ロシアは、チェルノブイリ事故とソ連崩壊を経たものの、巨大な国土を防衛する上で、通常軍備の負担を減らすためには核政策を取りやめるという選択肢を持たなかった。1920〜30年代に飢餓輸出して、工業化と軍備拡張を実現した経験を活かして、90年代以降も国民が飢える中で核開発を進めた。権威主義国家ならではだろう。
結果、ロシアでは高速増殖炉の最終段階である実証炉「BN-800」が今年商業運用に入っている。この実証炉の次は「商業炉」なので、実証炉の商業運転が順調に行けば、商業炉として量産体制に入る。この点、ロシアは「化石燃料後」と「安全保障」の2つの要求を同時に実現するという無理筋を通そうとしている。

ここまで説明すれば十分だろう。日本が自主防衛路線を採り、核政策を放棄しない以上、ロシアとの連携(実質的にはかなり従属)という選択肢は「一択」のものでしかない。ロシアと連携すれば、日本中の原発のプールに溢れかえって、再稼働すれば数年後には満タンになってしまう核廃棄物の最終処分先も、シベリアの永久凍土に求めることができるので、「一石二鳥」(失うものも大きいが)なのだ。

日本では、民主党鳩山政権が「東アジア共同体」路線を採り、同時に原子力政策をフェイドアウトする方向で検討していたが、鳩山政権が半年で潰え、親米・日米同盟路線の菅政権が成立、その後、福島原発事故が起こり、脱原発路線に舵を切った。ところが、日米安保はすでに賞味期限切れで、代替案として「親中」も「共同体」も採れない以上、「核抜きの自主防衛」という選択肢は不可能だった。2012年に自民党が政権に復帰し、原発再推進に舵を切ったのは「当然の流れ」だったのだ。

安倍政権の問題点は、「いま何故ロシアなのか」を全く説明せずに外交を進めていることにある。他方、民進党は安保・外交政策も核政策も明確な路線を打ち出さないで、ただ自公政権を非難するだけになっている。自民党が「親米、後に自主防衛、核武装」を考えている以上、野党としては「脱米後に親中ないし共同体、核抜き」を主張しない限り、対立軸にはなり得ないのである。

【追記】
こんなこと言ったら、またぞろ「あの人、本当に左翼なんですか?」と言われちゃうでしょ〜〜

【追記2、2016.12.14】
プーチン氏は「ミサイル技術の供与」を示唆していることからも、日本側の真意を見抜いているものと見られる。
posted by ケン at 01:00| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする