2017年02月03日

予備罪は立件が難しい

【<公明>「共謀罪」提出容認 党内調整「テロ対策なら理解」】
 公明党は、「共謀罪」の構成要件を絞り込み「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案の国会提出を認める調整に入った。改正案の対象になる犯罪を政府が現在想定している676から300前後に減らせば、テロ対策として世論の理解が得られると判断した。改正案は今国会で成立する可能性が出てきた。井上義久幹事長は27日の記者会見で「(法案の)必要性は認識している。国民の懸念をどこまで解消できるかだ」と指摘。「出せば成立を見込むのが基本だ」とも述べた。「共謀罪」は、捜査当局の拡大解釈で人権侵害を生む恐れがあると批判され、過去に3回廃案になった。一方、安倍晋三首相は改正案について今国会で「かつての共謀罪とは違う」と繰り返し答弁しており、公明党が提出に慎重姿勢を取り続けるのは難しくなっていた。
(1月28日、毎日新聞)

政府は、共謀罪と全く同じ内容ながら、「テロ等準備罪」と改称した。この辺の小手先技も、いかにも小者臭がする。政府の真の目的が「反体制派の一掃」である以上、堂々と治安立法の必要性を掲げて国民に訴えるべきだった。

例えば、ソ連の大粛清(Большой террор=大テロル)の場合、キーロフ暗殺を受けて、共産党執行部は「トロツキー一派による犯行」として「反革命が迫っている」との見解を示した。スターリンは中央委員会において、「階級闘争が進めば進むほど、反革命派は抵抗を過激化させており、この連中を完全に排除させない限り、階級闘争の勝利は無い」と演説し、大粛清を宣言した。
ソ連の場合、政治局員が白昼堂々とオフィスで党員に殺害されるという不始末(痴情のもつれという解釈もある)を「体制に対する反逆」と読み替えて、テロルを定式化させたわけだが、実際に農業集団化による農民の怨嗟は「現実的な危機」として共産党内で共有されていた。

ところが日本の場合、原発事故や集団的自衛権の解禁などで一時的に反政府運動が盛り上がったとは言えるものの、それも広範な国民的支持を得るには至らず、選挙では自民党の圧勝が続いている。ジハーディストによるテロは一件も起きていないし、計画がなされたという話も聞かない。つまり、強硬な治安立法を行うだけの立法根拠が何一つ無いため、苦しい説明をせざるを得ないのだろう。
同時に、外形的な立法根拠が何も無いのに、こうした治安立法を強行するのは、政府が自らの統治能力に自信を失っているためだと考えられる。興味深いことに、現場の警察官等からは「共謀罪が無いと治安が維持できない」などという声を聞いたこともない(本音ベースで「何故強行するのか分からない」と言う関係者もいた)。こうした状況は、1925年の治安維持法の時と酷似しているが、当時の方が「コミンテルン」や「共産党」の脅威は今日よりはるかに「現実的」だった。

そして何よりも予備罪や準備罪の立件は難しい。
政府はテロ等準備罪の構成要件を「テロ団体等、綿密な計画、犯行合意、準備行為」と説明している。だが、私が元ブントの人からヒアリングしたところでは大いに疑問符がつけられる。曰く、
「たまたま赤軍派(関西ブント)連中の溜まりのすぐ近くでビラづくり作業してたんだけど、あの連中は扉も閉めずに大声でハイジャックする話をしていて、それも銀行強盗でももっと真面目に計画するだろうというくらい、杜撰とすら言えない妄想の類いにしか聞こえなかった。それから10日後くらいに実行されて、あんなんで本当にハイジャックできるのか、とどうしても信じられなかった」

とのこと。現代でもジハーディストの自爆テロは、志願者に自爆用ベストを渡して行き先を指示するだけであり、果たして誰を対象にどこまで要件を成立させられるのか、疑問は尽きない。
この話の難しいところは、ブントを「テロ団体」としてしまうと、学生運動参加者を全員テロリスト認定することになるし、赤軍派に限定しようとすると別に党員登録されているわけではなく、みな自称しているだけなので(少なくとも当初は)、誰がメンバーなのか特定するのが難しいという問題が生じる点にある。つまり、「学生運動家」と「テロリスト」の線引きなど現実的には非常に難しく、ムリにやろうとすると冤罪の原因にしかならない。

2001年の米同時多発テロや、2015年の仏同時多発テロならば上記の要件も当てはまるだろうが、現実には限りなく個人レベルのテロや、計画性の無いテロ、模倣犯など、政府が挙げている要件を満たせないテロの方がむしろ多数と考えられる。
例えば、2013年の米ボストンマラソン・テロの場合、いまだに被疑者とテロ組織との関係は確認されず、計画と呼べるような計画書の類いも発見されていない。にもかかわらず、殺人などの罪状で死刑が宣告されている。この容疑者を、「テロ等準備罪」で取り締まれたかと言えば、まずムリだっただろう。

実際、治安維持法は「実際の適用が難しい」として適用緩和と対象拡大が進められ、戦前期の最大の悪夢となり、国民弾圧をほしいままに反戦・自由主義グループを一掃して、軍国と戦争に邁進する推進力になってしまったのである。
すでに先の刑事訴訟法改正で、通信傍受が大幅に緩和されたことを考えても、共謀罪と盗聴のコンボで「電話で冗談言っただけで逮捕」の環境が成立することだけは、覚悟しておいた方が良いだろう。
posted by ケン at 12:43| Comment(4) | 政治、社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする