2017年05月09日

首相の解散権を制限したイギリス

【英首相、解散決断 経済堅調、高支持率背景に 「保守党圧勝」の可能性大】
英下院(定数650)は19日、メイ首相が欧州連合(EU)との離脱交渉を前に表明した前倒し総選挙の実施に向けた動議を、全議席の3分の2(434)を大きく上回る賛成522で可決した。総選挙は、高い支持率を維持する与党・保守党が圧勝するとの見方が有力。メイ氏は政権基盤を固め、「EU完全離脱」方針への反対論を封じ込めたい考えだ。
 採決では議席330の保守党と、229の最大野党・労働党の大部分が賛成に回った。反対は13で残りは棄権したとみられる。これにより5月3日解散、6月8日総選挙が決まった。メイ氏の報道官は19日、EUとの離脱交渉は総選挙後に開始すると表明した。
 英国では2011年の議会期固定法で総選挙は5年に1度と定められているが、動議可決で前倒しも可能としている。英スカイニューズによると、総選挙に賛成は68%で、反対の26%を大きく上回っていた。
 政治空白を懸念して解散総選挙を否定してきたメイ氏が方針を急転換したのは、議会の分裂が政治の安定を脅かしていると判断したためだ。その背景には、経済が堅調なことによる高い支持率がある。
 「(EU離脱を決めた)国民投票後に経済危機の予想があったが、経済成長率はあらゆる見通しを上回った」。メイ氏は総選挙を表明した18日、好調な経済が議会解散の決断につながったことを示唆した。英経済は昨年の国民投票以降も個人消費が堅調で、16年の国内総生産(GDP)成長率は1・8%と高い伸びを記録している。
 英BBC放送によると、保守党の支持率は43%で、強硬左派のコービン党首への批判が強い労働党の25%に大きな差をつけている。
 保守党政権への反発が強いスコットランドや北アイルランドで議席を増やせなくても、EU離脱派が多数のイングランドで保守党が圧勝する可能性が高いとも指摘される。メイ氏は大幅に議席を増やして「EU完全離脱」への交渉基盤固めをもくろむ。
(4月20日、産経新聞)

英国では2011年に「会期固定法」が制定され、5年毎に5月に総選挙が行われることが決められた。同時に首相の解散権が制限され、内閣不信任案の可決時と下院の3分の2以上の賛成で自主解散が決議された時のみ行使できることになった。それまでは、首相の助言により国王が議会を解散させる慣例だった(国王大権、慣習法)。

21世紀にもなってなお国王大権を議会で廃止する英国を、我々はどう評価すべきか。それまでの一般的な解釈は、「解散権は国王大権であって、首相が個人的理由などで議会や民意を無視して恣意的に行使(助言)することは許されない」というものだった。その意味で、従来の解散権は慣習とモラルに支えられていたが、大陸的な成文法に移行したとも言える。

こうした英国モデルを形式的に模倣した戦後日本では、解散権は憲法第7条の
「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。」
「三 衆議院を解散すること。」

に根拠を持つ。ところが、同第4条に
「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」

と規定されていることから、「首相の衆議院解散の決定を布告する」ことが天皇の権能という解釈が一般化している。その結果、慣習やモラルの基盤を持たない日本では、「解散権は首相唯一人に帰属する」という理解が一般化し、首相の一存で衆議院を解散できることになっている。
特に最近では、小泉氏の「郵政解散」、野田氏の「自爆解散」、安倍氏の「増税延期解散」など、必ずしも議会や民意に沿わずに、首相の政局的判断から解散権を行使するケースが蔓延している。

イギリスの場合、慣習とモラルに支えられているという前提がありながらも、「政権党に有利すぎる」「首相個人が恣意的に行使する恐れは否めない」などの否定的見解が政権党を含む大勢を占めたことを示している。
これはゲームで考えれば当然で、自分が有利なときに戦闘ダイスを振れる方が一方的に有利なのは言うまでも無い。野田氏のように、自分が最も不利なときにダイスを振るような愚かなプレイヤーの方が稀なのだ。

一般的には選挙が多いと、民意が反映されやすい反面、政治が不安定になりやすく、無関心層が増加しやすい問題がある。他方、選挙が少ないと政治的には安定しやすく、選挙時には有権者の関心が高まりやすいが、民意の反映度は低下する。
日本の衆議院の現状を見る限り、4年の任期がありながら、実際には3年毎に選挙が行われ、議員は常に次の選挙のことばかり考え、秘書ですら3年毎の失業危機ばかり気にしているのだから、ロクな人材が集まらないのは当然だろう。まして、自民党が50年以上にわたって培ってきた政官業報の腐敗テトラゴンが圧倒的な強度を誇る中で、議会解散権が自民党総裁に帰属しているという状況は、外見的には民主国家だが、内実は開発途上の独裁国家レベルにあると言える。

やはり英国モデルを導入した以上は、解散権改革についてもイギリスに追随するのが妥当では無かろうか。
posted by ケン at 12:31| Comment(0) | 憲法、政治思想、理念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする