2017年06月10日

張作霖 爆殺への軌跡 1875-1928

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『張作霖 爆殺への軌跡 1875-1928』 杉山祐之 白水社(2017)

名著『覇王と革命−中国軍閥史 1915-28』を著した杉山祐之氏の新作。
前著『覇王と革命』は、辛亥革命から蒋介石による北伐開始までの軍閥闘争を描いている。ケン先生も書評を書こうと思っていたのだが、つい書きそびれてしまったので、ここで軽く触れておく。現代中国史は、共産党や国民党あるいは帝国日本などの立場が強く作用するため、なかなか客観的な解説書が無い。だが、本作は可能な限り偏りを排しており、かと言って平板な解説になることもなく、非常にダイナミックな歴史を再現している。しかも、フィクションでは無く、相当に資料が読み込まれており、曖昧な点については複数の視点や理解が提示され、学術性と読み物のバランスが絶妙な作品に仕上がっている。軍閥による群雄割拠期は、共産党政府にとっても国民党政府にとっても鬼門であり、どちらの国でも客観的研究が難しい状況にあるだけに、非常に貴重な一冊だと言える。また、日本人的には、つい日本の視点から満州や上海を見てしまうだけに、中国側の視点から見た日本の侵略意図を再確認する意味でも大事だ。

今回の『張作霖』は、前作では「軍閥の一つ」だった張作霖を主人公とし、その誕生から死までを丹念に追いつつ、彼の視点から見た軍閥闘争と日帝の脅威を描いている。前作の特長である、学術性とエンターテイメント性のバランスや客観性は本作でも守られており、むしろ個人に焦点が当てられているだけ分かりやすくなっているし、相変わらず「読ませる」記述になっている。
著者が「上手い」のかもしれないが、張作霖のどこまでも「中華英雄」を追求する姿勢が心地よく、本人もそれを意識して史記や三国志などの故事を真似ようと努力しているところや、彼をめぐる周囲の人々との関係がどこまでも中国的(情義が優先される)であるところなど、非常に面白いと同時に、「あぁ、中国ってそうだよな」と思わせてくれる(家に飛び込んできた雛は決して殺さないとか)。

小さな雑貨屋に生まれ、各地を転々としながら少しずつ己の才覚でのし上がり、自警団長からいつしか軍閥の長になって、最後は東三省を支配してソ連と日本と関内軍閥群と渡り合うまでに至った。まさに「乱世の梟雄」であり、それだけの実力と魅力がある。そして、普通に日本史を習うだけではまず分からない、「なぜ関東軍に謀殺されたのか」を学ぶことができる。そこに、本土では「売国奴」と言われ、日本では「馬賊の一頭目」と見なされる張作霖の実像を見ることになるだろう。

馴染みの無いテーマではあるが、地図や写真もそれなりに配されて読みやすくなっている。アジアの近現代史に興味のある者なら、二冊とも抑えておくべきだろう。
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする