2017年08月18日

ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦

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『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』 ショーン・エリス監督 捷英仏(2016)

またまたビミョーな邦題が付けられているが、確かに原題の「エンスラポイド」(作戦名)では何の話かサッパリ分からない。映画などの邦題の付け方は何とも難しいものがある。

ナチス・ドイツSSの国家保安本部長官にしてベーメン・メーレン(ボヘミア)保護領副総督(総督は傀儡なので実質総督)だったラインハルト・ハイドリヒを、亡命チェコスロヴァキア政府(在ロンドン)の指令を受けた元軍人らがチェコに落下傘降下して潜入、現地レジスタンスの協力を得てこれを襲撃する計画を立て、実行する。だが、SSによる報復は壮絶を極め、レジスタンス(テロリスト)も追い詰められてゆく。



以下、ネタバレ注意!

できるだけ史実を忠実に再現しており、脚色部分は最小限(恋愛部分)に抑えられている上、演出もレジスタンス(テロリスト)を格別に美化することなく、計画に反対する者や裏切り者、あるいはSS隊員による拷問もきちんと描いており、非常に骨太で冷徹な出来になっている。恐らくはイギリス映画であって、ハリウッド映画ではないことに起因しているのだろう。個人的には高く評価したいが、興行的には心配である。

特に推奨したいのは、いまどき16mmフィルムで撮影された映像美で、全体的にアンダー目で撮られた粗い粒子の質感や抑えられた色彩が、非常に1940年代のプラハのイメージにマッチングしており、微細にまでこだわった当時の街並みの再現度と相まって、まさに当時のプラハで撮影したかのようなイメージを抱かせてくれる。所々で映し出されるプラハの街並みの美しさはひたすら感動物で、これが上手く過酷なストーリーと対称をなしている。確かにこれをデジタルで撮ってしまうと、いかにもセットっぽくなってしまい、逆にリアリティが失われてしまっただろう。

暗殺シーンも結構アッサリしており、その後の隊員の逃亡劇やSSによる追跡もきちんと描かれているのだが、最後の大聖堂に立て籠もっての籠城戦だけはクライマックスだからとはいえ、「盛り過ぎ」の観は否めない。7人対700人で壮絶な射撃戦が繰り広げられ、戦闘描写も巧みで見応えはあるのだが、無謀に突入してくるドイツ兵がバカに見えてしまう。

ちなみに映画では「大聖堂」とか「神父」とか出てくるので、「プラハのカトリック?」と思ってしまう人が多そうだが、実際には「チェコスロヴァキア正教会」で、当時はまだ未独立でロシア正教会の一支部という扱いだった。当時、基本的にバチカンはナチス支持だった。またプロテスタントは原理的に大教会(聖堂)を否定しているので、7人も匿えるような大教会を有しているのは正教会しか無かった。同時に独ソ戦が進行中で、ロシア正教会自体が存続の危機にさらされていただけに、レジスタンスへの協力もなされたものと思われる。
舞台となったプラハ中心部にある聖ツィリル・メトデイ正教大聖堂には、当時の銃撃戦の弾痕が残されているらしいので、次にプラハに行くことがあれば訪れてみたい。

もう一点残念なところは、SS隊員はみなドイツの役者が演じてドイツ語をしゃべっているのに、肝心の主人公はイギリスとアイルランドの俳優で英語で話している点で、ちょっとチェコ人には見えない。欧州に滞在した経験の無い人なら気にならないレベルかもしれないが・・・・・・

歴史的には、ロンドンにあったチェコスロヴァキアの亡命政府がレジスタンス活動による成果を十分に上げられず、英政府から軽んじられるようになり、目立った成果を上げて自己アピールしたいがために「ハイドリヒ暗殺」命令を下したものと見られる。すでにハイドリヒらの手によって現地レジスタンスは窒息寸前にあったが、暗殺実行に伴う捜査と報復によって完全に壊滅、終戦に至るまで実質的な活動は行われなかった。SSは5千人からの市民を見せしめに殺害、リディツェ村を始め複数の村を「根切り」にし1万人を収容所に送ったが、シュコダを始めとするチェコの生産力は終戦までフル稼働し、ドイツの戦争運営を支え続けた。
「作戦成功」「ナチスによる蛮行」の対価として亡命政府が得たのは、英政府による「ミュンヘン合意の放棄」(ズデーテンランドの帰属確認)だけだった。1945年4月に亡命政府はチェコに戻るが、3年後には共産党独裁に至ってしまった。

現代でも「ビン・ラディン暗殺」を始め、独裁者やテロリストに対する暗殺はたびたび企図、実行されているが、どうも政治的効果以上のものは認められない気がする。もっとも、その政治的効果を最も欲するのが政治家の性分であり、どこまでもタチが悪い。
posted by ケン at 12:11| Comment(3) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする