2017年11月20日

無償化が加速させる制度瓦解

【<教育無償化>高等教育に8000億円 2兆円配分の大枠】
 政府は教育無償化など2兆円規模の政策パッケージについて、配分の大枠を固めた。大学など高等教育の無償化に約8000億円を配分。幼児教育・保育の無償化では、0〜2歳児に100億円程度、3〜5歳児は8000億円程度を充てる。高等教育と0〜2歳児については、無償化の対象を住民税非課税世帯(年収約250万円未満)に限定する方針。今後、自民、公明両党と調整したうえで来月上旬にも取りまとめる。
 高等教育の無償化については、対象を住民税非課税世帯に絞る。具体的には、現在、住民税非課税世帯の子どもを対象に毎月2万〜4万円を支給している給付型奨学金の金額を、年間100万円程度に引き上げて生活費も賄えるようにする。無償化の対象にならない低所得世帯についても、不公平が生じないような仕組みの導入を検討する。
 大学授業料についても、住民税非課税世帯の子どもを対象に国立大学の授業料(年間約54万円)相当額まで減免し、実質無償化する。国立大学より授業料の高い私立大学については、上限を定めたうえで一定金額を上乗せして免除する。
 0〜2歳児の保育所の無償化も、住民税非課税世帯を対象とする。すでに、生活保護世帯や住民税非課税世帯の第2子以降は無償だが、対象を住民税非課税世帯の第1子まで拡大する。
 3〜5歳児の幼稚園、保育所については、年収に関係無く無償化する。ただ、授業料が高額な私立幼稚園は、一部負担を求める方向で検討する。
 そのほか、保育の受け皿整備など待機児童対策に約3000億円、一定の勤務経験がある介護職員の待遇改善などに約1000億円を充てる。
 2兆円は、2019年10月の消費税率10%への引き上げの増収分の使い道を見直して約1.7兆円を確保する。残る約3000億円については、企業が負担する社会保険の事業主拠出金の増額で確保する。
 教育無償化は、安倍政権が掲げる看板政策「人づくり革命」の柱の一つ。政府内で検討が進む一方、自民党は8日から教育無償化などを検討する会合をスタートさせており、政府は与党と調整を進める方針だ。
(11月9日、毎日新聞)

高等教育の無償化は、日本が批准した国際人権規約にも定められており、もはや国際公約の一つで履行義務があるわけだが、その一方で高等教育をめぐる基盤や環境は悪化の一途を辿っている。脆弱なインフラの中で無償化を強行した場合、インフラそのものが瓦解する恐れがある。

その先例として挙げられるのが医療と介護。中でも小児科・産婦人科医療の崩壊は特に地方で顕著となっている。少子化が加速する地方では、特に小児医療の無償化がポピュリズム的支持を集めやすく、政策化された結果、ただでさえ脆弱な小児科に「患者」が殺到し、逆に小児科の閉鎖や小児科医の転居が進み、空白化してしまっている。
日本では、全ての医療が公定価格の計画経済下にあり、診療報酬が低めに抑えられる中、高コスト体質の小児科医療は財政的に成り立たないことが大きい。一般的に、小児医療は診察に時間がかかると同時に、大人の医療よりも多くの看護師を必要とするため、コストが大きく、利益が少ない。病院が財政難に陥った場合、真っ先にコストカットの対象にされるのが小児科なのだ。これを無償化すると、診察の必要すら無いような超軽度の患者まで受診することになるが、小児科医の負担が重くなると同時に、経営は悪化するという悪循環に陥る。結果、中小の病院は小児科を閉鎖、開業している個人の小児科医は都市部に移転するところとなっている。

保育の無償化も同じことが起きるだろう。ただでさえ供給が限界に達している保育産業で、無償化が実現された場合、さらに需要が急増することは間違いなく、多数の「待機児童」が出ると同時に、無理な供給に対応してサービスの質も低下、保育士の労働環境や待遇もさらに悪化、保育士の大量離職が進む恐れが強い。保育も公定価格であるため、保育士の待遇改善は容易ではなく、公費を投入すれば、財政赤字が増えるばかりとなる。制度の持続性を考慮しない無償化は必ず失敗するのだ。

大学などの高等教育の場合、現時点ですでに「私立大学の4割が定員割れ」と言われる。これらは本来競争力を持たない大学と判断されるわけだが、無償化が実現することで淘汰されることなく、存続する可能性が出てくることを意味する。
また、日本の高等教育機関は大半が財政難にあり、事務職員や教員の非正規化、次いで非正規の雇い止めをもって人件費の切り詰めに勤しんでいる。結果、正規教員でも授業負担や事務負担が膨大なものとなっている上、受け持つ生徒数も増大している。「受け持ち授業が週15コマ」「学生20人以上のゼミ」などはザラだという。同時に、文科省から天下ってきた学長などの大幹部によるパワハラなども横行、離職率は高止まりして、もはやブラック企業同然という声もある。
こうした環境の中で、無償化によって需要のみが増えた場合、本来競争力を持たない大学が生き残ってしまう上、ブラック化した労働環境がさらに悪化する恐れが強い。その結果、ただでさえ低下傾向にある研究・教育の質もさらに低下、高等教育とは名ばかりの「高等保育所」になってしまいそうだ。
posted by ケン at 12:55| Comment(2) | 教育、法務、司法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする