2018年01月04日

12、1月の読書(2017、18)

特別国会も終わって余裕ができたので、ようやくじっくり読書に勤しめるが、気づいてみれば戦史ものばかりになっていた。まぁいいんだけど。

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『大日本帝国最後の四か月−終戦内閣“懐刀”の証言』 迫水久常 河出書房新社(2015)
終戦時の鈴木貫太郎内閣で書記官長を務めた著者が、1945年4月から8月を回顧している。1973年に刊行されて以降、歴史研究の最重要な一冊となっている。文庫化されたのは有り難い。『日本のいちばん長い日』でも重要な脇役として出てくるが、元々は薩摩閥で超のつく大蔵エリート。1973年に米国で制作された大ドキュメンタリー『秘録・第二次世界大戦』に出演して日本側の証言をしているが、ペラペラの英語で淀みなく話していたのが印象的だった。戦時期には社会主義的統制経済の推進者でもあった。ただの回顧に終わらず、自らの記憶と当時の資料や他者の証言を緻密に照らし合わせながら事実関係を積み上げており、かつ主観と客観も明確に分けて記述されていて、信頼性の高い回顧録となっている。それにしても40歳で大蔵総務局長、43歳で書記官長(現在の官房長官に近い)とは、当時の出世の早さに改めて驚かされる。

『「終戦」の政治史 1943-1945』 鈴木多聞 東京大学出版会(2011)
若手研究者による博士論文で、終戦時の政軍指導者たちの対立を、従来の「聖戦貫徹か講和か」という視点に疑問を呈し、昭和帝を始め、各派・各人の主張や考えを改めて精査して本当の狙いがどこにあったのか再検証を試みている。今日では「一億総玉砕」の権化だったように思われている陸軍の強硬派も、実は「ソ連の仲介を頼むためには一戦して勝利する必要がある」「国体護持の条件を確実にするためにも一勝する必要がある」といった具合の主張であったことが認識させられ、興味深い検証になっている。博士論文の割には読みやすいが、相応の知識が無いとついて行けないのも確か。

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『東部ニューギニア戦』(進攻篇、全滅篇) 御田重宝 講談社文庫(1988)
ソロモン諸島ガダルカナル攻略戦と併行して進められた、ポートモレスビー攻略戦(スタンレー山脈越え)と連合軍の反撃を受けたブナ・ゴナ戦の記録。スタンレー越えでは1万1千人からの南海支隊のうち7千人が戦病死し、ブナ・ゴナ戦では増援を含めてさらに7千人が戦病死して文字通り全滅している。中国新聞社の記者だった著者が、福山の歩兵第41連隊の生き残りから取材し、丹念に手記をさらい、公的記録と照らし合わせて記述している。取材が多いため、どうしても軍に批判的な記述になっているが、逆に当時の上層部のダメさ加減や、小岩井少佐のような現場指揮官の優秀さ、あるいは従軍した兵卒の率直な気持ちが反映されている。もともと「PM攻略用に偵察を兼ねて前進陣地をつくれ」旨の曖昧な命令だったものが、参謀本部(辻!)などの介入によって、「山さえ越えれゃあモレスビーまで走って下りるだけだろ」くらいの話になって、「攻略命令」になってしまった経緯は、あまりにも現代に通じる。ちなみにスタンレー山脈は4千メートル級である。普通に読んでいるだけで生きた心地がしない。

『自決―森近衛師団長斬殺事件』 飯尾憲士 光人社NF文庫(1999)
昭和20年8月15日未明に起きた宮城占拠クーデター未遂事件の一環となった森近衛師団長惨殺事件。名作『日本のいちばん長い日』は殺害者を「黒田航空大尉」としているが、この人だけ敢えて実名を伏せて名を変えているのは何故か。当時、航空士官候補生として埼玉県豊岡(現入間)の学校に在籍した著者が、上官や先輩を訪ねて全国を回り、小説とは異なる同事件の実相や関係者の実像に迫る異色の作品。特に岡本版映画は、陸軍関係者から「オレ達あんなに狂っていねぇ!」と悪評だったそうだが、旧軍批判がまだ根強かった当時の世相の中でかき消されたようだ。

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『日中戦争全史』(上下) 笠原十九司 高文研(2017)
「ロシア革命100周年」がそれなりに盛り上がったのに対し、「日中開戦80周年」は日本では殆どスルーされた観がある。そんな中で本書は数少ない80周年の成果だろう。日本における南京事件研究の第一人者と言える著者による日華事変・日中戦争の通史。通史とは言え、著者は戦争の根源を「対華21カ条要求」に求めていることから、記述は1915年から始まる。実際、青島攻撃、シベリア戦争、山東出兵、済南事件、張作霖爆殺事件、柳条湖事件等々、本格的な戦争になっていなかっただけで、日本による対中侵略は継続的に進められていた。本書の特徴の一つは、日中間の記述に止まらず、「世界史における日中戦争」という観点から俯瞰している点にあるが、全体としては大部ではないため、詰め込むところと省いているところのバランスがいささか悪いようにも見える。もう一つは、著者の従来からの主張である「陸軍悪玉論」を排し、「むしろ海軍が陸軍を戦争に引きずりこんだ」とする点で、海軍が資源と予算を獲得しつつ、兵器実験場や実戦訓練場を確保する目的から日中戦争を推進したとする説を論じている。大山勇夫大尉事件の陰謀論を強調し過ぎるところがマイナスになっているが、海軍が様々な理由から日中戦争を主導したことは、どうやら間違いないようで、それが故に終戦時に阿南陸軍大臣が自害する際の「米内を斬れ」に繋がったとケン先生は推測している。わが一族では、海軍の大伯父が支那派遣艦隊参謀長として重慶爆撃を指導、陸軍の大伯父は関東軍の情報将校として対ソ諜報を担った。他にも日中戦争に関係した先祖がいると思われるが、話は聞いていない。

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『甦るニコライ二世―中断されたロシア近代化への道』 エレーヌ=カレル=ダンコース 藤原書店(2001)
ずいぶん昔に購入してそのまま図書室に放り込んでしまった一冊。帝政ロシア末期の近代化が、帝政崩壊とソ連の勃興によって中断され、むしろ退化して現代ロシアの課題になっているというダンコース女史の論考。ソ連学徒としてはダンコース本は全て必読と言えるくらい重要なのだが、私的にはあまりにも反ボリシェヴィキ色が強すぎて今もって好きになれない。とはいえ、現代ロシアを占う上で欠かせない視点であるため、再挑戦することに。今年中に間に合うかは不明だが。
posted by ケン at 00:00| Comment(0) | 学問、文学、教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする