2018年02月11日

ザ・ステイト〜虚像の国



『The State』 ピーター・コズミンスキー監督・脚本 ナショナルジオグラフィック・英Channel 4

昨秋録画しておいたのだが、選挙があってすっかり忘れていたのを思い出した。
住んでいた英国を出てシリアに密入国し、イスラム国に参加(移住)する4人の男女(中東系とアフリカ系)を追いながら、イスラム国の実態をドラマ化した作品。TVドラマとはいえ、その再現度は完全に映画クオリティで、ドラマもセットも恐ろしくリアリティが追求されている。脚本・監督を務めるのは、本ブログでも紹介した『ウルフ・ホール』のピーター・コズミンスキー氏。どちらも舌を巻くほどの完成度だ。恐らくは、膨大な資料と調査から「史実」「現実」を再構成しているのだろう。西側視点に偏ること無く、淡々と「事実」を積み上げてゆく姿勢は、日本の映像作家もお手本にして欲しいくらいだ(日本にはリアリズムの需要が無いことに問題あるのだが)。こうした映像を共同制作とはいえ、公共放送がつくれる辺り、イギリスのイギリスたる所以、懐の深さを感じる。日本のNHKが、同じような視点から日中戦争のドラマをつくることは未来永劫できそうにない。

男二人は友人だが、女二人は知り合いではなく、うち一人は子連れでシリアに入るところから始まる。男はムジャヒディン(戦士)に、女は戦士の妻となるべく教育されてゆく。「出戻り(背教者)」とも言えるイスラム国からの帰還者や捕虜などの膨大な証言をもとにつくられているだけに、訓練や生活シーンは恐ろしくリアルにつくられている。もちろん我々はイスラム国の実像など知りようがないのだが、少なくともリアリズムを強く感じるレベルになっている。ヤジディ教徒に対する暴力やシーア派に対する虐殺、子どもの洗脳・動員なども鮮烈に描かれており、全く容赦が無い。この辺も日本では不可能だろう。
個人的には、戦場で携帯を使ってしまい、ドローンが飛んできてヘルファイアをぶち込まれるところや、訓練で新兵に「この戦いには負けるのが決まっていて、それが我々の勝利なのだ(だからアメリカが攻めてくるように仕向けている)」と教育する辺りがヤバかった。
主人公たちの動機をあえて明らかにしないところとか、末路を最後まで描かないところは英国的なのかもしれないが、だからこそリアリズムが成立するのかもしれない。この二つを映像化してしまうと、どこか説教臭くなってしまうからだ。

1時間番組で4本の短いドラマではあるが、内容が濃すぎてこれ以上見続けるのは辛いような、もっと見てみたいような。ドイツの『ジェネレーション・ウォー』に通じる現代の名作ドラマである。

【追記】
同じノリで日華事変・日中戦争を再現した場合、郷土の先輩に「中国では何でもやりたい放題だぜ」と言われてウヒョーと陸軍に志願した若者が、中国大陸で掠奪、強姦、放火の日常に疑問を覚えながらも、ゲリラに戦慄しつつ感覚を麻痺させてゆくという話になるだろうが、NHKがこうしたドラマをリアルにつくらない限り、本質的には東アジアの戦後和解は成立し得ないだろうと思われる。
posted by ケン at 00:00| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする