2018年02月16日

2018 日露関係の今後は?

【安倍首相、日ロ平和条約締結の意欲強調】
 安倍首相は7日、北方領土の返還を求める会合で、あいさつし、日ロ平和条約の締結に向けた意欲を、あらためて示した。安倍首相は「戦後72年が経過してもなお、日本とロシアの間には平和条約がないのは、異常な状態。何とか、この状況を打開しなければならない。戦後、ずっと残されてきたこの課題に、私とプーチン大統領が終止符を打つ」と述べたうえで、5月にロシアを訪問し、プーチン大統領との首脳会談に臨む決意を表明した。さらに安倍首相は、両国が2016年に合意した、北方四島での「共同経済活動」の実現に向けて、「今後、プロジェクトを具体化するための作業を加速させる」と強調した。
(2月7日、フジテレビ系)

【北方領土「第2次大戦の結果」=平和条約締結を希望―ロ外相】
 ロシアのラブロフ外相は国営テレビのインタビューで、北方領土問題について「第2次大戦の結果」であり、日本がこれを認める必要があるとする見解を改めて示した。 ロシア外務省が11日、インタビュー内容を公表した。ラブロフ氏は平和条約締結後に北方領土の色丹島と歯舞群島の引き渡しをうたった1956年の日ソ共同宣言に触れ、「われわれは平和条約の締結を望んでいる」と発言した。また日ロ首脳が合意した北方四島での共同経済活動の議論が両国間で進んでいると説明した。一方で、平和条約締結交渉では「日米関係が意味を持つ」と指摘。日米安保条約によって「米国は日本の任意の地域に基地を置く権利を持つ」と警戒し、この問題が交渉の焦点となっているとの認識を示した。 
(2月12日、時事通信)

ナショナリストたちが「安倍はプーチンに北方領土をくれてやるのか!」と激高している。日本では、ロシア研究者の絶対数が少ない上に、地位が低く、さらには権力側に都合の良い研究者しか表に出てこないので、まともな分析が主要メディアに載ることはない。それなりの歴史研究者でも、まともに日ソ共同宣言すら読まずに発言しているケースが散見される。

北方領土問題は非常に多くの論者が論じているが、そもそも領土返還要求は日ソ共同宣言で禁止されており、その一点で成立し得ない。

6.ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国に対し一切の賠償請求権を放棄する。
日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。

但し、例外的に歯舞、色丹が規定されている。
9.日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。
ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。

日本は日ソ共同宣言をもって対ソ講和をなした上、国連加盟が認められたため、これを破棄することはできない。にもかかわらず、択捉、国後の領土要求を行っていることは、本来的には講和条約違反に当たる。これは、日ソ間に平和条約が締結されることを望まないアメリカ側の意向が作用したためで、それ以降、日本政府は北方領土返還要求を行うことで、日ソ・日露と平和条約が締結されないよう、距離を置く外交を続けてきた。
だが、2000年以降、中国の国力が膨張し、ついには日本を上回り、同時にアメリカの覇権に陰りが生じ、アジアからの撤退が検討されるに至り、日本は中国を最大の脅威と見なして対露宥和に転じる。これが、今日の日露外交の基本条件となっているが、国内で反ソ・反露・北方領土返還運動を煽りすぎたせいで、日露関係の改善が難しくなっている。NK党が千島全島の返還を要求する様は、ヴェトナムやアルジェリアからの撤退に反対するフランス共産党を彷彿させる。
なお、「国後、択捉島は千島列島ではなく、北海道の一部」とする現政府の主張の欺瞞性については、こちらを参照されたい。

【参考】官製絵はがきに見る政府の欺瞞

ロシアは3月に大統領選を、日本は9月に自民党大会・総裁選を控え、それぞれ再選が確実視されているとはいえ、慎重になる時期だ。だが、両者が再選されれば、自民党総裁の任期である2021年9月まで安定した交渉期間が確保できることになる。また、2016年12月にプーチン大統領が来日した際に、安倍首相と「2018年を日露文化年とする」と取り決めたので、文化交流が進むだろう。

安倍総理が言う「私とプーチン大統領が終止符を打つ」というのは、「2021年9月までに」と捉えるべきだろう。実際、ロシアで圧倒的なリーダーシップを持つプーチン大統領と、極右派に属しながら衆参両院で絶対多数を握り、政権党内に反対者を持たない安倍総理の二人で解決できなければ、平和的な解決は不可能と判断せざるを得ない。その意味で、安倍氏の判断は正鵠を射ている。

日露関係が期待されるほど進展しないのは、ロシア側がNATOを主敵とし、「欧米日による挟撃」という永年の悪夢を回避するために日露関係の改善を望むのに対し、日本側は中国を最大の脅威と認識し、「対中包囲網」を構築すべく、中露の離間を謀るという非対称要素に主因がある。また、日本は常にホワイトハウスの顔色を伺いながら、「怒られない範囲で」のみ日露交渉に臨めるという限界がある一方、ロシアとしては日米同盟の制限下でしか外交できない日本に対する不信がぬぐえないところがある。例えば、オホーツク海の防衛を重視するロシアにとって、仮に引き渡した北方四島に米軍基地が建設されるとなれば、悪夢でしかないだろう。
プーチン大統領は、たびたび「中露の国境問題の解決には40年を要した」旨を述べているが、要は中露に匹敵する信頼・協力関係はいまだ日露間には無いということなのだ。それだけに、安倍総理の抱えている課題はかなりハードルが高いが、中国に対抗するためには、対露関係の改善は不可欠であり、平和条約は最低条件となる。

現実的には、日本がロシアに提示できる好条件はあまりなく、択捉、国後島の共同開発と、両島の非武装化あたりで手を打つのが関の山だと思われる。この辺については、改めて考えてみたい。
posted by ケン at 12:10| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする