2018年06月20日

骨抜きされた受動喫煙対策法案

【受動喫煙法案、国民民主が規制厳しい対案 厚労委で審議】
 受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案の本格的な審議が13日、衆院厚生労働委員会で始まった。国民民主党は、店舗面積30平方メートル以下のバーやスナック以外の飲食店は原則屋内禁煙(喫煙専用室は設置可)とする、改正案より規制が厳しい対案を提出した。与党は今国会での成立を目指しているが、規制内容をめぐり、意見が対立している。
 加藤勝信厚労相は委員会で、「(改正案は)新たに開設する店を原則屋内禁煙とするなど、対策が段階的に進む実効性のある案だ」と述べ、法改正への理解を求めた。
 改正案は、焦点だった飲食店を原則屋内禁煙とするが、例外的に客席面積100平方メートル以下で個人経営か中小企業の既存店は「喫煙」「分煙」などと表示すれば喫煙を認める。国民が今回出した対案は、より厳しい内容で、施行時期も改正案より前倒しにし、2019年のラグビーワールドカップ開催までとした。
(6月13日、朝日新聞)

「東京五輪の開催前には、国際標準程度には規制する必要がある」として準備されたはずの受動喫煙対策法案だったが、たばこ業界や飲食業界などの強烈なロビー活動が行われた結果、骨抜きにされてしまった。

例えば、飲食店への規制を見た場合、新規開店や客席面積100平方メートル超の飲食店では「原則屋内禁煙」ではあるものの、喫煙専用室を設置すれば喫煙が認められる。他方、「客席100平方メートル以下」で「個人経営や資本金5000万円以下」の既存店の場合、「喫煙可能」とさえ表示すれば、喫煙が認められる。厚生労働省の推計によると、適用が除外される飲食店は55%に上るという。

野党でも対応が分かれた。国民がやや厳しめの対案を示した一方、立憲はたばこ労組や喫茶店組合などからのロビー活動を受け、労組幹部に喫煙者が多いこともあって沈黙している。ある議員に言わせれば、「見ないフリして嵐が通り過ぎるのを待つだけ」とのこと。この連中がどこを見て政治しているか、よく分かるだろう。立憲は最終的に政府案に反対したが、表向きは「政府は生ぬるい」という理由だったが、内実は組合や業界団体の圧力を受けてのものだった。
他方、国民は採決で自党案が否決された後、政府案に賛成したことで、一部から非難を浴びているそうだが、これは「規制が無いよりはマシ」というもので、立憲よりもよほど理性的な判断だった。マスゴミや世論の犠牲者と言えるだろう。

いまやあの喫煙大国だった中国でさえ、屋内完全禁煙が実現され、喫煙者が急減しているというのに、日本では喫煙者や業界団体の既得権が保護され、国民全体の健康は二の次にされている。
posted by ケン at 11:59| Comment(0) | 政治、社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月19日

人手不足で外国人は必要か

【「骨太」素案 外国人労働者拡大へ新資格 最長10年、在留可能に】
 政府は経済財政運営の指針「骨太方針」の素案に、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた新たな在留資格の創設を盛り込んだ。新資格で平成37(2025)年ごろまでに50万人超が必要と想定する。人手不足の深刻化を受け、実質的に単純労働分野での就労を認める方針転換となるが、現行制度でも受け入れ後の生活保護受給者増や悪質な紹介業者の存在など解決すべき課題は山積しており、一筋縄ではいきそうにない。
 政府が検討する受け入れ策によると、農業、建設、宿泊、介護、造船の5分野を対象に、業界ごとに実施する技能と日本語の試験に合格すれば最長5年の新たな在留資格を取得できる。外国人技能実習制度(最長5年)の修了者は試験を免除。技能実習制度から移行した場合は計10年間の滞在が可能となる。
 骨太方針では、新制度を「移民政策とは異なる」と強調。「家族の帯同は基本的に認めない」とも明記したが、新資格で在留中に高度人材と認められれば専門的・技術的分野の資格へ移行でき、本人が希望する限り日本で働き続けられ、家族帯同も可能となる。ただ、日本語能力の不足などから生活保護を受けている外国人は28年度に過去最多を記録。高額な仲介料を徴収する紹介業者も横行している。
 骨太方針では「的確な在留管理・雇用管理を実施する」と掲げたが、なし崩し的な外国人労働者の受け入れ増とならないよう厳格な対応が求められる。
(6月6日、産経新聞)

コンビニと飲食店を見れば一目瞭然だが、需要減退が明白な状態で、安価な労働力を外部から入れて、過剰な供給力を維持しようという試みが、いかなる末路を迎えるかなど、ちょっと想像力を働かせば分かると思うのだが。

確かに現状、どの分野でも人手不足が深刻になってきているが、一方でデフレ傾向が改善されないということは、供給力が需要を上回っている状態が解消されていないことを示している。本来であれば、人手不足が賃金や流通コストなどを上げ、それに伴って物価も上昇、供給を低下させることで需要と供給の均衡が図られるはずだ。実際、パート・アルバイトの賃金は上昇傾向にあるし、物価も上昇傾向にあるものの、コンビニや飲食店などの店舗数については減少傾向にあるものの、大きな変化は認められない。正確には、飲食店数は、2005年の150万軒に対し、2014年で142万軒とやや減。コンビニは2005年の4万軒に対し、2015年で5万3千軒と大幅増。

日本の場合、労働基準法が形骸化しており、超長時間労働や残業代不払いなどのブラック労働が放置されているため、供給を抑制する仕組みが働きにくい。
仮に欧州標準の労働規制がある場合、コンビニや飲食店あるいは様々な分野のブラック企業は成立し得ず、低収益となって廃業あるいは倒産し、余剰労働力が生まれる構造になっているが、日本の場合、不採算の企業でも超長時間労働や残業代の不払いで延命できるため、生産性の低い企業が市場から淘汰されない仕組みになっている。
結果、低収益の企業が労働力も資本も握り続け、成長可能性のある新興企業が労働力の確保に難儀し、成長が抑制される構造に陥っている。これは、まさに1970年代以降のソ連や東欧で見られた現象である。

こうした状況を放置したまま超低賃金の外国人労働者(実質奴隷)だけ導入したのが、外国人技能実習制度だった。その結果、地方の低収益の既存企業が延命したという点では成功したかもしれないが、地場の雇用には何のプラスにも働かず、超低賃金であるために消費にも全く貢献せず、言うなればアナログのオートメーション工場が地方にできただけの話に過ぎなかった。それでも高収益であるならば、自治体に納税することで一定のプラス効果もあったかもしれないが、そもそも外国人奴隷の導入を必要とする企業は、超低賃金の労働力無しでは成立し得ない超低収益構造にあり、納税に期待などできないのが常だった。

今回の政府の新方針は、外国人技能実習制度を全国規模で大々的に拡充しようというものだが、外国人技能実習制度の総括をせぬまま、規模だけ拡大しようというものに過ぎない。これは、誤った認識に基づいて誤った戦略を展開する典型例であり、全国規模で低収益企業の延命を図る上、より大々的に国家規模で人権侵害を行うことになるだろう。
この政府に労働、経済政策を担わせ続けるのは、いかにも不安である。
posted by ケン at 12:19| Comment(2) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月18日

ジューコフ元帥回顧録

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部屋を整理中に発掘されたジューコフ元帥の回顧録、1983年版、50コペイカ。
ジューコフの回想録は、ソ連・ロシアの歴史を象徴する一つである。

ジューコフは農村の靴職人兼農家の家に生まれるも、父があまり働かなかったため、家は常に貧しく、三年間の初等教育のみを経て毛皮職人に徒弟入りした後、一次大戦に一兵卒で従軍、ロシア革命を迎え、赤衛軍に参加した。内戦終結時には、26歳で騎兵連隊長になっているが、殆ど銀英伝のような話である。この間も騎兵学校で半年ほど学んだのと、1929年冬から翌30年春までの半年間、陸軍大学で学んだことだけが、ジューコフが受けた教育らしい教育だった。ちなみに、同僚のイワン・コーネフに至っては初等学校すら出ておらず、同じく一兵卒から赤衛軍民兵を経て軍人となり、元帥まで昇進している。

にもかかわらず、本人は恐ろしいほどの勉強家で、78歳で死去した際には数万冊からの蔵書があったという。回顧録を書き始めたのは、70歳近くなってからで、一年間国防省公文書館に通い詰め、1500点以上の資料を引用、「回顧録自体が歴史書として成立するほどの精度をなしている」というのがロシアの歴史家の評価だ。
だが、この精確さが逆に災いし、当局の厳しい検閲にさらされ、1969年の初版発行に際しては、全体の約半分が当局によって削除、修正されたとされる。
また、1974年のジューコフの逝去に際しては、回顧録を執筆していた別荘をKGBが襲撃、原稿を回収すべく、徹底的な家捜しを行った。しかし、それを予測していた本人が予め親族に原稿を渡して隠すことで、難を逃れている。

その後、ペレストロイカ・グラスノスチを前後して、当局の検閲も緩和され、1980年以降、版を重ねるごとに修正部分が減り、オリジナルに近づいていった。ソ連崩壊後の1992年発行の第11版は、初版の752ページに対して、何と1159ページもあることだけを見ても、どれだけ検閲が入っていたか分かるだろう。ちなみに、写真の1983年版は第5版984ページで、ゴルバチョフが登場する前から「雪解け」が始まっていたことを伺わせる。
なお、2010年の第14版が「完全版」とされるが、960ページしかない。出版社は否定しているようだが、現政府の要求があったのか、自主規制しているのかを示唆している。

朝日新聞社が出した同回顧録の翻訳は、初版に基づいているため(全文では無い)、ソ連学徒としては、1992年の11版か95年の12版を日本語に再訳して欲しいと切に願っている。
posted by ケン at 12:43| Comment(2) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月17日

戦闘民族って何?

自民党の方が「武士道」だの「戦闘民族の再興」だの言っておられるのをニヤニヤしながら聞いてしまった。ソ連学徒的には、リアルな戦闘民族というのは、

「親戚のお婆ちゃん、魔女(女子夜間爆撃隊)だったのよ」
「曾じいさんは、一次大戦、革命内戦、スペイン内戦と二次大戦を戦った」
「これは自分が軍事教官としてキューバにいた時の写真だ」
「自分はアフガニスタンで輸送ヘリのパイロットをしていた」
「コムソモール(共産青年同盟)では、毎夏三週間ほど軍事教練に参加してたから、今でもライフルくらいは撃てるわよ」
「彼女なら一ヶ月ほど前に義勇兵としてセルビアに渡ったよ」
「そこに立ってる彼はチェチェン帰りなんだぜ」

という話が普段の生活に溢れている状態を指すのだけど、自民党の彼はどんなイメージを抱いているのか。確かに自分も理論上は、デモクラシーと国民皆兵は不可分の関係にあるという立場をとっているが、実現性という点ではあまりお勧めしないけどねぇ。
posted by ケン at 12:00| Comment(4) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月16日

数年ぶりにアグリコラ

メンバーの変更があり、当初予定していたゲームができなくなったため、人数調整可能なゲームをということで、T後輩が未プレイということもあり、『アグリコラ』(アークライト)をプレイすることとなった。下手すると、10年ぶり近い。

本作は17世紀のドイツを舞台に、各プレイヤーは農場経営者として、様々な技術を開発し、職能を身につけながら、畑を耕し、小麦や野菜を育て、羊や牛などの牧畜を営んでいく。最終的には、家族の多さ、農地の広さ、家畜の数、技術の進歩度合いを換算して、優劣を競う。

今回は、自分も含めて超久しぶりの人と未経験者しかいなかったため、オリジナルのセットのみで開始。ルールはシンプルだし、目指すところも「畑を耕し種を植え、様々な家畜を飼う」という点で皆共通しているだけに、本質的には難しいところは何も無いはず。
だが、技術カードと職業カードで300枚もあり、うち各々7枚が手札として配られてプレイするわけだが、これをどう扱えば良いのかが難しい。これらは、手番(アクション)とコストを払うことで、通常のアクションでは得られない特典・ボーナスを得ることを目的としている。だが、そこから得られるボーナスが、いかにゲーム目的につながるのかが、非常に判別しにくく、「何を出すべきか」「通常のアクションの方が得かも」というところで頭を悩ますことになる。

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この日はまず3人でプレイし、後にO先輩が加わって4人で2回、計3回プレイして、全てケン先生が勝利するところとなった。O先輩が独自路線を行き、「家畜専科」「カード専科」路線を突き進んで、ともに得点を伸ばせなかったことが大きい。
K先輩とT後輩には、「このゲームはバランスが大事」「いかにマイナスを減らすかを考えてください」と指針は示したつもりだったのだが、お二人とも手が伸びていなかった。

本作は有限確定(手数と選択肢に限りがあり、ダイスなどの運要素が無い)である上、技術カードと職業カードを除けば、完全情報(他プレイヤーが何をする、したか明確)という点、同様にカード以外は同じ状態から始まり、手番数も当初は共通して2アクションで、異なるのは順番と順番に伴う食事駒の数だけなので、誰しもが最適解に近い選択肢(アクション)を採りうる作品のはずだ。
要は、畑を耕して種をまき、柵で囲んで牧場をつくって家畜を飼い、家を建てて家族を増やすことが目的であり、それを最も効率よく達成した者が勝利するという話である。ただし、他プレイヤーが先に選択したアクションは選べないため、常に次善の策を準備しておく必要があるが、本当に必要なアクションがある場合には、先にスタート・プレイヤーを採るアクションをすれば良い。
これがなかなか「言うは易し」のようで、だからこそデザイナー氏はソロプレイで鍛えることを推奨しているのだが・・・・・・

今回プレイして思ったのは、「投入できるリソースが明確」「勝利目標が明確」「選択肢が(比較的)明確」という点。これらはどのゲームをプレイするにしても必要な要素・能力・思考パターンであるだけに、ゲームプレイヤーとしての基礎能力を鍛えるには非常に良い作品ではないかと考えている。
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | ゲーム、囲碁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月15日

終焉に向かう東アジア冷戦・下

前回の続き)
霞ヶ関と自民党は、冷戦期における東欧諸国の政府と共産党と相似形にあり、宗主国アメリカの庇護がなければ本質的に存続し得ない。彼らの統治者としての正統性は、アメリカによって担保されているに過ぎないからだ。確かに日本では形式的に選挙が行われているものの、投票率は国政選挙で5割、自治体選挙で3割という始末で実態を伴っていない。その支配の正統性の担保が在日米軍であり、その撤退はアジア冷戦構造の終焉と、衛星国日本の体制崩壊を意味する。
それだけに、安倍政権と外務省は必死になって米朝会談の妨害を行ってきたが、失敗に終わった。

さらに近代日本の歴史を俯瞰した場合、日清、日露、シベリア(出兵)、太平洋戦争、さらには見方によっては日中戦争を含めて、帝政日本が起こした戦争の殆どは「やられる前にやってしまえ!」の発想に始まっていた。行動経済学的には、「10%でも損失ゼロにできる可能性があるならやるべきだ」という損失回避の法則から説明できる。

日清戦争の「勝利」を検証する 
日露開戦の代償−開戦経緯を再検証する 

日本では「シベリア出兵」として知られる「極東介入戦争」の場合、1917年の二月革命と十月革命によってロマノフ朝が瓦解し、ボリシェヴィキ政権が樹立する。ロシアの大戦からの脱落と東部戦線の崩壊を恐れた連合国は、ボリシェヴィキ政権を打倒すべく、軍事介入を決断する。日本は日本で、朝鮮と満州の利権を確立しつつ、シベリアに影響力を拡大、さらにロシアとの緩衝地帯を設けるべく、シベリアに傀儡政権を打ち立てることを視野に、宣戦布告無しでシベリアに侵攻した。日露戦争で排除しきれなかったロシアの軍事的脅威を完全に排除する目途もあった。「ロシアが復讐してくる前に先に仕掛けるべきだ」という議論は、当時も盛んになされた。
日本では学校でまともに教わることも無く、しかも「出兵」などとされているが、ロシア人的には全く言われ無き侵略であり、その死傷者は民間人を含めて50万人以上に上った。

現行の政府は明治政府の後継者であり、帝政や敗戦の反省を経ずに成立しているため、基本的な行動様式や思考パターンは継承している。従って、現状のまま米朝和解と朝鮮戦争の終結が進んだ場合、霞ヶ関や自民党は「アメリカがアジアから手を引く前に中国に仕掛けるべきだ」と考えるのが妥当だろう。その可能性は、以前なら0.1%以下だったものが、今では5%程度には上がっているはずで、その確率は今後さらに高まってゆくものと考えられる。
同時に、北朝鮮で核廃棄が(たとえゆっくりでも)進められる一方で、日本国内では急速に核武装論が浮上してくると見られる。単独で中朝韓と対峙する選択を採る以上、まず避けられそうにない。つまり、北朝鮮が脱重武装を進める一方で、日本が重武装と独裁を強めて行く可能性が非常に高い(今のところ7割くらい)。ケン先生が先手を打って亡命を決断した一因でもある。

現実に話を戻すと、冒頭の記事にあるように、アメリカと北朝鮮には核廃棄の資金を自前で出すつもりはサラサラなく、韓国と日本に丸投げしようとしている。韓国側では大きな問題にならないかもしれないが、日本側では「拉致問題が解決してないのに泥棒に追銭をくれるのか!」と世論が激高する恐れがある。そもそも、日本政府は米朝和解の可能性から目をそらし続け、会談も失敗すると言い続けてきた経緯があるだけに、どのように説明しても苦しいものにしかならない。
本来であれば、南北対立の終焉と武装解除をもってミサイル防衛システムも不要となるのだから、アメリカから買い付けているMDの予算を転用すれば良いだけのはずである。だが、霞ヶ関にとってはアメリカの歓心を買い続けることこそが至上命題である以上、「ミサイル防衛を止めます」とは言わないだろう。
その場合、財政難の政府としては増税で対応する他ないが、世論の納得を得るのは至難だろう。場合によっては、倒閣運動が起こって、より好戦的な内閣が成立する可能性もある。この点、ソ連・ロシアに対する敵意を煽り続けた結果、北方領土問題で妥協できなくなっている日露関係とよく似ている。

今回の米朝会談は、個別の議題や結果に囚われすぎることなく、「アメリカ覇権の衰退」「グローバリズムの終焉と地域ブロック化」「日本の衰退と孤立」などの大きい視点から俯瞰しないと、全体像を見失うことになるだろう。
posted by ケン at 00:00| Comment(7) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月14日

終焉に向かう東アジア冷戦・上

【非核化費用「韓国と日本が」 トランプ氏が会見で強調】
 トランプ米大統領は12日、シンガポールで行われた米朝首脳会談後の記者会見で、北朝鮮の非核化で必要となる費用について、「韓国と日本が大いに助けてくれる」と述べた。
 北朝鮮は制裁を受けており、費用を払えるのかと記者が質問。トランプ氏は「韓国と日本が大いに助けてくれると私は思う。彼らには用意があると思う」と答えた。さらに、「米国はあらゆる場所で大きな金額を支払い続けている。韓国と日本は(北朝鮮の)お隣だ」と強調した。
 トランプ氏は先月24日、米朝首脳会談の開催を取りやめるといったん発表した際にも、「不幸にも米国が軍事作戦を取る場合、韓国と日本はあらゆる財政負担を喜んでしてくれる」としていた。
(6月12日、朝日新聞)

日本国内では米朝会談・セントーサ合意は「失敗」「成果無し」と評価する向きが強いが、これは政府あるいは官邸の意向を忖度したものと見るべきだろう。
・相互に信頼し、非核化を進める
・新しい米朝関係を築く
・平和体制の構築に努める
・4月の「板門店宣言」を再確認し、北朝鮮は非核化に努める
・両国は捕虜や行方不明兵の遺骨回収に努める
・米朝首脳会談は画期的で新しい未来を始めるものだと認識する
・ポンペオ米国務長官と北朝鮮高官がフォローする交渉をできる限り早く開く
(朝日新聞より)

確かに合意文書は具体的内容に欠けている。だが、例えば1989年12月にソ連のゴルバチョフ書記長と米ブッシュ大統領が行ったマルタ会談では、「冷戦の終結宣言」以外に特段の具体的合意は交わされなかったが、現実に東西冷戦の終結を象徴するものとなった。今回の米朝会談も「儀式に過ぎない」「トランプ氏の目立ちたがりだけ」などの批判が多く見られるが、政治はそもそも宗教儀式の延長として生まれた概念であることを鑑みても、ショー的要素は意外と重要なのだ。
例えば、今回の合意にある「板門店宣言を再確認」で考えた場合、
北と南は、停戦協定締結65年になる今年に終戦を宣言して停戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制構築のための北・南・米の3者、または北・南・中・米の4者会談の開催を積極的に推し進めていくことにした。
(4月28日、朝鮮中央通信)

とあるように、明確に「朝鮮戦争の終結」を謳っている。再確認したということは、今年中に終戦宣言を行って、平和条約を締結する方針に変わりは無いことを意味する。それが今回の会談で行われなかったからと言って、騒ぎ立てるほどのものではない。

また、記者会見に際してトランプ大統領は、「戦争ゲームをやめる。膨大な量の金を節約できる」と述べ、米韓軍事演習の停止を宣言、将来的な在韓米軍の縮小、撤退の可能性にも言及した。
トランプ大統領の目的は、北朝鮮の核廃棄によって自国の安全を担保しつつ、同時に東アジア全域におけるアメリカの軍事的負担を縮減することにあると考えられる。これは、ゴルバチョフ氏が、財政上の理由から、東欧全域よりソ連軍を撤退させた経緯と酷似している。
米中間の敵対関係が望ましくない以上、アメリカにとってアジア諸国にある米軍の存在はリスクでしかなく、そこに重い財政負担が掛かっているのであれば、真っ先にリストラすべき対象なのだ。ビジネスライクに考えれば、なおさら妥当な判断である。
その決断が、従来できなかったのは、オバマ氏やヒラリー氏のような米民主党系人脈の方が、軍産複合体と近かったことに起因していると考えられる。
なお、在韓米軍は朝鮮戦争に際して介入した国連軍の一部ということで、停戦監視の名目で駐留しているだけに、朝鮮戦争の終結によって駐留の根拠が失われることになる。

極論すれば、南北朝鮮が平和裏に統一を果たすか、安定的な共存体制ができて、中国の影響圏に入って核兵器も中国のコントロール下に置かれるのであれば、実際に朝鮮半島から核兵器が撤去されるかどうかについては、米国の利害には関係ないところとなる。トランプ氏が、いわゆるCVIDにこだわらないのは、実はそこは最重要ではないと考えるのが自然なのだ。

ところが、これが日本(自民党・霞ヶ関)にとっては最悪の状況となる。
本ブログでは何度も触れているが、朝鮮戦争の終結は冷戦構造の変化を意味するもので、冷戦の最前線が北緯38度線から日本海に移ることになる。従来は、韓国を盾となして、米軍が矛となって中朝軍を撃退する戦略が採られており、日本は後方基地の役割をなすだけで良かった。そのため、韓国のような重武装を持つ必要は無く、軍事負担を軽くしたまま国内のインフラ整備と産業振興に予算を回し、高度成長の基礎を築いた。
その後、冷戦構造の変化によって、1990年代より海外派兵能力を持つようになり、2000年代に入ると中国の隆盛を受けて海空戦力の強化に努めるようになった。しかし、いずれの場合も、あくまでも従来の構造を前提としており、朝鮮戦争の終結は想定していなかった。

朝鮮戦争の終結は、在韓米軍の撤退と朝鮮半島の中国圏(新中華帝国)入りに直結する。韓国は従来、北朝鮮などとの対抗上、日本に戦後補償などについて大きく譲歩してきたが、南北対立が解消した場合、中華圏入りによって日本よりもはるかに大きい市場を獲得できることもあり、日本に遠慮する必要が無くなる。一方、日本は衰退傾向の中で、中国や朝鮮に対する差別意識を一層強めており、日本と朝韓間の対立は今後さらに激化して行くものと見られる。
1980年代までは、日本は有効な海軍力を持たないソ連を仮想敵とし、90年代後半から2000年代始めには北朝鮮、2000年代後半以降は北朝鮮と中国を仮想敵としていた。しかし、今後は韓国が同盟から抜けて中国側に付き、日本は中朝韓と単独で最前線を維持する必要が生じている。だからこそ、安倍政権は必死になってロシアの抱き込みを図っているのだが、ロシア側に足下を見られると同時に、日本側の不誠実もあって、上手くはいっていない。
以下続く
posted by ケン at 12:57| Comment(0) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする