2018年07月19日

自由貿易体制を盲信する日本政府

【自由貿易体制への挑戦=米保護主義を懸念―通商白書】
 世耕弘成経済産業相は10日の閣議に、2018年版の通商白書を報告した。「グローバル経済は、世界貿易機関(WTO)に基づく自由貿易体制に対する挑戦など(を受け)、大きな転換点にある」として、名指しを避けつつも保護主義的なトランプ米政権の貿易政策に懸念を表明。中国とのハイテク摩擦にも触れ、「自由で公正な高いレベルの通商ルールの構築の重要性が高まっている」と訴えた。白書は、安全保障上の脅威を理由に米国が発動した鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置について「日本製品は米国の安全保障に悪影響を与えず、米国の産業や雇用に貢献している」と反論、全面的な適用除外を求めていると説明した。 
(7月10日、時事通信)

政府の説明では、「安倍総理がトランプ大統領に対して懇切丁寧に自由貿易の重要性を説いてご理解いただく」とのことだったが、アメリカはますます保護貿易に突き進んでいる。そもそもトランプ大統領は、オバマ・クリントンのグローバリズム・覇権派に対するアンチテーゼを掲げて当選した経緯があるだけに、自由貿易支持に転じた場合、自らの正統性を失うことになる。国内の反グローバリズム勢力から支持を得ているからこそ、トランプ氏は大統領の権威を保持できるのであって、彼らからの支持を失えば、レームダックと化すだろう。事実、トランプ氏の保護貿易政策は国内から一定の支持を得ているが、ウォールストリートの支配下にあるアメリカの報道陣は批判的な視点からの記事しか書かないため、なかなか実像が伝わらない。

これまでリベラル・デモクラシーによる国際秩序が保たれていたのは、そのイデオロギーが優越していたからでは無く、西側陣営の軍事力が世界を圧倒していたからであり、その中心にいたのがアメリカだった。自由貿易体制を護持するためには、アメリカ(米帝)による覇権が不可欠なのだが、アメリカはその覇権が維持できなくなりつつある。覇権を維持するためには、他を圧倒する経済力と軍事力が必要だが、米中の経済力は拮抗しつつある一方、アメリカはその軍事力が維持できなくなっている。

同時に、自由貿易は、その交渉力の差から経済力の大きい国あるいは人が一方的に有利になるシステムであるため、貧困と経済格差を拡大させる効果があり、その矛盾は大国ほど深刻になる。
例えば、日本でも農業や漁業が産業として成立しがたいのは、価格の交渉単位が農漁業者が個人あるいは組合であるのに対して、食糧メジャーは国内に数社しかない大企業であり、自由交渉では圧倒的な不平等が生じているためだ。これは、世界レベルでも言えることで、西側自由貿易体制は、圧倒的な資金力を持ち、アメリカの軍事力を担保にしている資源メジャーが、旧植民地・第三世界から資源や労働力を不当に安く買い叩き、高い付加価値を付けて売りつけることで膨大な利潤を得ることによって成立していた。だが、中間国が工業化を遂げ、経済発展したことで、労働賃金や資源価格が相対的に上昇していった。同時に資金供給が常に過剰となり、利息が低下を続け、いまやマイナス金利すら当たり前となっている。そのため、先進国では利潤を上げ続けるためには、国内で労働力や資本を収奪するほかなくなっている。

アメリカの場合、資源価格の高騰を受けて、労働コストを削減するために工場を海外に移転させたことによって国内の疲弊が始まり、利潤低下を受けて国民を借金漬けにする政策が採られ、金融バブルと低所得層に対する住宅販売を組み合わせたサブプライム・ローン問題を引き起こした。結果、アメリカのある経済サイトの調査では市民8人のうち3人が破産寸前まで借金しているという。
資本主義と自由貿易は、必ず内部矛盾を抱え、その矛盾は解決する術が無く肥大化、崩壊して行くというマルクスの予言は150年以上の時を経て的中しつつある。

2017年の米中貿易におけるアメリカ側の赤字額は7962億ドル(約86兆8千億円)に上り、過去最高を更新している。「もはや自由貿易はアメリカにとって不利なシステムである」というのが、トランプ氏と支持者の認識であり、アメリカの多数派を占めている。だが、日中貿易もまた、2012年から16年まで5年連続で赤字が続いており、2017年には均衡を取り戻したものの、先行きは暗いだろう。少なくとも、日本にとって「日中間の自由貿易は絶対的に日本に有利である」とは言えなくなりつつある。
技術的優位を失いつつあると同時に、資源調達でも割高になっている日本は、輸出上の優位を失いつつある。その日本がこの期に及んで自由貿易を主張し続ければ、いざ不利になった時に看板を下ろしづらくなるだろう。
同時に、自由貿易と自由市場が国内の貧困や経済格差を助長している。政府呼称「働き方改革」は、労働規制の大幅緩和=自由化を意味するが、これも貧困と格差を助長するものでしかない。これが放置された場合、マルクスの予言が、日本でも実現する日は遠くなさそうだ。

自由が人を幸福にする時代は終わったのである。
posted by ケン at 14:35| Comment(2) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする