2019年08月20日

在日米軍が撤退する日

【米軍駐留費、交渉難航か=負担増要求、反論の構え−政府】
 トランプ米政権が、同盟国に米軍駐留経費の大幅負担増を要求してくる可能性があるとして、日本政府内に警戒感が高まってきた。
 日本側は「思いやり予算」で既に十分な負担をしていると反論する構えだが、2020年度末に期限が切れる特別協定改定交渉は難航も予想される。
 岩屋毅防衛相は12日の記者会見で「現在、(駐留経費の)相当な部分を負担している。厳しい財政状況もあり、(米側の)理解をいただくべく、しっかり交渉したい」と述べた。
 問題の発端は米通信社が8日、トランプ政権が日本やドイツなどの同盟国に対し、米軍駐留の恩恵を受けている対価として経費総額に「5割を上乗せした額」を支払うよう要求することを検討していると報じたことだ。これを受け、にわかに駐留経費問題が浮上した。
 日本は1978年度以降、米軍施設で働く労働者の福利費や施設労働者の給与、光熱水費など在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)を開始した。2019年度予算案では1974億円に上る。
 04年に米国防総省が発表した米軍駐留各国の経費負担割合によると、日本は74.5%で最大。韓国は40%、ドイツは32.6%だった。日本の負担割合は他に比べて高いとはいえ、「5割上乗せ」となると金額も跳ね上がる。
 思いやり予算を定める特別協定改定に向けた日米交渉は、来年からスタートする見込みだが、来年はトランプ大統領が再選を目指す大統領選が行われる。同盟国に対する駐留経費の負担増要求はトランプ氏の持論。交渉では米側が選挙を意識し、対日強硬姿勢を強める可能性もある。
(3月13日、時事通信)

【大統領の米軍駐留費負担増の要求は「途方もなく愚か」−米下院委員長】
 トランプ米大統領は米軍が駐留する国に駐留経費全額プラス5割の支払いを求める考えだとされているが、米下院軍事委員長はこの案を「途方もなく愚かなアプローチ」だと評した。
 アダム・スミス委員長(民主、ワシントン州)は13日の同委公聴会で、「米国は同盟国に対し、駐留経費全額プラス5割を支払ってほしいと本当に言うのだろうか?」と疑問を投げ掛け、「はっきり言っておくが、これが本当なら途方もなく愚かなアプローチだ」と述べた。
 政権当局者や計画について報告を受けた関係者十数人が明らかにしたところでは、ホワイトハウスの指示の下、トランプ政権はドイツと日本、最終的には米軍が展開する全ての国に対する要求案の策定を進めており、駐留経費全額に加え、米軍の駐留で恩恵を受けている対価としてプラス50%以上の支払いを求める方針だという。この「費用プラス50%」方式により、駐留経費負担として現在米国に支払っている額の5−6倍の拠出を要求される国も出てくる可能性がある。

ちょうどまさに「在日米軍が撤退する日」というテーマで中国の某紙から原稿依頼を受けていたので、絶妙なタイミングとなった。過去ログを参照しながら、再確認したい。

昨年6月12日、トランプ米合衆国大統領と、金正恩朝鮮民主主義人民共和国国務委員長は、シンガポール・セントーサにおいて歴史的な会談を行った。その記者会見においてトランプ大統領は、「戦争ゲームをやめる。膨大な量の金を節約できる」と述べ、米韓軍事演習の停止を宣言、将来的な在韓米軍の縮小、撤退の可能性にも言及した。トランプ大統領の目的は、北朝鮮の核廃棄によって自国の安全を担保しつつ、同時に東アジア全域におけるアメリカの軍事的負担を縮減することにあると考えられる。これは、冷戦期のゴルバチョフソ連共産党書記長が、財政上の理由から、東欧全域よりソ連軍を撤退させた経緯と酷似している。

米中間の敵対関係が望ましくない以上、アメリカにとってアジア諸国にある米軍の存在はリスクでしかなく、そこに重い財政負担が掛かっているのであれば、真っ先にリストラすべき対象なのだ。ビジネスライクに考えれば、なおさら妥当な判断である。その決断が、従来できなかったのは、オバマ氏やヒラリー氏のような米民主党系人脈の方が、軍産複合体と近かったことに起因していると考えられる。なお、在韓米軍は朝鮮戦争に際して介入した国連軍の一部ということで、停戦監視の名目で駐留しているだけに、朝鮮戦争の終結によって駐留の根拠が失われることになる。

極論すれば、南北朝鮮が平和裏に統一を果たすか、安定的な共存体制ができて、中国の影響圏に入って核兵器も中国のコントロール下に置かれるのであれば、実際に朝鮮半島から核兵器が撤去されるかどうかについては、米国の利害には関係ないところとなる。トランプ氏が、いわゆるCVIDにこだわらないのは、実はそこは最重要ではないと考えるのが自然なのだ。

ところが、これが日本(政府)にとっては最悪の状況となる。朝鮮戦争の終結は冷戦構造の変化を意味するもので、冷戦の最前線が北緯38度線から日本海に移ることになる。従来は、韓国を盾となして、米軍が矛となって中朝軍を撃退する戦略が採られており、日本は後方基地の役割をなすだけで良かった。そのため、韓国のような重武装を持つ必要は無く、軍事負担を軽くしたまま国内のインフラ整備と産業振興に予算を回し、高度成長の基礎を築いた。
その後、冷戦構造の変化によって、日本は1990年代より海外派兵能力を持つようになり、2000年代に入ると中国の隆盛を受けて海空戦力の強化に努めるようになった。しかし、いずれの場合も、あくまでも従来の構造を前提としており、朝鮮戦争の終結は想定していなかった。

朝鮮戦争の終結は、在韓米軍の撤退と朝鮮半島の中華圏入りに直結する。韓国は従来、北朝鮮などとの対抗上、日本に戦後補償などについて大きく譲歩してきたが、南北対立が解消した場合、中華圏入りによって日本よりもはるかに大きい市場を獲得できることもあり、日本に遠慮する必要が無くなる。一方、日本は衰退傾向の中で、中国や朝鮮に対する差別意識を一層強めており、日本と朝韓間の対立は今後さらに激化して行くものと見られる。
1980年代まで日本は有効な海軍力を持たないソ連を仮想敵とし、90年代後半から2000年代始めには北朝鮮を仮想敵国と見なし、2000年代後半以降は北朝鮮と中国を仮想敵としていた。しかし、今後、韓国が西側陣営から離脱して中国側に付いた場合、日本は中朝韓と単独で最前線を維持する必要が生じている。だからこそ、安倍政権は必死になってロシアの抱き込みを図っていると見るべきだ。

霞ヶ関と自民党は、冷戦期における東欧諸国の政府と共産党と相似形にあり、宗主国アメリカの庇護がなければ本質的に存続し得ない。彼らの統治者としての正統性は、アメリカによって担保されているに過ぎないからだ。確かに日本では形式的に選挙が行われているものの、投票率は国政選挙で5割、自治体選挙で3割という始末で議会制民主主義の実態が伴っていない。現行体制の支配の正統性の担保は在日米軍であり、その撤退はアジア冷戦構造の終焉と、衛星国日本の体制転換をもたらすだろう。だからこそ、日本政府は国際的に見て圧倒的に高い自己負担率をもって在日米軍を引き留めている。しかし、いまや在日米軍の撤退は時間の問題となっている。

その最大の理由は予算上の問題と費用対効果である。在日米軍駐留経費を見た場合、2016年度の在日米軍駐留経費は約21億ドルで、日本政府はこのうち約18億ドルを「思いやり予算」として負担、負担率は8割に上る。これは韓国の5割、ドイツの3割に比して圧倒的に高い。同時に、駐留規模そのものが大きいため、負担額そのものも大きくなっている。しかし、これはあくまでも駐留経費に過ぎず、アメリカ連邦政府は作戦経費などを含めて、在日米軍に55億ドルの予算を計上している。なお、日本政府による在日米軍経費は、「思いやり予算」を含めて7642億円を計上している(2016年)。

他方、2019年会計年度の米国の国防予算は国外作戦経費を含めて6860億ドル、連邦予算の歳出は4兆4070億ドルで国防費が占める割合は15.6%に上っている。一般的に国家予算に占める軍事費の割合は10%以下に抑えるのが妥当と言われており、20%を超えると破滅的状況とされる。しかも、財政赤字は9840億ドルに達しており、これも危険な状態にある。
1980年代後半におけるソ連の国防費の割合は約16%で(諸説ある)、その負担を減らすために軍縮と東欧諸国やアフガニスタンからの撤兵を進めたことを考えれば、同じ状況にあることが分かるだろう。

特に、アフガニスタン戦争以降、対テロ戦争を推進したことで、国防費が高止まりしていることは傾注されるべきだ。2001年に3160億ドルだった国防費は、2010年に6910億ドルをピークとし、今日に至っている。現行の対テロ戦争を推進するためには、同レベルかそれ以上の予算が必要になるが、果たして投入したコストに見合うだけの費用対効果を得られているのかと言えば、十分に検証されていないのが現状だ。高止まりしている国防費をいかに削減するかは、トランプ氏に限らずアメリカ大統領にとって最大の課題となっている。
米国内では貧困問題が深刻化しており、例えば貧困層向けの食糧配給システムである「フードスタンプ」の利用者はすでに5千万人を超えており、米国の人口のほぼ6人に1人に相当する。また、医療保険未加入者も5千万人近くいるとされている。国内で「食うや食わず」の国民が蔓延しているのに、覇権も国際貢献も支持されないのは当然だ。

在日米軍についても同様で、本来、ソ連と対峙するための前線基地として、日本を機能させてきたわけだが、いまや米国は経済も財政も中国に依存する形で成り立っており、中国と戦争するメリットは何一つ無い。それどころか、中国が米国債を一斉に売り出せば、米国債が暴落して、まともに戦費も賄えない状況に陥るだけに、デメリットしか無い。第二次世界大戦において、日本が敗北を喫した大きな理由の一つに「戦費を自国内で賄うしか無かった」というものがあることを知るべきだ。結果、巨大な軍事基地を日本に置いておくことについて、ますます説明が難しくなっている。

ここで日本の防衛費を見てみると、2018年度の防衛予算は5兆1911億円で、歳出の5.3%を占めるに過ぎない。宗主国のアメリカが、連邦予算の15%を軍事費に投入しているのに、衛星国である日本は同5%という有様であり、これではトランプ大統領に「安全保障のただ乗り」と言われても仕方ないだろう。これは、NATOにも言えることで、NATOの加盟国は少なくともGDPの2%を軍事費に投じなければならないという取り決めがあるにもかかわらず、それを満たしているのは、2013年度でアメリカ、イギリス、ギリシア、エストニアの四カ国に過ぎなかった。つまり、「対ソ・対ロ集団安全保障」と言う割に、その軍事的責務を全うしているのはごく少数で、大多数はアメリカの軍事力に依存して、自国経済を優先していることが分かる。

こうした背景を知らないと、「またトランプがとんでもないことを言い出した」という評価になってしまうが、トランプ氏は改革者として合理的発想に基づいて、あまりにも当然のことを主張しているに過ぎない。
逆に米民主党は、党内大分裂中ではあるが、相も変わらず覇権主義を唱えており、連中こそが軍産複合体の利益代弁者であることを示している。

もう一つは、軍事的視点である。米軍は、中国から先制攻撃された時に、被害を最小限に食い止めるために日本から離れ、十分で安全な距離を保つ必要性がある。これは湾岸戦争以降、アメリカ軍のドクトリンの基礎となっている。敵の第一撃を交わした後、圧倒的な空軍力で航空優勢を確保、その後に陸上兵力を投入するという発想だ。
日本で言えば、1993年の細川内閣の頃からアメリカ側の要請もあって「常時駐留なき日米安保」が議論されてきたが、話題に上るたびに潰されてきた経緯がある。2006年の米軍再編協議の中で、沖縄の米軍海兵隊はその大半を2014年までにグアム島に移転することで合意されたが、その後遅々として進んでいない。これは、中国からの第一撃を受ける可能性がある場所に基地を置くべきではないという、米軍のドクトリンに基づいた合理的判断だったはずだが、政治的判断が優先されて先送りにされている。しかし、その間に中国の海空軍力はますます強化されており、沖縄に基地を置くことで米軍人とその家族を危険にさらす状態になっている。今後、中国の空軍力がさらに強化されれば、沖縄に基地を置いておくことは、軍事的にはなおのこと望ましくない。

また、台湾に親中政権が成立して、中台統合が実現、人民解放軍が台湾に進駐した場合、「東シナ海のシーレーンを守る」という日米の政治的目的も達成不可能になり、台湾の航空基地から直接攻撃を受ける危険も出てくるだろう。この場合は、在日米軍基地そのものが「日本を守る」という政治目的以外の意味を失ってしまうことになる。しかし、米軍はあくまでもアメリカの安全保障に貢献するために存在するもので、アメリカがハワイやグアムを危険にさらしてまでリスクを取るメリットは無いだろう。
「日米安保はもっと強固だろう」という反論はあるかもしれない。だが、F-22を日本に売ろうとした米政府の企図を連邦議会が止めたのは、「中国に技術が流れてしまうリスクがある」という理由からだったことを考えれば、過大視すべきではない。

2月末に行われた米朝首脳ハノイ会談については、日本では「交渉決裂」と報道されているが、米朝交渉の枠組みは存続しており、悲観的に見る必要は無いと考える。米ソ冷戦の終結についても、1986年のレイキャビク会談においてソ連のゴルバチョフ共産党書記長とアメリカのレーガン大統領が会見して「決裂」したものの、1989年のマルタ会談で「冷戦終結」が宣言されている。
一つの会談の結果に囚われすぎることなく、「アメリカ覇権の衰退」「グローバリズムの終焉と地域ブロック化」「日本の衰退と孤立」などの大きい視点から俯瞰しないと、全体像を見失うことになるだろう。

【追記、参考、8月21日】
 米国が南シナ海や東シナ海で中国と軍事衝突した場合に米軍が米領グアムまで一時移動し、沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ軍事戦略上の海上ライン「第1列島線」の防衛を同盟国の日本などに委ねる案が検討されていることが15日分かった。昨年7月に陸上幕僚長を退職した岩田清文氏がワシントンのシンポジウムで明らかにした。
 米軍を中国近海に寄せ付けない中国の「接近拒否戦略」に対応するためで、中国が開発した「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「東風21D」による空母撃沈を避ける狙いがある。実際にこの案が採用されれば、自衛隊の役割拡大が求められるのは確実だ。
(2017.9.16、共同通信)
posted by ケン at 00:00| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする