2014年06月10日

カジノ法という焦土政策

【カジノ法案今国会見送り 自民、集団的自衛権で公明に配慮】
 自民党は4日、カジノを中心とした複合型リゾート施設(IR)の整備を政府に促す推進法案について、今国会での成立を見送る方針を決めた。公明党や民主党が治安悪化などの懸念を理由に成立に慎重姿勢を崩さないためで、衆院で継続審議扱いとする。集団的自衛権の行使容認をめぐり協議を進めている公明党に配慮する狙いもある。推進法案は、IRの整備推進が地域経済の活性化や財政改善につながるとして、法案成立から1年以内に政府が施設整備に向けた関連法を定めることを義務付ける内容。カジノの合法化を目指す超党派の「国際観光産業振興議員連盟」が策定、自民党と日本維新の会、生活の党が昨年12月の臨時国会に共同提出した。自民党は今国会中の法案の成立を目指し、10日の衆院内閣委理事懇談会で法案の審議入りを提案する方針だ。安倍晋三首相も5月30日にシンガポールでカジノを視察し、「成長戦略の目玉になる」とカジノ合法化に強い意欲を示していた。
 一方、公明党は「私は慎重だ」(井上義久幹事長)という意見が多く、民主党内も賛否が割れている。法案を審議する内閣委員会のうち、参院の委員長はカジノ合法化に反対する日本教職員組合(日教組)出身の水岡俊一元首相補佐官(民主)が務めている。自民党からも、公明党が集団的自衛権の行使容認に慎重な姿勢を崩さないことから、「公明党が嫌がる2つを同時並行でやることは控えるべきだ」(閣僚経験者)などとして、法案の成立を急ぐべきではないとの慎重論が出ていた。6月22日までの今国会の会期を延長しない方針でもあるため、「今国会は衆院で審議入りだけ済ませ、法案を参院に送らずに廃案を避ける」(同党国対幹部)方向で調整している。
(産経新聞、6月5日)

最終的に提出が見送られたものの、カジノ法案は今国会で最も悪質かもしれない。国民生活に対する直接的なダメージで言えば、児ポ法改正案よりも酷いだろう。カジノ法案は何重にも問題がある。
第一に、日本におけるギャンブル依存症の割合は飛び抜けて高いことが挙げられる。2012年に厚生労働省が行った調査によれば、米欧諸国におけるギャンブル依存症の割合が1%前後であるのに対して、日本では5.6%にも達しており、実数で言えば550万人以上に上るという。そして、その8割がパチンコによるものと考えられている。心療内科医に依存症として認定された人がそれだけいるということは、その倍以上の人が「依存症予備軍」にあると見て良い。また、同依存症患者の中で、賭博資金を得るために窃盗や横領などの違法行為に走った経験のあるものの割合は、男性で63%、女性で31%に上り、ギャンブル中毒と犯罪の密接な関係を証明している(厚労省調べ)。
競馬であろうがパチンコであろうが、一度依存症になってしまえば、それは「ゲーム」ではなく、「半永久的に続く中毒患者からの収奪」になってしまう。最近では競馬場などに銀行のATMなどが存在するのだから、むしろ中毒と収奪を促進している観すらある。
一般論で言えば、正業に就いている者はパチンコや競馬・競輪等に通うヒマなどあるはずもなく、現実には就業が不安定な低所得層や主婦、高齢者ほどギャンブルにはまりやすい構造になっている。
他方、例えばカジノを合法としている欧米諸国ではデポジット制を採用しているところが少なくなく、その場合、一定額を先に納めることが入場の条件となっており、貧困者の入場規制や中毒対策への配慮がなされているが、日本では一切採用されていない。
同法案には「賭博依存症対策の充実」が盛り込まれているが、これなどは「労働時間規制撤廃法案(残業代ゼロ法案)」と「過労死防止法案」のカップリングを想起させる醜悪さを示している。
国際的に見て深刻なギャンブル依存症の現状を放置したままカジノを導入することは、多少経済成長に貢献したとしても、最終的には中低所得層からの収奪と国民精神の荒廃を促進させる結果に終わるだろう。

第二に、パチンコが警察に巨大な天下り先をつくって利権となり腐敗の温床となっているところに、さらにカジノが合法化されれば、またぞろ警察と経産省の利権となってしまうだろう。特に本法案は原発利権の代替として経済産業省が、観光利権として国土交通省が強硬に推進してきた経緯があり、その点でも悪質さが際立っている。

第三に刑法における賭博罪との整合性がある。刑法は明確に賭博を禁止している。
【第185条】 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

【第186条】 1.常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。 2.賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

ところが、実態としてはパチンコや公営ギャンブル(競馬、競輪、宝くじ、サッカーくじ等)が合法化されている。これは、パチンコが風営法の管轄下で「賭博ではなくゲーム」として扱うといった抜け道が採られたり(風営法が保健所ではなく警察の管轄というのも日本の特殊性)、競馬法などの特別法によって国務大臣の下で「公たる主体」「公たる目的」「公たる監督」という条件で例外的な合法化が果たされていることによる。その結果として、「財産権の侵害」や「社会道徳(勤労の美風)に違背」には該当しないというのが現行政府の考え方となっている。
が、ここだけ見ても相当にインチキ臭い議論で、かつ結果的に省庁の利権を確保するために賭博の一部合法化がなされていることが分かるだろう。「公営賭博はOKだけど、私的な賭博はダメ、だけどパチンコはゲームだから!」などという論理を述べるものが、社会道徳や財産権を云々したところで全く説得力が無い。要はマルクス的に言えば、国家による収奪の一形態なのだ。そもそも「公たる目的」で開かれる賭場って何?
これは今度はパチンコだけでなく、民営カジノまで「例外」適用を拡大し、しかもその理由が「地域振興」「成長戦略」というのだから、話にならない。今回の法案はプログラム法なので詳細は明記されていないものの、基本的な考え方はカジノの施行主体は国だが運営を民間委託するという方法が想定されているようだ。ほとんど集団的自衛権の解釈改憲のような話である。

法の整合性を優先するならば、刑法の賭博罪の規定を削除するのが筋であり、その上で公営賭博は全て民営化して、政府の関与を一切排除すべきだろう。その意味で、カジノ法案は刑法の無効化を促進しつつ、法律の「本音と建前」の二重性を強化してしまう点において、非常に大きな危険をはらんでいるのである。

【追記】
一つの妥協案としては、地域の限定やデポジット制あるいは債務者の入場規制などを担保にカジノの設置を認めると同時に、パチンコ類は完全に禁止(正確には換金禁止)するという案が考えられる。現に韓国は2006年に日本のパチンコに相当する「メタルチギ」の換金禁止に踏み切っている。但し、言い出しっぺの議員は暗殺される危険にさらされると思うけど……

【追記2】
パチンコ業界の粗利益率は90年代半ばには12%程度だったものが、現在は20%を超えるまでになっており、これは逆を言えば還元率が下がっていることを意味する。私は一年に1、2度入るくらいだが、「昔に比べて出なくなっているな」という何となくの印象は正しかったようだ(1円パチンコだと30%とか)。要は客が減っているだけに、単価と射倖性を上げることで利益を出さなければ経営できなくなっている、ということらしい。

【6月18日、追記3】
TPPが実現した場合、工場から出荷された遊技機に運用者(ホール)が手を加えて性能に変化を付けることが一般的な日本のパチンコは全て「違法」「犯罪行為」と見なされてしまう恐れがあるという。確かに欧米のカジノにあるスロットマシーンは完全に規格化されており、カジノ経営者が手を加える余地はない(だから面白くないとも言える)。特にパチスロは、スロットマシーンとのダブルスタンダード性を指摘されて、TPP標準に合わせるよう指導される可能性が高い。だとすれば、カジノ法案が急がれるのは、TPPによるパチンコ規制の可能性と連動しているとことも一因になっていそうだ。と
posted by ケン at 12:22| Comment(2) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
地方に住んでいるとこの20年のうち、場外○券場なるものがやたらと増えたことに気付きます。
あれぇ、こんなところに?なんて感じです。町おこしのための施策になっている感も。

もともとボートのB&G系の運動施設が多くてびっくりな宮城県ですけど、ボートだけじゃなくたくさん。

ギャンブルに縁が無い私(パチンコしたのって15〜20年前かなぁ)にとっては、カジノ?誰がやるの?という感じがするんですけど、海外に行けばカジノ施設があるとこも結構ありますから、観光資源にはなっているのかもしれません。(ソウルだったり、香港→マカオだったり)

ケンさんご指摘の通り、日本にはすでにカジノに類する施設がやたらとあるわけで、依存症になっている方が多いというのも実際のところかと。(子供を駐車場に置きっ放しで〜なんて事件もありますし、依存から自己破産に至ったという人も結構多いんで驚きます。後者はニュースにならずで把握が難しいわけですが)

一時期はロードサイドに大きなパチンコ店が並び、その間にサラ金のATMが点在するなんてのが当たり前でしたが、総量規制で借金しにくくなったとはいえ、いまもまだまだ残っている風景。

労働法もそうだけど、経済(金利とはなんぞや)を学ばない教育では犠牲者が増えるだけのように思います。

そうそう、山形さんの翻訳+論評がわかりやすいです。
d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20131002/1380696734
Posted by TI at 2014年06月15日 13:33
深刻なのは、ギャンブルが原因だと自己破産の免責不許可事由になってしまうということです。個人的にはそれで良いと思いますが、550万人からの賭博依存症患者がいるとなると、相当数の自己破産できない負債者が存在すると考えられます。

そもそも金持ちはパチンコや宝くじなどやりませんから、誰がターゲットなのかなど一目瞭然です。
Posted by ケン at 2014年06月16日 12:36
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