2014年01月07日

『アフガン』(第9中隊)

一時期ソ連マニア(?)の間で話題になった2005年のロシア製映画。「どうせいつものプロパガンダ映画だろ」と思って見向きもしなかったのだが、どうやら「いつもの」とは一線を画す作品に仕上がっているらしく、私も観てみることにした。
単純化してしまえば、『フルメタル・ジャケット』と『ハンバーガー・ヒル』を足したような感じで、ソ連兵の目から見たアフガニスタンの戦場がリアルに描かれている。実話に基づいているだけに、不自然なところも少なく、2時間20分という長尺でありながらスッキリ見せてくれる。

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『アフガン』(原題:第9中隊) フョードル・ボンダルチュク監督 ロシア・ウクライナ・フィンランド(2005)

以下、ネタバレ注意!

ソ連軍親衛空挺連隊第9中隊の新兵を中心に、特に主人公は置かない群像劇のスタイルを採っている。筋立てはオーソドックスで、クラスノヤルスクでの徴兵に始まり、タジキスタンでの過酷な訓練を経て、アフガニスタンに向かい、南部ホースト州の3234高地でのムジャヒディンとの死闘でクライマックスを迎える。

ストーリー的には、まさにロシア(旧ソ連)版『フルメタル・ジャケット』という感じで、我々的には特に真新しいものはないのだが、「ロシアでロシア人がプロパガンダでは無い映画を撮った」というだけで私的には十分驚くに値した。
ゲーマー的には、ロシア軍の全面的支援を受けて、当時のソ連軍の装備が勢ぞろいさせているだけでゾクゾクしてしまう。ハインドやヒップは現代ロシアでもどこでも見られるが、T−64(実際のところ空挺部隊に配備されていたのか疑問だが)、BRDM−2、BTR−70がそこここを走り回り、BM−21が一斉掃射するところを見せられるとちょっと感動してしまう。しかも、どうも実弾を使っているシーンもあり、迫力が生々しい。
ウズベクかカザフで撮影していると思われるが、ロクに木もない赤く荒涼とした山地が延々と続くアフガニスタンの情景も非常にリアルであり、広角レンズを多用した撮影が非常に戦場描写にマッチしていて、雰囲気が出ている。バグラム空軍基地も非常にリアルに再現されており、あれだけの航空機や車輌を同時にカメラに収めるのはロシアならではかもしれない。

余談になるが、日本では日米政府の宣伝もあって「アフガニスタンでは米国がムジャヒディンに供給したスティンガーミサイルが大活躍してソ連軍のヘリが次々と撃墜され、撤退決断の一因となった」などという見解が今日に至ってもまかり通っているが、大ウソだ。
史実的には、ゴルバチョフ政権がアフガニスタン撤退を具体化し始めたのは1985年春のことであり、米国がスティンガーの供与を決めたのは86年2月、戦場で初弾が発射されたのは86年9月のことであり、頻繁に使用されたのは87年に入ってからの話だった。だが、ソ連軍は88年5月に撤退を開始、翌89年2月には撤退を完了してしまっている。
また、ベトナム戦争で米軍はヘリコプターを5千機以上も失ったのに、アフガニスタン戦争でソ連第40軍が失ったのは333機(他固定翼機が113機)であり、ソ連軍の被害の大きさがいかに誇大に宣伝されているか分かるだろう。
もっとも、本作は(不運にも)88年にアフガニスタンで戦う話で、携帯対空ミサイルでヘリが撃墜されるシーンも出てくるのだが、恐らく実際に参戦したものが見れば「ムジャヒディンやり過ぎ」という感想を抱くのではなかろうか。その他にも全体的にゲリラ側の装備が充実しており、やや「やり過ぎ」観が否めない。
なお、現実にはアメリカから供与されたスティンガーミサイルは、ゲリラによる横流しが行われ、87年9月にはイランの軍事パレードで数基が「披露」され、ソ連軍の撤退後も数百基が未回収になってしまったらしい。

「ソ連帰り」として気になったのは、80年代後半のソ連を描いているのだが、若者らの服装がきれいに整い過ぎていて、顔つきも今一つ「ソ連っぽくない(現代ロシア風)」という印象だったことだが、これはマニアックに過ぎるかもしれない。
また、本作には政治将校の類が殆ど登場せず、政治統制が存在しないソ連軍というのも奇異を感じた。まぁ中隊と言っても、カメラに収められているのは分隊でしかないので、そんなものなのかもしれないが。

本作のクライマックスはもちろんラストの戦闘シーンで、容赦なく壮絶に描かれているのだが、これも史実よりも過剰に描かれており、どこまでもハッピーエンドを忌避するロシア人の(自虐?)趣味がこれでもかと表れているが、ここは実際に見て判断して頂きたい。
アフガニスタンの戦場というのも、日本人的にはなかなかイメージがつかめないだけに、プロパガンダ性が排除された本作は一見の価値がある。
ちなみに、監督は『戦争と平和』や『ワーテルロー』を撮ったセルゲイ・ボンダルチュクの子息。
posted by ケン at 12:22| Comment(2) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
顔つきが違うのは、抑圧的な体制から解放されたからですか(棒)
Posted by 紅襟 at 2014年01月09日 11:22
80年代のソ連が抑圧的な体制だったかはかなり疑問ですし、逆に現在のロシアが「抑圧的ではない」と言うこともできず、なかなか難しいところなのですが、国家・体制の原理が変化したことで人々の顔つきが変わること自体はおかしくないと思います。
日本でも、戦時中の若者と現代の若者では全く顔つきが違いますからね。
Posted by ケン at 2014年01月09日 12:40
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