2014年01月13日

右傾化は一線を越えたのか?

昨年の年末年始は総選挙と失業で多忙を極め、忘年会や新年会の類に顔を出せずに終わったので、2年ぶりに諸々の会合に顔を出した。普段と異なるのは、あまり接することのない職業や年代、階層の人と話をすることであり、広義の政治家という職業人としては有権者の本音、世論の動向を伺う貴重な機会でもある。
ちょうど12月末に安倍総理が靖国神社を参拝したこともあり、私が国会議員秘書であることを知ると、話題にする人が多く、こちらから話を振るまでもなかった。しかし、驚いたのは予想外に多くの人が首相の靖国参拝を支持し、中国や韓国からの抗議を口汚くののしって、米国からの懸念表明については「あれは対外的なアピールに過ぎず本音ではない」などと、ネトウヨの書き込みのようなことを堂々と酒席で口にすることだった。傾向的には、私よりも同年代以下の人に多く、私よりも上の年齢層ではむしろ保守的な人ですら抑制的な(安倍はやり過ぎ的な)感慨を述べていただけに、40代以下での急速な右傾化・タカ化が強調された感じだった。

これは私が何カ所かの酒席や年始挨拶において、何人かとしゃべっただけの感想であって、もちろんサンプル数では話にならないのだが、業界に10年以上身を置いているものの職業的直観(直感ではない)というのは一定の信頼性があると考えている。
以前であれば、タカ派的な意見やネトウヨ的な感慨というのは、個々人が心の内で思っていたとしても酒席とはいえ公共の場で口にするのは「ちょっと恥ずかしい」類のもので、堂々と民族差別や他国を貶めるようなことを言う者は「ヤバい人」と見られる傾向にあったと思うのだが、どうもこの数年でこの種の「タガ」が外れ、「堰」が決壊してしまったらしい。
この手の攻撃的意見というのは、理屈ではなく感情に根差しているため、論理的な反論が成立せず、ちょっとした見解の相違が暴力沙汰に発展する恐れがあるだけに、理性的な人間ほど「反論してもバカを見るだけ」という判断になる。だが、個人の処世としてはそれで良いが、国家規模になるとシャレにならなくなる。

この間、戦前史を再学習し、マスコミ報道についても調べているのだが、国論の傾斜という点ではやはり満州事変が大きな転換点だったように思われる。1931年(昭和6年)に起きた満州事変までは、国策や国論の対立こそあれども、基本的に日本政府は国際協調と対中融和を基軸としていた。1926年の普通選挙法施行で国民の政治参加が進み、世論的には大正時代の軍縮路線や国際協調路線が支持されていた。
ところが、1929年に米国発の大恐慌が昭和不況となって日本を襲い、同30年のロンドン海軍軍縮条約をめぐって統帥権干犯問題が起きて野党の政友会が軍部に同調して民政党政権を攻撃する辺りから雲行きが怪しくなる。不況への対応が鈍く、汚職が絶えない政党政治への不満が軍部タカ派への支持となり、野党が政権党批判にこれを利用する形となって、国論の傾斜が強まった。満州事変の勃発が決定打を与えることになる。
満州事変以前の日本では、軍部内でもマスコミでも対中強硬派は圧倒的少数派であり、「キワモノ」の扱いだったが、柳条湖事件が起きて、「張学良軍による犯行」という偽報道がなされ、関東軍出動が大々的に報じられると、国論は一転して沸騰、新聞は関東軍の「義挙」を称賛する記事で溢れかえり、反中意識が煽られ、中央の支持なくして朝鮮軍を動かした林銑十郎司令官は「越境将軍」として絶賛された。
若槻内閣は満州事変の収拾にあたるが、国内世論は軍部支持一色となり、野党政友会も同調して若槻内閣の対応を「弱腰」と非難、陸軍内ではクーデター計画が発覚、民政党は政友会に「挙国一致内閣」を呼びかけるが、政友会が拒否したため若槻内閣は瓦解、関東軍の暴走はなし崩し的に成立してしまった。
これを境に、マスコミでの軍部批判や国際協調・日中親善の主張は鳴りを潜め、個人レベルでも口にするのは生命の危険を伴うくらい勇気の要るものになってしまった。
1930年代から1945年までの新聞や雑誌の論調は、中国蔑視や枢軸国賛美、あるいは「世界最強の皇軍」「中国恐るるに足らず」「米軍は張子の虎」といった夜郎自大の空気で溢れかえることになる。
1937年7月に盧溝橋事件が起きた際も、政府と参謀本部は局地紛争として処理しようとしたが、マスコミが主導する形で国論は「暴支膺懲」一色となり、大動員、全面戦争へと突入していった。

話を戻そう。
靖国参拝それ自体は国内問題かもしれないが、領土問題や軍事的緊張も相まって、日中間の相互理解や親善気運が極端に低下しているため、国論が沸騰しやすく、対話ルートが閉ざされ、殺人事件のような刑事事件が容易に国交断絶や軍事衝突へと発展する可能性が高くなる。こうした危機的状況に陥った際に、理性的に対話や平和的解決を促すこと(言い出すこと自体が生命の危険に直結する)が非常に難しくなることが問題なのだ。
そして、米欧からの懸念の声を無視し続けた場合、いざ日中間で戦端が開かれた際に、「それは日本の自業自得でしょ」と米欧の支持が得られなくなる可能性を高めることになる。外交危機や戦時における仲介者の不在は、日本の外務省の無能を考えれば、日本の孤立と長期戦を招く危険性が高く、その場合、日本にとって有利な要素は殆ど無い。日本と接する中韓朝露の全てと深刻な対立を抱える日本の外交上の立場は相当に深刻なはずだが、国会議員からも官僚からも懸念の声が聞かれない点も、戦前と酷似している。
統帥権干犯も、満州事変も、日中戦争も、タカ派世論を利用した政友会が軍部のタカ派と手を組んで推進した歴史を鑑みれば、いま私が抱いている危惧は決して杞憂ではないはずだ。
posted by ケン at 19:38| Comment(13) | 憲法、政治思想、理念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この問題では、「何が国益か」ではなく「何がカタルシスか」にとらわれる人が多いことに愕然としますね。靖国神社参拝など、中国はもちろん英米仏露がこちら側につかないことは明らかでしょうに。防空識別圏設定をはじめ、中国の横暴イメージがせっかく定着しつつあったのに、ラインが一挙に押し戻された感じです。

なお、総理をはじめ国粋主義者には、アーリントンと靖国を同一視する向きがあるようです。だから、「分かってくれる」と。東条英機を神と讃えて顕彰するなど、ほとんど狂人扱いされる行為なのに・・・。
Posted by M at 2014年01月13日 22:10
私は職業柄、10代後半から20代前半の学生と接触するのですが、最も危機感を持ったのは2006〜2008年ごろでした。そのころは突然、大声で学生が中韓への罵詈雑言をわめきたてるとかザラでした。今は左右問わず大声で罵詈雑言を言うのはかっこ悪いという風潮で学生はおとなしいです。ケンさんが危機感を持っているのは2006〜2008年ごろに学生だった層が社会人となってケンさんと接触するようになったからだと思います。私とケンさんとでは接触する階層が異なると思いますが、庶民階級では60以上の年寄りが一番ネットウヨ的ですが。私の家の近所で定年退職したらしい爺さんが平日の昼間からスーパーの前のベンチに座って中韓の悪口を大声で言っています。上品な老婦人が突然、激昂したように中韓の悪口を言い始めるのに遭遇したこともあります。一方、高学歴層では若い層(30〜40代)で政治的関心が高い層にネットウヨ的なのが多いですね。
 今のような時世になったのは1990年代からサブカルなどで右翼推しの風潮が強まったからです。(小林よしのりなど)あの時点で私は警戒感を持って左翼リベラルの人たちに訴えていましたが、彼らのサブカルへの無関心・嫌悪感はどうしようもないですね。これじゃあ右翼に席巻されるのも無理は無いと思いました。
Posted by hanamaru at 2014年01月13日 23:57
私の周囲にも年齢を問わず多いですよ。
感情の赴くままに、口角泡を飛ばして話します。
しかし論拠はあやふやで思い込みも多いです。かつての私もそうだったのですが、疑問に思ったことや、気になった事は先入観を排してまず調べてみる、ということはしてない場合がほとんどですね。私自身、まずはいろんな本を読んでみようと思い、以前ケンさんが紹介されていた、大杉一雄
著「日中戦争への道」から読み始めてます。
そしてそうした周囲の人達と、出来るだけ冷静に、粘り強く議論していきたいと思います。
Posted by 上野 雅由 at 2014年01月14日 03:12
都知事の候補の経歴も間違えるほど若い年代ですが、この問題は年代とは関係ないと思います。

ただ、ゲーマー的にはこの手の問題はなにができるかと何をしたいかを考える問題であって、スタンスを明らかにすることは無意味にしか思えないです、やはりそこら辺をわかってない人間ほど、親か反かのスタンスにこだわるあたり、ある種のつるし上げというか、そういうものなのでしょう。
Posted by 紅襟 at 2014年01月14日 12:12
なるほど私の周囲の老人たちは穏当な方が多いようですね。とはいえ、私が出ている会合で老人と若者の階層が異なるということはないでしょうから、穏健な老人がいるような場所、団体でも若者のネトウヨ化が進んでいるということなのかと思います。
右翼的、好戦的な老人というのは昔からいますが、ちょっと前ならキワモノの扱いをされたものが今では「普通」になり、若年層では「当たり前」になっていることが問題なのだと考えています。1990年代によしりん旋風が吹き荒れた一方で、「ネトサヨ」なるものは生まれなかったことも状況を一方的にしていると思いますが、ワイマール末期のようにナチスの突撃隊と共産党のデモ隊が街頭で戦闘するような状況も好ましくなく、難しいところです。

要は、日本(人)にとって都合の良い歴史観が諸外国に受け入れられて共有されるか、という話であり、歴史観が共有されないのであれば、ナチスの「ヴェルサイユ条約破棄」と同じところに行き着いてしまうと思います。近隣国との対話や交渉にはタフネスが必要ですが、一方的な主張をするのは誰にでもできるということかもしれません。

今の日本に「何ができるのか」という点では、「米国の対テロ戦争をもっと支援しよう」という自民党や政府の主張に対して、どのような論陣を張るかということになるでしょう。
Posted by ケン at 2014年01月14日 13:09
ネトサヨなるものが生まれないのは、ネットでしか活動しない右翼と違って、左翼はリアルで革命活動をやらかすからではあるとおもいます。
あとは、中国朝鮮の国粋主義化でしょうが、我が国は彼らと違って自由民主主義なのだから、相手にする必要などはなく、いざというときに勝てるカードを用意しておくだけでいい。そこら辺はやはり自立した精神を持たない人間にはわからないのです。ある種の群れ意識なんでしょう、イデオロギーに走るのは。周りに許されるために、保身のためにこのような意識になるのです。

だいたい、欧米に友人がいるならば、連中こそアンチチャイナなのだから、現状でも黙って根回ししておけば負けるのは向こうということもわからないのは、やはりネットに籠った存在か、外をみないかのどちらかでしょう。

欧米が中国を嫌うのはある種の黄禍論な部分もあると思いますがね
Posted by 紅襟 at 2014年01月14日 13:26
あとやはり、敵をつくって危機を煽り、現状の酷さを忘れさせ、文句を言わない奴隷を作る統治方法は、効果の早さ、コストの低さ等がずば抜けている面もあるのでしょうね、馬鹿でもできる上、ライバルを始末できるのもメリットでしょう
Posted by 紅襟 at 2014年01月14日 13:36
正直言うと、友人知人関係では世の中の右傾化、表現規制や特定秘密保護法案、原発再稼働等に反対する意見ばかりで、いわゆる右よりな発言は職場の上司60オーバーのおっさん達からしか聞かれないという環境です。
中韓に反発する意見はありますが、それでも靖国参拝など刺激的な政策には同調する意見は少ないです。
同世代以下(まあ20代から40代)は冷静だという印象で、選挙のたびに不思議な印象を持ちます。
まあ類は友を呼ぶというたぐいで世間とは又違うのでしょうが。
Posted by ケンケン at 2014年01月14日 13:58
10代〜20代前半の右傾化は、
ネットリテラシーも身につかないうちから
過激な嫌韓嫌中ゴシップで食ってるアフィブログに日常的に接しているうちに
刷り込まれた影響が少なからずあると思います。
Posted by ジョルジュ at 2014年01月14日 21:27
在日特権なる幻想(それを言うならアメリカの在日特権、地位協定やニュー山王ホテルという治外法権を指すべきだと思っていますが)、結局はやっかみ(これは生活保護世帯への風当たりの強さと同根)であり、脱亜入欧以来のアジア蔑視(日本もアジアの一国なのにね)だと思っています。

一企業に勤務しているとさすがに日常会話でそういう主張は聞こえてきませんが、勤務先の知人でもSNSなどでは「保守速報」などのアフィまとめブログに反応しているようで、痛いなぁと思うこともあります。

12.26靖国参拝に対する欧米諸国の反応、特にアメリカの「米国政府は失望している」という声明はかなり強い言葉だと思うのですが、それに対しアメリカとは付き合わない、これからは自主外交でとなるわけでもなく、この声明を矮小化する傾向にあるようです。

安倍首相のわかりにくさは、(祖父の)岸元首相のように、対米追従から自主独自外交を目指すものなのか(少なくとも日米地位協定を無くすものなのか)、従来の対米追従踏襲なのかがイマイチはっきりしない点。

TPP参加や普天間問題を考えれば対米追従しかないと思うのですが、「戦後レジュームからの脱却」と言っていたり、12.26靖国参拝のような対米関係を悪化させるようなことを平気で行ったりと『どっちなの?』と思う部分が多いです。
(本人がぜんぜん理解できていない可能性もありますが)
Posted by TI at 2014年01月15日 01:47
歴史的に見ると、黄禍論は必然的なものなんですよね。15〜17世紀には中国(明と清)が世界に占めるGDPの割合は30〜40%程度だったと言われており、欧州が衰微して中国が復活する可能性は十分にあるわけです。イギリスなんてナポレオン戦争の頃ですら、「貧乏国のくせに生意気な」という位置づけだったようで、「大英帝国と富」の組み合わせなんて、せいぜいここ150年くらいの話なんですね。

私の周囲の老人は保守でも穏健な人が多いのですが、どうも今までは発言を控えていた老鷹どもが一斉に鳴き始めたということなのでしょうかね。また、老人は情弱が多いので、ネットの書き込みやニュースをそのまま信じてしまう例も少なくないようです。それで書き込みを覚えると、自宅では家族から疎外されているだけに、サルのように書き込みを始めるみたいな(笑)

私も分かりませんが、かつてナチスドイツの尻馬に乗ってアジア征服を目指したように、今度はアメリカの尻馬に乗って世界警察の一角を担うことで国威を発揚し、国民の再統合を図ろうとしているということなのではないでしょうか。アメリカに従属するというよりも、より対等な警官の地位を目指すという意味で。
Posted by ケン at 2014年01月15日 12:46
古今、洋の東西を問わず、低学歴・低所得の人ほど国粋主義的・排外的な考えを持つ傾向が見られます。
Posted by 貧困化のせいでしょ at 2014年01月17日 11:26
フランス革命に熱狂したのがサンキュロット層であったように、ナショナリズムに高揚しやすいのは経済弱者であり、それは頼るべきものが少ないからなのかもしれません。
Posted by ケン at 2014年01月17日 14:27
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