2014年01月30日

リットン報告書をめぐる日本の報道について・上

先の稿にて満州事変前後での世論の変化(右傾化)を見たが、柳条湖事件を「中国側の犯行」として報道し世論を煽動したのは大手新聞だった。朝日新聞の社史などは今もって「関東軍の謀略とは知る由もなかった」などと自己弁護に努めているが、最新の研究では、新聞記者たちが陸軍の記者クラブなどで関東軍の謀略によるものであることを耳にしていたことが分かっており、憲兵の記録にも新聞記者が「日本軍による自作自演」説を論じている旨の記述があるという。つまり、新聞各社は満州事変の真相を知りながら報道せず、国民を煽動する側に回っていた。
その最大の理由は、情報の提供源が陸軍そのものであり、その方針に逆らった報道をすれば、情報がもらえなくなる危険性があったためである。この当時も記者クラブがあり、軍官僚とマスコミ記者は一体のものだった。記者クラブで記者は軍から独占的に情報をもらい、接待を受け、軍に共感するものが多かったという。その弊害は80年を経ても何ら改善されていないことが分かろう。
もう一つには、満州の現地において、中国人などによる排日運動が激化しており、邦人殺害なども頻繁に起きていたこともあって、現地記者の対中感情が悪化していたこと、そして日本本土においても親中的な記事を書いても反発を受けるだけだったことが挙げられる。
もっとも、関東軍による陰謀であることをそれとなく書いてしまった『福井日報』の編集長は憲兵から厳重戒告を受けており、すでに政府による言論統制が暴力的になっていたことも判明している。
いずれにしても、今日のマスゴミ連中が言うような「知らなかった」というのは大ウソであることは間違いない。

本土人の中国に対する認識は必ずしも高くなく、また軍部に対する支持も必ずしも高いものでなかったが、満州事変を境に中国・満州における排日運動が大々的に取り上げられて反中感情が醸成されると同時に、軍部に対する支持が一気に過熱した。マスコミ報道に伴う国内世論の激高を受けて、軍部には対中強硬派が増殖、関東軍の暴走に歯止めを掛けようとした政府は、世論におもねる野党政友会の強い反発もあって、事後承認せざるを得なくなっていった。

ところが、満州事変が起きたのは国際連盟で総会が開かれている真最中のことだった。第一次世界大戦の戦勝国だった日本は常任理事国だったが、その日本が国際平和を掲げ、戦争を紛争解決の手段にしないことを旨とする国連の基本原理を犯したことで、総会は騒然となり、日本に対する非難が上がった。
中国は早々に各種資料を国連に提出、日本側の謀略であることを説明し、その侵略性を非難した。対する日本政府は当初「不拡大方針」や「速やかなる事態収拾(駐兵地域への撤兵)」を掲げていたにもかかわらず、結果的には関東軍による満州全土制圧を容認するところとなり、国連に対する説明を全て反故にしてしまった。そのため、日本に対する国際世論の風当たりはますます強くなるが、日本側の主張は「満蒙はわが国の生命線」の一点張りだった。

日本新聞協会は柳条湖事件から二カ月後の1931年11月14日、「(満州事変は)単に日本の自衛権行使に関するもので、日本帝国の死活問題である。国運を賭しても、この死活問題に邁進せねばならぬ」との声明文を発表、国連本部を始め諸外国にも送付した。
『朝日』は同月17日に「連盟の日本撤兵要求は絶対に不可」との社説を発表し、外信に載せた。また、『毎日』(東京日日と大阪毎日)は米国の25の新聞に満州事変の正当性を主張する意見広告を載せ、その後は満州国建設と国連脱退を主張する急先鋒となった。
新聞各社は「満蒙はわが国の生命線」一色となり、国連による介入を非難するが、その間にも国際社会における日本の孤立は深まる一方だった。この当時の主な論調は、「国連は東亜問題に対して認識不足」「国際社会に対して満蒙権益の説明を十分にせよ」といったもので、恐ろしいほど今日の論調と似通っている。「認識不足」は当時の流行語だったらしい。
(以下続く
posted by ケン at 12:51| Comment(2) | 日本語、日本史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
窮状から満州に渡った人は「開拓地」での現地住民からの攻撃にびっくりという話はNHKのドラマ「開拓者たち」でも描かれていましたね。
日本人が武力で取り上げた豊かな土地を奪って、そこに入植するんだから当たり前なんですが、本土ではそういう点はぼかしていたんでしょうね。(これは中南米への移民政策にも言えることですが)

>>この当時の主な論調は、「国連は東亜問題に対して認識不足」「国際社会に対して満蒙権益の説明を十分にせよ」といったもので、恐ろしいほど今日の論調と似通っている。

本当にそう思います。
誰の入れ知恵なのか、中途半端な近代史の知識をひけらかし、「ナチス憲法」やら「第一次世界大戦前のイギリスとドイツの関係」などと発言しても、誰も責任も取らず、従軍慰安婦については今度は首相肝いりのNHKトップがわざわざ会見で発言してみたりしているけれど「またか」「発言を撤回」で済んでしまっているのがそもそもおかしな話。

民主党政権で日米関係を壊したような報道一辺倒で、自民党政権になってから「取り戻した」ことになっているようですが、昨年暮れに「失望」させたことは日本ではあまり大きく取り上げられていないのも不思議な話。

嘘も百回〜なのか、国民を麻痺させてどこに進もうとしているんだろうと思う次第。
Posted by TI at 2014年01月30日 15:35
最近の問題発言や不適切発言についての記者会見で気になるのは、全ての人が「誤解を与えたことをお詫びします」と言うことです。これはつまり、「貴方が私の意思に反する理解をした」ということであって、自身については言外に「私の発言自身は間違っていないけどね」と主張しているわけなんです。結局のところ何について誰に謝罪しているのかサッパリわからないんですよ。

「何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ」 閑吟集

ってことですかねw
Posted by ケン at 2014年01月31日 12:54
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