2013年09月19日

医療費の肥大化続く

【医療費38・4兆円…10年連続で最高額更新】
 厚生労働省は10日、2012年度の医療費(概算)の総額が38兆4000億円(前年度比1・7%増)に上り、現在の調査方法となった00年度以来の最高額を10年連続で更新したと発表した。国民1人当たりの医療費は30・1万円(同1・9%増)で、初めて30万円を超えた。
 概算医療費は、自由診療を除く医療費の合計で、伸び率は前年度の3・1%から鈍化した。1人当たりの医療費を比較すると、70歳未満が18・1万円だったのに対し、70歳以上は80・4万円、75歳以上は91・5万円だった。70歳以上の高齢者にかかった医療費は17兆4000億円と、全体の45・4%を占めた。
 医療費総額の伸び率を都道府県別に見ると、宮城県が4・3%で最も高かった。厚労省は「東日本大震災からの復興が進み、医療機関が再建されているため」と分析している。宮城県以外では、東京都(2・8%)、神奈川県(2・7%)、福島県(2・6%)、千葉県(同)などの伸び率が高かった。
(読売新聞、9月10日)

【2976億円の赤字=12年度決算見込み―健保組合】
 健康保険組合連合会は12日、大企業の社員や家族が加入する健康保険組合の2012年度決算見込みが、1431組合の合計で2976億円の経常赤字になったと発表した。保険料率引き上げに伴う収入増で、赤字額は前年度に比べ521億円減った。ただ、団塊世代の高齢者医療への移行の影響で、健保組合から同医療への拠出金も増加しており、依然として厳しい財政状況となっている。
 収入は前年度比5.37%増の7兆57億円、支出は同4.36%増の7兆3033億円。赤字は1061組合で、前年度より39組合少なかったものの、全体の74%を占めた。保険料率を引き上げたのは過去最多の609組合で、4割を上回った。被保険者数は、前年度比0.13%増の1564万3997人だった。 
(時事通信、9月12日)

昨年度の医療費は37.8兆円で約6千億円の増加となる。ところが日本の人口総数は一昨年から減少に転じている。日本の高齢化率(65歳以上の割合)は、1985年に10%を超え、2000年で17.4%、2011年で23.3%に達しており、2020年代初めには30%を超えると推計されている。
上の記事の「1人当たりの医療費(年間)」は年齢構成の設定がやや雑駁なので、2010年度の数値で少し丁寧に見てみよう。

85〜89歳 98.7万円
80〜84歳 89.1万円
75〜79歳 76.1万円
70〜74歳 60.9万円
65〜69歳 44.5万円
55〜59歳 26.0万円
45〜49歳 16.2万円
35〜39歳 11.3万円
25〜29歳  8.8万円


1人当たりの医療費は10代後半から20代後半が最も低く、そこから50代まで緩やかに伸びてゆくが、60代に入ると急騰し、70代以降はさらにキックする。
誤解を恐れることなく単純化して言えば、人間は本来(自然状態)的には60代くらいまでに死亡するが、医療の普及と進歩によって多くの人が70代、80代まで生きられるようになった。ところが、彼らの多くは医療技術によって生き長らえているだけで、いわばドーピングしながら生命を保っている状態であるため、長命なほど「維持費」がかかる仕組みになっている。私の祖母(91で死去)や母、叔母のように「歯医者以外は不要」という健康超優良老人=超優良被保険者は激レアな存在と言えよう。

財政的には公的医療保険制度はすでに破綻状態にある。
2010年度の保険支出(政管、組合、国保の合計)が29兆5千億円であるのに対して、保険料収入(同)は17兆6億円に過ぎず、12兆円近い赤字を出している。この赤字は、国庫負担の4兆9千億円と地方自治体などの負担による8兆円で賄っている。この上、保険外の公費医療(結核ほか)がある。現実の公的医療保険制度は、保険料収入全てで70歳以上の医療費を賄うだけの額にしかなっていない。

国庫負担は1970年度の4千億円に始まり、80年には2兆7千億円、95年には4兆を越し、今や5兆円に達しようとしている。これ以外に公的年金の国庫負担が10兆円を越しており、医療と年金の国庫負担だけで税収の3分の1以上になってしまい、一般歳出を圧迫している。健全な財政を保っていれば、他の公的サービスの提供に深刻な影響が出ているはずだが、税収を上回る国債を発行することで毎年凌いでいるだけなのだ。
公債は将来世代に対する負債であり、建設国債のような「投資」であるならば回収できる可能性もあるが、赤字国債は少子化に伴う生産と消費の低下に際しては額面以上に重くのしかかってくる恐れが強い。
実際、非正規雇用や不安定雇用の増加に伴い、若年世代の給与所得は低迷しており、保険料収入も横ばい状態だ。例えば、2000年度の保険料収入が15.8兆円に対して10年度は17.5兆円で増加分は1.7兆円に止まる。一方支出は23兆円から29兆円と6兆円も増加しており、その差は今後さらに拡大してゆくと見られる。
保険料の高騰を抑えるために税金を投入すると国債発行額が増え、保険料を上げると納付率が低下して収入が伸び悩むほか無保険者が増えるという悪循環が固定化している。2025年度には年金を含む社会保障給付額は150兆円に迫ると試算されており、このうち60兆円が税金等になる見込みだが、現在40兆円足らずの税収が12年後に1.5倍になるというシナリオは非現実的であり、足りない分は国債を増刷する他ないだろう。こうして国債発行が際限なく拡大してゆく。

こうした中で「保険料下げろ」「窓口負担増やすな」「医療従事者の報酬を増やせ」「消費税上げるな」などと騒ぎ立てる旧式左翼は「亡国の徒」以外の何者でもない。財政破綻して公的保険制度そのものが失われれば、彼らの支持者の殆どが医者に行けなくなるのであり、それは私自身がソ連末期に実地で体験したものだ。

保険料も税収も大幅な増収が望めず、医療費の肥大化だけは確定している以上、やるべきは支出の抑制であり、特に医療費の半分を使っている70歳以上の自己負担を増やせるかどうかが最大のカギとなる。医療を使えば使うほど、自己負担の割合が少なくなるというシステム自体(高額療養費制度など)が患者のモラルハザードを起こしており、軽症患者による救急車や救急病院の頻繁な利用(5割以上)にも繋がっている。
「医療は提供されるサービスに応じたコストが掛かっている」という大前提が、何故か医療に限っては「生命よりも大切なものは無い」という感情論によって否定されていることが、問題を根本的解決から遠ざける要因となっている。同時に医療と年金の最大の受益者である高齢者ほど投票率が高いことも、社会保障改革を難しくしている。

本来、健康保険というのは多数の健康者が少数の罹病者を支えるシステムなのだが、医学の進歩で罹病者が減ると考えられていたのが実はウソで、現実は医療が進歩するほど「死にそうだけど何とか生きている」人が増えると同時に、医療コストも上昇が止まらなくなってしまっている。民間保険であれば保険料を上げれば済む話なのだが、全国民の加入を前提とする公的保険制度の場合、保険料の引き上げに限界があり、無理に引き上げれば「全国民」という大前提が崩れてしまう。現実には、健保組合も巨額の赤字が続いており、解散が相次いでいる。
政治家はつい選挙目当てに「誰もが安心できる社会保障制度」などと言ってしまうが、それが幻想であることを自覚しない限り、公的保険制度と国家財政が共倒れする日はさほど遠くないであろう。
posted by ケン at 17:45| Comment(3) | 財政、社会保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
自民党を舞台にした徳洲会と医師会のドロドロな状態が痛ましいところですが(憶測ですけど)、以前のコメントで書いたように窓口負担が低いからついつい利用してしまうというのが大きいよなぁと思います。

私は企業の健康保険組合加入者ですが、お金がもったいないからという理由でいまだに昔ながらの保険証(カードじゃない折りたたみのやつ)です。
企業の健康保険組合としてはなんとかなっているけど、ケンさんがお書きの通り、国への上納金負担が大きくなっているようです。(厚生年金は早い時期に代行返上しています)

以前はレセプトから健保→加入者へこんだけ掛かってますよという通知が届いていましたが、これも事務負担になるからと無くなり、窓口で負担する3割(昔よりはこれでも負担大ですけど)という「痛み」だけになっています。(医療機関や調剤薬局では以前より内容が詳しくなった明細が出てきますが)


70歳〜74歳の1割負担を先送りしておきながら、汚染水と一緒で選挙が終わったら負担してもらいますよという姑息な手段。
うちの母はまさにその年代なので、年金減(これも先送りされてた)、先送りされてた医療費の負担大でなんで一度に・・・と愚痴が出ています。(戻すのは当然なんですけど、まとめて後出しってことに対しての愚痴)

伯父は今夏、延命治療を拒んで82歳で亡くなりましたが、延命したとしても要介護だったであろうし、よい判断だったのではないかと告別式などを通じて思いました。
昔は80まで生きれば長寿、天寿を全うしたと言えたと思いますが、今じゃ90歳代は当たり前みたいですから、「生かされている」状態の人が多いんだよなぁとつくづく感じます。
(90歳でも元気に通常の生活、クルマの運転をしたりという人もいらっしゃいますが)

消費増税はいろんなポーズを出して上げるんだか見送るんだかわからん状態にしていますが、消費増税に伴う経済支援でバラマキをやるみたいだし、何のための消費増税なのか早速わからなくなっていますね。
Posted by TI at 2013年09月19日 20:21
医療機関が診察・治療をすればその都度診療報酬が貰える仕組みを改め、米国のように「完治・治療完了」して初めて報酬がもらえる制度にすべきでしょうね。

あとは、しばしば指摘されているように、一旦は窓口で患者が全額を支払い、後で(1年後とか)還付されるシステムにする。
Posted by 完治主義 at 2013年09月20日 09:32
国会議員を見ていると、本質的に社会保障と財政というものが分かっていないんだなと思います。たぶん私が書いたような保険財政について知識があるのはほんの一握りの議員に過ぎないかと。それで「安心できる社会保障を」なって言っているんですから、何もできないのは当然なんです。それを支える秘書の知識も同じようなものですが。

消費増税と法人減税をセットにして税収が上がれば良いですが、上がらなかったらどう責任取るんでしょうね。

還付式は常々主張しているのですが、やはり既得権益を侵すのが皆怖いようです。米国方式は診療価格がかなり上がりそうで微妙ですね。
Posted by ケン at 2013年09月20日 12:30
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