2013年05月11日

PSYCHO-PASS サイコパス

2012年10月から13年3月まで放映されたアニメ。昨年も『LUPIN the Third ‐峰不二子という女』『ヨルムンガンド』『ガールズ&パンツァー』『Fate/Zero』『絶園のテンペスト』などのお気に入りがあったが、本作は存在感とリアリティにおいて抜きんでていたように思われる。
近未来の日本を舞台にSF的要素を駆使した警察ドラマになっている。30分の枠でアニメでSFで警察ドラマという、なかなかハードルが高そうな設定だったが、全て見事にクリアして良作に仕上げて新たな境地を開いている。

psychopass.jpg

スーパーコンピューターを基にした「シビュラシステム」が実質的に社会を支配し、理想的な福祉を提供する世界。市民の精神状態はサイマティックスキャンによって計測・分析され、職業適性や必要な社会的支援が割り出され、市民に提供される。犯罪は病気によって引き起こされ、犯罪は他者に伝播・感染させるという考えに基づき、サイコパス係数が一定値を超えたものは「潜在犯」として社会的に隔離される。そのため、従来の警察組織はすでに解体され、「患者」を発見・保護・隔離するための「公安局」は厚生省の管轄となっている。
原理的に市民は完全な安全が保障されるため、他者を疑うことや防犯意識が希薄になっており、町中に配されているサイマティックスキャンによる市民管理(監視)についても「当たり前」と思われている。

まず根っこの設定が非常に70〜80年代のソ連に似ている。
「犯罪は病気によって引き起こされる」はソ連型社会主義の下でも社会通念に近い考え方だった。ソヴィエトには「凶悪犯罪は資本主義の退廃によって引き起こされる一種の社会病癖であり、共産主義社会では起きえない」という公式見解があった。また、共産党の指導に基づいて、職業適性が判断・提供され、必要な福祉が提供された。
公式見解に従って「精神病患者」の予防拘束と隔離は行われたものの、その結果、70年代にはソ連における刑務所の定員は最大50万人となり、実際の収容者は40万人以下だったとされている。人口でほぼ同水準にある現代の米国において刑務所の収容人数が230万人を超えていることを考えれば、その安全性が想像されるだろう。アメリカはまさに「現代の収容所群島」なのである。なお、日本の刑務所の収容人数は8万人だが、精神病棟に35万人が「隔離」されている。
また、集合住宅で相互監視体制が出来ていたこともあり、80年代後半まではカギをかける習慣も少なく、多くの西側人のイメージと異なり、「秘密警察によって常時監視されている」という意識も殆ど無かった。現実のKGBは、犯罪者の家族を市民からの社会的攻撃から守るといった活動も行っていた。

余談が過ぎた。
一種の理想社会が実現しても、アウトサイダーやアウトローといった存在は常に発生する。「シビュラシステム」が完全無欠な存在である分、アウトサイダーたちの逸脱ぶりも尋常ではなく、その巧妙さも並ではない。彼らを追うには機械による監視システムでは限界があり、最終的なところは人間が担うことになる。それが厚生省公安局刑事課だが、その刑事は実際に犯人を捕まえる「執行官」と、執行官を監視・指揮する「監視官」が一つのチームを構成するが、「執行官」は「潜在犯」から選ばれている。その刑事課に配属された新人「監視官」を中心にベテラン「執行官」たちの活躍を描く。
近未来SFという設定だが、サイバー的要素は薄めで、ネット世界やネット監視は描かれるものの、サイボーグやロボットは重要な位置にないし、超能力や特殊能力もない。捜査手法はあくまでも知識と経験に基づいた警察ドラマの王道を辿っているが、絶妙なバランスでSF的要素が反映され、オリジナリティを発揮している。
派手な描写は無いが、ストーリー展開やセリフ回しが絶妙で、刑事たちの群像としての描かれ方も格好良い。『踊る大捜査線』の本広克行氏にとって初めてのアニメ監督となるが、期待以上の出来になっている。虚淵玄氏の脚本も見事としか言いようがない。Production I.Gのクオリティは言うまでもない。

警察・公安によるネット監視や「女性手帳」、あるいは群馬県の青少年夜間外出禁止条例に象徴されるように、政府の国民管理・市民監視志向が強まる中、日本の官僚たちが深層的に理想とする社会が描かれている。
アニメファンでなくとも一度は見て欲しい作品だ。
EGOISTによるエンディングテーマはまだ車中でフル回転中デス。
posted by ケン at 12:37| Comment(4) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日本の官僚や公安と警察及び自民党が理想とする社会が見事に描かれていますね!(自分はグロ過ぎて途中でリタイアしましたが)
それと虚淵玄氏はシナリオの参考としてイかれていると評判のウヨヲタのツイッターをフォローしていたとか(研究熱心だw)
Posted by ドーベン・ウルフ at 2013年05月11日 20:56
槙島先生の台詞が格好良くて気に入ってます。
ただし、作中では管理が絶対的であるのに応じて福祉もその分保障されていますが、現実の日本の行く末は管理だけが強化されて福祉が保障されない社会ではないかと。
Posted by 学鳩 at 2013年05月12日 02:12
知り合いが文芸協力でいろいろ係わっておりました。
PSYCHO-PASS サイコパス/ゼロ 名前のない怪物
こちらもよろしくお願いします。<(--)>
実は彼女の書いた、モロトフカクテルと言う芝居が絶品です。
Posted by ケンケン at 2013年05月13日 09:33
表現がグロさは受け付けなかった人もいるでしょうね。よく放送できたと思うくらいです。

福祉無しの国民管理に日本国民が耐えられるかは微妙ですが、福祉が切り下げられ、管理が強化される傾向は確かでしょう。

高羽さんは若いのに大したものですね。
Posted by ケン at 2013年05月13日 12:27
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