2013年05月21日

歪なる保守主義・上

いまや日本の衆議院は「穏健保守から中道リベラルまで」の民主党を含めると、480議席のうち430議席以上を保守政党が占めるに至っている。逆に左翼を除外すると何と470議席が「真ん中から右」になってしまっている。
その「右」の中でいくつにも党が分かれ、鎬を削っているわけだが、その主張の違いはあまり明確ではなく、せいぜい新自由主義の濃淡や官僚制に対する信不信の具合くらいしか見えてこない。自民党に至っては党内でまったく主張が異なることもあり、皆が言う「保守」とは何なのかまるで分からない。
その最たるものが「英語の準公用語化」であろう。学校教育の過程で民族語を犠牲にして外国語の習得を優先するというのは、明治期で言うところの欧化主義(森有礼の英語国語化論)であり、国家の近代化のために伝統や民族性(ナショナル・アイデンティティ)を犠牲にするのはやむを得ないとする議論だが、それは保守主義に反する。
また、保守の原理は郷土と伝統的価値観を固守するはずだが、自民党は郷土と地域的結合を破壊する原子力発電を積極的に肯定する。TPPについても同じことが言えよう。

イデオロギーとしての保守主義は「反フランス革命」に端を発するが、それは「理性による独裁」「理性の暴走」が国王を処刑し、国民の大量殺戮に走ってしまった反省に起因した。
今日の概念で言うところの限定合理性がそれで、人間が万能で無い以上、合理主義には必ず限界があり、それを過信することは戒められるべきだということになる。人間の存在理由の一つは、代々に渡って培ってきた郷土、伝統、文化、言語といったものを子々孫々に伝えてゆくことであり、それに介入しようとする外国の圧力や国家権威には真っ向から抵抗する。
英国が常に反革命と反ナポレオンの旗を掲げ続けたのは、大陸流の近代主義、革命主義、合理主義、そしてグローバリズムに対する保守主義=伝統重視、漸進志向、経験則に依拠していた。英国に「ポンド」と「ヤード」が残ったのは、メートル法というグローバリズムに対する伝統保守の表れだった。また、英国における自由の概念は、王権から信仰と財産を守るために生まれた。

他方、大英帝国の軛からの独立を求めた米国にはまた独自の保守主義が誕生する。
イングランド国教会主流派から弾圧を受けた分離派教徒がアメリカ大陸に新天地を求め、信教の自由と理想社会(王権からの不介入)を確立しようとしたところに端を発する(ピルグリム・ファーザーズ)。政治性を排除したキリスト教的価値観(ピューリタニズム)に至高の価値を置き、王権(中央政府)からの介入から信仰と財産を守るために「人民の武装」という概念が生まれた。今日では合衆国憲法修正第二条は「個人の武装権」のように捉えられてしまっているが、本来は大英帝国と連合王家を仮想敵とした独立州の民兵制度を担保するものだった。そこにあるのは、中央政府に対する強い不信、信仰と郷土愛に基づく自治志向である。同じ信仰を共有するコミュニティの自立と他者からの不介入こそがアメリカ保守主義の要諦だったはずだが、第二次世界大戦に参戦して以降はすっかり「革命の輸出国」に成り下がってしまった。今日では米国の伝統的な保守主義を主張している議員はロン・ポール氏くらいなものだろう。

英米の保守主義が王権や中央政府からの自由に依拠しているのに対して、フランスの保守主義は国家主義を志向する。それは王権の否定によって成立した基本的人権を始めとする「共和国の原理」を至上の価値とし、「自由・平等・博愛」の理念に基づく国家建設とその防衛・発展を効率的に行うために存在する。故に米英の保守主義者と異なり、フランスの保守主義者は中央集権志向が強く、「共和国の原理」に基づく国民統合を積極的に進め、フランスの威信を全世界に示そうとする、いわゆる「ド・ゴール主義」である(苗字からしてガリア人だし)。フランスにおいて「共和国の原理」を否定するものは保守主義者ではなく、王党派=反動と見なされる。また、保守においても進歩主義や合理主義に対して肯定的である点も大きく異なる。故にフランスにおける左右対立とは、社会政策や労働・産業政策の違いが大半を占める。極右と言われる国民戦線ですらフランス語とフランス文化を受容する移民は拒否しない。
以下続く
posted by ケン at 13:00| Comment(4) | 憲法、政治思想、理念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
自民党や維新の会やそれを支持する保守派の人達は
明らかに正当な保守では無く対米隷属の財界のポチです!(平気で国民を切り捨て米国に服従する事が絶対的な正義であると主張している!)
正当な保守なら国民を守り米国や財界のグローバリズムに真っ向から立ち向かうはずです!
Posted by ドーベン・ウルフ at 2013年05月21日 19:09
日本の保守というのはとことん中味も根っこも無いんですよね。だから何の魅力もないんです。
Posted by ケン at 2013年05月22日 12:37
現状で国民政党たる中道左派政党が存在しない為
仕方が無く私のような無学な庶民は
一応の組織力と実行力を持つ自民党に投票せざるを得ないのです。
Posted by 芋人 at 2013年05月22日 13:37
以前の三木派とかが健在だった自民党ならば選択肢としてあり得るでしょうが、今日の自民党には何も期待できるものは無いでしょうね。とはいえ、まっとうな中道左派の選択肢を提供できないのは、我々政党人の無力さゆえであることは認めます。
Posted by ケン at 2013年05月23日 12:46
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