2011年07月07日

医療費は誰が出すの?

先日もおバカな共産党系の労働組合が陳情に来て、

「医療費の自己負担も消費税も上げないで下さい」
「保険料はもう限界です」

などと言うものだから、怒鳴りつけそうになってしまった。
自分、東人なんで……(いや、西の龍も同じか、笑)

論理が破綻しているのである。分かりやすく説明しよう。
医療費を構成しているのは、

? 健康保険料(主に7割)
? 窓口負担(自己負担、主に3割)


であるが、実際には保険料だけでは、肥大化した医療費全部を賄えず、税金によって補填されている。

? 税金

健康保険制度・医療財政の採算を考えずに、国民が医療を消費し続けた結果、国民医療費は天井知らずに鰻登りとなり、健康保険と窓口負担で賄いきれず、税金を補填することになる。
少子高齢化、特に高齢化の加速に伴って、医療費は急速に肥大化する一方で、正規職員の減少も相まって保険料収入は急速に低下、税補填への依存が高まることになる。

具体的な数字を挙げると、1998年に29.6兆円だった国民医療費は、2009年には35.3兆円となっている。
このうち、70歳以上の高齢者医療費は15.5兆円となり、全体の44%を占めている。この割合は2000年度には37.7%で、上昇の一途を辿っている。
他方、保険料財政は、2010年度で6621億円の赤字を示し、健保組合のうち赤字組合の割合は88.5%にも及んでいる。
その結果、中小の健保組合を中心に解散する組合が続出している。中小といっても、中小企業の大半は政管健保(協会けんぽ)に属しており、より正確に言えば、大企業中の中小健保という位置づけが適当か。有名どころでは、西濃運輸や京樽などが健保組合を解散させ、主に国が運営する政管健保に移行している。
1992年に1823あった健保組合は、2009年には1484となり、減少を続けている。

これは、健康保険組合が財政的に運営不可能に陥っていることを示している。
有り体に言えば、保険料収入よりも、支出が多いために、慢性的に赤字になっているのだ。
だが、現役の被保険者だけであれば、そんな巨額な支出になるわけがない。現役で病気になるものの数は、健康者の数よりもずっと少ないからである。
それは、高齢者の医療費を肩代わりさせられているからだ。

前期高齢者は07年度の厚生労働省の推計では、対象者数は約1400万人。医療費は6.1兆円だが、自己負担分を除くと5兆円になる。
その5兆円は、各種調整の後、市町村健保が全体の42%で2.1兆円、残り51%を協会けんぽ(1.5兆円)、健保組合(1.1兆円)、共済組合(0.3兆円)を負担している。

さらに75歳以上の高齢者と、65歳以上の障害者を対象に後期高齢者医療制度が創設され、税金5割、高齢者本人の保険料1割、被用者保険と国保の支援金4割などで支える制度となった。後期高齢者医療制度の被保険者は約1300万人、総額で11.4兆円、自己負担額を除くと10.3兆円だ。
つまり、5兆円の税金と、4兆円の各保険からの支援金(上納金?)によって運営されている。高齢者の医療は、現役世代の重い負担の上に成り立っていると言える。
それ自体は、悪いことではない。
本来、保険というシステム自体、多数の健康なものが少数の病人や怪我人を支える構造の上に成立しているからだ。
だが、この構造は少子高齢化の前に破綻しかかっている。

09年度の被用者保険における本人の医療費が13.3万円なのに対して、70歳以上の医療費は77.6万円、75歳になると88.2万円にもなっている。
ところが、日本の総人口に占める65歳以上の老齢人口の割合は23%を超え、他方15歳未満の年少人口は13%に過ぎなくなっている。
日本人の平均寿命は、男性で79.5歳、女性で86.4歳にも達しており、他方合計特殊出産率(一人の女性が生涯で産む子どもの平均数)は1.39でしかない。
これは、現役世代が急速に減少していく一方で、老齢人口はさらに増え続けていくことを示唆している。

つまり、現状を放置した場合、現在の団塊世代が寿命に達する今後20年間にわたって、医療費は際限なく、かつ急速に肥大化していく。
その一方で、現役世代から納付する保険料収入は急速に減少していく。
結果、医療サービスの供給を停止・制限するか、際限なく税金を投入して補填するかの二者択一を迫られることになる。

現状では、保険料の値上げと税の補填強化で対応しているが、その結果、健保組合が財政破綻して続々と解散し、政管健保に編入され、税による補填分が加速的に増えるという悪循環に陥っている。
現役の被保険者は減少する一途だが、高齢者は激増するため、高齢者医療を補填すべく支援金を増額すると、保険料を上げざるを得なくなり、現役層の負担が重くなると同時に、保険者(健保組合)の財政が悪化する構造になっている。
にもかかわらず、民主党は高額療養費制度の自己負担限度額を引き下げるという方針を打ち出して、さらに医療財政を悪化させようと画策していた。
社会保障財政が破綻の危機に瀕している時に、財政バランスを考えずに、人気取りに走るのは、無責任極まりない。

国民皆保険制度を維持するためには、持続可能であることが大前提であり、そのためには保険財政と税の徹底的な改革が不可欠である。
現状はその改革を先送りにしてきたツケが回ってきた形だ。
改革を先送りにしてきたのは、層が厚く、投票率の高い高齢者層の顔色を伺ってきたからに他ならない。
「高齢者層を説得する」という取引コストがあまりにも高すぎるために、「現行の健保制度を改革する」ことを先送りにしたのだ。政治の無責任である。
必要なのは、国民に健康保険制度の現状を説明し、財政破綻寸前であることを白状、選択肢を提示することにある。

? 高齢者層の保険料と自己負担(窓口負担)を上げる。

? 現役層の保険料を大幅にアップすると同時に、増税して医療費を補填する。但し、税率は高齢化とともに上昇し続ける可能性が高い。

? 公的保険制度を廃止し、米国型の自己リスク(民間保険)社会へと転換する。


日本人は、普段診療所の窓口で千円とか2千円しか払わないために、医療費がそんなものだと軽く考えている節がある。だが、実際にかかっているのは、3千円であり、6千円なのだ。
75歳以上の高齢者が使う医療費88万円のうち、自分で払っているのは16万円ほどで、40万円は税金の補填、32万円は現役層の保険料からの転用によって賄われていることに気付くべきだ。 
その高齢者はさらに増える一方なのだから、そんな制度が「長く」どころか「短く」すら続かないことはもはや明らかである。

社会保障改革はすでに手遅れと化しつつあるが、まだ間に合うかもしれない。
posted by ケン at 12:36| Comment(4) | TrackBack(0) | 財政、社会保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
医療サービスの価格面すなわち保険点数のも問題についての検討があまりなされていないような気がします。もう検討済みのなのでしょうか。医師の報酬が低いとか、薬品メーカーが設け過ぎとか検討しても抜本的解決には繋がらないのでしょうか。

価格が高ければ(命を縮めても)消費を控えるでしょうし、安ければついつい無駄遣いしてしまうでしょう。保険制度の価格決定と医療サービスの価格決定のリンク不全を解消することが必要な気がします。

金融保険と言うのは資本の有効利用が本質であって、集めた資金の産む果実が少なすぎたり、分配が偏っていたりすれば崩壊せざるを得ない仕組みです。年金と共に低成長・高齢化社会では制度改革を行ったとしても何時まで延命可能なものか、そもそも論が出て来ないのは政治家にすればタブーを犯すことになるからではないでしょうか。逆に?はコロンブスの卵立てる機会かもしれません。
Posted by Sgt_Sunders at 2011年07月10日 12:30
医療の価格というのは、日本では公定価格でして、これを小手先で弄り倒したところで、本質的な改革にはならないんです。
何せ利害関係者の協議によって「最大公約数」がとられるのですから。
いっそ中国や米国みたいに自由競争させれば、サービスに見合った価格設定が市場でつくられるでしょうが、それで日本の有権者が納得するかという話です。まぁ健康な人間としては魅力的ではありますが(笑)

個人的には保険適用の上限額を決めてしまうのが無難ではないかと思っています。
「貧乏人は医者にかかれないのか!」と言われそうですが、延命治療のために公的保険制度が崩壊したのでは元も子もありません。

補足しておくと、高齢者でも私の母などはそれなりに稼いでいるせいか、国保の保険料で年間40万円近く払っています。でも歯医者以外一切用無しで、怒っております。
Posted by ケン at 2011年07月11日 17:11
今の自分の立場からすれば、高齢者の自己負担は少なすぎると思ってしまうのですが。自分の祖母を見ていても、そんなに週に何度も病院にかかる必要があるのかと・・・。他に行く所もないものだから、病院に行くのが仕事のように通って。保険料を月いくら払っているかは知りませんが、通院は多分、毎回数百円の負担。でも、本人に言わせれば、身体が悪いのだから、行かなければならない、と。今は自分が若くて健康だから、高齢者は!と言えるだけなのかしら?実際にその立場になると、また考え方が変わるものでしょうか?
ただ、乳幼児の窓口負担分も市が補助してくれたりするのは、我が家もお世話になっていることながら、不要だと思うんですよね。高額療養費制度は維持しつつ、日常的な通院の負担は上げてもいいと思います。数千円なら払える。
Posted by おい at 2011年07月12日 00:09
おいさん、こんばんは。

高齢者医療の難しいところは、昔ならポックリ死んでいたであろう人たちが、高度な医療によって皆長生きするわけですが、そのためには高価な治療を受け続ける必要があり、ますます医療費が高騰していく構造(スパイラル)に陥っています。

しかし、これは先進国ではどこでも同じなのですが、日本(と米国)を除くと、他の国では還付方式をとっていまして、まずかかった医療費の全額を支払って、後日保険支払い分が口座に返却される仕組みになっています。

窓口負担が極端に安い日本の制度は、非常に旧社会主義国のそれに近いと言えるでしょう。
私は欧州式の還付方式の導入を唱えています。
それならば、高額療養費制度もある程度は維持できるでしょう。
Posted by ケン at 2011年07月12日 21:42
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