2009年08月09日

北方領土論争における立ち位置

「SAPIO」(小学館)の8月5日号(前号)はなかなか笑えた。
いまさらウヨウヨな連中を相手にしても詮無きことだが、北方領土問題となると少し話が違う。
何と言っても、左右関係なく政党という政党みな「四島返還」でまとまっているからだ。
それどころか、NK党に至っては「千島全島返還」という、あからさまにサンフランシスコ講和条約を反故にするスタンスを打ち出している有様。
民主党も、最新の政策インデックスが出るまで、「四島一括返還」という強硬論だった。

本号では、「よしりん」が「四島一括返還」を強硬に主張し、他方で佐藤優氏が「段階的返還論」を述べている。
互いに互いを「売国奴」(あるいはそれに近い表現)と罵る有様が、私的には苦笑いせずにはいられなかった。
もちろん、本来的には笑い事ではすまされないのだが。
しかし、きちんとした知識を持って、これらを読むと、そのいい加減さやヤバさ加減がよく分かる。

「よしりん」は自分に都合の良い事実のみを羅列するか、下手すれば事実を一部ねじ曲げて書いており、まったく論じるには値しないものになっている。
この論法では日本人は騙せても、他の国のいかなるものも騙せないだろう。
が、北方領土マフィアの大半はこの手の感情論で彩られており、それは50年間にわたる日本政府のデマゴギーによって培われたものなので、一概にバカ扱いするのもちょっとだけ気が引ける。

佐藤氏はさすがに外交の実務に携わり、ムネムネと連携して外務省内の主流たる米国派と暗闘してきただけに、非常に慎重ではある。
氏のスタンスは、「北方領土の潜在的主権をロシアに認めさせた上で、二島を返還させ、平和条約を結ぶ」というもの。
もっとも、元々彼は「二島を返還させた上で、国後・択捉は日ロの継続協議事項として平和条約を締結する」というスタンスだったはずだが……
路線修正は良くあることなので、この点は今は問わない。
問題は、氏が「四島返還」の根拠を日ソ共同宣言の第9項に求めている点である。
日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。
ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。

氏は「平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する」点について、国後・択捉についての領土交渉も「平和条約の交渉」に含まれているから、「日ソ共同宣言を基に交渉する」というロシア側のスタンスは「むしろ望むところ」と言う。
だが、たとえ平和条約締結の一般的条件の中に、「国境の最終的確定」があるにしても、それを根拠にして「国後・択捉は日本固有の領土だから返還は当然」という結論を出すのは無理がある。
日ソ共同宣言をどう読めば、「国後・択捉の潜在的主権は日本のものだから交渉継続は当然」という氏の主張に到達するのか、あまりにも論理の飛躍や独自解釈が強すぎて、私には理解しがたい。

さて、ここで北方領土問題における日本側のスタンスを整理しておきたい。
上に行くほど強硬路線で、下に行くほど柔軟・現実路線である。

四島一括返還論:最右派、右翼の大半が主張するものだが、現実に四島を実効支配するロシアが一括返還するメリットも理由も全くない。

四島返還論:政府の主張。四島の日本への帰属が明確にされるのであれば、返還の時期などについては柔軟に対応する、というもの。自民党も公式的には同じスタンスであり、民主党は今回の政策転換で「一括返還」から軸足を移している。

段階的返還論:ムネムネや佐藤優氏らの主張(森元首相も?)。二島を先行返還させた上で、残る二島は「交渉継続扱い」とするもの。しかし、鈴木氏らは「我々こそが真に実現性のある四島返還論者なのだ」という旨を述べており、分かりにくい構図になっている。

二島引き渡し+α論:ケン一派の主張。日ソ共同宣言を忠実に履行し、日ロ平和条約を締結して二島引き渡しを受ける。但し、平和条約締結に際し、国後・択捉の共同利用や共同開発、そして漁業権・資源採掘などについて、同時に付帯条項あるいは協定を結ぶ、というもの。

その他に「三島返還論」とか「領土二分割論」などが存在するが、これはまったく勢力になっておらず、ほとんど「思いつき」の域を出ない。
「領土二分割論」(フィフティ・フィフティ論)は、中ロの珍宝島・ダマンスキーでの国境紛争における最近の解決方法を参考にしたもの。
しかし、この島は、ウスリー川の「川中島」に過ぎない島であり、一度洪水でも起これば川の流れ自体も容易に変わりかねない領域である上に、交渉の基礎となる条約もなく、純粋にパワーバランスと経済効果の観点から、(どちらかと言えば)ロシア側が譲歩する形で国境が確定している。それを北方領土に適用しようというのは少々無理があるのではないか。

結局のところ、領土問題というのは国家間のパワーバランスの上でしか解決し得ない。
90年代には、大混乱の中で国家が十分に機能し得なかったロシアが、一時的に日本側に譲歩する姿勢を見せたことがあったのは確かだが、今日ではすでにロシアの国力は回復基調にあり、逆に日本は衰退の一途を辿ろうとしている。
「段階的返還論」は、90年代の成功体験を引きずる発想でしかなく、日米安保すらどうなるか分からない上に、日ロのパワーバランスが逆転しつつある今日にあっては、到底有効性を持ち得ないと思われる。

いずれにせよ、北方領土問題に関心のある方は一読の上、比較してみて欲しい。
posted by ケン at 19:10| Comment(4) | TrackBack(0) | 政治、社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。

佐藤氏や宗男氏が北方領土の話をすると、
いつも外交機密の川奈提案という所で
結局どういうことなのか分からないのですが、

ケンさんには川奈でどういう話し合いがもたれた可能性があるのか予測できますか?
Posted by たけ at 2009年08月18日 19:56
こんばんは。

選挙期間中につき、即答できずにすみません。
きちんと情報収集できる環境にないため、あくまで単純な推測しかできませんが、
巷間言われている通り、
「四島に対する日本の主権を認めるなら、当面の間はロシアの施政権を認める」というものだと思います。
当時のロシアの財政状況を鑑みれば、巨額の財政援助や技術支援などが交換条件とした可能性が高いです。

当時のエリツィン大統領は、すでに末期のブレジネフよろしく(党大会で秘密裏にページを入れ替えられた演説原稿をそのまま読んで気付かなかった)、アル中と過労でまともに政治的判断を下せないような状態にありました。
そのため大統領補佐官は川奈提案をはぐらかすように答えるようし向けるのに相当苦労したと言います。

いまや大統領の質も国力も桁違いになったロシアに川奈提案を蒸し返したところで鼻で笑われるだけのことでしょう。
Posted by ケン at 2009年08月21日 21:29
質問しっぱなし、ごめんなさい。

そうなると、宗男氏や佐藤氏が川奈提案を度々持ち出すのは、自己顕示も結構含まれているってことですかね。

ちょっと寂しいですな。

政局ですが、正直なところ鳩山政権にそれほど期待はしていませんが、
「何も変わらなかった」
ではなく、めちゃくちゃになるか、劇的に変わるかの二者択一的なトリッキーさで、頑張って欲しいと思います!
Posted by たけ at 2009年09月07日 16:34
彼らがあれを持ち出すからには、何らかのウラの合意があった可能性も否定は出来ません。
しかし、しょせん口約束ですから。

取りあえず突破口は開いたのですから、パットン並みの突進力で切り開いていきたいとは思いますが、どうなることでしょう……

頑張ります!
Posted by ケン at 2009年09月07日 18:15
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