2007年10月30日

教員の質が低下するわけ

教員の質的低下が叫ばれて久しくなる。
教員研修が強化され、成果主義が強調され、さらに教職大学院や教員免許の更新制度が導入されることとなった。
だが、これらの改革で教員の質が向上するかと問われれば、私は甚だ否定的に捉えている。
その理由は、質的低下の原因を探り、問題を解決することなく、「対策」だけが打ち出されているからだ。
その質的低下の要因を挙げると、

? 教員の過剰労働、生徒と接する時間の少なさ
? 教育現場におけるOJT機能、チーム機能の喪失
? 教員の社会的地位(威信)の低下、管理強化
? 求人幅の狭さ(参入の難しさ)
? 教員免許の質


などがある。
まず?。「教師は長い夏休みがあっていい」などというのは大昔の話で、いまや平均的な労働者と同じで、授業がなくとも出勤するのが当たり前となっている。日本の教員は部活動の指導や教員研修もある上に、夜回りや夜間の家庭訪問、生徒からの相談などもある。夜半過ぎに帰ってから、翌日の授業準備や小テストの採点をするといったことも日常茶飯事だ。
こうした労働量に比して、待遇は悪く、残業代も出ない(裁量労働の走り)上に、昨今では社会的威信も低下しているため?、優秀な人材が集まらなくなっている。
戦後20年ぐらいの間は、比較的ゆとりがあって、待遇も民間に比して悪くなく、社会的地位も高かった故に、優秀な人材が集まったのだが、今では全く逆の状況になっている。

また、「労働時間における授業等の割合」という点でも、日本は世界的に見て群を抜いて低い水準にある。だいたい小学校で4割弱、高校になると2割強といった具合。
つまり、授業(+準備)以外の業務があまりにも多すぎるのだ。その他の業務が増えれば増えるほど授業の質が低下するのは道理であり、その一つに過剰な研修も挙げられる。

そして?。過剰な労働量の結果、個々の教員は全くゆとりがなくなり、モチベーションが低下するとともに、新人の面倒を見て指導したり、同僚と相談して協同指導したり、といった環境が失われている。
OJTとは「On the Job Training」の略であり、職場において実際の仕事に必要な知識や技術あるいは心構えといったものを指導し、実務能力の向上や職場の効率を高めるもの。
かつては新人教員は必ずベテラン教員の下で手取り足取り指導を受けたものだが、ベテラン教員の多忙と燃え尽きなどにより、指導を受ける機会が減少している。同時に一部で導入されつつある成果主義が、教員間の競争を加速させ、教員間の連携や指導を阻害するといった弊害も起きている。
その結果、個々の教員は孤立し、その一方で労働と管理ばかりが強化されるため、ストレスのはけ口もなく、相談する相手もいない、といった状況が現出している。
新人教員の離職率の高さや、全体的な休職率の高まりはそれを反映してのことと思われる。

?の社会的地位の低下も深刻である。
かつての日本では、教員の地域における社会的地位の高さが、学校内における生徒の尊敬に変わり、それが教室内や校内における統制力として機能した。
しかし、教員の威信が失われると同時に統制力も低下する。
生徒は教員に従わなくなり、学校のルールを守らなくなる。
保護者はそれを学校や教員の責任に転嫁し、それがますます権威と統制力の低下につながっていく、という悪連鎖である。
「権力の構造」については別途説明したいが、世論の支持がないところでは権力を発揮するのは難しい。
つまり、地域や保護者の支持がないことが、権威の低下につながり、それが質的低下に直結している、とうことである。
また、一般的に教員には高いモラルが要求される傾向が強い。しかし、労働条件が悪化し、待遇も悪くなり、社会全体のモラルも低下する中で、教員や公務員だけがかつてのような高いモラル(倫理)が要求されており、そのことが彼らのモラル(士気)を低下させている事実も指摘しておく。
高いモラルは、報酬、地位、威信などの満足によって支えられる。何も保証しないで、モラルのみを要求するのは、「できもしないことをおっしゃらないでください」と言えるだろう。

?は、教員確保の難しさである。
一般に教職員は教員免許が必要だが、それは大学の学部でほぼ4年間使って単位を取得し、教育実習を経て取得される。
そのため、社会人になってから歳月を経て「先生になりたい」と思っても、教育学部に入り直さねばならず、ハードルが高すぎる。
結果、学部時代に免許を取得したものしか教員になれない、という点で、人材供給源が非常に限定されてしまっている。
しかも優秀な人材は、?の理由から最初から教員免許など取らない。
私も「高校教師も楽しそう」と思わなくもないが、免許がないので、教壇に立つことは非常に難しい(現実問題としてピンクのPによる通勤を認めてくれる学校はないと思うが……)。

最後に?。日本の教員免許は、どこの学部であれ、一定の単位を取得し、3〜4週間程度の教育実習を受ければ交付されてしまう。つまり日本の教員免許は、最低限の知識を保証するものでしかなく、運転免許のような実際の能力が担保されるわけではない。ちなみに、かつてのソ連では教育実習は丸一年間であり、現在のロシアでも3ヶ月ほどの実習が課されている。フィンランドでは、初中等教育に関わる全教員が大学院卒である。

ネットや新聞の投稿欄では、教員の質的低下を教員個人や学校の責任にして、「嫌ならやめろ」などのように攻撃する論調が幅をきかせている。
が、この論法は実質的に自分たちの首を絞めている。
能力のある人材は早々に教員を辞めて転職し、能力のない、転職できない人ばかりがやる気のないまま惰性で学校に残るからである。

私が挙げたような問題点を未解決のまま、新たな制度を導入して労働管理ばかりを強化したところで、質や効率の向上にはまずならないであろう。
posted by ケン at 00:34| Comment(4) | TrackBack(0) | 学問、文学、教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
全くその通り!紙面上ならまだしも全てパソコン上での仕事が増え、パソコンを開く時間は勤務時間内にはなく、職員室は6時くらいから事務所のようにパソコン相手に仕事をしています。休憩時間と称す時間にも部活動を行い、生徒会の委員会活動を行い、休憩時間が終わると同時に役に立たない研修会が目白押しに組まれ、勤務時間が終わった後も何年次研修とやらが組まれ、自分の頭で整理し、考え発想するという時間は完璧に失われ、やったというアリバイ作りだけに走っているのが現状。生徒の捉え方や親の気持ちの汲み取り方を普段から話す事が失われています。勉強のできた教員は多くいますが、また、そういう教員を好んで採用している行政があるのですが、感性の乏しい人としての心ある教員が少なくなっています。教育とはパソコン処理ができること、上手に指導案が書けることではなく、生きている人と生きている言葉を使い、切磋琢磨していく事が教員としての醍醐味ではないかと思うのですが。そこに着眼しない管理体制が、若い教員の持っている考える力を失わせ、イベント的、パフォーマンス上手の薄っぺらな教員が増えていくのでしょう。
Posted by sya-mama at 2010年07月21日 21:32
コメントありがとうございます。
いまの教職の現場を見て、「先生になろう(なりたい)」と思う人は稀でしょう。
東京などの首都圏で特に募集倍率が低下し続けていることが、それを示しています。
業務量は増える一方なのに、保護者からはねじ込まれ、管理はますます強化され、それに対応するために生徒とコミュニケーションをとる時間が失われ、教育の中身が空洞化していくという悪循環です。

行政も政治家も問題の本質を認識せず、小うるさい市民や有権者の声ばかりを反映させるため、ますます現場から遊離した政策が採られるスパイラルに陥っています。

教員の一般有権者としての政治活動すら禁じる方向のようですから、現状が改善される見込みはありません。政治の現場に身を置くものとして申し訳ない限りですが。

こうした社会では、変に「社会のため」とか「生徒のため」などとは考えず、まず自己保身を図るべきでしょう。
教員としての職務環境が悪い場合は、下手に自分たちで改善しようなどとは思わずに、早めに転職されることを勧めざるを得ないのが現実です。
Posted by ケン at 2010年07月23日 02:43
私は、学校現場で教員でなく事務の臨時で仕事をしていました。何だか、教員という世界はコールセンターや介護、飲食店、システムエンジニアなどと肩を並べるくらいの離職率になっているのかなと思います。コルセンでも働きましたが、去る者多しという感じです。保育園や幼稚園や学童の先生も顔色があまりよくないと同様に感じます。
 労働トラブルの少なくない職場だと思いました。ガツガツしてる雰囲気があります。
Posted by トキオ at 2013年07月19日 23:06
教員の職場は、生徒や保護者の消費者感覚化によってますます過酷になっています。教育が「サービス」と捉えられるようになり、「商品」や「サービス」の質が悪いといった感覚で苦情がなされるわけです。生徒・保護者側には当事者感覚はなく、「サービスの受益者」としての感覚しかないために起こるのでしょう。
教員の場合は、教職免許がないと参入できないため、離職に対する補充が進まないことも大きな問題です。
Posted by ケン at 2013年07月21日 12:40
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