2014年12月17日

自民党は勝利したのか:47回総選挙の結果を分析する

14日に投票された第47回総選挙は、自民党が291議席、KM党が35議席を獲得、政権党が議席の3分の2を確保して終了した。普通に見れば、政権党の勝利、あるいは大勝利と言えるが、私の周囲では何故か「自民党は勝っていない」などの言説が横行している。まずは客観的に分析してみよう。
ゲームの場合、勝利条件が明確に設定されており、その判定に困るようなことは普通無いわけだが、一般的には勝利条件は個々の主観や立場によって設定されているため、客観的な判定を下すのは難しい。そこで軍事学における三つの基準を適用して考えたい。

@ 客観的要因:占領した土地、敵味方の損害など(具体的、数値化できるもの)
A 主観的要因:当事者がどう考えているか(達成感とか敗北感といったもの)
B 目標到達水準:作戦目標をどの程度達成したか

この3つの要因がすべて達成されていれば、まず勝利と言える。
2つの達成にとどまる場合は、留保がつき、一概に勝利したとは言えなくなる。
1つしか達成していない場合は、客観的には勝利したとは言い難くなる。

今回の総選挙の場合、
@ 客観的要因:議席数、得票率
A 主観的要因:政党代表の声明、幹部のコメント、党員・支持者の感想など
B 目標到達水準:選挙前に設定した目標との比較

から判断される。

【自民党】
@ 議席は4減だが、定数削減により地方の選挙区が5減されている。比例得票率は前回の27.6%から33.1にアップ。
A 幹部、若手議員ともに大満足:安倍内閣は安泰。
B 当初掲げた目標(与党で過半数)が低すぎるものの完全達成。但し飯島秘書官が豪語した単独300議席には届かず。

【民主党】
@ 10議席増で73。比例得票率は16%から18.3%にアップ。
A 代表落選に象徴されるように、幹部、党員ともに敗北感が蔓延。分裂の可能性。
B 掲げた目標の100に遠く及ばず。

【維新の党】
@ 1議席減。比例得票率は20.3%から15.7%にダウン。
A 代表が選挙戦最終日に敗北宣言。党再分裂の危機。
B 野党第一党になれず、民主は微増。

【KM党】
@ 4議席増。比例得票率は11.8%から13.7%にアップ。
A 幹部、党員ともに満足
B 自民党の単独300議席を許さず、政権党内での影響力を維持。

【NK党】
@ 13議席増。比例得票率は6.1%から11.4%にアップ。
A 委員長が勝利宣言。「確かな野党」の手応え感。
B 議案提出権を獲得。

「自民党は勝っていない」論者は「4議席減」を強調するわけだが、これは元々主に自民党の金城湯池だった地方の選挙区が「0増5減」によって削られてしまったことによる減少で、確かに小選挙区だけ見ると14議席減らしているが、比例で11議席増やしているため、全体的には「自民党支持が増えた」とすべきだろう。民主批判に便乗して勝利した2012年と違って、今回は安倍内閣・自公政権の信任投票であっただけに、「内閣・政権が支持された」とする政権側の認識は、投票率の低さを除けば間違っていない。

とはいえ、比例区を俯瞰した場合、自民党の33.1%に対して民主と維新で34%を獲得しており、実は拮抗していることが分かる。これは、仮に比例代表のみの選挙制度であった場合、全475議席中、自民党が157、民主が87、維新が74という形になり、「自・民」か「自維公」で連立を組むはずだった。
選挙区だけ見ても、自民党は得票率48%で議席の75%以上を占めている。これらから分かることは、自民党は有権者の多数から支持されているわけではないが、50%近い棄権者と小選挙区制のマジックによって圧倒的多数の議席を確保した。
特に比例区のみを見た場合、52.7%の投票率に対して自民党が得たのは33.1%、つまり全有権者の17.4%しか自民党に投じていないのであり、その意味では「自民党が有権者の信託を得た」とはとても言えない。だが、それは野党も同じで、民主党なら9.6%、維新は8.3%の有権者から信託を得ているに過ぎず、いずれも国民のごくごく一部からしか信任を得ていない状況にある。

左翼を中心に絶望的な見解が広がりつつあるが、自民党は決して幅広い国民から支持されているわけでは無く、むしろ問題は対抗軸をつくれない野党にあり、選択肢が不在の結果として自民党とNK党に票が流れているに過ぎないと考えられる。そして、対抗軸の不在がデモクラシーに対する不信をさらに強め、投票率の低下がさらに自公に有利に作用している。
今回の選挙では「投票に行こう」という呼びかけが盛んになされたが、「選択肢が無いんだから、勝手にやってよ、どうせ自民党なんでしょ」という見方が蔓延している限り、投票喚起は殆ど意味をなさない。デモクラシーは多様な市民が多様な選択肢から自らの未来を選べるという条件で成立しているが、未熟な政党政治と小選挙区制度が選択肢の提示を難しくしてしまっている。
そう考えると、今回の選挙結果は、「自民党は勝っていない」というよりも「勝てない野党」と「デモクラシー不信の強化」にこそ問題があると見るべきだ。「自民党は勝っていない」というのは、「ノモンハンでは実は日本軍が勝っていた」とか「中国大陸では日本軍は負けていない」という見方と同類のものに過ぎない。

【追記】
戦前期の昭和帝は組閣の大命降下に際して、「卿に組閣を命ずる」の宣言に続いて、「組閣の上は、憲法の条規を格守するように、外交関係においては慎重に考慮して無理押しをせぬように、国内の経済上に大変動の起こるような急突なる財政政策を採らぬように」と三つの条件を付せられるのを慣例としていた。さて、いよいよ「戦後レジームの打破」を本格化させると思われる安倍内閣はどうするのだろうか。そろそろ自分も翼賛体制への協力を申し出るべきなのだろうか・・・・・・
posted by ケン at 13:13| Comment(2) | 政治、社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 マスコミの事前情勢では自民党は最低300議席、ひょっとしたら単独で3分の2確保の可能性もと報道されていたので、現有議席維持という結果は「敗北」と見なされているのだと思います。安倍首相としては次世代がそれなりに議席を確保して、自民党が単独3分の2を確保すれば、「改憲の機運が高まった」として一気に改憲に乗り出そうとしたと思われますが、実際には次世代は壊滅で、共産党が議席を倍増させ、民主党も踏みとどまったことで安倍首相にとっては不本意な選挙結果だったと思われます。マスコミは安倍首相が改憲に乗り出すと騒いでいますが、改憲か否かの勝負は2016年の参議院議員選挙(衆参同日選?)に持ち込まれたのではないでしょうか。今後の野党のあり方ですが、無理やり民主と維新が合併するとかつての民主党の轍を踏むと思います。民主党は社民リベラル路線、維新はネオリベ路線に徹し、選挙区も住み分けを行い(東日本、東海、およびリベラル層が多い大都市郊外の新興住宅地は民主、西日本および自営業者が多い大都市中心部は維新)、選挙後、連立を組むというのはどうでしょうか。
Posted by hanamaru at 2014年12月17日 22:06
300議席というのはマスコミの一方的な報道ですし、安倍氏は選挙後の記者会見で改憲を打ち出しています。また、現行の比例代表連用制では300議席前後を叩き出すのがほぼほぼ限界でしょうから、「291で敗北」というのは情報操作である気がします。
おっしゃる意味合いでは、良いところ「民主は勝てなかったが、負けもしなかった」という感じではないかと。
おっしゃることは分かりますが、小選挙区制で棲み分けを続けると、今回のような選挙結果がずっと続いて政権交代できないと思います。また、選挙協力は基本的に政党側の都合であり、政党の都合で有権者にあるべき選択肢を提示しないのはデモクラシーの正統性に反するでしょう。今回も維新と選挙協力を行った結果、民主の比例票が大きく減じたと思われます。
とはいえ、確かに無理に合併しても同じ事を繰り返すだけというのもよく分かるので、まったく頭が痛いところです。
Posted by ケン at 2014年12月18日 13:12
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