2015年06月12日

自民党は本音で安保を語るべき

自民党におられる先輩と立ち話をしたところ、安保法制について「こりゃもうダメだな、イメージが悪すぎる」と言われ、こんなグダグダな状態にもかかわらず官邸からは「審議をもっと急がせろ!」「党は何をやってるんだ!」の一点張りで、自民党内では「どう見てもお前ら(官邸)のせいじゃねぇか!」と怨嗟の声が上がっているという。事態が改善するメドははたたず、今後さらにボロが出て状況がより悪化してゆくのではないか、という悲観的な見方をされていた。

圧倒的な議席と内閣支持率を有する自民党政権が安保法制でつまずいている。今はまだ「つまずく」程度だが、つまずきが重なればどうなるか分からないところまで来ている。年金問題でも政府は防戦一方にあり、派遣法でこそ維新の内応に成功したものの、今後これ以上悪いイベントが起きないという保証はない。もっとも、南沙危機や尖閣危機を煽ることぐらいはしてくるかもしれない。

このような状況に陥ったのは、一義的には政府側の不誠実、無責任、無秩序な答弁にある。誰もまともに正面から質問に答えず、別の話題と聞いてもいない説明を繰り返すばかりで、議会として成立していないからだ。中でも特に中谷防衛大臣の答弁は酷いもので、ついには「憲法を法案に適用させていく」と発言し、自民党の本性を露わにしてしまった。やはり退役軍人を国防大臣に据えるなど、前時代的にも程があるということだろう。

論理的にも政府・自民党側の、

「今回容認される集団的自衛権は、(個別)自衛のためのものであって国際法上の集団的自衛権とは別物」

「本法成立で自衛隊員のリスクが増えることはない」

「敵が攻めてきたら自衛隊はすぐに待避するから戦闘にはならない」

「一般的な武力行使はしないが、機雷掃海は例外」

「他国の戦争に巻き込まれることはあり得ない」


などの説明はどれも「そんなワケねぇだろ!」と野党に一括され、より具体的な説明が求められているにもかかわらず、ロボットのように同じ答弁を繰り返すため、ますます反発が強まっている。その背景には、霞ヶ関官僚の議会軽視と蔑視がある。

個人的には、本法案を答弁するのが中谷氏ではなく、例えば石破氏であったらもう少しまともな答弁になり、ここまでグダグダになることはなかっただろうと思っている。もともと中谷氏には理論家あるいは答弁者としての評価は殆どなく、自民党内にも危惧する声があったのだが、安倍総理の石破氏に対する危機感(ナンバー2不要論)もあって、中谷氏が「元自衛官」という肩書きで採用されている。かのロシアですら、イワノフ、セルジュコフ、ショイグと3人続いて文民出身者が国防大臣に就いていることを思えば、日本はむしろ退化していると言える。

もう一つ、先の記事で述べているが、本来集団的自衛権容認は「このままでは(衰退する)アメリカに見捨てられるから、同盟を強化して対中軍事バランスを維持する必要がある」というところから始まっているにもかかわらず、つまらないプライドからか「見捨てられ論」を隠蔽、また中国市場を失いたくないために「対中防衛力の強化」という側面を曖昧にしてしまった結果、「日米同盟強化」だけが残った。すると今度は、「日米同盟を強化するために米軍の兵站支援を行います」と言うことになるが、「対米従属」との誹りを受けるのが恐いため、「国際平和」やら「国際貢献」などの美辞麗句で本質を覆い隠してしまったところ、本人たちですら答弁できない訳の分からないものになり、当時者以外の人からは「意味不明」「それ要らないよね?」と指摘される代物になってしまったのだ。

同盟のジレンマと非対称性 
集団的自衛権の閣議決定を受けて・続 
中道左派ライトウイング視点による憲法9条と日米安保のおさらい


90年代以降の国際情勢の変化の中で、日本は日米同盟を主軸とした「力による大陸封鎖」路線と、国連協力とアジア協調を主とした「新たな集団安全保障体制の構築」(非対称封じ込め)の二つの選択肢が遡上に上がったものの、90年代半ばには外務省から国連中心主義派がパージされて前者に大きく傾いていった。
「日米同盟堅持」路線は、政策転換にかかるコストが掛からない代わりに、「同盟を維持するコスト」が高まっており、日本(霞ヶ関と自民党)としては同盟コストを支払うために「米国の世界覇権維持に対する協力強化」という選択肢を採ったと考えられる。
この一連の考え方は、私自身は首肯し得ないものの、政策判断としては十分な合理性を備えており、理解は出来る。例えば、

「中国の脅威がかつてなく増大しているが、対抗すべき基軸となる米国はアジア関与を弱めている」

「中国の脅威に対しては、アメリカと連携してこれを封じ込める必要がある」

「だが、米国は衰退傾向にあり、日本はそれを補うだけの軍事的貢献をしなければ、アメリカはアジアから手を引くだろう」

「東アジアの軍事バランスを維持するためには、日米同盟をより強化する必要があるが、アジアから退場しようとしているアメリカを繋ぎ止めておくためには、日本が全世界で積極的にアメリカの軍事行動を支援しなければならない」


という論理で首尾一貫主張していれば、維新や民主のような自民党の補完政党は反論の術を失い、ここまで図に乗ることはなかったものと思われる。維新にしても民主にしても、安全保障政策の基本を「日米同盟基軸」としている以上、対中国戦略として「力による大陸封鎖」路線しか選択し得ないからだ。ちなみに、民主党はかつて、鳩山・小沢路線が国連協力とアジア協調を主とした「新たな集団安全保障体制の構築」路線を掲げていたが、両者がパージされたことでほぼ消滅している。

問題はアメリカの国力と国際的影響力が減退する中で、東太平洋における「対中封じ込め政策」がいつまで機能し、採択され続けるか、である。現時点ではまだパワーバランスが米国寄りで成り立っているものの、米国の優位が保持されるのは時間の問題であり、このバランスが中国に傾けば傾くほど、日米同盟でアメリカが背負うリスクとコストが大きくなってくることになる。
アメリカには、すでに海外に巨大な軍隊を駐留させるほどの国力がなく、日本の防衛は日本が自分で賄うように促してきたが、日本側はこれを「見捨てられ」と解釈して「中国の脅威」と「日米同盟の強化」を謳うようになっていった。
ここで言う「同盟強化」とは、米国側が負っているリスクとコストを日本側が一部肩代わりするというもので、具体的には米軍が世界各地で行っている軍事行動の一部を自衛隊が担うことであり、これを総括して「集団的自衛権の行使容認」と説明されるはずだったが、安倍政権が小細工を弄した結果、大失態を演じているのが現状だ。

自民党は何故私を顧問として招聘しないのか、全くナゾである(爆)

【追記】
第一次世界大戦期の米国務長官エリフ・ルートは参戦に際して、「デモクラシーの安全のためには、敵を可能なときに可能な場所で殺さなければならない。世界は、その半分がデモクラシーで、もう半分が専制体制であるような状態のまま存続することはできないのである」と演説している。これはアメリカの根幹理念であり、100年を経ても変わっていないことは、アフガニスタンやイラクで証明されている(成功したか否かは別にして)。「米国との軍事同盟を強化する」ということは、アメリカによる専制国家打倒のための戦争に積極的に参戦することを意味している。「日米安保」をわざわざ「日米同盟」と言い換えているのはそのためだ。自民党議員は「中国・朝鮮で専制体制に苦しむ14億からの人民を解放し、民主的体制を実現しなければ、日本のデモクラシーは将来にわたって危機にさらされ続けるだろう。そのためには、日本国民も相応の犠牲を覚悟する必要がある」と堂々と主張すべきなのである。
posted by ケン at 12:29| Comment(4) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
突然ですが、ブログ主さんは民主党の関係者だということで一つ質問があります。それは先週の労働者派遣法での審議拒否戦術に関して、今民主党内ではどのような反応なのでしょうか。私はあれは最悪のオウンゴールだと思っているのですが、そのような認識は民主党内にあるのでしょうか。

というのもそもそも昔はともかく今は審議拒否は国民にとって全く賛同を得られない戦術だと思うからです。理由以前にある意味では感情的に受け付けないのではないでしょうか。もちろんそれでその法案を廃案に持ち込めればいいですが、今回は成立が確実の状態での審議拒否は単なるアリバイ作りにしか見えません。それでも安保法制の重大局面ならばまだ分かりますが、今回の理由は手続きですから民主党への共感は広がらないと思います。

そして最も危惧するのは今回の審議拒否で安保法制の潮目が変わる可能性があることです。早速自民党や御用マスコミはこの件の批判ばかりしています。審議拒否以前は民主党への攻撃も安保法制に絡んだことからだったのにそれが一変してしまいました。つまり今回の件は自民党に口実を与えた最悪のオウンゴールだったと思うのですが、そのような見方は民主党内にはないのでしょうか。
Posted by カラガラ at 2015年06月16日 17:27
基本的に本文、記事に関わらない内容についてはお答えしないことにしているのですが。

審議拒否は日程闘争の一手法でして、日本の国会が会期制を採用している限り戦術としては常に有効であり、自ら「カード」を捨てる手は無いと考えます。
ですが、それとは別に、議会政治のあり方としては審議拒否はあくまでも邪道であり、よほど正当な理由が立たない限りは採用すべきで無いと考えます。
つまり、基本的には「手札」として持って抑止力にするのが妥当な使い方で、容易に行使すべきでは無いというのが私の考え方です。

残念ながら、今の民主党は近視眼に陥っており、連合との関係を優先する余り、あるいは「何か目立つ行動をしなければならない」という強迫観念に駆られて、安易に審議拒否に出たと考えられます。
私が見たところ、否定的な見方をしている人は少数派に思えますが、内心では苦々しく思っている人も多いかもしれません。
Posted by ケン at 2015年06月17日 13:03
ありがとうございます。よくわかりました。

安保法制に対する影響というところが主眼だったので、関係があると思って質問しましたが、関係としては薄いものだったかもしれません。改めてお詫びします。

Posted by カラガラ at 2015年06月17日 23:32
いえいえ、お詫びされるほどのことではありませんよ。

一応ルールをつくって一定の秩序を保ちたいというだけで、厳格に適用するつもりはありませんので、よろしければまたコメントしてください。
Posted by ケン at 2015年06月18日 12:55
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