2015年07月03日

預金封鎖は他人事じゃありません

 EU(=ヨーロッパ連合)などとの支援交渉が事実上決裂し、債務不履行(=デフォルト)の懸念が強まっているギリシャは週明けの29日から、銀行の休業など資本規制を行うことを発表した。「ギリシャの銀行は休業し、預金引き出し額に制限を設けるよう強いられた」−チプラス首相は28日、このように述べ、週明けの29日は銀行を休業とするなどの資本規制に踏み切ることを発表した。ロイター通信などは、休業は来月6日までだと伝えている。預金の引き出し額は1日60ユーロ(約8000円)の制限が設けられるため、首都・アテネでは深夜まで預金を引き出す市民の姿が見られた。チプラス首相は、「預金や年金は完全に保護される」と述べたが、銀行の休業などが長引けば、取り付け騒ぎなどの混乱も起きかねず、ギリシャ政府は厳しい対応を迫られている。
(日本テレビ系、6月29日)


もともとギリシアの銀行というのはポンコツらしく、全体で20億ユーロ分の現金しか用意していないため、国民が一斉に引き出しにかかるとあっという間になくなってしまうのだという。欧州中央銀行(ECB)が緊急支援プログラムの不拡大を宣言したことを受けて、それまでECBが請け負ってきたキャッシュがなくなるということになり、「このままでは保たない」ということで「銀行の強制休業」という事態になった。
正確を期せば、ギリシアで起こっているのは預金封鎖では無く、引き出し制限と銀行休業に過ぎないが、今後どうなるかは分からない。

ギリシア政府は、ドイツやECBなどとの交渉を中断して、EU側が突き付けている改革案の是非を国民投票にかけるとした。これに対し、西側諸国から「無責任」などの強い非難が上がっているが、交渉力の弱いギリシア政府が下手に交渉の座に就いても改革案を強制されるだけにしかならないので、不確定要素の高い国民投票に委ねてしまうのは、交渉の点でもデモクラシーの点でもギリシアの側からすれば「正しい」選択だった。
ちなみに、改革案が肯定された場合、ギリシアは社会保障やインフラの水準が大きく切り下げられ、国民生活が急激に悪化、しかも新たに巨額の借金を背負うだけでそれを返す当てはなく、半永久的にドイツなどの従属下に置かれることになるだろう。
逆に、ユーロ圏から離脱した場合、「ドラクマ」が復活するも大暴落して当面の間は、改革案を受け入れたときよりも酷くなるかもしれないが、自国通貨安によって輸出と観光業が大いに振興するため、いずれ景気回復することになる。ユーロ圏に留まった場合、輸出も観光も復活することは無さそうだ。

さてさて、「ギリシアが預金封鎖(爆)」みたいな上から目線の話を良く耳にするが、日本人は本当に自国の歴史、特に不都合な歴史を知らない。日本が預金封鎖を実行した極めて珍しい国の一つであることは、皆忘れ去ってしまっているようだ。しかも二次大戦後に限れば唯一の国だという。
1941年の日本の国家予算が167億円だったのに対して、1946年3月の政府負債は2千億円を越えていた。日露戦争の時は外債を募って戦ったものの、それでも全て返済したのは1980年代に入ってからのことだった。だが、アジア太平洋戦争の場合、外債や外国から借金することが出来なかったため、全て自国内の税金と国債(内債)で戦費を賄うほかなかった。
昭和初期、日本政府が発行する国債の4分の1は外債(内債より利率が高かった)だったが、実は1942年、日本政府は一方的に外債の利払いを停止していた。つまり、日米開戦の翌年にはデフォルトを宣言していたのだ。そして、自国民に貯金と年金を強制することで個人資産を国庫に吸収、軍事費の財源とした。日本は自国民の手足を食べながら戦い続けたのである。日本が外債の利払いを再開したのは1952年のことだった。

荒廃した国土と償還不能な国債を抱えた日本政府は、1946年、預金封鎖を強行、旧紙幣の引き出しを禁止しつつ、その間に新円への移行を行い、新円は世帯主で300円、家族で100円に引き出しを限定した。インフレの急進行によって旧円の価値は暴落、新円に切り替えても引き出し上限があるため、引き出し制限が解除される頃には、それまでの金融資産の価値はほぼゼロになってしまった。戦時中、貯金と年金が強制されていたため、ほぼ全ての国民が財産を失った。
その間、政府は財産税法を施行、個人所有の資産に課税し、10万円未満を免税とし、累進税率が採用された。10万円以上は25%だが、1500万円を超える資産に対しては最高税率の90%が適用された。財産税法による税収額は43億5千万が見込まれた。
ところが、この税収は戦後復興に用いられることは無く、内国債の利払いに充てられた。これはどうやら「内債のデフォルトは絶対に行わない」という大蔵省のメンツに起因するものだったようだが、個人資産を収奪して主に銀行や企業あるいは資産家が有する国債の利払いに充てられたわけで、昔も今も個人の自然権がどこまでも軽視されていたことが分かる。
しかも、この財産税が帝国憲法(改憲前)に対して違憲(私有財産権)と判断されることは無く、議会での可決を経て「徴税権の正当な行使」として施行、実施されたことは、現政府にとっても踏襲可能な前例となり、今日に至っている。要は、今の霞ヶ関がやろうと思えば、やるだけの根拠があるのである。
(1946年の預金封鎖と財産課税については、先人の話も聞いた上で、改めて詳しい記事にしたい。)

現在、日本政府の負債は約1050兆円だが、財務省などが「650兆円の国有資産と1700兆円の個人資産があるから大丈夫」と嘯いているのは、戦争直後の悪しき前例があるからなのだ。ATMの上限設定はその事前準備と考えて良い。インフレを考慮せずとも、預金封鎖して、臨時預金税を30〜50%も課せば、政府の負債などすぐに返せるだろう。ただ、現代の場合、資産の海外退避が可能であるため、政府が預金封鎖を行うとすれば、全く事前のそぶりを見せること無く、真珠湾攻撃のように奇襲攻撃でなされるものと思われる。
実際、週刊誌報道ではあるが、1997年当時、大蔵省で預金封鎖が検討されたという記事もあり、前例がある以上、官僚組織は必ずそれを踏襲するだけに、決して荒唐無稽な話ではない。
ギリシアを笑う者こそ真の「平和ボケ」なのだ。預金封鎖の歴史を知らない者は、急いで老人に話を聞いておくべきだろう。

それにしても、わが一族のように、預金封鎖と農地改革で没落した家が戦後民主主義を積極的に肯定しているのに、今日ではむしろ農地改革などの戦後改革の恩恵にあずかった家の者が「戦後レジームの打破」などと主張しているのは、どうにも腑に落ちないものがある。安倍君には、是非ともわが先祖の預金と土地を返してもらいたいものだ(爆)
posted by ケン at 13:42| Comment(3) | 政治、社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 終戦直後の預金封鎖の際は「復興事業に使用」という理由をつければ預金の引き落としが可能だったそうです。そのため、抜け目ない人たちは「復興事業に使用」という名目で預金を引き落とし続けたとか。要は抜け道を知っている者だけがトクする仕組みだったのですね。

 戦中・戦後の統制経済は資産家には打撃でしたが、農民や労働者にはある意味、僥倖だったようです。食料を保有している農民の地位は小作農含めて上昇し、労働者も「自分たちは産業戦士だ」と言って、一等車や二等車に乗る紳士淑女を追い出して自分たちが勝手に座るといったことが横行したようです。戦争や統制経済を憎むのは持てるものとインテリで、持たざる者はむしろ歓迎するというのはある意味、理にかなっているのかもしれません。
Posted by hanamaru at 2015年07月03日 16:17
>>ただ、現代の場合、資産の海外退避が可能であるため、

海外退避に対しても着々と準備をしているようです。

相続税だけではない 富裕層狙い撃ちの課税強化 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/money/features/17.aspx?g=DGXMZO8879963002072015000000

>こうした問題に対処するために、14年からは「国外財産調書制度」が
>始まっています。非永住者を除く国内の居住者を対象に、5000万円以上
>の国外資産を保有する場合、毎年、期限内にちゃんとリスト化して、
>なにがいくらあるかを報告しなさいという制度です。
Posted by TI at 2015年07月03日 21:14
hanamaruさん、ありがとうございます。勉強になります。
私の家では、意外と預金封鎖に恨みはなかったようで、それよりも戦時中に金やダイヤモンドの供出を強制されたことや、戦後インフレで国債が無価値になったことの方がショックだったようです。なかなか当事者じゃ無いと分からないですよね。

TIさん、なるほど、政府はやはり着々と準備していると言うことですね。
Posted by ケン at 2015年07月04日 19:11
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