2016年01月05日

慰安婦問題は解決するか

【慰安婦「解決」を強調=安倍首相が外交報告】
 安倍晋三首相は4日、衆参両院本会議で外交報告を行った。慰安婦問題をめぐる昨年末の日韓合意について、「最終的かつ不可逆的に解決されることになった」と強調。「これをもって日韓関係が未来志向の新時代に入ることを(韓国側と)確認している」と述べ、成果を訴えた。中国が進出を強める南シナ海問題に関しては「力による現状変更は行ってはならない、平和的に国際法にのっとって解決すべきだ、などの原則を提唱したが、着実に国際社会に浸透しつつある」との認識を示した。 
(1月4日、時事通信)

慰安婦問題については、つい先日「解決しない」と書いてしまっただけに、触れておかねばなるまい。

同問題については、民主党・野田政権の時にも韓国の李明博政権と水面下で交渉が進んでいたが、自民党の強い反対(妨害)と当時の野田首相の判断によって中止されている。今回は、反対の当時者である自民党が自ら進んで交渉したわけで、「反対者が少ない」という点で合意形成の土台は堅かった。
ただ、安倍一派は以前から常々「河野談話の見直し」「軍の関与否定」「強制性の否定」などの主張を繰り返しており、今回の韓国政府との合意内容(軍の関与と日本政府の責任認定)とは完全に矛盾している。これまでの安倍氏の主張から推測すると、「将来にわたって韓国政府には文句を言わせないという言質を取ったから良いのだ」ということかもしれないが、そのために「旧軍潔白神話」という彼らの主張の核心を放棄するというのは無理があるのではないか。
さらに言えば、昨年8月15日の総理談話を受けて、外務省は自らのHPから慰安婦問題を始めとする歴史認識Q&Aの部分を削除している。私の記事も外務省幹部の話を複数聞いた上でのものであるだけに、決して根拠が無かったわけではない。

各方面の話を聞く限り、今回の件の裏には米国の強い意図があったようだ。要は、急速に対中傾斜を強める韓国と、反中・嫌韓を始めとするナショナリズム・レイシズムに傾斜する日本を見て、北東アジアにおける「自由主義ブロックの瓦解」を懸念、それを克服するために仲裁に乗り出した、ということらしい。実際、米国のライス大統領補佐官は12月28日、「米国は合意とその完全な履行を支持し、この包括的解決が国際社会に歓迎されるべき、癒やしと和解の重要な意思表示であると確信している」と日韓合意を歓迎する声明を発表している。
こうした同じ陣営内の紛争を盟主が仲裁するということは、冷戦期には東西を問わずに見られたことであり、珍しいものではない。

日本側としては、宗主国から言われれば、誰が総理であろうと拒否できるはずはなく、拒否したところで民主党の鳩山氏のように無惨な末路を迎えるだけの話だろう。また、安倍一派としては、確かに自説を曲げるデメリットはあるものの、「日韓関係最大の障害を自ら解決」「宗主国の意向に従う」というメリットがあり、「オレの努力によって、未来永劫、韓国からクレームが付くことは無い」と喧伝できるだけに、選択に悩むほどの話ではなかった可能性が高い。
また、合意は「日本政府が責任を痛感」としているものの、日本国外務省は「日韓条約で賠償問題は解決済み」とのスタンスを崩しておらず、要は河野談話(法的責任はなく道義的責任)と同じ立場であって、後退したわけでは無いので、「十分」と言える。

他方、韓国政府はすでに詰んでいるかもしれない。韓国はアメリカとFTAを結んだことで、経済的に従属下に置かれているが、国内では経済格差の拡大に伴う不満が高まっており、その不満を日本に向けることでこの間、政権を維持してきた。その日本では、嫌韓感情が高まって在日コリアンに対する差別・排斥運動が強まっている上に、年々軍備も強化され、武力行使の自己規制も解除する方向に進んでおり、韓国から見れば、その脅威は日本人の想像を超えるものがある。対日脅威と対北脅威の双方を解決するために、韓国政府は政治的に対中傾斜を強める選択をしていた。そこに宗主国アメリカから、対日宥和を命じられた格好だった。
本来であれば、問題の当時者たる慰安婦支援団体と調整した上で、日本政府と交渉しなければ、真の解決にはならないはずだが、今回は調整なしで日韓合意を事後報告している。これは、「当時者と話したら合意は無理」と韓国政府が判断したことを意味しており、このことも「宗主国の命令」を暗示している。しかし、命ぜられて日本政府と合意はしたものの、当時者を排除してのものであり、同時に「反日カード」の使用を制限されてしまった韓国政府は、今後民意を抑えられなくなる恐れがある。「今すぐ」ということではないが、意外と近い将来、大衆が蜂起して現体制が瓦解、親中政権が発足し、西側陣営から離脱するところまで行くかもしれない。

根本的なことを言えば、戦後補償と歴史認識の問題は、一方が謝罪して終わるものではなく、「負の遺産」を共有しながら継承してゆく姿勢が無ければ、相互理解は得られない。今回の日韓合意は、言うなれば加害者側の日本が、被害者側の韓国に「10億円やるから二度と文句言うなよ!」と凄んでいるだけの話であり、暴行傷害などの一般的な刑事犯罪を想定してみれば分かりやすいが、これで被害者側が納得(理解)できるはずがない。
実のところ謝罪自体はそれほど重要ではなく(形式的に必要だが)、より重要なのは、日本による植民地支配や従軍慰安婦の実情がどのようなものであったかを解明しつつ、日韓両国・国民が納得できる歴史を後世に継承してゆくことにある。
その意味で、韓国側が「日本悪玉論」を反日カードとして利用し、日本側が「旧軍潔白神話」を掲げて軍拡を進める現状にあって、今回の合意をもって日韓関係が修復されることは無い、というのが私の見立てである。
posted by ケン at 12:44| Comment(0) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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