2016年03月24日

ヤンキーならトランプ選びマス

【「ロシアはお祭り騒ぎに」=トランプ氏の主張通れば―クリントン氏・米大統領選】
 米大統領選の民主党指名争いの首位に立つヒラリー・クリントン前国務長官(68)は23日、カリフォルニア州での講演で、共和党候補トップの不動産王ドナルド・トランプ氏(69)の「外交政策」をこう批判した。日米同盟や北大西洋条約機構(NATO)は米国への財政負担が重過ぎるとするトランプ氏の主張を念頭に置いた発言だ。クリントン氏は「ロシアと中国は世界的な同盟網が米国の戦略的強みだと分かっている」と指摘。「同盟に背を向ければ危険なシグナルを送ることになる。米国の安全は損なわれ、世界はより危険になる」と強調した。
(3月24日、時事通信)

自称有識者たちは大騒ぎしているが、アメリカ人なら普通トランプ氏かサンダース氏を選ぶだろう。ヒラリー氏の主張は、ソ連共産党におけるゴルバチョフらに対する保守派の批判にそっくりだ。ソ連研究者たちは笑いが止まらないに違いない。
誰も書かないから、やっぱり自分が書くしかないようだ。私はもちろんアメリカの専門家では無いため、あくまでも一般論として書くが、自称あるいは他称「米国通」とされる連中が、こぞってトランプ候補をディスっているのを見ると、「安保マフィアの陰謀かよ」と思えてくる。が、これについては、最後に記す。

ソ連史を学んだ者は、ソ連が冷戦に敗北して崩壊したのは、一義的には市場経済化による経済成長を実現できなかったこと、二義的にはアメリカとの軍拡競争の財政負担に堪えられなくなったこと、三番目の理由として同盟国支援の経済負担に堪えられなくなったことがあるのを知っている。
ソ連は、第二次世界大戦の「戦果」として東欧ブロック(経済圏)を構築したが、各国の経済自立は難しく、ソ連から資源を国際市場よりも大幅に安く仕入れることで何とか生き延びていた。だが、ソ連圏が拡大しただけでなく、いつまで経っても経済的に自立できない同盟国を抱えたソ連は、自国の経済的停滞とともに、同盟国支援の財政負担が重くなっていった。最終的にゴルバチョフが、東欧諸国を「見捨てた」のは、ソ連がもはやその財政負担に堪えられなくなったことが大きい。

これに対して、現在の米国は産業が完全に空洞化して、フードスタンプ利用者が5千万人に達するほど貧困化が進んでいる。そして、世界最大にして最強の軍隊を抱えながら、実情としては非対称戦争に役に立たないものと化しており、存在するだけで巨大な維持コストが掛かっている。言い換えれば、国民生活を犠牲にして「世界最強」の軍隊を抱えながらも、現実には「世界の警察官」を担えないという、「張り子の虎」と化している。さらに、「西側自由陣営」を維持するためには、同盟国(親米国)を支援する必要があるが、今の米国にはもはやそれだけの財政力は無い。あれだけ大騒ぎしたウクライナに対して、オバマ政権がどれだけの支援をしたか見れば明らかだろう。もっとも、現在のアメリカはTPPやFTAに象徴されるように、同盟国から収奪する政策を採っており、「同盟国支援の財政負担」というよりは「度重なる戦費負債」の方が重いのかもしれない。

トランプ氏は、センセーショナルな主張に目を奪われがちだが、政策の根幹は意外と現実的だ。その主なものを挙げると以下のようになる。

・移民規制の導入

・法人税下げと最賃下げによる産業の国内回帰促進

・米中貿易格差の是正

・米軍再編(海外展開の大幅縮小)

・個人武装権の担保


トランプ氏はソ連崩壊前後にロシアで事業展開したことがあるだけに、ソ連崩壊のプロセスを熟知している可能性がある。上に私が挙げたソ連崩壊の要因を回避するためには、「国内市場の活性化」「軍事費の大幅削減」「同盟国の切り捨て」が必要となる。ソ連の場合、同盟国を切り捨てただけで崩壊してしまっただけに、事情を知るものとしては強い切迫感を抱いて当然なのだ。ト氏の政策は米国的手法(自由主義的)ではあるが、この3つの課題を抑えていることに注目しなければならない。

ちなみに、1979年にソ連共産党政治局でアフガニスタン介入が審議された際、当初は否定的な見解が大勢を占めたものの、最終的には「友党を見捨てることはできない」との判断に落ち着いて介入が決定されたが、その2年後のポーランド危機に際しては「我々はリスクを冒すことはできない。ポーランドに軍を介入させるつもりはない」「もしポーランドが連帯の手に落ちたとしても、それはそれだ」(政治局会議におけるアンドロポフの発言)とまで言い切るようになっている。
また、ゴルバチョフが書記局に入ったのは1978年だったが、まず農業担当として正規の統計を閲覧して、その危機的状況に愕然とし、さらに85年に書記長に就任するが、そこで初めて国家全体の統計数値を見て、一刻の猶予も無いことを自覚させられたという。

今回の米大統領予備選挙で、トランプ氏とサンダース氏のみが非従来型の政策を主張しており、その他の候補はことごとく従来型の大国・介入主義を貫いている。合理的な米国人であるならば、従来型の大国主義を継続するのがもはや不可能であることを十分理解しているはずだ。自由主義的手法で経済再生を図るトランプか、社会主義的手法で再分配を図るサンダースか、という違いはあるものの、その狙いは「西側ブロックの盟主を辞めて、一国の再生を図る」ところにある。ただ、共和党員は歴史的に孤立主義に親和的であり、民主党員は介入主義寄り(ルーズベルト幻想)であることが、民主党では従来型政策を掲げるヒラリーを有利にしているものと見られる。
トランプ氏は「アメリカのゴルビー」となる可能性はあるものの、「西側ブロックの盟主を辞める」という選択肢は、非常に合理的だと言える。

なお、日本で「知米派」と目されるジャーナリストや学者がこぞってトランプ氏を非難しているが、これはトランプ氏が大統領になった場合、在日米軍が撤退し、日米安保体制が大幅に変更される可能性があるためだと思われる。
つまり、日本を支配する「安保マフィア」たちからすれば、トランプ氏やサンダース氏は自分たちの傀儡的地位を脅かす「悪魔」でしかない。安倍氏をホーネッカーに喩えれば、トランプ氏はゴルバチョフに相当するだけに、外務省を始めとする霞ヶ関にとっては悪夢なのだ。

オバマ大統領の言動を見ている限り、氏も「西側の盟主であり続けるのは不可能」と考えている節が見られるのだが、ウクライナやシリアを見れば分かるとおり、口では立派なことを言いながら、実際には何もしないという非常に中途半端な政策になってしまっている。それだけに、ヒラリー氏やクルーズ氏が積極的介入を唱えることで、従来型政策の支持を集める一方で、トランプ氏のように「盟主辞任」を明言する者も現れたと考えられる。
だが、今回の大統領選でヒラリー氏やクルーズ氏を選ぶということは、ゲーム的に言えば、1985年のソ連で「ゴルバチョフを選ばずにペレストロイカもやらない」という選択肢を採ることと同義になる。その場合、数年は現行体制を延命できるかもしれないが、国家を再生するラスト・チャンスをも失うことになるだろう。
posted by ケン at 12:02| Comment(2) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
口では立派なことを言いながら、実際には何もしない
欧米からの経済制裁に留まらず、現在の「原油安」は確実にロシアを疲弊させています。
ゴルバチョフはソ連崩壊の重要な要因として当時の原油安をあげていて、背後に米の策謀があったと疑っているようです。(佐藤優のインタビューに対して)
直接的な軍事介入で核保有国と衝突する危険を冒すより、中長期的に失血死させる戦略を再び取っているのかもしれませんね。
Posted by 一読者 at 2016年03月24日 20:44
ソ連は西側の経済封鎖だけで崩壊したわけではありません。仮に当時原油価格が高かったとしても、多少は延命されたかもしれませんが、根本的解決にはならなかったことは明らかです。

例えば、当時のソ連は自国民の需要を満たすだけの穀物を生産できていたにもかかわらず、流通上の不備からアメリカから大量に輸入していました。それを支払う外貨は石油輸出で確保していたわけですが、その石油は輸出分の半分を同盟国に市場価格の半分程度で供給していたのです。

ゴルバチョフもずいぶんと耄碌したものですね。
Posted by ケン at 2016年03月25日 13:24
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