2016年04月01日

右傾化する東欧諸国を考える

ヨーロッパでは旧東欧諸国で右傾化が際立っている。ハンガリーは2011年に憲法が改正されて、大統領の権限が縮小されて首相の権限が強化された他、憲法裁判所の裁量も縮小された。また、内閣が中央銀行の人事権を握り、教育の中央統制を強化、民間放送の政治報道を大幅に制限した。EU内では「権威主義への回帰」と非難する声が高まっているが、政権党「フィデス」は相対多数の支持率を維持している。
フィデスの場合も、フランスの国民戦線と同様、一般的には「極右」と報道されているが、本来は共産党(社会主義労働者党)の系譜を引く社会党に対抗する、キリスト教系保守政党だった。従来の意味での極右政党は外国人排斥やEU離脱を掲げる「ヨッビク」であろう。
ハンガリーの場合、共産党独裁からデモクラシーへの移行が穏便に行われ、後継の社会党によるエリート支配の仕組みが一部温存された。そして、本来は左派政党であるはずの社会党が市場経済化を進めると同時に、社会保障の切り下げなどを推進したため、右派政党であるフィデスが再分配政策を掲げて国民の支持を得るという、従来の「左右」の構図では説明しきれない形になっている。

ポーランドでも昨年の総選挙で右派の「法と正義」が勝利して政権に就き、中央銀行や憲法裁判所への人事介入、マスコミ統制を進めるほか、難民の受け入れ制限や教育の中央統制などを打ち出している。
「法と正義」の場合も、前政権党「市民プラットフォーム」が新自由主義に基づく公的部門の縮小に対するアンチテーゼを掲げ、高齢者の医療費無料化、子ども手当、最低賃金の引き上げといった従来の左翼的政策を前面に出すことで、政権交代を実現している。
ただ、ポーランドの場合、社会民主主義政党や共産党の後継政党が存在しないという点で、東欧の中でも特異な政治情勢にあるとは言える。

同志がコメントで触れた「ピラニア」の喩えではないが、冷戦期にはソ連・東欧ブロックが西側自由陣営の対抗軸として厳然と存在していたため、そのアンチテーゼとして西側は自由と民主主義を強調すると同時に、社会保障を充実させて労働者階層を慰撫する必要があった。ところが、ベルリンの壁が崩壊し、ソ連邦が消失したことで、西側陣営は「ピラニア」を喪失、自由と民主主義は相対的価値ではなくなり、労働者階層を慰撫する必要もなくなった。卑俗な言い方をすれば、「釣った魚にエサはやらない」状態になった。1990年代から2000年代にかけて新自由主義が猛威を振るった背景である。
日本の場合、NK党だけでなく社会党までもがマルクス主義の呪縛から逃れられないまま解党を迎えたため、今や旧東欧圏にも存在する、社会民主主義政党が存在せず、「右派・保守か共産か」という狭い選択肢を余儀なくされている。

興味深いのは、2000年代にロシアが急速に復興したのに対して、東欧諸国が脅威を覚えたのは当然としても、ロシアの権威主義への対抗方法として、自分たちも権威主義化を進めている点にある。日本も同じで、中国の経済成長や軍備拡張に伴い、急速に権威主義化が進んでいる。もう一つ共通点を挙げると、第二次世界大戦前、この三国はともに権威主義体制にあった。日本は帝政、ハンガリーはファシスト政権、ポーランドは軍部独裁下にあった。
この点について、E・トッド先生の指摘は示唆に富んでいる。1929年に起きた世界恐慌後の各国の選択は以下の通りだった。ドイツ=ナチス、日本=軍閥、イギリス=何もしない保守党、アメリカ=ルーズベルト、フランス=人民戦線。これが意味するところは、ドイツと日本が暴力的解決を志向したのに対して、イギリス人が政治解決を拒否して自力救済を選択、アメリカ人とフランス人は平等的解決を望んだということ。恐らく歴史上唯一の例である、企業の内部留保に対する課税はこの時のルーズベルトが行った(但し失敗した)。
これは、大きな問題が発生した時に、その解決手段として合議(プロセス)を重視するか、決断(時間)を重視するか、という文化的側面もあるのかもしれない。

もっとも、現代のハンガリーとポーランドは国家社会主義を志向しているが、日本は国家資本主義(開発独裁?)を志向している点で大きな違いはある。この辺りのことは、今後も考えを深めて行きたい。また、日本だけでなく、韓国も権威主義化が進んでいることは、やはり西側ブロックの衰退に伴うドミノ現象の一環と捉えるべきなのかもしれない。それは、東側ブロックの崩壊が、東欧諸国の民主化を誘発し、西側ブロックの衰退が権威主義化を誘発していることと、非常に軌を一にしているだけに、今後も注視して行く必要があろう。

【追記】
東欧諸国の中でもチェコが権威主義化していないのは、大戦前からデモクラシーの伝統があることと、それ以上にロシアの脅威に直接接していないことが大きいと考えられる。

【参考】
左右の定義 
右翼のヤバさと中道の難しさについて 
日本の反インテリ闘争小史 
posted by ケン at 12:22| Comment(0) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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