2016年06月21日

ねじれまくるフランス−エリートの退廃

フランスで、政府が議会での採決を経ずに強行成立させた労働法改正法案に抗議する大規模デモやストライキが激化し、3日連続で公共交通機関に支障が出ている。19日には首都パリで1万4000人がデモ行進し、一部が治安部隊と衝突した。抗議行動が2か月に及ぶ中、強硬姿勢を強めるエマニュエル・バルス首相は、港や製油所、空港などでのデモの強制排除に乗り出す可能性に言及。18日に暴徒化したデモ隊が警察車両を襲撃し放火した一件について、「厳しく処罰する」と言明した。労働法改正についてフランソワ・オランド政権は、硬直したフランスの労働市場の柔軟性を高め雇用を創出すると説明しているが、反対派は雇用の安定を脅かすだけだとして反発を強めている。
(5月20日、AFP)

20年ほど昔、私が住んでいた時もよくあったが、パリはストライキでゴミの収集が行われず、そこここにゴミの山ができているという。
社会党の大統領が解雇規制を緩和する労働法改正を大統領権限で強行成立させ、議会の保守派から不信任案を提出されてしまった上、デモ隊やスト参加者を「テロリスト」呼ばわりして強硬姿勢を示すという、ねじれ過ぎてナゾな事態に陥っている。鉄道員・パルチザン上がりのミッテランも草葉の陰で泣いていることだろう。

「フランス人は直接行動が好きだから」という声はあるものの、仮に私がフランス人だったとしても、「サルコジならともかく、なんで社会党のオランドが労働法を改悪するんだよ!」とブチ切れたに違いない。本来、ブルーカラーや公務労働者から支持を得ていたはずの社会党が、解雇規制を緩和する法案を強行してしまったのだから、民意の反映を重視するデモクラシーの原則から逸脱しているのだ。社会党支持層からすれば、「労働者保護」を党に委任したはずが、手のひらを返された上に、テロリスト呼ばわりされたのだから、これで怒らない方がおかしいだろう。
こうした現象が起きるのは、社会構造の変化に対して、既存政党が従来の主張(支持層)を守ることで十分に対応できなくなるためだ。フランスの場合、共和党(旧国民運動連合)が経営者層やホワイトカラー層を代表、かつては地方の商工業者もここに含まれたがFNに奪われている。そして、社会党などの左派は公務労働者とブルーカラー層を代表していたが、ブルーカラー層の票がFNに逃げている。また、地域的には移民の多い南部と鉱工業の衰退が著しい北部において、FNが激しく進出している。
ところが、これに対して既存政党は社会構造の変化を十分に認識せず(知っていながら認めていない可能性もある)、従来の政策を変更して失った支持層の回復に努めないため、国民戦線の伸張を許してしまっている。
フランスの場合、右派ならば移民を規制して地方の商工業の振興策を取り入れるべきだし、左派ならば公務労働重視を是正しつつ、国内企業・工場の保護に重点を置くべきだった。それをせずに、ただFNを「極右」とレッテルを貼って攻撃してみたところで、ワイマール・ドイツの二の舞に終わるだろう。

また、私的に特に問題を感じているのは、フランス社会党が余りにもエリート主義に偏ってしまっている点だ。オランド氏や元首相のロワイヤル女史、オランドと大統領候補の座を争ったオブリー女史など、左右にかかわらず皆ENA(国立行政学院)やパリ政治学院の出身で、官僚や弁護士を務めている。共和党と対抗しつつ、行政府の上に立つ政権担当能力の点では十分な人材が確保されているのだろうが、その反面、社会党の支持層や周辺の有権者のニーズを取り込んで党の政策に反映させる能力が低下しているように思われる。
フランスにおける既存政党の難しさについて

フランスと日本が似ているのは、左右やイデオロギーに関係なく、主要政党の幹部の座をエリートが占めた結果、似たような政策しか打ち出せなくなってしまい、支持層の要求と乖離しつつあるということだ。しかも、フランスのサルコジ氏、日本の小泉氏や安倍氏のように、むしろ右派の方がエリート臭を感じさせない者を前面に出し(実際のキャリアは別にして)、左派の方がオランド(行政学院、会計検査院)、ロワイヤル(行政学院、判事)、岡田(東大、通産官僚)、山尾(東大、検事)氏のようにエリート臭プンプンの者ばかり目立ってしまっている。米国大統領選でも、クリントン女史が蛇蝎のように嫌われているのは、そのエリート臭故だろうと思われる。

エリートの弱点は、有権者・支持者の期待に鈍感であることと、その鈍感さ故に、環境に影響されること無く全体最適を求めてしまう点にあるが、これは「短期的な視野狭窄に陥らず、大所高所から判断できる」強みの裏返しでもある。
民主党政権下で、鳩山・小沢路線を放棄した菅政権が、消費増税とTPPに邁進したのも同じ原理から説明できる。菅直人自身はエリート系ではないが、政権を実質的に支配していたのが霞ヶ関の財務省だったからだ。

今回の英国におけるEU離脱騒動もよく似た構図だが、エリートが「大所高所」から「国民のため」と勧める政策の多くが、大衆にとって、少なくとも現状や短期的将来においてマイナスでしか無いものばかりであるため、大きな齟齬が生じている。
フランスの解雇規制が厳しすぎることは何十年も前から指摘されており、わずかずつながら緩和されてきたが、それが「わずか」で終わっていたのは社会党などの左派が反対していたからだったためで、オランド氏としては「労働市場の循環による経済活性化をしなければ、国際競争に勝てない」を考えて、社会党こそが実行しなければなるまいと信じたのであろうが、国民、特に社会党支持者からすれば「余計なお世話」でしかなく、「お前にそんなことを委任した覚えは無い」と反応するのは避けられなかった。しかも結果として、社会党の支持層の多くが、国民戦線(FN)に流れてしまい、社会党は党勢の維持すら困難になりつつある。

こうしたエリートの発想は、市場原理と経済効率を優先するあまり、大衆の生活水準や階級対立・経済格差に対して鈍感になりすぎる傾向がある。水野和夫先生の説ではないが、利息が極限まで低下し、マイナス金利が常態化している先進国では、もはや中間層や下層から収奪することでしか利益を上げられなくなっており、その結果、経済効率を追求すればするほど、労働収奪が強められることになっている。だが、エリートの鈍感さは、それを「皆さんのためですから」と平気な顔で言わせてしまうため、みなブチ切れて「極右」などに走って行っているのであって、それを「極右」などと非難してみたところで、何も改善しないだろう。

我々、左派こそがエリート主義からの脱却を進めるべきであり、日本の民進党でいえば、岡田氏や山尾氏などに意思決定権を委ねて何度選挙してみたところで、勝利はおぼつかないであろう。
posted by ケン at 15:16| Comment(2) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 管理人さんの指摘する民進党のエリート化は今回の選挙の公約にも表れています。民進党の公約に次のようなものがあります。

メディアにおける性・暴力表現について、人々の心理・行動に与える影響について調査を進めるとともに、バーチャルな分野を含め、技術の進展及び普及のスピードに対応した対策を検討し、推進します。

 いかにもエリートのリベラリストが好みそうな公約ですが、自民党ですら18歳以上の新有権者を意識して青少年健全育成法を取り下げて、漫画・アニメ振興を打ち出し、共産・改革は漫画・アニメ規制反対を公約に盛り込んでいるときに、表現規制を公言するとはあまりにも愚かとしか言いようがありません(そもそもこうした表現が影響を与えないという実験結果は複数あり、あまりにも周回遅れ)。旧民主党時代は表現規制に反対する議員が多かったために、民主党議員を支援する漫画・アニメ愛好家は多かったのですが、支援取りやめや共産党などへの鞍替えを公言する声がネット上で出始めています。
 AERAが漫画・アニメ叩きをやったり、どうも日本のエリートリベラリストは「漫画・アニメを好むのは愚かな大衆でネトウヨ」と思っているようですが、そんなエリートのみにターゲットを絞っているようでは民進党の党勢回復はおぼつかないでしょう(漫画・アニメを読まないエリートはヨーロッパでは普通でしょうが、日本では稀だと思います)。
Posted by hanamaru at 2016年06月25日 19:56
まぁ民進党は、もともと菅・野田政権時代に秘密保護法と集団的自衛権解禁を準備し、TPP推進に舵を切った張本人ですから、今さら何を言ってみたところで、説得力がないのは当然だろうと思います。
それにしても、エリートほど経済自由主義と政治的統制を望む傾向はなんなんでしょうね。やはりエリート層の既得権益が侵されることに対する危機感が政治的統制の強化を、市場のパイが小さくなることに対する危機感が経済自由主義へと走らせているのでしょうが、それで広範な支持が得られると考えている時点で、民意とかい離してしまっているのです。
Posted by ケン at 2016年06月27日 12:58
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