2016年12月01日

年金改革に反対するのは妥当か

【年金改革法案、衆院通過 高い支持率、政権強気】
公的年金の支給額を引き下げる新しいルールを盛り込んだ年金制度改革法案が29日の衆院本会議で、自民、公明、日本維新の会の賛成多数で可決され、参院に送付された。同法案の今国会中の成立に万全を期すため、来月14日までの会期延長も議決された。
 法案に盛り込まれた新ルールでは、これまで賃金が下がっても物価が上がれば年金が据え置かれていたシステムを変え、新たに賃金の下げ幅に連動して支給額も下げる。2021年度から導入する方針。将来の年金水準を維持する狙いがあり、塩崎恭久厚生労働相は可決後、記者団に「将来世代にとって大変大事な法案だ」と語った。
(11月30日、朝日新聞抜粋)

久しぶりに人の付き添いで本会議を傍聴したが、自民党のヤジが凄くて一時は登壇者のマイクの声すら聞き取りづらいくらいだった。ヤジについては、自分は「自粛すべき」との立場に立つが、年金問題については民進党を始めとする野党のスタンスにはいささか無責任なものがあり、冷たい目で見ている。
民主党は「資産課税による最低保障年金」を掲げていたはずだが、選挙対策からかそれを隠して、ただ支給額引き下げ(の可能性)に反対するのは将来世代に対して無責任であるという自民党側の指摘は妥当と言える。

米国のコンサルティング会社の “Mercer” は、世界各国の年金制度を比較し、調査した指数である「グローバル年金指数」を毎年発表している。2009年に始まり、2016年度の調査は27カ国、世界人口の6割をカバーしている。指数は、「公的年金が老後の生活に十分なだけ支払われているか」の十分性、「年金が支払われるのに十分な環境が整っているか」の持続性、「年金制度をうまく運用するための見直し機能や透明性が担保されているか」の健全性から構成される。日本の年金制度は27カ国中26位(インドの下でアルゼンチンの上)、総合評価は「D」だった。「いくつかの優れた特性を備えるが、同時に対処すべき重要な弱点、欠落がある。改善なければ、有効性、長期的持続可能性が疑問視される」との評価。その下のE評価「構築の初期段階にある不十分な制度」は該当国無しだった。
ちなみに2009年の調査で日本は11カ国中11位、2012年は18カ国中17位で最下位はインド、2015年は25カ国中23位で下は韓国とインド。

詳細には、日本は健全性60.9、十分性48.5、持続性24.4と、特に持続性が危機的に低い評価であることが分かる。
繰り返しになるが、持続性の基準は「年金が支払われるのに十分な環境が整っているか、平均寿命と支給開始年齢の関係は良いか、国家の破綻のリスクがなく持続可能なものか」で、北欧諸国やオランダ、シンガポール、チリなどは60ポイントを超えている。
十分性の基準は「公的年金が老後の生活に十分なだけ支払われているか、老後のための貯蓄は十分になされているか」で、北欧諸国を始め、独仏加愛伊墺など14カ国で60ポイントを超えている。要は生活物価に比して、日本の年金は支給額が低く、老後用の貯蓄も不十分であることを示している。

現在のところ、日本の年金支給額は平均すると、国民年金で5万4千円、厚生年金で14万8千円だが、これはあくまで平均値であり、中間値はさらに低い。十分な年金が保障されているのは、大企業に長く勤めたサラリーマンだけで、公務員ですら意外と10万円台のものが少なくない。自営業者などは、自前でよほど貯蓄したり、民間年金を積み立てていない限り、悲惨な状況にある。
マーサージャパンのコメントを添付しておこう。
「日本の総合評価が低いのは、特に、十分性と持続性の評価が低いためです。十分性に関しては、年金給付による所得代替率(現役世代の年収と年金給付額の比率)が低いこと、税制や私的年金の仕組みが年金受給を促す形になっていないこと、などが評価を引き下げています。また、持続性に関しては、少子高齢化に伴い高齢者人口割合が増加していること、平均余命の増加により公的年金の期待支給期間(平均余命と年金支給開始年齢の差)が長くなっていること、さらには政府債務残高が大きいことなどの要因により低い評価となっています。日本では他国よりも早いペースで少子高齢化が進行し、平均余命も伸長しています。公的年金では、社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整するマクロ経済スライドが2015年に初めて発動され、年金給付額の伸びは賃金や物価の上昇分以下に抑えられました。このような中、老後の生活資金を確保するには、公的年金に加え、企業年金や個人年金などの私的年金からの収入や活用方法を理解した上で、個人のライフスタイルに応じた早めの資金準備を実施していくことが重要になってきます。」

今回の年金法改正は、ただでさえ危機的な持続性しか持たない日本の年金制度を少しでも長く保たせるために必要な措置であり、仮に民進党政権であっても、新規課税か保険料増額を行わない限り不可避のものだった。
民進党やNK党の批判は、借金が膨大になり、給料も減額になっているのに、「生活費を削るのはまかりならん!」と強面になっているパートナーのようなものであり、相応の対案を示さない限り、無責任である。
posted by ケン at 12:33| Comment(2) | 財政、社会保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。

素朴な疑問で、昨今日本では北欧型の高負担高福祉を指向する言論が少ないと感じます。
日本でこの考え、方向性について政策提言をしている人や団体はいないのでしょうか。

社会全体が安心感のあるものにできるという信念を持っている人が日本にいてほしいです。
Posted by 風道 at 2016年12月01日 17:17
旧総評系のシンクタンク「生活経済政策研究所」がお勧めです。

日本に限った話ではありませんが、社会内の分断が激しくてなかなか「全体が安心」にはならないんですよね。だからこそ、欧米では移民排除が広い支持を得ているわけで、日本の場合は正規と非正規がそれに近いかもしれません。
戦後和解体制は、雇用の大半を正規雇用にし、社会保障の対象とすることで社会全体の安心を実現しましたが、これが成り立たなくなっているわけです。
欧米の場合、「移民を排除して安心を実現」と「移民を包摂して安心を実現」が壮絶な対立を引き起こしていますが、現実には後者は理想論となってしまっています。
Posted by ケン at 2016年12月02日 12:57
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: