2016年12月06日

敵はリベラルにあり?

【トランプ・プーチン・ルペントリオで世界平和へ=仏ルペン氏】
 フランス極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(48)は16日、来年の大統領選で自分が当選すれば、ドナルド・トランプ次期米大統領とプーチン・ロシア大統領とともに世界の指導者3人組が誕生し「世界平和のためになる」との考えを示した。ルペン氏は、トランプ氏同様移民に反対の立場を取っており、フランスの政治指導者のなかで唯一、トランプ氏を支持した。ルペン氏は、選挙対策本部の設置に当たり記者団に「歯止めのないグローバリゼーション、破壊的な超リベラリズム、民族国家と国境の消滅を拒否する世界的な動きが見られる」と語った。また、フランス国境での検問を再開するとともに、欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票を実施すると述べた。
(11月17日、ロイター)

フランスでは、大統領選に向けて候補者選定の予備選挙が始まっている。現職のオランド大統領はすでに「圏外」にあり、左派全体で凋落が著しく、中道・右派内でも一昔前だったら「あり得ない」レベルの極右であるフィヨン氏が統一に選ばれた。そして、実際の選挙は、そのフィヨン氏と国民戦線のルペン氏という「極右対決」になりそうな勢いにある。早速、フランス在住の日本人の間では「ルペンとかあり得ない」と大騒ぎになっているが、アメリカでトランプ氏が当選し、イギリスが選挙でEU離脱を決めた以上、趨勢としては明らかにルペン氏に有利になっている。それを無視してルペン氏をディスってみたところで、「米国人がトランプを選ぶワケがない」などと訳知り顔で話していたものたちと同じ過ちを犯すことになろう。

要は、エリート意識が強く、いまだ生活に困らないもの、つまり戦後和解体制の利益享受層ほど過去の栄光にすがって、現実が見えなくなってしまっている。この辺は、ペレストロイカ期から崩壊期における、ソ連・東欧の共産党員や体制支持者たちとよく似ている。
私が彼らと異なるのは、ソ連を知っていることと、エリートであることを選択しなかったがためである。
つまり、「自由を守れ」「差別は悪」というエリートたちの声ばかり聞いていると、目が曇ってしまうということだ。

先進国を中心に従来の政治エリートが選ばれず、拒否感が強まっているのは、エリート層が国民の貧困と疎外を放置してきたがためであり、その不満を解消する手立てを講じること無く、ただ自由を称賛してみたところで、「自由でメシが食えるか!」という反発が返ってくるだけでしかない。それが、今回の米大統領選で起きた現象だった。
にもかかわらず、リベラリストたちは「トランプが当選して差別が蔓延している」と騒ぐばかりで、相変わらず本質を理解して反省するそぶりも見せない。このままでは、ますます自由主義が凋落しそうだ。

ペレストロイカを再検証する」で述べた通り、ソ連・東欧ブロックが崩壊したのは、政府が国民の生活を保障できなくなったためであり、一党独裁であるがために共産党に替わる為政者を選出することができないが故に自壊するほかなかったからだ。この点、デモクラシーは既存エリートに替わる為政者を選出することが可能であるため、「まだ」自壊するには至っていない、というのが現状であろう。

これはE・トッド先生がおっしゃっていたことだが、米大統領選でトランプ氏が勝利したのは「真実」を語ったがためであり、同様にクリントン氏が選ばれなかったのはそれを隠して語らなかったがためだった。
その「真実」とは、「自由貿易と移民に象徴される自由主義こそが、全世界を過酷な競争に巻き込み、不平等と停滞をもたらし、中間層を没落させた」ということである。現実に、アメリカでは特に白人層の没落が著しく、全体で5千万人からの生活保護受給者がおり、平均寿命が低下に転じてしまっている。この現状を招いたのは、自由貿易によって工場が海外に移転し、国内産業が壊滅、残された雇用の多くも安価な移民労働者が占有し、白人中間層が没落するのを放置したがためだった。にもかかわらず、オバマ氏は相変わらず自由貿易と移民を称賛し、クリントン氏は「世界の警察官」の地位に強い執着を見せた。米国人が「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」とブチ切れるのは当然であり、むしろクリントン氏は不自然なくらい健闘したと思えるくらいだ。

また、トランプ氏は選挙中「アメリカの栄光を取り戻す」と繰り返し訴えたが、これは「いまや栄光は失われた」という前提に立って改革の必要性を主張したことを示している。これに対し、オバマ氏やクリントン氏は「アメリカは輝かしい自由主義陣営の盟主である」というスタンスを示しており、原理的には改革不要・現状維持の保守派だった。
先に挙げた「真実」の認識が正しいかどうかは、将来的に評価するほかないが、少なくとも相当数の有権者が「リベラリズムでは自分の生活は保障されない」と考えていることは確かであり、その認識を否定するからこそ、世界各地でエリートが選ばれなくなっているのだ。

彼らの不満を解消するには、リベラリズムを否定し、引いては自由貿易を止めて保護貿易に転じ、国内の産業育成に努めると同時に雇用を確保、さらに移民を排斥するか同化を強制して、国民に一定の労働賃金と待遇を保証する必要がある。
「差別はイカン」というのは倫理的には正しいが、自由主義の下で移民が大量に呼び込まれ、賃金の低下に拍車がかかって、国民の生活水準が激しく劣化してしまった以上、それを放置して倫理や道徳を訴えてみたところで、何の力にもならない。彼らは、商店にパンも肉も無いのに、社会主義の「可能性」ばかり訴え続けた東欧の共産党と同じ過ちを犯しているのだ。

繰り返しになるが、リベラリズムが自由貿易と移動の自由の上に成り立っている以上、保護貿易や移民規制の主張に転じることは自己否定でしかない。
この間、私も「リベラル派の団結と共闘が必要だ」などとよく誘われるが、その度に「いえ、自分は社会主義者であって、リベラルではありません」と答えているわけだが、どうもあの連中は社会主義(適切な再分配が市場を成長させる)と自由主義(自由競争が市場を成長させる)の違いを理解していないようだ。
仮に、今回の米大統領選でクリントン氏が当選していた場合、「世界の警察官」と「自由貿易」が維持されるわけで、国家財政は遠からず破綻する一方、国内の富の集中がさらに強まり、一層貧困化が進み、「ロシア革命直前」のような状態に陥った可能性がある。もちろん、状況としてはトランプ氏にとっても同じだが、危機意識もって改革の必要性を認識しているかどうかが全く異なる。つまり、今回の結果は、1985年のソ連で「ゴルバチョフが書記長に選出された」というだけの話であり、それは改革の成功と帝国の存続を保証するものではないということなのだ。

【追記】
私の主張は、「社会主義者はリベラリストと枕を並べて討ち死にしてはならない」というものであるが、どうにも同志の支持が得られず、毎度のことながら孤立している。本来、社会主義は自由貿易よりも保護貿易に親和的であるはずだが、西側の社会民主主義者は戦後和解体制の中で完全にリベラリズムに毒されてしまっている。
posted by ケン at 12:21| Comment(4) | 憲法、政治思想、理念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
フランスには、反EU・反グローバリズムを掲げる共和国市民運動のような共和主義左派があるはずなのに、ほとんど支持が集まらず、票が右に流れているのが不思議です。
政策以外に何か理由があるのでしょうか?
Posted by 学鳩 at 2016年12月06日 21:41
フランスの場合、社会党がエリート化し、共産党が原理主義化して、その他が細かく分裂してしまっているところに問題がありそうです。あとは移民に対するスタンスでしょうか。
それと、不満を強めてしまった大衆に対し、正論を述べるのはウケが悪く、下品なポピュリズムにどうしても支持が集まってしまうようです。日本で共産党が今ひとつ伸びないのに、イシハラやハシモトに支持が集まるのはそういうことだと思います。
Posted by ケン at 2016年12月07日 12:58
成るほど、下品な左翼を構想するべきですね。
Posted by o-tsuka at 2016年12月11日 15:45
スペインのポデモスとかギリシアの急進左派連合とかイメージされますが、民主化されて30年程度の若い国なので、日本に適用できるか分かりません。
Posted by ケン at 2016年12月12日 12:25
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: