2016年12月20日

プーチン氏訪日首脳会談を評価する

【プーチン露大統領 北方領土「主権はロシアだ」 平和条約締結「簡単ではない」】
 ロシアのプーチン大統領は20日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開催地リマで会見し、北方領土問題をめぐり「(北方四島は)国際的な文書によりロシアの主権があると承認された領土だ」と明言した。インタファクス通信が伝えた。
 平和条約締結問題をめぐっては、日本側と「複数の案が可能だと話し合っている」と明らかにする一方で、条約締結後の歯舞、色丹2島引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言については、「どのような根拠で、誰の主権の下に置かれ、どのような条件で返還するかは書かれていない」と発言した。
 プーチン氏はこれまでも同様の主張を行っており、12月に予定される訪日を前に自身の考えを改めて明示することで、領土交渉の早期進展に期待を強める日本側を強く牽制(けんせい)した格好だ。プーチン氏は日露間で平和条約が結ばれていない状態は「時代錯誤であり、両国関係の発展を阻害している」と述べつつ、「平和条約(締結)への道は簡単でもない」と語り、早期の条約締結の可能性に対し否定的な見通しを示した。
 プーチン氏はまた、19日に安倍晋三首相と行った日露首脳会談において、北方四島での経済、人道分野に関わる活動について話し合ったと明らかにした。ただ、「この問題に関する合意はできていない」とも語り、交渉が難航している状況を示唆した。一方、露経済発展省のボスクレセンスキー次官は20日、プーチン氏の訪日の際に両国間で覚書を含め30の経済協力に関する文書に署名する予定だと述べた。同氏によると日露両政府は18日の協議で、第三国市場に輸出する製品を共同で開発する計画も話し合ったという。
(11月21日、産経新聞)

ロシア・プーチン大統領が来日し、12月15〜16日に行われた日露首脳会談について、左右を問わず厳しい評価が上がっている。その多くは、「プーチンに騙された」「食い逃げされた」など感情論が先行したもので、批判の内容自体は話にならないが、数量的には圧倒的多数を占めており、馬鹿にはできない。

これとよく似ているのが「日比谷騒擾」(焼き打ち事件)である。日露戦争に際し、政府は戦争の実態を隠蔽し、大勝利の宣伝を続けてきた。それは不足する戦費を内外債にて補うために致し方ないことではあったが、現実には日本人の多くが、ロシア皇帝を屈服させられるくらいに考えていた。ところが、講和条約交渉が始まると、ロシア側は想定外に強気の姿勢に出て、日本側は財政的にも軍事的にも限界に来ており、交渉地となった米国内の世論は対日警戒論が高まっていたため、日本政府は交渉妥結を優先した。結果、ポーツマス条約の内容を知った日本国民は、「賠償も取れないとは何たる国辱」とばかりに激高し、日比谷に集結、暴動に発展し、明治政府初の戒厳令が敷かれるに至った。

今回はそこまで関心は高くなく、左右を除外すれば、「まぁこんなもんじゃね?」くらいの評価が多いように思われる。右翼が騒ぐのは「いつものこと」とはいえ、ふだん善隣外交を唱えているような左翼人が、こと北方領土問題でロシアが相手となると、とたんにナショナリストと化してヒステリックな言動を露出させているのは噴飯物だ。
そこで、肝心の首脳会談の成果を見てみよう。

・領土問題には触れず
・平和条約交渉の継続を確認
・「2プラス2」などによる安全保障対話の再開確認
・経済協力の促進確認(3千億円の投融資)
・国際情勢の認識共有
・エネルギー開発の協力確認


という辺りだろう。結果だけを見れば、「領土問題は進展せず、平和条約の締結合意に至らず、金だけ取られた」という評価になりがちだが、冷静に見てみよう。勝敗判定は以下の要素から定義される。

1.物理的事実
2.自陣の認識
3.敵方の認識


事実認定は、共同声明がなされず、具体的な成果がなかった点で成功とは言いがたい。

日本側(官邸)は、当初「領土問題を解決して平和条約の締結合意」と謳っていただけに、達成水準を大幅に下げたことになる。だが、「2プラス2」や経済協力は、今後の交渉の土台、前提となるものであり、「良い形で次に繋げた」(次回交渉にプラス修正)とは言える。評価としては「失敗とは言えない」程度だろう。それも官邸が最初にブチ上げ過ぎたためであり、専門家の評価としては「十分」のレベルにある。米国や日本国害夢省の妨害を考慮すれば、なおさらだ。
「十分」と言うのは、いまだ米国の覇権が存続する中で、日露枢軸を形勢するのは困難であるだけに、将来的に向けて友好関係の構築と外交交渉の基盤をつくることができれば、「現時点では十分」という意味である。
ちなみに批判者は「3千億円食い逃げされた」と騒いでいるが、経済協力の多くは日系資本が事業を受注することが前提なので、「日本人の税金でロシアのインフラを整備するのか」とは言えるものの、投下された資金は日本企業が回収する上、シベリアなどのエネルギー開発に投じられるのだから、日本側にも十分見返りはあると見て良い。アフリカや中東の小国にバラ巻くのとは少し違うだろう。

ロシア側は、上記の記事の通り、以前から今回の交渉の到達点を見切っており、プーチン大統領も記者会見で「これらの島々(北方領土)は、ロシアと日本の不和の原因にならず、寧ろ結び付ける可能性があります。我々は単に経済関係構築に興味を持ち、平和条約締結を延期しようとしているのではありません」と述べていることからも長期戦を覚悟しつつも、将来的な日露枢軸の可能性に期待していることを臭わせている。
ロシア側としては、「欧米の包囲網の打破」「対中依存度の低下」こそが主目的であり、制裁に加わっている日本がプーチン氏を招待し、自ら経済協力を申し出て、安全保障協力の継続を確認できたのだから、交渉が遅々としてしか進まないことについては内心「時流に乗り遅れるぞ」と思っているかもしれないが、やはり「現時点ではこんなところか」と現実的な評価に傾いているものと想像される。
プーチン氏が、「シリア問題への対応」を理由に遅刻し、同じ理由から会見後のランチを断って早々に帰国したのも、傍証としては十分だろう。

後の評価は読者に任せたいが、ケン先生としては「成功とは言えないまでも十分」と考えたい。だが、強い支持基盤を有する右派の安倍政権のうちに解決しなければ、今後、日露交渉はさらに難しくなる可能性が高いことは指摘しておきたい。

【追記】
冒頭の記事にあるように、プーチン氏は日ソ共同宣言について「どのような根拠で、誰の主権の下に置かれ、どのような条件で返還するかは書かれていない」と述べており、これに対し、左右ナショナリストが「ロシアはそもそも領土を返す気が無い」などと気勢を上げている。だが、プーチン氏は「返さねぇよ、バ〜カ!」と言っているわけではなく、法律家として冷徹な目で共同宣言を読み、事実を指摘しただけに過ぎない。その意図するところは、「共同宣言に明記されていない以上は、この点についても日露交渉の対象である」という点にある。この点については、別途記事にしたいとは思うが(大変そうでイヤなんだけど)、例えば、日清媾和條約(下関条約)には「C國ハ左記ノ土地ノ主權竝ニ該地方ニ在ル城壘兵器製造所及官有物ヲ永遠日本國ニ割與ス」と領土割譲に際し、「土地の主権」を明記しているが、これも漢文(等しく正文)には「土地の権」と書かれているという。また、日露講和条約(ポーツマス条約)には、南サハリンについて「完全ナル主權ト共ニ永遠日本帝國政府ニ讓與ス」と書かれている。これに対し、日ソ共同宣言は条約ではあるが、「ソヴィエト社会主義共和国連邦は,日本国の要請にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞諸島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」となっており、主権も施政権も明記されていない。この点で、プーチン氏を非難するのは、自らの無知と無定見をさらすだけにしかならない。
posted by ケン at 00:00| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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